「NHK短歌」司会の剣幸です。
今日もご一緒に短歌を楽しんで下さい。
それでは早速ご紹介致します。
第一週の選者佐佐木幸綱さんです。
よろしくお願い致します。
佐佐木さん今日の一首は?大みそかの歌なんですね。
「極月」というのが12月の事でして夜空を羽織って新年を待つという大きく出た歌です。
ロマンチックです。
ありがとうございます。
それでは今日のゲストの方ご紹介致します。
生物学者の福岡伸一さんです。
ようこそお越し下さいました。
今年の春まで2年間アメリカでお過ごしになったそうですね。
アメリカのニューヨークにありますロックフェラー研究所という所におりました。
そこはかつて野口英世が一生懸命研究に邁進した場所で私も若い頃に研究修業しておりました。
佐佐木さんは福岡さんのいらっしゃるのを心待ちにしていたとお聞きしました。
「いのち」って題が歌う方も大変だったでしょうけども解釈も鑑賞も難しいんだと思うんですね。
今日福岡さんに来て頂いてどういうふうに読んで頂けるか楽しみにしてます。
短歌にも造詣の深い福岡さんなんですがアメリカで思いがけない短歌に出会ったそうですね。
ご紹介頂けますでしょうか?これは?俵さんは佐佐木先生の教え子でもおられるという事で私は「生物と無生物のあいだ」という本を書きましてですね生命とは一体何なのかというのを現代的な最先端の視点からもう一度問い直そうという本だったんですね。
これを俵さんがご自分の近い所に起こった死と重ね合わせながら読んで頂いたんだなと思って大変うれしく思いました。
後ほどお話たっぷり伺いたいと思います。
よろしくお願い致します。
それでは今週の入選歌ご紹介致します。
福岡さんこれはどうでしょうか?「恥じる」というところがキーワードになっているのかなと思いました。
生命っていうのはふだん自分の体は自分のもので自分でいかようにでもコントロールできると私たちは思っていますけれども実はそうではない一瞬が自分の意思を超えて生命が動く瞬間があってそういうものを感じると生命のすばらしさに跪くあるいは畏れる。
それを「恥じる」というふうな表現をされたのかなと思って感心して読みました。
すばらしい鑑賞をして頂きましたけどねむき出しの本能というかなふだんはそういう事意識しないものにふっと出会っちゃって何とも言えない気持ちなんだけどそれを「恥じる」というふうに言われたのはとてもすばらしいと思いました。
では次です。
僕は碁はあまり強くないですからね。
碁は生きるとかあるいは殺すとかね。
だから「いのちのやりとり」なんですか…。
何かちょっとそれまで緊張してずっと読み続けてたんだけど何となく勝ったなとか見通しがついたんじゃないですかね。
そこでカレーを頼んだというね。
人間の命じゃなくてもうちょっと遊びの中で軽い意味でうまく表現されてると思いますね。
では次です。
「確かめ合える」ですからお互いなんですね。
ある高齢者の方が仲がいい友達がおられてねご家族が遠くにおられるとかあまり交流がないという事でそういう友達同士の関係なんでしょうけれども非常に切実なんですよね。
内容はね。
でもそれを重々しくじゃなくてすっと軽く歌われてるところが持ち味かなと思いますね。
いかにも現代ですね。
スマホのメールで確かめるって。
では次です。
自由題で頂きました。
中学生でしょうか高校生かもしれませんけどね。
ほんとに命に満ちあふれて命がなくなるって事考えた事もないようなそういう少年たちに原爆でたくさんの方が亡くなったりつらい思いをされた。
その事を言ってふだんは意識していない命の事を石を投げるように投げかけたというね。
先生でいらっしゃるのかな?命って出てこないのにすごく命感じますよね。
では次です。
福岡さんこれはいかがでしょうか?前半と後半の対比が非常に鮮やかだなと感じました。
多分ご自分の事を歌われてるのかなと思います。
昔は空を泳ぐような自由な奔放な自分だったけれども今はこの3LKの小さな所に幸せを見いだしているというその情景が鮮やかなコントラストだなと思いました。
高層マンションに住んでおられるんじゃないかな?3LKが何十メートルという所にあるというそういう事なんだろうと思いますけどね。
