NHKスペシャル 調査報告 介護危機「急増“無届け介護ハウス”」 2015.12.09


6年前に廃業したラブホテル。
内装は当時のままですが今は別の形で使われています。
(ノック)
(取材者)失礼します。
部屋の中にいたのは認知症の高齢者でした。
歯磨いてね口腔ケアして下さい。
この建物に18人の高齢者が介護を受けながら暮らしていました。
今全国でこうした無届けの介護施設いわゆる無届け介護ハウスが急増しています。
14年前に廃業した洋服の工場。
その一部を改修して15人の高齢者が暮らしています。
料亭の座敷に高齢者が暮らす施設もありました。
法律で定められた届け出をしないと罰則がありますが今まで適用された事はないといいます。
高齢者の行き場が無くなりかねないからです。
無届け介護ハウスはどこまで広がっているのか。
今回NHKは独自に調査を行いました。
その数は確認できただけでも全国で1,941に上る事が初めて明らかになりました。
取材を進めると年金を10万円以上受け取る中間層の高齢者でさえ無届けの施設しか行き場がない実態も浮かび上がってきました。
無届け介護ハウスでは行政の指導が行き届かず高齢者の命が脅かされる事態も起きています。
今年3月名古屋市の施設で火災が発生。
法律で義務づけられたスプリンクラーはなく2人が亡くなりました。
更に東京の施設では高齢者がベッドに拘束されるなど虐待も起きていました。
周囲に気付かれないまま問題が放置されていたのです。
超高齢社会を迎えた日本。
介護が必要な高齢者は614万人に上ります。
今介護の現場で何が起きているのか実態に迫ります。
全国で増え続ける無届け介護ハウス。
今回名古屋市の住宅街にある施設を4か月にわたり取材しました。
無届け介護ハウスとしてこのごく普通の一軒家が使われているといいます。
こんにちは。
(取材者)よろしくお願いします。
経営者の岩本智秀さんです。
こうした施設がなければ高齢者の行き場がない実情を知ってほしいと取材に応じました。
空き家だった一軒家を改築する事なくそのまま使っています。
1階の和室にはベッドが4つ並んでいます。
有料老人ホームに対する国の指針では個室にしなければなりませんがここでは相部屋です。
2階にはベッドが6つ。
もともと4人家族が住んでいたこの家に介護が必要な高齢者10人が暮らしています。
老人ホームに義務づけられているスプリンクラーはなく消火器しかありません。
月々の利用料は食費も込みで10万円ほど。
一般の有料老人ホームの平均より15万円安くなっています。
利用料を安くできるのは介護保険から支払われる訪問介護の報酬も得ているからです。
1人につき毎月20万円から30万円ほどが自治体から支払われます。
通常の訪問介護はヘルパーが利用者の家を訪ね介護サービスを提供する事で報酬を受け取ります。
一方無届け介護ハウスの多くは高齢者を同じ建物に住まわせそこに訪問介護をするという形をとる事で報酬を得ているのです。
施設を始めて4年常に満員です。
失礼しま〜す。
すいませ〜ん。
ママ失礼します。
お昼ごはんです。
歩く事が難しくなり2年前に入居しました。
夫は国家公務員。
転勤で全国を転々とする暮らしを送ってきました。
老後は月24万円の年金で2人で十分暮らしていけると考えていました。
よいしょよいしょ。
しかし思い描いていたとおりにはなりませんでした。
西村さんどうぞ。
夫が認知症を発症。
更にがんを患い入院したのです。
月8万円の医療費がかかるようになりました。
聞こえる?おとうさんおとうさん。
目開いたら?ねえ。
退院したら2人で公的な介護施設特別養護老人ホームに入りたいと考えましたが5年待ちだと告げられました。
自宅で暮らす事が難しくなった人の受け皿となる特別養護老人ホーム。
公的な施設のため利用料は年金額などに応じておよそ3万円から14万円です。
ただ入居待ちは全国でおよそ52万人に上っています。
一方民間の有料老人ホーム。
利用料は月に平均25万円かかります。
一般的な年金の平均額を大きく上回るため入れない人が少なくありません。
西村さんの場合年金から夫の医療費を差し引くと残るのは月に16万円。
結局入れたのはこの無届けの施設だけでした。
無届け介護ハウスは自宅での介護に限界を感じた人たちにとっても必要な存在となっています。
3年前母親を入居させた…おばあちゃん。
うん?何だって?「この人は誰?」って言ったんじゃないの?母親は10年ほど前から認知症の症状が出始めました。
家での介護が難しくなり施設を探しましたが受け入れてくれる所はほかにありませんでした。
ただいま。
働いている中垣さんに代わって母親の介護は妻美幸さんが担ってきました。
中垣さんは自宅で母親を見ようとしましたが当時の母親の状態では使える介護保険のサービスは週に3日ほど。
24時間目を離せない状態が何年も続き自宅での介護は諦めざるをえませんでした。
(一同)3210!15年前に始まった介護保険制度。
社会全体で高齢者の介護を支える事が目的でした。
おはようございます。
国民は保険料を支払う代わりに必要な介護サービスを受け安心して老後を送れるはずでした。
サービスの柱は在宅介護と施設での介護です。
国は高齢者が自宅で暮らし続けられるよう在宅での介護を重視。
