長野久義の発言をめぐって、これだけ議論が広がるとは思ってもみなかった。私の意見も述べておきたい。
長野久義のダメな部分

長野の発言は12月4日、アンバサダーをつとめるミズノの会議のあとのことだ。いろいろなスポーツ紙が取り上げているが、概要はこうだ。
まず、長野はマエケンのMLB挑戦に対して
「がんばってほしい」とエールを送った。一流の野球選手として当然のことだ。
そのうえで、今季、7打数無安打3三振とカモにされていた前田に対して「球界を代表する投手。本当に打てないから、対戦しなくなることは良かったです」と述べた。

これが軽い発言だったことは間違いない。目くじら立てることはないかもしれないが、彼は有名選手である。発言は広く伝えられ大きな影響を与える。
この発言をマエケンへのリップサービスとする見方もあるようだが、だとしてもあまり上等のコメントとは言えない。「対戦しなくなることは良かった」と言われてマエケンが喜ぶとも思えない。
むしろ、本音がぽろっと出てしまったと解釈するほうが自然だろう。今季、長野は不振にあえいだ。6年目の今年も長野は規定打席に達したが、安打、打率は過去最低に終わった。年俸も2500万円下がって2億円を割った。
その直後で弱気になっていたために、つい本音を漏らしてしまったのだと思う。

野球選手は勝負師である。難敵に対しても「負けまい」と闘志を燃やすことで生きていくことができる。ファンもそれを望んでいる。
「本当に打てない」は、長野の活躍を期待しているファンには、残念なコメントではなかったのか。
今後も対戦する相手に対して「とても打てない」というのは、ある種の策略だとみることもできる。油断をさせておいて、新手の策で勝負するために三味線を弾いたとみることも可能だ。
しかし、もう対戦がない相手に「とても打てない」「対戦しなくなることは良かった」というのは、額面通りに受け取るしかない。
再起を期すべきオフの発言としては、いささか情けない。勝負師に必須の闘争心を失ったかと思わせる。長野は「焼きがまわった」という感じか。

もちろん、どんな発言をしようと、弱気を見せようと「長野久義命」というファンもいるだろう。長野の言うことはいつも肯定的に受け取るという人もいるだろう。しかし、それはそういう人たちだけで通用する見方だ。そう思うのはもちろん自由だが、みんながそう思うと考える方がどうかしている。非難される筋合いはない。

野球選手は成績が良ければもてはやされ、悪くなれば責められる。勝負師なのだから仕方がない。来季に期待したいファンに対して「勝負師らしからぬ言葉を吐いた」のは、情けないと思う。
もし、マエケンに対してはなむけの意味でコメントするなら
「来季こそリベンジしようと思ったのに残念です」くらいにしておくべきだっただろう。

そうしたこと以前に、この発言には看過できない側面がある。大友一仁さんも書いておられたが、みなさん、読んでくださっただろうか。

長野久義のダメな部分

ダルビッシュ有は、2011年オフにMLBに移籍を表明した際に「NPBではこれ以上モチベーションを維持できなくなった」ことを理由の一つに挙げた。
彼は、試合前に相手打者から「今日は手加減してくれよ」と冗談交じりに言われて本当にがっかりしたというのだ。
投手という商売は、モチベーションが非常に大事だ。勝ち負けや数字なども重要だが、良い打者と打ったり打ち取ったりの好勝負を繰り広げることが投手にとって、何よりの「やりがい」になる。
ダルビッシュは、戦う前から両手を上げるようなNPB打者の情けない発言に、失望したのだ。
もちろん、ダルビッシュに闘争心をむき出しにして立ち向かうNPBの打者もいるにはいただろう。2011年のダルビッシュは球史に残るものすごい投球をしたが、それでも彼を打ち崩した打者はいたのだ。しかし、NPBでダルが燃えることは少なくなっていたはずだ。

ダルビッシュはテキサス・レンジャーズに移籍後、デトロイト・タイガースの三冠王、ミゲル・カブレラとの対戦を非常に楽しみにしていると話した。
ずば抜けた選球眼を持ち、どんな球にでも対応できるうえに、すさまじいパワーもある。ダルはNPBではお目にかかれなかったすごい打者と見えて、失いかけていた闘争心を取り戻したのだろう。

長野久義の言葉も、ダルに「手加減してくれ」といった打者の言葉と同類の、勝負師の口からは聞きたくない言葉だった。勝負師としては「終わっている」発言だろう。
そういう言葉がこともあろうに首位打者まで取った当代屈指の打者の口から漏れたことに、大友さんはがっかりしたのだ。
私もまったく同感だ。

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NPBを代表する投手が全盛期にFAを待たずにポスティングでMLBに移籍するのは、球団の側からみれば「これ以上年俸を払いきれない」からである。
そして投手は「NPBではもうやることがない」気持ちになって移籍すると思われる。何度も言うようにモチベーションが維持できないのだろう。
そう思わせているのは、ふがいない打者たちだ。実力で勝てないにしても、せめて闘争心を盛り上げて向かっていく姿勢を示すべきではないのか。

大谷翔平の年俸が3年で2億円に達した。彼もあと2~3年で「やることがない」と思う境地に達するだろう。
それは大きすぎる才能を持ったが故ではあるが、一方にそう言わしめるような不甲斐ない打者たちがいることも忘れてはならない。


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