忘れまいこの反省と再起の決意。
1兆円以上が投じられた巨大国家プロジェクトが大きな岐路に立たされています。
エネルギー資源の少ない日本で、夢の原子炉とされてきた高速増殖炉・もんじゅ。
先月、原子力規制委員会は今の組織は、もんじゅを安全に運転する資質を有していないとして電源主体を変えるよう勧告に踏み切りました。
ちょうど、20年前ナトリウム漏れ事故を起こしたもんじゅ。
その後も、トラブルや保安規定違反などを繰り返しほとんど運転できていません。
なぜ、重大な違反が相次いだのか。
取材から見えてきたのは運転再開を急ぐあまり安全を最優先にできなかった組織の体質でした。
もんじゅへの異例の勧告は日本の原子力政策に何を突きつけているのか考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
今、電力会社から原発の再稼働に向けた申請が次々に出されています。
国が想定する2030年のエネルギーミックス・電源構成は電力の20%余りを原発で賄うというものです。
原発を動かすと出てくるのが使用済核燃料。
しかし、各地の原発の保管スペースはすでに70%埋まっていまして再稼働が進み、行き場がなければ数年で保管場所がなくなると見られています。
使用済み核燃料が原発の大きな問題とされている中で国が昭和30年代から目指してきたのが、いわゆる夢のエネルギーの活用です。
その要が、高速増殖炉です。
原発から出てくる使用済み核燃料を再処理しプルトニウムとウランを取り出し高速増殖炉で燃やすと使った以上の燃料を生み出すことができることから夢の原子炉とされてきたのです。
ところが、研究段階の高速増殖炉もんじゅはトラブル続き。
平成6年に試験運転が開始されたものの1年8か月後にナトリウム漏れ事故を起こし運転が長期間止まりました。
15年後、ようやく運転を再開したものの、今度は僅か3か月で重大なトラブルが発生し再び運転停止に追い込まれます。
組織体質が問われる点検漏れや点検ミスも相次いできたもんじゅ。
その運営主体は日本原子力研究開発機構です。
原子力規制委員会は先月今の組織を失格とし、事実上の退場勧告を突きつけました。
そして、文部科学省に対して半年以内に新たな運営主体を見つけることができなければもんじゅの在り方を抜本的に見直すよう求めたのです。
仮に運営主体が見つからず廃炉となれば核燃料サイクルの輪が途切れ原子力政策に大きな影響を及ぼすことになります。
もんじゅの運営主体になぜ、失格のらく印が押されたのか取材しました。
福井県敦賀市にある高速増殖炉・もんじゅ。
もんじゅの安全を管理するプラント保全部です。
まずプラント状態ですが…。
大量の点検漏れの発覚後もんじゅ全体の半数に当たる160人を配置して設備の点検に当たっています。
朝礼で、必ず読み上げるスローガンがあります。
忘れまいこの反省と再起の決意。
現在、もんじゅは運転を停止していますが原子炉を冷却するためのナトリウムが配管に流れています。
ナトリウムは水や空気に触れると激しく燃えるため取り扱いの難しい物質です。
そのため、もんじゅにはより厳格な安全管理が必要とされています。
もんじゅで、なぜ重大な違反が繰り返されてきたのか。
背景には、新たに作った点検計画の不備がありました。
平成21年、もんじゅではおよそ5万件の機器の点検方法や頻度を定めました。
しかし、3年後1万件近くの機器で点検漏れが発覚します。
原因はトラブルが起きたときの対処法を決めていなかったことでした。
点検漏れが起きた一つ非常用ディーゼル発電機。
電源が失われた際に原子炉を冷やすための極めて重要な機械です。
非常用発電機は3つあり16か月に1度点検しなくてはなりません。
その1つの発電機でトラブルが発生。
計画どおり点検ができなくなる事態が起きました。
そのとき現場は安全性の根拠がないまま後で点検すればよいと自分たちで判断。
重要な機器の点検が8か月も先送りされたのです。
さらにそれをチェックするはずの部署も機能不全。