このごろ何て言いますか高所恐怖じゃない子供ねそういうのが出てきたって言いますよね。
そういう感じが…現代の感じがうまく歌われてますね。
では次です。
これはいかがでしょうか?私は命とは何かって問われたらそれは動的平衡だっていうふうに答えてるんですね。
これはちょっと難しい言葉ですけれどもちょうど「方丈記」の冒頭みたいに常に命っていうのは絶え間なく流れ流れていて交換される中にあるという事で肉体の中に閉じ込められているというよりは環境との間で常にやり取りされていて昨日の私はもう今日の私じゃないっていうのが命の実相なわけですね。
それを巧みに夢うつつの中に命があるように詠まれている非常にうまいなと思いました。
すごいお話で個から解放された命の話なんだけどね。
やっぱり夢っていうのはちょっとそういう一瞬があるのかもしれませんね。
先祖と交流したり未来の子供たちと交流したりそういう感じなのかもしれませんね。
では次です。
これはよく分からないんですけれども絵を描いておられるのかな?漫画みたいなものを描いておられるのかなと思ってどうですか?ちょっとよく分かりません。
マジックっていうのは手品の方のマジックで何か円があってそれがこうなったりするのかなと私は思ったんですけど。
円がねマジックみたいなもんだという事なのかなと思って歪な円で何でもないものだったんだけど目と鼻と口をつけるとアニメみたいにすぐ動きだしそうになっちゃったというそういう事かなと思ってね命というのをちょっと独特な角度から捉えておられるなと思いました。
では次です。
福岡さんいかがでしょう?「耳の形」っていう表現がすばらしいなと思いました。
世界は人間が作りだした人工物が全て直線で囲まれていますけれども自然物である生命は柔らかな曲線で描かれてるわけですね。
多分胎児のエコーの写真か何かを見ておられるんですがそれが柔らかい豆のような曲線で囲まれているのを「耳」というふうに結び付けたというところに妙があると思います。
親子3人が登場してくるんですよねこの歌ね。
話題の中心に耳があって3人にみんなそれぞれみんなも耳持ってるわけですよね。
何か命の不思議を家族3人が確認し合ってる感じがとてもいいと思いました。
では九首目です。
自由題で頂きました。
歌としてはこれが一番短歌らしい歌かなと思いました。
九首の中でね。
逆に言うとある意味でクラシックな感じがするんですね。
いかにも静かな師走の夜の感じがとてもいいと思いますね。
赤ちゃんって一番生命のパワーを感じるものと静なるものと動なるものっていうのがちょっと対比が面白いなと思いましたね。
赤ちゃんの泣き声と「時が流れる」というのを重ねたところがさっきのお話なんかと重なるところがありますよね。
ありがとうございました。
以上入選九首でした。
それでは特選の発表です。
では三席をお願い致します。
山本初枝さんの作品です。
では二席お願いします。
星野さいくるさんの作です。
それでは一席をお願いします。
工藤吉生さんの作品です。
一席のポイントは?さっきのお話にあったように自分を全てコントロールできると思っているわけですけれども一番根源のところで自分の意思だとか思想だとかそういうものを超える何かっていうのがあってこれが先ほどの話にあるように個人じゃない個人を超えた命の流れなんだろうと思いますね。
この辺ちょっとねふだんそういう事に気が付かない間に触れてるその恥ずかしさだと思いますね。
すごいいいと思います。
以上入選作品のご紹介でした。
それでは続いて入選への道。
今回惜しかった一首の添削です。
作品はこちらです。
どなたかの形見を大事に自分も使う。
それが優しい感じがしたとそういう事でとてもいいところを捉えておられると思いました。
問題点は2つで「仕立てし」の「し」が過去の助動詞でやっぱり現在形がいいだろうと思います。
もう一つ「身にやさしかり」とありますけれどもチュニックは身につけますのでわざわざ「身に」をおっしゃらなくてもいいだろう。
その2点を踏まえてこういうふうに変えてみました。
これで先ほど申し上げた2点が直ってると思います。
ありがとうございました。
皆さんどうぞ参考になさって下さい。