整備に多額の費用がかかる施設の数は抑えてきました。
しかし今介護が必要な高齢者が想定外に急増。
核家族化や単身化も進み在宅の介護サービスだけでは自宅に暮らし続けられない高齢者が増えています。
一方で施設の数は抑えられてきたため多くの高齢者が行き場を失う事になったのです。
無届け介護ハウスを経営する岩本さんのもとには高齢者を受け入れてほしいという相談が絶えません。
今特に増えているのが病院からの依頼です。
失礼します。
背景にあるのが入院期間を短くして医療費の伸びを抑制しようとする国の政策です。
病院は患者の入院期間が短いほど多くの診療報酬を得られる仕組みになっています。
そのため転院や自宅施設への退院を促す事で入院期間を短くしてきました。
更に去年からは高齢者のリハビリなどに当たる病院が患者の7割以上を自宅などに退院させれば診療報酬が増えるようになったのです。
経営が厳しい中この病院では専門のスタッフを5人置いて患者の退院先を確保しようとしています。
3週間ぐらいになるかねここ来て。
医療センターから。
この日は90代の男性の退院先として15万円以内で入れる施設を探していました。
済衆館病院の手島と申します。
はい失礼します。
そのかわり…両方とも今空いてる?結局退院先の候補として見つかったのは無届けの施設でした。
医療費を抑制しようという国の政策が結果的に無届け介護ハウスに入居する高齢者を増やす一因となっているのです。
無届け介護ハウスはどこまで広がっているのか。
今回NHKは介護の相談窓口となる地域包括支援センターに全国的な調査を行いました。
その結果全国の無届け介護ハウスの数は確認できただけで1,941に上る事が初めて明らかになりました。
無届けの施設が既に日本の介護の一翼を担っているのです。
アンケートには高齢者の受け入れ先がないという危機感がつづられていました。
「年金だけで入れる施設は圧倒的に少ない」。
「誰でも要介護となった途端暮らす場に困るというのが実感です」。
高齢者の受け皿をどう確保するのか。
国は今対策を打ち出しています。
安倍総理大臣は「介護離職ゼロ」を掲げそのために高齢者の施設も増やしていく方針を示しました。
特別養護老人ホームなどの整備を進め2020年代初めまでに50万人分以上を新たに確保したいとしています。
しかし施設を増やすだけでは受け皿として機能しない事が分かってきました。
岐阜県にあるベッド90床の特別養護老人ホームです。
210人が入居を待つこの施設。
去年自治体から7,600万円の補助金を受け取りベッドを増やしましたが10床が空いたままになっています。
この施設では4月以降3人の介護職員が退職。
長時間労働などに耐えかねて退職する人が相次ぎ高齢者を受け入れられない状態が続いているのです。
およそ52万人が入居を待つ特別養護老人ホーム。
しかし今回の取材で全国の半分以上の都道府県で人手不足によりベッドが空いている施設がある事が分かりました。
国は介護の担い手不足を解消しようとしていますが現実との間には大きな隔たりがあります。
急増する無届け介護ハウス。
地域包括支援センターへのアンケート調査では問題点を指摘する声も相次ぎました。
「安全性や居住環境などに不安がある」。
「行政の目が届かない」などの訴えが数多く寄せられました。
今年3月もともと建設会社の社員寮だった無届けの施設で火災が起き高齢者2人が亡くなりました。
法律で義務づけられたスプリンクラーはついていませんでした。
届け出がされていなかったため行政の目が届かず問題が放置されていたのです。
なぜ無届け介護ハウスの実態を把握する事は難しいのか。
私たちはアンケート調査で寄せられた情報を基にある施設に向かいました。
「施錠された柵があるため高齢者が外に出られない」。
「中で何が行われているのか非常に懸念しています」。
あっあれですかね。
その施設は新潟市の住宅街にありました。
40年近く前に建てられた学生寮に今十数人の高齢者が暮らしていると見られます。
施設は4年ほど前から運営されているといいます。
施設から職員と見られる女性が出てきました。
鍵を掛け施設を後にしました。
玄関の扉は外から二重に鍵が掛けられていました。
更に出入り口に鍵のついた柵もありました。
夜間高齢者は放置され火災が発生しても避難できないおそれがあります。
こうした行為は虐待にあたる可能性があるとして地域包括支援センターは自治体に対応を求めたといいます。
報告を受けた新潟市。
これまで老人ホームとして届け出を受けた施設に対しては詳細な資料を基に定期的に立ち入り検査を行ってきました。
市の検討会議では「届け出がないため対応が難しい」という意見が相次ぎました。
市は「届け出がない限り行政として動きにくい」と言うのです。
私たちが取材を始めてから2か月たった先月末施設は届け出を提出しました。
取材に対し夜間の施錠や柵について認めた上で今後改善していきたいとしています。
実態が把握しにくい無届け介護ハウス。
不適切な運営が放置されるおそれがある事も分かってきました。
川崎市の住宅街です。
これが問題の借家。
この空き家だった一軒家に今年7月ごろ複数の見慣れない高齢者がいる事に住民たちが気付きました。