点検漏れの検証を行った担当者は長期の運転停止で知識も経験も不足していたことが原因だったとしています。
大量の点検漏れの解消に追われていた機構。
専門のチームを作って点検計画の抜本的な改善に乗り出したのは、去年6月。
問題発覚からおよそ1年半がたっていました。
しかし、その後も……など安全に関わる新たな問題が相次ぎました。
先月、機構は自分たちで改善策を進めたいと説明しました。
しかし、規制委員会は…。
結局、規制委員会はこれ以上、機構にもんじゅの運転を任せられないとして退場ともいえる勧告を突きつけたのです。
もんじゅのトップ青砥紀身所長です。
なぜ組織の体質を変えることができなかったのか、問いました。
関係者への取材を進めていくと国家プロジェクトとして始まったもんじゅを支える体制のほころびも見えてきました。
5年前まで所長を務めていた向和夫さんです。
もんじゅの管理をするうえで欠かせない電力会社からの協力が得られにくくなっているといいます。
さらに、ほかの機構関係者への取材からも人材を巡る問題が浮き彫りになりました。
背景には高速増殖炉の計画の実用化が見通せなくなったことがあると向さんは言います。
当初の実用化の目標は1980年代。
その後2050年代にまで延期。
今では、その時期すら示されなくなりました。
規制委員会の勧告にも外部支援を受けるなどの対策も功を奏していないと官民一体のほころびが指摘されています。
今夜のゲストは、原子力工学の世界にお詳しい、多摩大学大学院教授、田坂広志さん。
そして、原発の取材を続けています、福井放送局の内山デスクです。
まず田坂さん、原子力規制委員会が機構に、事実上の退場勧告を出しました。
この意味を、どのように受け止めていらっしゃいますか?
そうですね、これは事業者としては非常に厳しい勧告を受けた形になってますね。
それはまあ、本当に大変なお立場に立たれているわけですけれども、機構は。
ただですね、原子力規制委員会のやっていることというのは、世界の原子力規制のある意味では、原則にのっとっているわけですね。
つまりどういうことかというと、原子力規制委員会は、国民の命と安全、健康の観点からのみ、判断をする、事業者の都合とか事情を考えることはない、経済性についても考えることはない、この厳しい立場を貫くのが規制委員会ですね。
その意味では、この規制委員会、今回、筋を通されたと思うんです。
また、あえて申し上げれば、福島原発事故から5年近くなりますけれども、原発事故で失われた国民からの信頼、原子力行政と原子力規制に対する信頼を回復する、それが今の規制委員会の一つの重要なミッションですので、その意味では、ここは筋を通された判断かなと思いますが。
極めて高度な安全管理が求められる高速増殖炉なんですけども、安心して運営を任されないというふうに失格のらく印が押されました。
原子力工学のご専門家としまして、何が一番問題だったというふうに見ていらっしゃいますか?
そうですね、例えば1万点の点検漏れというのがよく言われます。
ある意味では現場の感覚としては、その点検するべき対象も、それほど重要な機器だけではないわけですから、これぐらいはまあいいだろうと思われた部分はあったと思うんです。
ただですね、高速増殖炉というのは、ナトリウム使ってますから、ある意味では、非常に危険度の高い施設ですね。
こういう現場で、これぐらいは大丈夫だろうという文化があると、必ず重要な機器についても見落としをやってしまうんですね。
これは、工場に勤めてらっしゃるような方から見れば、常識なんですけど、そのあたりは、やっぱり1万件という数字の問題よりも、やはり見落としがあるという体制が、規制委員会から見れば、安全管理の文化、体制ができていないという判断になったんだろうと思うんですね。
内山さん、機構は、改善は自分たちでできる、やりたかったという思いがあるかと思うんですけども、機構は、自分自身で、何が一番問題だったというふうに見ていますか?