では投稿のご案内です。
詳細はこちら。
12月号にはカレンダーも付いております。
1月は佐佐木さんの歌が登場します。
続いては選者佐佐木幸綱さんのお話です。
今日は伝統詩としての短歌という事で斎藤茂吉についてお話をしたいと思います。
斎藤茂吉が近代短歌の中で果たした役割さまざまにあるんですけれど非常に大きいのは古典和歌をきちっと踏まえて現代にそれを生かそうというそういう仕事をしたカテゴリーでいいんではないかと思います。
大正時代も一時期口語短歌が非常にはやったんですね。
用語の面でも古典から離れるというそういう傾向がかなりあったんですけどそこで斎藤茂吉は断固ですね古語を使うべきだ文語を使うべきだという事を主張致しました。
古典派とか何とか言われて軽蔑されるんですけどね断固それを貫きました。
先ほどの歌を見て下さい。
「たまきはる」というのは「命」にかかる枕ことばですね。
「とほりたり」とか「命なりけり」とか完全な文語が使われています。
この歌はお分かりと思いますけれども「命なりけり」というのが古典を踏まえているんですね。
西行の歌で有名な皆さんご存じの歌があります。
静岡県にある佐夜の中山を越える時の歌ですけどね「命なりけり」というのをそのまま引用してきているんですね。
これを斎藤茂吉は自分で書いてますけれども第五句ですかね最後に持ってきたというのは非常に工夫なんだってな事を一生懸命言っていますけどそういうのを引用しながら古典の事をさまざまに勘案しながらそれを現代に生かす。
斎藤茂吉は「調べ」という用語を使ってますけどね音楽的な要素で古典のものをきちっと踏まえるべきだと主張しています。
大きな仕事だったと思いますね。
ありがとうございます。
今日はゲストに生物学者の福岡伸一さんをお迎えしております。
福岡さんから佐佐木さんに是非お聞きしたいという質問がおありだそうです。
何でしょうか?私は生物学者になる前は虫が大好きな昆虫少年だったんですが実はですね「万葉集」に関して大きな疑問があるんです。
それはこちらなんです。
膨大な「万葉集」に一つも蝶を歌った句がないというんですがほんとなんでしょうか?何か試験受けてるみたいですけど。
本当に「万葉集」の歌には一首も蝶の出てくる歌がないんですね。
不思議なんですけどね。
「万葉集」の歌には前に序がついてて日本語の序もありますけれども漢文の序がいくつかついてます。
その中に蝶が出てきます。
「万葉集」に実は2か所出てくるんですね。
しかしおっしゃるとおり短歌には出てこないんですね。
それは不思議ですよね。
蝶々が当時いなかったとは思えないし豊かな日本の自然の中にたくさん蝶が飛んでたはずなんですけどそれを多分上代の方たちは蝶を蝶と見ずにですね何かその人間の化身だとか死者の魂みたいなものとして違う形で詠んだのかなと思ってたんですけれども。
漢詩には出てきますしね平安朝時代になると短歌にもいっぱい出てくるようになるんですね。
いくつか不思議があって猫も出てこないんです。
犬はこの間ちょっとやったんですけど1か所か2か所出てきますけど。
不思議ですね。
その元昆虫少年の福岡さんが「万葉集」の中で一番お好きな一首をお願い致します。
これは?何か思いが遂げられない事があってもうこんな事ならいっそ桑子になってしまいたいというある種ちょっとキュートな歌でもあるんですけれども桑子の中の命にも自分の命を託せる。
命の連続っていうか移り変わりを詠んでいる歌でそういう自然観が当時あったんだなと思って鑑賞させて頂いております。
これね失恋の歌なんですけどね桑子とあるんで蚕の事でしょうね。
作者は女の人女の立場で歌ってるのかなと思いますけどね。
女の人がいて失恋しちゃう。
そしていっその事自分が働いてる絹作ってるところ…そういう事かなと思いますけどどうでしょうかね?そうかもしれないですね。
そして福岡さんには今日はこちらをお持ち頂きました。
お母様の和子さんの歌集です。
「この桜まぶたに残さん」。
お母様は歌人でいらっしゃったんですか?素人の趣味として短歌を作って新聞や雑誌に投稿していたみたいですね。
