(平四郎)本音を聞かせてくれ。
(総右衛門)ほかに誰がございましょう。
あんたの頭の中を駆け巡ってる女はどうだい?
平四郎が葵殺しの下手人とにらんだおふじ孫八宗一郎の疑いが次々と晴れた頃一風変わった通りものの仕業だと断じていた弓之助は…
(弓之助)葵さんの家に残っていたいい香りです。
香りを楽しむ唐渡りのたばこが葵の手元にあると知り匂いこそが事件の鍵なのだと気付く。
そんなころ芋洗坂では下手人に一度狙われたおはつが再びかどわかされた
(烏の鳴き声)うわ〜!
(鳴き声)
(荒い息)ここです。
(おでこ)はい。
(八助)本所とここじゃ勝手が違うだろうけどまあよろしく頼むぜ。
へえ。
こちらこそよろしくお願いします。
ああ。
(杢太郎)親分〜!お…!お…!おは…!おは…!どうした?
(せきこみ)
そのころ深川では…
(小平次)あっ坊ちゃん。
どうしたんですか?このような所で…。
旦那が中でそばを手繰ってらっしゃいます。
小平次さんは?私はここのそばは頂きません。
はい。
うへぇ。
(お紺)あっいらっしゃ〜い。
おっ弓之助おでこいいところに来た。
そばどうだ?あ…ありがとうございます。
ところで叔父上下手人とおぼしき人の見当がつきました。
…何?あの日葵さんを訪ねた人物は間違いなく過去にも人を殺めた事があるのです。
(政五郎)そうなんですか?あの日の葵さんの言葉に態度にあるいは着ているものがその人にとって忌まわしく恐ろしい過去を思い出させるものがあった。
それがあの日の客通りものとなった下手人の正体なのです。
(葵)うっ…!しかし手を下した本人には一生振り払う事のできぬ重い罪。
聞き歩きをしておりますとけんか口論のあげくにカッとなり親兄弟夫婦など身近な者を手にかけてしまうという形の殺しは数が多いのです。
…かもしれねえなあ。
そういう場合は佐吉の時同様表沙汰にしないでもみ消そうとする。
身内はかばいますからね。
ああ。
だからこそです。
今度の件の下手人にふさわしい隠し事だと考えたのです。
つまりなかった事にされた罪です。
だがそれでも思いは残る。
後ろめたさも後悔も。
はい。
あの日の葵さんには相対した客に本人の昔の罪を思い出させる何かがあった。
葵さんは知らない何かが…。
だから葵の首に巻かれてる手拭いに引っ掛かってたんだな。
お前は…。
はい。
同じ手口の身内のいさかいによる人殺しです。
「通油町の妹殺し」「雑司ヶ谷村の妻殺し」「鼠坂植木屋の母殺し」。
ですが探しても探しても見つかりませんでした。
その時です。
手口ではなく匂いなのだと叔父上が…。
葵は風邪気味でたばこを控えていたから来客に勧めた。
来客はたばこ好きでその珍しいたばこを吸った。
それなのです!人殺しがあった時その場に珍しいたばこの香りが立ちこめていた。
そんな過去の事件はなかったかとおでこさんと洗い直してみたんです。
(おでこ)「牛込古着屋の母殺し」でござんす!・旦那!芋洗坂のおはつって娘が!おい何だ何だ?旦那!芋洗坂でおはつという娘がかどわかされたそうです。
あ…ああ〜!ああ〜!ああ〜!ああ〜!あ…あ…私のせいです。
私は粗こつ者です。
おはつちゃんに何かあったら私のせいです。
弓之助。
しっかりしろ!うん。
はい。
葵さんの家に走って下さい。
おはつちゃんは必ずそこに連れていかれるはずです!
(政五郎)早くしねえか!ほら!小平次。
お前も行け。
うへぇ。
はあ…ああ…。
ああ〜!おい…。
私がおはっちゃんの法春院通いをやめさせておけばよかったんです。
でもそれだと晴香先生に疑われるから…。
あ〜ちょっ…ちょっと待て弓之助。
お前の今の言いざまだと晴香先生が怪しいように聞こえるんだが。
そうです。
晴香先生が下手人なんです。
えっ!本当ですか?葵さんを絞め殺し家から去るところをおはつちゃんに見られこれはいけないとおはつちゃんの首を絞めて脅し今またおはつちゃんを連れ出し口を塞ごうとしてるのも晴香先生なのです。
じゃその「牛込古着屋の母殺し」ってのは…。
あいあい。
晴香先生が下手人でござんす!おはつ坊〜!おはつ坊!おはつ!おはつ!おはつ坊!おい!へい!
