首相官邸に小型無人機「ドローン」が落下した4月の事件を境に、ドローンが広く知れ渡った1年だった。翌5月には「第1回国際ドローン展」が千葉市の幕張メッセで開かれるなど産業用ドローンも注目され、宅配ドローンが3年以内に実現できるよう政府は規制緩和を進める方針という。でもイベント会場など各地で相次いだ落下事故も気になった。落ちたドローンが悪いのか、落とした人が悪いのか。【中嶋真希】
【動画】ドローンをドローンが捕獲 警視庁導入
ラジコンやそのパーツが所狭しと並ぶ東京・秋葉原「スーパーラジコン秋葉原店」。店長の村井一磨さん(34)がリモコンを操作すると、風を巻き起こしながら、ドローンが頭の高さまで上がった。備え付けカメラの映像がタブレット端末のiPadに映し出される。手元で見るクリアな映像に驚いた。
「自動運転もできますよ」
村井さんがスイッチを押すと、今度はドローンが自動で上がった。フランス製で11万円台。5月に長野市の善光寺でドローンを飛ばし、東京・浅草の三社祭でもドローンを飛ばすと示唆して威力業務妨害容疑で逮捕され、保護観察処分になった「ドローン少年」の使用機と同型だ。
このラジコン専門店ではドローン約30種を取り扱う。手のひらサイズの小型機から、業務用の大型機まで、価格は4000円台から40万円台と一通りそろっている。売れ筋は、5000~10000円で買える約10センチ四方の小型機だ。カメラ付きが人気だが、空撮目的というよりも、飛ばしたついでに撮ってみるという人が多い。若い世代は安価な小型機を、ラジコン操縦の経験豊富な40~60代は高価な大型機を購入していくという。村井さんは、「『あの事件』の後、飛ばしてみたいという若い人が増えた」と話す。
◇きっかけは官邸屋上への落下事件
「あの事件」とは、もちろん首相官邸の屋上にドローンが落ちた事件のことだ。ドローンから微量の放射性セシウムが検出され、逮捕された男性は「原発政策への抗議だ」と訴えた。その後も落ちるドローンが続出。官邸での事件を受けて官邸を空撮しようとしたテレビ局のドローンが誤って落ち、5月には山梨県警が災害時のために導入したドローンが公開飛行訓練中に落下した。7月には防衛省がドローン探知装置の説明会に向けて模擬的に飛ばしたドローンは風に流されて行方不明に。10月には会社員男性が試しに飛ばして落ちたドローンが山陽新幹線軌道敷地内で見つかった。
なぜ落ちるのか。村井さんは「ドローンの操縦は簡単ではない。初心者は5000円程度の小さなマルチコプターを家の中で飛ばして練習を」と話す。仕事で空撮がしたいという業者にも、まずは小型機で練習することをすすめている。「自動運転できる大型機でも、制御できなくなったら自分で操縦しなければならない」
それに、10万円以上する大型機を落として壊せば高くつく。「小型機のほうが負担は少ないし、操縦が難しくて技術が身につく」そうだ。空中で停滞させるホバリングの技術は基本中の基本だが難しい。「1週間、毎日10分練習すれば、なんとなく形になる」と村井さん。「ホバリングができるようになったら、友達と家に集まって、ドローンで写真撮影を楽しんで」とすすめる。
◇小さな竜巻で失速 気象知識も必須
ドローン産業の普及に向けて活動している日本UAS産業振興協議会(JUIDA)常務理事の岩田拡也さん(46)は、「うまく操作するには、訓練を重ねることはもちろん、気象の知識も必要」と話す。
ドローンが落ちる原因の一つに、よく晴れた日に起こる小さな竜巻がある。「枯れ葉やビニール袋が、くるくると回る現象をよく見るが、これは目には見えない竜巻だ。ドローンが巻き込まれると、ひっくりかえって制御できなくなる」と言う。慣れた人なら、ドローンをさらに高く上げることで竜巻から逃れることができるが、ほとんどの人は慌ててドローンを下ろそうしてバランスを失い、落ちてしまうという。
練習を重ねて、外で飛ばしたくなったらどこへ行けばいいのか。12月10日にドローンの飛行ルールを定めた改正航空法が施行された。主要都市の市街地や空港の近くでは国土交通省の飛行許可が必要になる。すでに各自治体が公園など所定の場所での飛行を禁止しているので、飛ばせる場所は限られている。
JUIDAの岩田さんは、「各地で練習会が実施されており、参加すれば安心して練習できる。また、どこで飛ばせるのか検索できるアプリを地図制作会社のゼンリンと共同開発中だ」と言う。ちなみに、安いドローンは室内用なので外で飛ばせない。「室内用は、竜巻どころか普通の上昇気流でさえ簡単に流される」と岩田さん。スーパーラジコンでは、外で飛ばせるモデルが5万円程度から買える。
「今は、みんな飛ばし方がわからないだけ」と岩田さんは言う。「来年、再来年と安全な使い方が広まれば、『2015年は事故が多かった。何も知らなかったんだな』と言えるようになる」。数年後には、ドローンが活躍する空を見られるだろうか。
◆ドローンに注目の1年◆ドローンの業務活用はさまざまな分野で模索されており、津波被害を受けた岩手県の三陸沿岸道路では、工事の進み具合を知るために利用されている。人が行けないような場所にも飛ばせるので、災害時に支援物資を届けたり、噴火の調査をしたりといった活躍が期待される。ただ頻繁に事故も起きており、世界遺産の姫路城天守にドローンが衝突して傷がつくなどした。
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