ファブリシオがいかにケインを破壊したか、技術解説記事をどうぞ
翻訳元
Judo ChopGIF1a 両者の距離が詰まる
2a ケインが圧力をかけファブリシオを後退させ即座にローキックを放つ
3a ファブリシオがカウンターの右を的中させる
ではドスサントス戦と比較してみよう
1b 圧力をかけてきたケインに対しドスサントスはサークリングで距離をとる
2b ケインがジャブのダブルでドスサントスを後退させる
3b ドスサントスがバックステップでかわしフェンス際まで大きくサークリングする
この動きだけ見れば、ドスサントスがより優れているように思う人もいるかもしれない。ファブリシオはカウンターを当てているがローキックをもらっている一方で、ドスサントスは攻撃を受けていない。
GIFリンクを見てもらえればファブリシオがその後、蹴りにパンチを合わせられてダウンしている事に気づくだろう。だがドスサントスは序盤の圧力をいなし、いかなるダメージを受けていない。
だが試合全体で見ればファブリシオの方が効果的な仕掛けを行っていたことになる。
ファブリシオは序盤からリスクを負って攻めることで、彼はこの試合を通じての確固たる姿勢を見せつけた「オレはやられっぱなしではいないぞ」と。
対してドスサントスはダメージをうけない代わりにケインに彼を簡単に後退させコントロールできると確信させてしまった。そしてケインがドスサントスを金網に張り付ければ、彼は凡百の選手と同じだ。
標高と低酸素にばかり注目されて、選手の能力は見過ごされて、正当に評価されていない。ケインが無尽蔵だったスタミナを切らした一方でファブリシオは疲れを知らないかのように戦った。
ここでは彼のエネルギー維持と防御の戦略を解説しよう。
GIF1 ケインはファブリシオを頭のプレッシャーと左腕のアンダーフックで金網に押し付けている
2 ファブリオの腿に膝を突き刺す
3 ファブリシオがケインの膝を嫌がり、攻撃を辞めさせるために本気でない投げを仕掛ける
4 ケインが体勢を立て直し右で殴ろうとするが、ファブリシオは頭を逆側にずらし回避
5 ケインが左腕を自由にするため頭でのプレッシャーをかける
6 ファブリシオはまた逆側に頭をずらし、同時にケインの首をとる
この試合でのほぼすべてのクリンチの攻防はこのような展開だった。
試合前に私はケインの頭の位置とプレッシャーの高い有効性について書いていたが、ファブリオはケインとは違う頭の位置取りを利用してクリンチの勝負に勝った。これは私もケインも全く予想していなかった。
背中を金網にあずけた状態のファブリシオは、抵抗する敵がかがまないように腰をしっかりと落とし敵を金網に押し付けてくるケインに対して、かなり厳しいパワー勝負をしなければならなかった。*
だから代わりにファブリシオはケインの頭のプレッシャーにあらがわず、自分の頭をケインの自由な腕とケインの頭を挟んだ逆側にずらし攻撃を逃れた。
ケインの膝は投げをチラつかせる事で封じ、焦れたケインが組み直した時にはファブリシオの術中にはまっているのだ。
*訳者注:ケインが頭で押し込んでファブが背筋を反らされると、後傾で力を十分かけられないファブは前傾のケインに対して不利で体勢を変えらづらいって事です。
いままでケインが金網漬けを成功させてきた事はアンダーフックと頭のプレッシャーで敵を金網に沿わせ背伸びさせていた事が関係している。
ファブリシオはそれに対して腰を落とし押し返そうとするのではなく、背筋を伸ばされたままでケインの肘と首筋を制すことで主導権を奪い、金網から脱出した。
ファブリシオはケインのレスリング×ボクシングの戦法に付き合わず、高さを活かした首相撲で戦ったのだ。
2ラウンドには、組みでは不利と見たケインはクリンチを自ら放棄する。そして最後には近づく事も出来なくなっていく。
GIF1 ファブリシオがケインと相対する
2 ファブリシオのステップジャブをケインがパリ―と右へのヘッドスリップでかわす