(おはつ)助けて!あっ…。
(おはつ)いや〜!いや〜!助けて!…晴香先生!いや!やめて…!
さて晴香が下手人であるという「牛込古着屋の母殺し」とは。
15年ほど前の事。
牛込にある芝居の衣装をも扱う大きな身代を持っていた大店で起こった
えい!ああ〜。
その大店には3人の娘がいた。
仲よし3姉妹と言いたいところだが長女と三女は仲よく次女で当時お春といった晴香は2人と折り合いがよくなかった。
それに輪をかけて母親とも折り合わず何かというとお春にばかりつらくあたる
(晴香の母)お春。
何でお前はいつもそう暗〜い顔してるんだい。
それじゃうちん中まで暗くなる。
せっかく2人が楽しく遊んでるのに…。
邪魔になるんだよ!
そんなある日の事だ
私これがいい。
それは私が着るの。
どこぞに出かけるという事になり着物を巡って3姉妹が言い争いになった
うるさい!私はこれが着たいの!私はこれがいいの!
その事で母親はお春だけを呼び出し小言を言い始めた。
いつもの事だ
大体お前は根性が悪いんだよ。
いつだっていさかいのもとはお前じゃないか。
姉さんに譲らず妹を思いやらない。
どうしてこんなに我が強いんだろうね。
誰に似たんだろ。
ああ〜嫌だ嫌だ。
(2人)おっ母さん行ってまいります。
うん。
ゆっくり行っといで。
楽しみね。
…どこ見てんだい!どうして親の意見をちゃんと聞かない!?この根性曲がり!何だと!?クソばばあ!キャ〜!
座敷の中には母親が吸っていた連枝薫の匂いが立ちこめていたという。
母親は2日間やけどの痛みと熱にもだえ苦しんだあげくに死んだ。
この一件は表沙汰にはならなかったが土地の岡っ引きが乗り出し話が残った。
間もなくお春は親子の縁を切られ家を出されて遠縁の家の養女になったという
えっほえっほえっほえっほ…。
おっ!これは井筒の旦那!おはつはどうした?晴香先生と一緒なのか?へい。
奥の座敷です。
押し入れん中に刃物持って籠もっちまって。
今杢太郎がかき口説いてるとこです。
そうか。
へい。
ああ!おお。
あ…。
でもどうしてここだって分かったんですか?ここしかないのです。
ここが始まりでした。
晴香先生はこの家で葵さんを手にかけた。
その時15年も体の中に眠っていた鬼を呼び出したのです!一体何の話をしてるんです?ここには子盗り鬼ではなく晴香先生の鬼がいたのです!古着屋のお春の鬼!
