2015年12月10日

ミドル級の絶嶺 ワイドマンVSロックホールド

ワイドマンVSロックホールドの戦術分析記事を翻訳しました。のですが無料ブログには容量制限がありましてGIF動画なんか乗せると一瞬でオーバーしちゃうんですね。ですので新ブログを作りました、こちらでご覧ください
http://mmastudy2.seesaa.net/article/430980579.html

ちなみに今回の記事で容量九割くらい使ったので新ブログの方に新たに記事が上がることは今後ありません。
posted by mma司書 at 20:58| Comment(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年07月31日

女帝ロンダの倒し方

今週末にべチ・コヘイアを相手に防衛戦を行う女子バンタム級の始皇帝、“ロウディー”ロンダ・ラウジーは最強の女として知られています。そんな彼女を打ち倒す方法についての記事です。

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FIGHTLANDから

RouseyLead.jpg
artwork by Gian Galang

人々のロンダへの共通認識は腰投げと腕十字の女王、と言った所だろう。彼女は頭と腕をコントロールして得意の払い腰へと繋げる。周知の通り、世界レベルの柔道技を持つロンダに一度組まれてしまえば大方の選手はその対応で精いっぱいだ。
サラ・カフマンに決めた網際での完璧な足払いを見てわかるように、彼女は相手の力みや足の動きに対応して投げを打っている。

InstructiveHideousCormorant.gif

そんな最強のチャンピオンとどう戦うべきだろうか、私が考えるに「無敵の王者」を倒す最良の策は、相手の得意技に対抗しようとする事でも、運頼みのKOを狙う事でもない。
それは王者が戦いで最もよく使用する基本武器を使えなくすることだ。
想像してみて欲しい、カウンターを狙わないアンデウソンを、ジャブの無いGSPを、右ローを忘れたバラオ、間接蹴りを失ったジョーンズを。
つまり打倒ロンダに必要な事は「テイクダウンディフェンスを磨き抜く」事ではなく「柔道コーチをつける」ことでもない、どうせ四つ組でロンダにはかなわないのだ。彼女の絶対政権を倒すのにすべき事は「ロンダのプランAを機能させない」ことなのだ。



女子の試合は男子に比べ10年遅れていると言われている。要はロンダは女子MMAのホイス・グレイシーだ。
UFC1は寝技のなんたるかを知らしめたが、それ以上に戦いの中で組まないという事がいかに難しいかを示した。
パンチを外せば組みつかれる、パンチを当てても組みつかれる、パンチを打たなくても組みつかれる。組んでしまえばグレイシー、もといロンダに勝てるものはいないのだ。
初期のMMAに「組まれる前にKOすれば良い」と言う考え方があったが、そのアイデアを実現できる事はほぼ無かった。そして今の女子バンタム級にもその思想は存在している。
ロンダの対戦相手のほとんどが試合開始後すぐに彼女を殴ろうとする、だがパニックになったようにパンチを振えば振るう程ロンダを殴り倒す事は不可能になるのだ。

ミーシャ・テイトVSロンダの最初の10秒を見てみよう。

CloudyGreatAmericanalligator.gif

まあ二人のボクシング技術にはここでは触れないでおこう。大事なことはテイトが右のパンチを振るうたびに、ロンダに素敵な四つ組をプレゼントしてしまっているという事だ。
試合がスタンドに戻るたびに、テイトは右をぶん回してはオリンピック柔道家と四つに組み、豪快に投げられる。

SillyShadowyAmericanmarten.gif

ロンダはスタンドで相手を追い込むのが決して上手くはない、左フックの手でそのまま組みつくのは悪くないが、遠距離の打撃も大したことはない。
ロンダの対戦相手はまずジャブを打つ、そしていつも(やめときゃいいのに)立ち止まって右を続けて打つ、それが当たろうが外れようが次の瞬間ロンダに組まれてしまうのだ。

同じ事はサラ・カフマン戦でも言える。カフマンは女子MMA界のベストボクサーの一人として喧伝されていた、だが彼女はパンチ技術はあってもボクシング技術はなかった、その二つは別物なのだ。

BruisedWickedIbadanmalimbe.gif

詰めてくるロンダに対し、相手がサークリングで距離をとる事に特になんの障害も存在しない。ロンダは相手を金網に追い込み捉える特別な技術など持っていない、ただ真っ直ぐ近づいているだけだ。
そんな時すべきボクシングのセオリーは「下がって距離を作り、サークリングで脱出」だ。
もしコーナーに詰まり過ぎていいたら、方向のフェイクを入れて脱出してもいいだろう、これは基本的だが試合の流れをかえることができる手段だ。