もんじゅの青砥所長が甘かったと述べましたけれども、取材をしてみまして、もんじゅは研究用の原子炉なのだから、手続きのミスなど、少々のことはしかたがないじゃないかと、そういう空気があったのは事実です。
点検漏れの発端となりました点検計画を、実際に運転して、実績を積み重ねながら作っていけばいいと考えていましたが、規制委員会はそれを許しませんでした。
福島第一原発の事故のあと、原発の安全への考え方は大きく変わりました。
そうした安全規制の変化に、組織がついていけなかったということだと思います。
ただ、今のリポートを見ますと、オールジャパンで挑んでいたはずなのに、いつのまにか、非常に人材の面で、ぜい弱、なんて言うんでしょうか、弱い体質になっていた。
これは話が違っているという思いは機構にあるんでしょうか。
機構側は、できれば組織をマネジメントできるような、優秀な人材が欲しいと、電力会社に求めていました。
しかし、電力会社は、足元の再稼働に向けた安全対策で精いっぱいです。
先行きの見えないもんじゅに人材を出す余裕がないのは事実だと思います。
今回の勧告は、もんじゅの現場だけでなく、もんじゅをオールジャパンで支えるという体制がないのに、このまま続けてよいのかということを問うたということだと思います。
今ね、オールジャパンということばが出たので、あえて申し上げますが、このことばの危うさもあるんですね。
つまりみんなの責任だという組織でよく起こるのが、みんなの無責任ですね。
つまり誰かがやってくれるだろう、誰に最後の責任があるのかは分からない。
こういう体制の問題があったということも、一つの事実だと思うんですね。
内山デスクでした。
さて、お伝えしておりますように、今回の勧告は、核燃料サイクルに大きな影響を及ぼすものと見られています。
今後、どうしていけばいいのか、専門家に聞きました。
法政大学客員教授の宮野廣さん。
文部科学省の委員としてもんじゅの内部改革にも助言を行ってきました。
宮野さんは、高速増殖炉による核燃料サイクルは今後も追求していくべきだと考えています。
資源の少ない日本にとって核燃料となるプルトニウムを消費した以上に生み出すことができ重要だと考えているからです。
一方で宮野さんが懸念するのは今のまま研究を続けた場合に新たにかかるコストです。
原発の規制基準は福島の原発事故後地震や津波への対策などをより厳しく定めています。
もんじゅも、対策にはばく大なコストとさらなる年月がかかることが予想されています。
宮野さんは巨額の費用を必要とする核燃料サイクルを継続するためには国民の理解が不可欠だと考えています。
今回の勧告をきっかけに核燃料サイクルそのものを見直す必要があると指摘する専門家もいます。
長崎大学教授の鈴木達治郎さんです。
かつて、国の原子力委員会の委員を務めていました。
昭和42年の国の計画では高速増殖炉が実現されることが核燃料サイクルの前提となっていました。
まだ研究途上にもかかわらず計画の初期から実用化ありきとしてきたことに問題があったと鈴木さんは指摘します。
しかし、仮に核燃料サイクルをやめる場合使用済み核燃料の行き先をどうするのかという課題を克服しなければなりません。
現在、全国の原発などに貯蔵されている使用済み核燃料は1万7000トン余りに上ります。
先週開かれた、もんじゅの廃炉を求める市民団体の集会。
鈴木さんは、核燃料サイクルそのものの在り方を国民の間で議論すべきと訴えました。
田坂さん、勧告を受け、文部科学省は半年をメドに、新たに運営主体を見つけなければならないと。
見つかりますか?
これはね、なかなか厳しい宿題を頂いたと思うんですね。
やはり機構としてもそれほどいいかげんにやってきたわけではない。
文科省もそうですね。
それなりにベストを尽くしてきて、この勧告ですから。
機構に変わる技術力、そして人員、これを持っている組織がこの日本という国にあるのかと聞かれれば、これを見つけだすのはなかなか難しい。
半年で作るということも、もう、ほとんど不可能ですね。
これはかなり厳しい宿題を与えられたなという印象ですが。
この夢の原子炉というのは、もう昭和30年代から検討が始まってきたもので、事業費は1兆円注ぎ込まれてきた。
なかなか進展がないのに続いてきた、なぜなんですか?