(杢太郎)先生!晴香先生お願いです!お願いです!おはつ坊と一緒に出てきて下さいよ!旦那!シ〜ッ!ここ。
ここ。
おはつは縛られてはいないようです。
(杢太郎)先生は悪い何かにたぶらかされてるんだ!さもなきゃ病にかかってるんだ。
だから誰も先生の事を悪くなんか言いませんから!先生をひっくくろうなんて思ってちゃいませんて!晴香先生は鬼と戦っているんです。
…ん?何?叔父上。
うん。
杢太郎さんだけを残してほかの皆さんをここから出して下さいますか?ああ。
お前らよ悪いがここから出てくれ。
早くほら…。
旦那。
万が一を考えて外を固めます。
ああ。
このとおりだ先生!・
(おはつの泣き声)弓太郎。
・
(おはつの泣き声)晴香先生。
私は杢太郎さんとおはっちゃんの友達です。
先生とおはつちゃんをそんなところに押し込めているのは牛込古着屋の娘お春さんでございますね?晴香先生。
先生ならお春さんを説き伏せる事がおできになるはずです。
今更おはつちゃんを傷つけ亡き者にしても何もならない。
先生ならそう言ってお春さんをなだめる事ができるはずです。
先生…。
あっ…!おはつ坊!あっ!ああっ!今開けたら晴香先生は死にます。
頼むぜ!大丈夫か?おはつちゃんは無事受け取りました。
晴香先生お手柄でございます。
先生はご無事ですか?お春さんは先生にひどい事をしていませんか?・
(晴香)放っておいて下さいまし。
それはできません。
・
(晴香)放っておいて下さいましと申しました!お春さんは先生を殺めようとしているのですか?…それでいいのです。
私はここで死にます。
死なせて下さい。
・
(弓之助)いいえ。
私がそんな事はさせません。
きっと先生をお守りして助け出してご覧に入れます。
な…何だ?私はここで待たせて頂きます。
私の方がお春さんよりも先生を思いやる気持ちが強い。
決して負けませんよ。
(小声で)何言ってんだ?お前。
男が女をなだめすかしてご機嫌とってんじゃねえんだぞ。
(小声で)お願いがございます。
叔父上。
は…?湊屋に?ああ。
ほら例の幻術一座を借り出してこいって言うんだ。
弓之助が…。
それと葵の事をよく知ってるお六も呼べと言ってる。
何をなさるってんですかね?知らねえよ。
ただなここで晴香先生に死なれたら後生が悪いから坊主になるそうだ。
それじゃ井筒家の跡取りがいなくなります。
だから言う事を聞くしかねえ。
はあ…。
はあ…。
お前は何かあるとまずいんでここに残ってくれ。
湊屋には俺が行く。
お六さんのところなら私が。
旦那。
駕籠は残してありますから。
用意がいいね。
相変わらず…。
さあさあ…。
手前はおでこでござんす。
おはっちゃん。
・「アラアレアラアラおでこでござんす」お見知り置き下さい。
いない?はい。
大事な寄り合いがございまして。
何か父に御用でしたか?あんた親父殿に聞いてねえか?お抱えの幻術一座の事を…。
幻術ですか?聞いてねえか…。
聞いております。
じゃすぐ呼んでほしい。
どうしても連中に来てもらわなきゃならねえ用事がある。
葵さんの家でございますね?そうだ。
幻術一座は一度行ってるから場所は分かるはずだ。
親父殿には俺が…。
かしこまりました。
手前が必ず連れてまいります。
頼んだ。
はい。
ここでいい。
おや旦那!豪気な事でござんすねえ。
…と言いたいところだが駕籠の揺れは腰に悪うござんすぜ。
ああ全くな。
じいさん駕籠屋に白湯でも出してやってくれ。
へ…?
(おさき)うちの宿六ときたらお徳さんとこで一品そろえてこいとか言いやがって。
どんだけ稼いでんだって話だよ。
いつでも言ってよ。
余った時はさ持ってってもらっていいんだからさ。
(彦一)ハハハハ。
近所のよしみで…。
ああ…。
旦那。
どうしたんですか?旦那。
何だか慌ただしいね。
炊き出しを頼みてえんだ。
へっ?何ですか?やぶから棒に。
炊き出しってのは急なもんだって相場が決まってる。
頼むよ。
握り飯でいいんだ。
できるだけたくさんこしらえてほしいんだ。
場所は六本木の芋洗坂だ。
法春院って寺の先にある貸家だ。
芋洗坂の貸家?分かるようにしとく。
夜道になるからな。
任せたぞ彦一。
へい。
お任せを。
・
(弓之助)「子曰く」。
旦那。
おお。
お帰んなさい。
「義を聞きて徒る能わず。
不善改むる能わざるこれ吾が憂いあり」。
これはつまり道徳の修業ができない。
学問が足りない。
正しい事を聞いて心を変えられず間違った事をしたと分かっていてそれを改める事ができない。
これが私の心配事であるとそういう解釈でよかったのでしょうか?「論語」か。
へい。
晴香先生のご意見を伺いたいとおっしゃってああしてそらんじてる訳でして。