3 ファブリシオがもう一度ジャブを打ち、ケインに逆側に頭を振らせる
4 ケインの頭の動きに、ファブが右のパンチを合わせる
5 ステップで角度を変えたケインをファブリシオが追い、ジャブを突く
6 ケインがステップで後退する、もはや彼はプレッシャーファイターでは無い
7 ケインがサークリングで攻撃の角度を探る
8 ケインの躊躇いを利してファブリシオがまたジャブを打つ
9 ケインのサークリングにサイドステップでついていき
10 ファブリシオがジャブを打つ動作を見せ、ケインの頭を右に振らせる
11 フェイントにかかったケインにストレートが撃ち込まれる
ファブリシオはケインがジャブを右へのヘッドスリップでかわし、その次のパンチを左へのヘッドスリップでかわす事を見抜いたのだ。
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ファブの技術解説の抜粋翻訳でした。高地の影響の記事を訳した手前、ファブの名誉のためにも技術解説を紹介したかったので頑張りました。
自分はペティスとケインの陥落が絶対王者の一つの条件を示していると考えます。それは「前提を崩された時に戦術を変えられるのか」です。
ペティスは打撃と柔術に絶対の自信を持っていたため、自由に打撃戦をしテイクダウンをされても柔術力でパウンドを打たせない戦いをしていましたが、グイダにテイクダウンとトップキープのポイントで負けた反省から「金網を背にすることでテイクダウンへの防御力を上げ、打撃戦を維持して仕留める。」と言う戦術を編み出しました。
この戦術の前提とは「打撃で勝つ」という点にあります。だからドスアンジョスの左ストレートで目を潰された瞬間にこの戦術は有効性を失います、しかし戦術を変えられなかった彼は金網を背に打たれ削られ続け、力なく投げられ、ボトムから極めるそぶりもできず、最終的に打投極の全局面で完封され敗北しました。
ケインは、ドスサントスに喫したKOの反省からか圧倒的な組み力を担保に「スタンドで圧力をかけ続け、金網に張り付けて削り殺す、あるいはそのままトップをとる」という戦術に辿りつきました。
こちらの前提は、「組みで勝つ」ことです。しかしファブの冷静な首相撲にクリンチでの優位を奪われた彼は打撃でも遅れをとります。
もともとドスサントス戦で確立したケインの戦術での打撃はクリンチありきでした、ジャブとヘッドスリップをしながら多少の被弾を無視して前進したのは組みつく目的があったからです。
しかしファブに組み勝てなかったケインはスタンドでの目的を失いました。ファブにしてみればリーチの無い相手がつっ立ってジャブを放とうが怖くもなんともなかったでしょう。
そして体力と選択肢が尽き、ファブの柔術を恐れ避けていたタックルを選んだケインは待ち構えていたギロチンの餌食となったわけです。
両者とも敗北は無残なものでしたが戦術が固定されてしまったのは強力な武器を持っていたが故です、二人が新たな技術と戦術を携えてチャンピオンの座をとりもどしたなら、真の絶対王者になれる信じています。
ちなみにこの戦術の柔軟性で最も秀でているのがジョゼ・アルドだと思います。彼は圧倒的なテイクダウン防御を担保に強烈なローを主体とした打撃戦で勝利を重ねてきましたが、彼の真の強さは戦術の幅にあると考えています。
フランク・エドガー戦ではローの蹴り足キャッチと胸へのプッシュで押し倒すTDを前にローを封じ、冴えわたるジャブで試合を支配しました。
ジョン・チャンソン戦ではローをカットされ足を負傷すると即座に戦術を組み主体に切り替えたと思いきや、チャンソンが肩を負傷したことを見抜いてハイキックを叩き込み仕留めました。
この柔軟性がアルドがパウンドフォーパウンドとよばれる所以です。
次戦で、UFCフェザー級最大のモンスター(色んな意味で)コナー・マクレガーと対峙した時アルドのさらなる強さが、あるいは思いもしない弱さが見れるでしょう。楽しみです。