WearyJollyAsianpiedstarling.gif

さて次はデイビス戦を見てみよう。ロンダがステップインするたびにデイビスはパンチを出す、フェイントも作戦もなくとにかく早く強く相手を殴ろうとするだけだ。そんな相手に組み付くのは当然容易い、だがデイビスは組まれて投げ飛ばされる前に、ロンダに攻撃を当ててはいた。

ColorlessScientificAmericanwarmblood.gif

強打をもらおうが彼女は組み付けるが、ほぼ全ての試合で彼女は相手の一撃をもらっている。だが顎の強度が永遠に続かないからといって、うっかりKOできる事を頼みにした戦術をたてるべきではない。

最初の問題は、彼女がとても速いという事だ。彼女は全力で組みに来る、腕を振るいながらあらゆる方法で直進してくるのだ。
サイドステップは組ませない方法の一つだ、それが成功すればロンダの選択肢は追いかけ続けて消耗していくか、もっと保守的に戦うかしかない。

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だが誰もその戦術をためしてない。マクマンもテイトもカフマンも、早く強くロンダをぶん殴ろうとすることに終始していた。リズ・カモーシェは僅かにサークリングしようとしたが、すぐにとまって殴ろうとして捕まってしまった。

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いままで踏み込むロンダをKOしようとしたものはあってもロンダを近づかせないように試みた者はいなかった。
はっきり言おう。「挑戦者たちよ、強打は捨てろ!そしてサークリングで逃げるんだ!!」



ここで組ませない為の昔ながらの対処法を教えよう、それはジャブだ。
的確なジャブを胸や頭に当てれば、たとえ威力が低くても近寄らせないことができる。

さらにウィリー・ペップやレノックス・ルイスが得意とした「ヒーリング」という方法もある。拳の掌底部で相手の頭を押し戻すのだ。この方法で彼らはインファイターを退け続けた。
MMAではジョン・ジョーンズがこれで距離をとる(そしてたまにアイポークになる)。
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また相撲では、クリンチを無効化する技として喉輪が知られている。

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当然のことだが「頭が動けば、体はそれについていく」のだ。もちろん組まれないためにはフットワークで距離をとることも大切だ。


正直言ってなぜロンダの対戦相手たちがすぐに拳をぶん回してわずかなKOチャンスを拾いにいくのかは理解できない。突っ込んでくる相手に上手く打撃をあてるのは難しい、もっと簡単に突進を防ぐ古典的なレスラーの技がある、相手の頭が突進してくる経路上に肘を置いておくのだ。

ローリー・マクドナルドが好むようにカウンターで肘を振るってもいいだろう。何よりパンチが打てない程の距離でも肘は出す事ができる。
加えてパワーの低い女子でもエルボーはかなりのダメージを与えられるはずだ。

WillingConcernedDragon.gif


おそらく関節蹴りも有効だ、ロンダが蹴り足をつかむ事はほとんどないし、そもそも関節蹴りをキャッチする選手などいまだかつて見たことがない。

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関節蹴りはグラップラーと対峙するストライカーにとって素晴らしい武器だ。関節蹴りは簡単に強く早く攻撃できる。
ロンダはキャリアでローをカットしたことが一度もない。ボクシング的なワイドスタンスのロンダに関節蹴りはかなり効果があるはずだ。


最後にロンダの特異性について面白い話がある。彼女の母が自著で明かしたところによれば「ロンダはパスガードをした事が無い」(!)何故なら彼女は投げた次の瞬間すでに袈裟固めの状態に入っているからだ。
しかし実際の所、袈裟からガード戻らされた事も、足関節技を潰してパスした事も一応はある、特筆すべきはガードのなかのロンダはあまり強くなかったという事だ。

ロンダが投げから必ず袈裟になるのはパスが得意ではないからとも考えられる。
だからロンダと組み合って、もう敵わないと思ったなら即座に飛びついてクローズドガードに閉じ込めてしまったほうがいいかもしれない。その後マクレガーがメンデスにやったようにガードから肘で削り消耗させてもいい。
もちろんロンダをガードポジションに閉じ込めても決して有利な状況ではないので、戦術としてそこを目指すべきではないが、投げ飛ばされてサイドを許すより幾らかマシだろう。