返事してんのか?返事はありませんが先生はまだ生きてます。
じゃ…。
シッ!えっ?何かおっしゃいましたか?先生。
・
(晴香)もうほっといて下さいまし。
そうはいきません。
晴香先生をお救いするまでは何としてでも頑張ります。
・
(晴香)あなたのような子どもが遅くまでこんなところにいてはいけません。
早くおうちに帰りなさい。
平気です。
どうやら弓之助さんの方が優勢のようですね。
鬼は押されてる訳か。
旦那。
いつまでこんな事やってるつもりですか?晴香先生一人じゃねえですか。
戸を開けてパッと飛び込んで引っ張り出せばそれで済む事じゃありませんか。
それよりもな八助。
晴香先生の身寄りは檀家総代を務めてた家柄だったな?それが何か?いやあんなざまだ。
まあいずれそっちにも事情が伝わる。
ここはひとつ佐伯殿にお願いするしかねえ。
お前使いに行ってくれ。
なっ?俺が一筆書く。
ああ…へえ。
…ったく何だってんだよ。
おう!あ…。
おう。
さあさあ…。
(お六)はい。
悪かったなお六。
ああ!とりあえず湯沸かしてお茶をいれてくれ。
おっつけ炊き出しが来る事になってる。
そしたらそっちも手伝ってくれ。
弓之助も用があると言ってる。
それはいいですけど一体何が始まるんですか?それがな…俺もよく分からねえんだよ。
えっ?旦那!ああ。
表に荷車が着きました。
湊屋の宗一郎って人がおいでです。
もう着いたのか。
なかなか頼りになる若旦那だ。
ああおはつの様子はどうだい?へい。
家に連れて帰ったら少し安心したのか寝ちまいました。
そうか。
よく面倒見てやってくれよな。
へい。
ああ早えなあ。
すまねえな。
孔子のような偉いお方が常にこんな心配をされてるという事は…。
あっ…。
(小声で)弓之助さん。
一座が着きました。
先生。
私おなかがすいてまいりました。
夜食を頂いてまいりますがようございますね?では後ほど。
こうして弓之助が一座の者たちと何やら相談している頃。
お徳が彦一とやって来た
お徳。
ご苦労だったな。
お六ってんだ。
ここで働いてたからな勝手はよく分かってる。
ああさいですか。
徳といいます。
よろしくお願いしますよ。
こっちはね…。
…ああ彦一です。
お徳さんを手伝ってる者です。
…六です。
よろしくお願いします。
(彦一)…へい。
うへぇ。
じゃやっつけちまいましょうかね旦那!おう頼まあ。
お六さん。
はい。
味見を。
あ…。
はい。
お待ち遠さま。
どうぞ。
食え。
こちらもどうぞ。
頂きます。
あっ!お…叔父上。
うん?邪魔にならないようおとなしく。
よいですね?はい。
はいはい…。
ごちそうさまでした。
皆さん。
本日はご足労をおかけしましてまことにありがとうございました。
後の事は私たちにお任せ下さい。
晴香先生は必ず助け出します。
ですからどうぞこれにてお引き取りを。
うん。
どうぞお引き取りを。
さいですか。
じゃお言葉に甘えて。
そうこうしているうちに舞台が整った
孔子のような偉いお方でも常にこんな心配をされてるという事は私たちはもっともっと心配しなければなりませんね。
次です。
「子曰く君子は人の美を成す」。
何が始まるのでございましょうか?黙って見てたら分かるんだろうよ。
そのうち…。
旦那。
うわっびっくりした!こいつが佐伯の旦那からの手紙です。
分かったよ。
お前…。
承った。
(鈴の音)先生。
私厠に行きたくなりました。
先生よろしゅうございますな?すぐ戻りますのでご案じ下さいますな。
いい香りが…。
甘ったるい匂いがする。
連枝薫の…。
(葵の声で)晴香先生どうなさいました?
(葵の声で)そんなところで何をしておいでですの?先生出ておいでなさいな。
怖がる事なぞござんせんから。
(葵の声で)私はね先生。
ここで亡者に成り果てました。
私はもともと業の深い女で地獄落ちと決まっておりましたからね。
こうして亡者になって残ったのはいっそ幸せかもしれません。
ねえ晴香先生。
出てらっしゃいな。
亡者が出てくると生きてる者はみ〜んな寝ちまうんですよ。
(鈴の音)嫌ですよ。
先生。
こんな物騒なおもちゃを持ったりして。
冷たいこと。
亡者の私より冷たい手ですよ。
先生。
よござんすか?先生。
ここは私の家なんですよ。
先生があんな事をなすったから私はここから離れられないんですよ。
ですからここで先生に亡者になられたら困るんですよ。
亡者は2人も要りやせん。
あなたは…。
先生は私の顔をお見忘れですかえ?そんな…そんな事が…。
先生。
私みたいになっちゃいけませんよ。
まだ死んではいけません。
先生。
私は先生のおっ母さんに似てましたんですか?