1つは、大義名分のように語られる資源消費国の日本において、核燃料サイクルは、核エネルギーの資源を有効活用できる。
もちろんこれはそのとおりなんですけども、むしろ現実には、この政策、変えようと思ってなかなか変えられない、がんじがらめの構造が生まれてしまっているんですね。
1つはですね、いわゆる余剰プルトニウムというもので、再処理をやるとプルトニウムがたくさん生まれるわけですね。
これは実は核兵器の原料にもなる。
これは日本では47トンもう、保有してしまっている。
核兵器に換算すると数千発。
これは海外から見れば、日本は間違ってもこれを核兵器に転用することないですねと聞かれている。
でも、これに対する答えはいや、決してそれはありません。
高速増殖炉で燃やしていきますので、大丈夫ですと、言い続けてきているわけですね。
その意味で、この核燃料サイクル政策が壁に突き当たると、この問題が、一挙に浮上してくる。
もう一つが先ほどビデオにもあった使用済み燃料ですね。
これ、今は再処理をやるという前提で青森県に貯蔵していただいているわけですけれども、この核燃料サイクル全体がおかしくなると、再処理もじゃあ、やる必要がないんじゃないか。
だとしたら、青森がなぜ、この使用済み燃料を受け入れるんだという議論が出てきてしまう。
原発サイドの貯蔵量は満杯に達しつつありますから、この問題が大問題になる。
3番目の問題があるとすれば、もう事業費1兆円、再処理だけでも、2兆2000億使ってきたこの核燃料サイクル、引くに引けないという段階に入っていますね。
いろんなしがらみがあるということですけど、しかし、今回の勧告の衝撃というのは、もし、仮に新たな運営主体を見つけることができなければ、この核燃料サイクルは、壁に突き当たることになるわけですね。
そうなりますと、高速増殖炉のプランが動かなくなると、今後、原子力発電所というのは動かせるのですか。
これは厳密に申し上げると、核燃料サイクル政策が壁に突き当たることが、そのまま原子力政策が壁に突き当たるわけではないんですね。
ないんですか?
というのは、世界全体を見渡せば、核燃料サイクルを採用していなくとも、原子力を利用している国はたくさんあるわけですね。
いわゆる使用済み燃料を直接処分するという、ワンス・スルーという方式を取ってる国はたくさんあるわけです。
再処理せずにそのまま処理する?
再処理せずにそのまま捨ててしまう、この…を選択肢に入れたときに日本ではこれから原子力を仮に利用するにしてもやめていくにしても、むしろいろんな選択肢が増えていくんですね。
したがって、現時点で考えるべきことは、核燃料サイクルだけが唯一の政策的な選択肢ではない、むしろワンス・スルーも含めたそして、使用済み燃料の調査保存も含めた政策も視野に入れるならば、まだこれから先のいろんな政策が柔軟に組んでいけるんですね。
これは原発を維持していくにしても、やめていくにしても、どちらにしても、大切なことだと思いますね。
プルトニウムの問題が残りませんか?
プルトニウムの問題は、これはプルサーマルと呼ばれる軽水炉でゆっくり燃やしていく。
もしくは国際的な核査察のもとにしっかり置いて、わが国は核兵器に使うことはありませんと、政策転換がありだと思います。
その上であえて申し上げれば、この政策転換は、やはり行政機構ではできない。
これはむしろ政治主導で、やはり一つの政権が大胆な判断をもって考えて見るべき場面になっているんだろうと思うんですね。
政治の判断になってくるだろうと思います。
そうしますと、これから半年間、事業主体を模索しつつ、今後の日本の原子力政策の根幹の部分をこれからどうしていくかということも問われてくる?
そうですね。
まさにその判断が、恐らく半年ぐらいたった段階で問われるようになる。
2015/12/08(火) 19:30〜19:58
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“夢の原子炉”はどこへ〜もんじゅ“失格”勧告の波紋〜」[字]
高速増殖炉もんじゅが岐路に立たされている。原子力規制委員会はその運営組織を代えるよう求める異例の勧告を出した。その背景を探り、原子力政策の課題を見つめる。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】多摩大学大学院教授…田坂広志,NHK福井放送局記者…内山太介,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】多摩大学大学院教授…田坂広志,NHK福井放送局記者…内山太介,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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