この地区の住宅は条例で住居としての利用しか認められていません。
住民たちは借り主から家族で住むと説明されていましたが複数の高齢者を目にして疑問を感じたといいます。
住民たちは条例違反にあたるとして住宅の使用をやめるよう伝えました。
すると今年8月深夜に高齢者が連れ出される姿が目撃されたといいます。
取材を進めると一軒家に高齢者を住まわせていた人物が近所のマンションに移っている事が分かりました。
見知らぬ高齢者と男性が出入りしているとの情報がマンションの管理組合に寄せられたのです。
住民たちは複数の高齢者が既にこの部屋にいる事を確認しました。
先月上旬。
住民たちは部屋の借り主に連絡を取り話し合いの場を持つ事にしました。
来られました。
こんばんは。
本人の了解を得て撮影を続けました。
借り主の男性はただ高齢者を住まわせているだけだと主張。
更に利益は得ていないと言います。
借り主の男性は報酬は受け取っていないとの主張を繰り返しました。
取材を進めるとこの男性は高齢者たちを連れて各地を転々としてきた事が分かりました。
山梨県上野原市では介護報酬の過剰請求が発覚。
男性が返還を求められている事が明らかになりました。
この一軒家に複数の高齢者が入居していました。
上野原市によると2年にわたって介護報酬が実態より多く請求されていたといいます。
その額は315万円余り。
返還の期限は半年でしたが2年以上たった今も返還されていません。
私たちは男性の下で働いていた複数の介護関係者に取材しました。
そのうちの一人が内情を知ってほしいと証言しました。
これは高齢者の家族がサインした施設側の文書です。
「生活費としてひとつき15万円」。
更に「介護保険を利用する一切の権限を委任する」と書かれていました。
「万一死亡した場合も責任を免じる」という一文も盛り込まれていました。
関係者の女性は介護の態勢が不十分だったと言います。
私たちは高齢者を住まわせていた男性のもとを訪ねました。
失礼します。
すみません。
まず自治体から返還を求められている315万円について問いました。
男性は自治体から催促がないため返還していないと説明。
更に身元引受人として高齢者に住居を提供し金銭の管理をしているだけだと繰り返し主張しました。
男性が住まわせた高齢者の状況や請求された介護報酬について川崎市も調査を始めています。
閉ざされた部屋の中で何が行われているのか見えにくい。
無届け介護ハウスの危うさも浮かび上がってきました。
10人の高齢者が暮らす名古屋市の無届け介護ハウスです。
はい分かりました。
経営者の岩本智秀さんにこの日市の担当者から電話がかかってきました。
名古屋市から届け出を出すよう促されたのです。
入居者の数を減らし個室にする事も求められました。
この指針を満たそうとすれば安い料金で高齢者を受け入れる事はできなくなります。
この施設では設備面は不十分な一方で介護内容を充実させようとしてきました。
介護サービスは24時間体制です。
電気消しますよ。
しかし介護を手厚くしても行政の指導に従わなければ事業を続けられなくなると岩本さんは懸念していました。
10月下旬。
岩本さんは名古屋市から呼び出しを受け届け出について直接話し合う事になりました。
国はこの春全国の自治体に通知を出し無届けの施設に対し指導を徹底するよう求めています。
高齢者の事情に合わせた柔軟な対応を求めた岩本さん。
しかし行政には受け入れられませんでした。
岩本さんの無届け介護ハウスに暮らして2年になる…入院中の夫の退院の日が近づいています。
今この施設は満員のため一緒に暮らす事はできません。
名古屋市から指導を受けた岩本さん。
入居者を減らして個室にするしかないと考え始めていました。
一方で転居させる高齢者のために名古屋市の隣町にもう一つ無届け介護ハウスを開設する準備を進めています。
西村さん夫婦もこの新たな施設で受け入れる予定です。
介護保険制度が始まって15年。
安心して老後を暮らせるという理念は今大きく揺らいでいます。
急増する無届け介護ハウスは超高齢社会に制度が追いついていない現実を映し出しています。
おやすみ。
2015/12/09(水) 00:10〜01:00
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 調査報告 介護危機「急増“無届け介護ハウス”」[字][再]

法律で定められた、行政への届け出を行っていない“無届け介護ハウス”が全国で急増している。行き場のない高齢者の受け皿となっている実態を描く。

詳細情報
番組内容
法律で定められた、行政への届け出を行っていない“無届け介護ハウス”が、全国で急速に拡大している。自宅で介護を受けながら生活することもできず、施設にも入れない高齢者の最後の受け皿となっているのだ。制度と現実のはざまに取り残される高齢者の姿と、急増する“無届け介護ハウス”の実態を描き、日本の介護のあり方を問う。
出演者
【語り】中條誠子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番

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