(泣き声)もう勘弁しておあげなさいな。
先生のおっ母さんだって勘弁して下すってると思いますよ。
あんな鬼を見たような顔はなさいませんようにね。
(泣き声)私も伜に会いたかったから先生をお恨みしていないと言ったらうそになるけれど…。
それじゃあ先生。
お早くお帰りなさいね。
あの人は…あの人は…。
葵だろ。
(鈴の音)うん?何だ?…ああいつの間にか寝ちまったな。
うへぇ。
あっ旦那。
あ…えっ?はっ…!先生!あっ!晴香先生です。
ご無事だったんですね晴香先生。
よかった!よかったです!よかった!
(杢太郎)晴香先生〜!・
(晴香)あの日はたまたま葵さんの家の前を通りかかっただけなんです。
そしたらおゆきちゃんとおみちちゃんの手まり歌が聞こえてきて…。
そういえばお六さんがおかしな男に付け狙われていて…。
いえ…それはもう心配ないとは聞かされていましたが…。
ちょうどいい。
お六さんに会ってその後どうしたのか伺っておこうと思い立ったのです。
あら!先生。
こんにちは。
お六さんはいらっしゃいますか?お六は今手が塞がってますけどね。
どうぞ先生。
上がって下さいましな。
さあどうぞ。
えっ…あ…はい。
さあどうぞどうぞ。
はい。
お六はすぐに参りますからね。
私も今ちょうど一服しようと思ってたところなんですよ。
さあ先生。
どうぞ。
は…はい。
先生はたばこをお好きでございますかしらね?えっ?いや珍しい品を頂いたんですよ。
そりゃうっとりするようなよい香りがしましてね。
風邪っぴきですからね。
まだ朝から2服目でしてね。
けど…ね?いい香りでござんしょ?大体お前は根性が悪いんだよ。
どこ見てんだい!どうして親の意見をちゃんと聞かない!?どっか見えないところにお行き!あら先生。
どうなすったんですか?まるで幽霊でも見たように青くおなりで…。
先生ごめんなさい。
たばこお好きじゃなかったんですね。
葵さんに気付かれたかもしれない。
昔の出来事を探り当てられるかもしれない。
このままにしてはおけない。
そう思った時にはもう…!…で飛び出す時におはつに出くわした訳だ。
はい。
けど…お前の母親が白菊の着物を着てたとはなあ。
ブルブル…怪談話にも程があるぜ。
おい。
すいません。
いいんだよ。
ああそうだ。
親分これが…。
うん?大当たりだったな弓之助。
…で?女役者にあの着物を着せたのはお前か?お前だな?あ…いいえ。
女役者さんのお考えです。
あ…?女が女を殺めてその場に着物があったのならその着物に意味がない訳がござんせん。
あるんだなあ。
そんな事が…。
旦那。
佐伯の旦那から届いてやした。
ああ。
「委細始末を終えた。
安心しろ」という事ですね。
うん。
八助。
後は任せた。
佐伯の旦那にもそう伝えといてくれ。
へい。
数日後の事
(長助)カア〜!カア〜!