もう10年ほど前に亡くなってしまってそのあと残されてた歌を編んだものがこの本なんですけれども私も当時はよく知らなかったんですがいろんな事を感じてたんだなと今になって思ってます。
では一首ご紹介頂けますか?はい。
これは?これは私が研究していた大学にですねある時ちょっと母を案内して土曜日か日曜日か誰もいなかった時でひっそりとした研究室に私もひっそりといつも研究をしているわけですけれども動物室で見た実験動物のラットの様子を詠んだ歌でこんな歌を知らないうちに詠んでたとは知らなかったんですけれども母の気持ちを感じる事ができます。
佐佐木さん。
とても上手な歌だと思いますね。
三句以下「ひっそりとラット水飲む赤き口開け」これはとても短歌としては上手なところですね。
印象が非常に鮮明でいい歌だと思います。
ではもう一首お願いできますでしょうか?これは私はもう親元を離れてですね遠くボストンで一生懸命研究していた一時期があるんですね。
当時はメールもネットもありませんから本当に音信不通で便りがないのはよい知らせみたいな気持ちで研究をしていたんですけれども母は母なりに遠くで一生懸命やってる私の事を思ってですねちょうど風が吹いていた頃でしょうかボストンも非常に爽やかな風が吹き渡る一時期がありましてそういう事をつなげてこういう風が向こうでも吹いてるのかなというふうに心配してくれた歌があったんだなと今にして何となくうれしく思います。
うちの母も子供の歌作ってたんですけど本当に子供の時の歌はあるんですよね僕のね。
大人になってからないですね。
残念です。
佐佐木さんは研究室にお呼びにならなかったんですお母さんの事。
1回も来た事ないですね。
私野口英世さんのお母様のシカさんの「早く来て下され」っていうあの手紙をちょっと思い浮かべました。
あの方は文字もご存じなかったですけどでもこのお母様の中には早く帰ってきてっていう気持ちがすごく詰まってるような気が致しました。
ご自身のエッセーにもさまざまな短歌登場しますが改めて短歌の魅力についてお聞かせ下さい。
私自身は短歌は作れないんですけれども文字を書く片隅にいる者としてはですねやっぱり限られたスペースの中に限られた文字で日本語を紡ぐっていう事がいかに言葉をそいでいかなきゃいけないかという事を痛感してるんですね。
無駄な言葉あるいは同じ事を言ってるところを省くというふうな非常に削っていくっていう事が日本語を美しくしていく本質だというのを痛感してます。
そういう意味では短歌というこの文学形式が最も先鋭的に削るっていう事を見事に成し遂げてる文学だなというふうに感じております。
佐佐木さんやっぱり削るもんですか?短歌は器じゃないというね。
五七五七七の器じゃないという意見もありますよね。
どうしても器の中に収めなきゃと初心者は思いがちです。
むしろそいでいく。
そういうシステムなんだというね。
木の中から何か言葉を掘り出してくるっていうかそういう気が致します。
なかなか難しいです初心者には。
たくさん書いてみて言葉を出してみて削っていくという…。
そういう事もありますよね。
そろそろお時間となりました。
今日はゲストに福岡伸一さんをお迎え致しました。
ありがとうございます。
ありがとうございました。
佐佐木さん次回もよろしくお願い致します。
ここで一つお知らせです。
2015/12/08(火) 15:00〜15:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「いのち」[字]
選者は佐佐木幸綱さん。ゲストは生物学者の福岡伸一さん。題は「いのち」。歌人だった母の影響で短歌に親しんできたという福岡さん。短歌でいのちをどう詠むか共に考える。
詳細情報
番組内容
選者は佐佐木幸綱さん。ゲストは生物学者の福岡伸一さん。題は「いのち」。歌人だった母の影響で短歌に親しんできたという福岡さん。短歌でいのちをどう詠むか共に考える。【司会】剣幸
出演者
【ゲスト】青山学院大学教授…福岡伸一,【出演】佐佐木幸綱,【司会】剣幸
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
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