結論を言うとロンダに勝つためには
「ロンダの正面を避け、サークリングし、可能な限り組みの局面を避け続ける」
事がすべてだ。
そして遠距離の打撃でロンダの突進を止め、突っ込まれたら肘をぶち込む。
これらはすべて男子のMMAでは、距離を詰めて戦おうとする選手への対応策として、すでに普及している。
ロンダの突進を一回でも二回でも止めることができれば、上等だ。ロンダはいままでと同じではいられない。

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後半疲れてきて雑に訳をまとめましたが、そこそこ面白い記事だと思います。
早くサイボーグ姐さんと戦うのが見たいなー

posted by mma司書 at 17:44| Comment(2) | ロンダ・ラウジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月20日

ファブリシオ・ヴェウドムの戦術と絶対王者の条件

ファブリシオがいかにケインを破壊したか、技術解説記事をどうぞ

翻訳元 Judo Chop



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1a 両者の距離が詰まる

2a ケインが圧力をかけファブリシオを後退させ即座にローキックを放つ

3a ファブリシオがカウンターの右を的中させる


ではドスサントス戦と比較してみよう

1b 圧力をかけてきたケインに対しドスサントスはサークリングで距離をとる

2b ケインがジャブのダブルでドスサントスを後退させる

3b ドスサントスがバックステップでかわしフェンス際まで大きくサークリングする


この動きだけ見れば、ドスサントスがより優れているように思う人もいるかもしれない。ファブリシオはカウンターを当てているがローキックをもらっている一方で、ドスサントスは攻撃を受けていない。
GIFリンクを見てもらえればファブリシオがその後、蹴りにパンチを合わせられてダウンしている事に気づくだろう。だがドスサントスは序盤の圧力をいなし、いかなるダメージを受けていない。

だが試合全体で見ればファブリシオの方が効果的な仕掛けを行っていたことになる。
ファブリシオは序盤からリスクを負って攻めることで、彼はこの試合を通じての確固たる姿勢を見せつけた「オレはやられっぱなしではいないぞ」と。
対してドスサントスはダメージをうけない代わりにケインに彼を簡単に後退させコントロールできると確信させてしまった。そしてケインがドスサントスを金網に張り付ければ、彼は凡百の選手と同じだ。



標高と低酸素にばかり注目されて、選手の能力は見過ごされて、正当に評価されていない。ケインが無尽蔵だったスタミナを切らした一方でファブリシオは疲れを知らないかのように戦った。
ここでは彼のエネルギー維持と防御の戦略を解説しよう。


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GIF


1 ケインはファブリシオを頭のプレッシャーと左腕のアンダーフックで金網に押し付けている

2 ファブリオの腿に膝を突き刺す

3 ファブリシオがケインの膝を嫌がり、攻撃を辞めさせるために本気でない投げを仕掛ける

4 ケインが体勢を立て直し右で殴ろうとするが、ファブリシオは頭を逆側にずらし回避

5 ケインが左腕を自由にするため頭でのプレッシャーをかける

6 ファブリシオはまた逆側に頭をずらし、同時にケインの首をとる


この試合でのほぼすべてのクリンチの攻防はこのような展開だった。
試合前に私はケインの頭の位置とプレッシャーの高い有効性について書いていたが、ファブリオはケインとは違う頭の位置取りを利用してクリンチの勝負に勝った。これは私もケインも全く予想していなかった。

背中を金網にあずけた状態のファブリシオは、抵抗する敵がかがまないように腰をしっかりと落とし敵を金網に押し付けてくるケインに対して、かなり厳しいパワー勝負をしなければならなかった。*
だから代わりにファブリシオはケインの頭のプレッシャーにあらがわず、自分の頭をケインの自由な腕とケインの頭を挟んだ逆側にずらし攻撃を逃れた。
ケインの膝は投げをチラつかせる事で封じ、焦れたケインが組み直した時にはファブリシオの術中にはまっているのだ。

*訳者注:ケインが頭で押し込んでファブが背筋を反らされると、後傾で力を十分かけられないファブは前傾のケインに対して不利で体勢を変えらづらいって事です。

いままでケインが金網漬けを成功させてきた事はアンダーフックと頭のプレッシャーで敵を金網に沿わせ背伸びさせていた事が関係している。
ファブリシオはそれに対して腰を落とし押し返そうとするのではなく、背筋を伸ばされたままでケインの肘と首筋を制すことで主導権を奪い、金網から脱出した。
ファブリシオはケインのレスリング×ボクシングの戦法に付き合わず、高さを活かした首相撲で戦ったのだ。