(佐吉)それでお春さんは今どうして…?多分養い親のところに戻されただろう。
旦那もご存じないんですか?小平次。
はい。
葵殺しの下手人を突き止められたらそれでいい。
あとは向こうに任せるという約束だったしな。
…でこれだ。
お春は出家するつもりらしいが牢屋暮らしよりもつらいだろうな。
てめえのやった事はいつまでも付いて回る。
逃げられやしねえ。
…けどお前の気は済むまいな。
そんな事ありません。
感謝してもしきれねえ。
おふくろも成仏できたはずです。
佐吉さん。
ありがとうございました。
ああ。
…けどなあれは似てた。
お前にも見せてやりたかったぜ。
まるで本物の葵みてえでな。
叔父上!何だ?いくらそっくりでもあれは幻で本物の葵さんではありません!ずっとかたられてきた佐吉さんにあんな幻を見せてはいけないのです!…はい。
そのとおりだ。
すまねえ佐吉。
いえ。
坊ちゃん。
(志乃)ただいま帰りました。
あらあら来ていたのですか。
ちょうどよかった。
いつぞや話した大福餅が手に入りましたの。
おっ!みんなで頂きましょ。
おお。
あら…。
うん?…何だ?お恵は初めてじゃねえだろ?そうではなくて…。
顔つきがとがってます。
産着は私が縫いますからね。
ご新造様。
どうしてお分かりになったんで?俺も昨日聞いたばかりで…。
めでたい事はすぐ分かります。
ねっ?あなた。
うん。
やったな佐吉!うへぇ!ほら旦那!言ったとおりだったでしょう!「秋になったら王子に紅葉見物だ」なんて言ってたけど「そのころにはおめでただ」って。
そうだっけ?言いましたよ。
ああよかったわね〜。
あの2人の子なら男の子でも女の子でもかわいいに決まってるよ。
ところで幸兵衛はどうかしちまったのかい?えっ?ほら…ほら…。
(幸兵衛)柱なんかも磨いて!なっ?よし!かかれ〜!
(おしま)何なの?あれ…。
(幸兵衛)おしま!無駄口をたたくんじゃない!幸兵衛。
どういう風の吹き回しだ?お前いい事してるじゃねえか。
旦那。
ああ。
これからの世の中銭金そろばん勘定だけじゃねえですぜ。
世間様の役に立つ奉仕の働きをしなくっちゃね。
そうだそうだ。
それでこそ極楽浄土に行けるってもんだ。
えっ?なあ?うへぇ。
(おとよ)叔父上様!おお!おとよ。
縁組みが決まったそうだな。
おめでとう。
ありがとう存じます。
それで…。
えっ?あの…お徳さん。
はい何でしょう?おとよねえ様は婚礼の宴のお料理をお頼みしたくてはせ参じたのです。
来て下さるお客様はええと…。
50人ですの。
50人!?無理ですよそんなの!そこをなんとか…。
お願いします。
お徳さんのお料理でないと客人をもてなせないんです。
無理です。
駄目ですよ。
お徳さん!引き受けなさい!50人分ですよ。
大もうけですよ。
私も手伝うからもうけは山分けにしよ…。
ほらもう銭勘定だ。
うへぇ。
(おさん)やりましょうよおかみさん!
(おもん)いいですよね?彦一さん!あたぼうよ。
ただ50人分となると人手が足りねえな。
あっお六さんに頼んでもいいでしょうかね?…あ?勝手にしろバカ野郎。
(笑い声)いい気分だ。
みんな毎日をこんなふうに暮らせたらいいのになあ。
でもそうはいかねえんだよなあ。
一日一日積み上げるようにてめえで進んでいかないと。
おまんまを頂いてさ。
みんなそうやって日暮らしだ。
心の声けど…時々間違いが起こるのはなぜだろう?自分で積んだものを自分で崩したくなるのはなぜだろう?ま…いいか。
面倒くせえや。
ハハハ。
2015/12/08(火) 14:05〜14:50
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 ぼんくら2(7)[終]「鬼の正体」[解][字][再]
宮部みゆきの時代劇ミステリー「ぼんくら」シリーズ第2弾。個性豊かなレギュラー陣に加え、新たなキャラクターも続々登場。加えて本格ミステリーを楽しめる究極の時代劇。
詳細情報
番組内容
葵(小西真奈美)が殺された現場に漂っていたたばこの匂いから、真の下手人への手がかりを突き止めた弓之助(加部亜門)は、そのことを平四郎(岸谷五朗)に伝える。弓之助によると、これは過去にあった殺人事件の下手人と関係しており、同一犯だという。その頃、芋洗坂では、真の下手人がおはつをかどわかし、葵屋敷に立てこもるという事件が起きる。平四郎たちは、あらゆる人脈を総動員して、夜を徹して下手人の説得に望むが…。
出演者
【出演】岸谷五朗,奥貫薫,風間俊介,秋野太作,志賀廣太郎,小西真奈美,西尾まり,村川絵梨,黒川智花,螢雪次朗,大杉漣,松坂慶子,【語り】寺田農
原作・脚本
【原作】宮部みゆき,【脚本】尾西兼一
音楽
【音楽】沢田完
ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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