2ラウンドには、組みでは不利と見たケインはクリンチを自ら放棄する。そして最後には近づく事も出来なくなっていく。

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GIF

1 ファブリシオがケインと相対する

2 ファブリシオのステップジャブをケインがパリ―と右へのヘッドスリップでかわす

3 ファブリシオがもう一度ジャブを打ち、ケインに逆側に頭を振らせる

4 ケインの頭の動きに、ファブが右のパンチを合わせる

5 ステップで角度を変えたケインをファブリシオが追い、ジャブを突く

6 ケインがステップで後退する、もはや彼はプレッシャーファイターでは無い

7 ケインがサークリングで攻撃の角度を探る

8 ケインの躊躇いを利してファブリシオがまたジャブを打つ

9 ケインのサークリングにサイドステップでついていき

10 ファブリシオがジャブを打つ動作を見せ、ケインの頭を右に振らせる

11 フェイントにかかったケインにストレートが撃ち込まれる


ファブリシオはケインがジャブを右へのヘッドスリップでかわし、その次のパンチを左へのヘッドスリップでかわす事を見抜いたのだ。
GIF

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ファブの技術解説の抜粋翻訳でした。高地の影響の記事を訳した手前、ファブの名誉のためにも技術解説を紹介したかったので頑張りました。

自分はペティスとケインの陥落が絶対王者の一つの条件を示していると考えます。それは「前提を崩された時に戦術を変えられるのか」です。

ペティスは打撃と柔術に絶対の自信を持っていたため、自由に打撃戦をしテイクダウンをされても柔術力でパウンドを打たせない戦いをしていましたが、グイダにテイクダウンとトップキープのポイントで負けた反省から「金網を背にすることでテイクダウンへの防御力を上げ、打撃戦を維持して仕留める。」と言う戦術を編み出しました。
この戦術の前提とは「打撃で勝つ」という点にあります。だからドスアンジョスの左ストレートで目を潰された瞬間にこの戦術は有効性を失います、しかし戦術を変えられなかった彼は金網を背に打たれ削られ続け、力なく投げられ、ボトムから極めるそぶりもできず、最終的に打投極の全局面で完封され敗北しました。

ケインは、ドスサントスに喫したKOの反省からか圧倒的な組み力を担保に「スタンドで圧力をかけ続け、金網に張り付けて削り殺す、あるいはそのままトップをとる」という戦術に辿りつきました。
こちらの前提は、「組みで勝つ」ことです。しかしファブの冷静な首相撲にクリンチでの優位を奪われた彼は打撃でも遅れをとります。
もともとドスサントス戦で確立したケインの戦術での打撃はクリンチありきでした、ジャブとヘッドスリップをしながら多少の被弾を無視して前進したのは組みつく目的があったからです。
しかしファブに組み勝てなかったケインはスタンドでの目的を失いました。ファブにしてみればリーチの無い相手がつっ立ってジャブを放とうが怖くもなんともなかったでしょう。
そして体力と選択肢が尽き、ファブの柔術を恐れ避けていたタックルを選んだケインは待ち構えていたギロチンの餌食となったわけです。

両者とも敗北は無残なものでしたが戦術が固定されてしまったのは強力な武器を持っていたが故です、二人が新たな技術と戦術を携えてチャンピオンの座をとりもどしたなら、真の絶対王者になれる信じています。


ちなみにこの戦術の柔軟性で最も秀でているのがジョゼ・アルドだと思います。彼は圧倒的なテイクダウン防御を担保に強烈なローを主体とした打撃戦で勝利を重ねてきましたが、彼の真の強さは戦術の幅にあると考えています。
フランク・エドガー戦ではローの蹴り足キャッチと胸へのプッシュで押し倒すTDを前にローを封じ、冴えわたるジャブで試合を支配しました。
ジョン・チャンソン戦ではローをカットされ足を負傷すると即座に戦術を組み主体に切り替えたと思いきや、チャンソンが肩を負傷したことを見抜いてハイキックを叩き込み仕留めました。
この柔軟性がアルドがパウンドフォーパウンドとよばれる所以です。

次戦で、UFCフェザー級最大のモンスター(色んな意味で)コナー・マクレガーと対峙した時アルドのさらなる強さが、あるいは思いもしない弱さが見れるでしょう。楽しみです。

posted by mma司書 at 18:18| Comment(2) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする