(男の声)あれは私が投函したんです。
けなげな苦学生のために何か出来ればと…。
言ってみれば足長おじさんのような心境だったわけです。
死ぬまでに一度ぐらいはのう誰かの役に立ちたかったんですわ。
てっきり受け取ってくれるもんだと思ってたんですがなぁ。
ホントよねぇ人の好意無駄にしてくれちゃって。
でもまあいらないって言うんだから返してもらうわよ。
当たり前っつーか…当然でしょ?
(亀山薫)はいはいじゃあ確認させてもらいますよ。
封筒の色と大きさは?へっ?「へっ?」じゃなくて。
おたくが投函したんですよね?だったら…。
そんな細かい事いちいち覚えちゃいないわよ!でも中身はちゃんと覚えてるわよ。
600万。
ンなもん誰でも知ってますよ新聞に載ってんですから。
フーッ…お引き取りください。
善良な市民に対してなんて口の利き方!?覚えてらっしゃい投書してやるから!好きにしてくださいよも〜。
ハア〜なんなのよその小汚い服装は!あんたそれでも警官なの?フンッたるんでるんじゃないの?小汚いのはそっちの根性だろっての!ってゆーかもう罪に問えないんですかね?ああいう自称足長おじさんアーンドおばさんは。
(杉下右京)名乗り出ただけですからねぇ。
難しいと思いますよ。
御免ください。
はいはい。
お布施の600万を盗んだ罰当たりがおりましてな。
即返してください。
(ため息)坊主は嘘は言わんよ。
(下薗司)パトロール完了しました。
自分代わります。
下薗ご苦労さん!申し訳ありません。
亀山さんたち本庁の方のお手を煩わせてしまって。
何分人手が足りないもので。
君のせいではありませんよ。
気にすんなって。
恐縮です!あっどうぞ中へ…。
失礼します。
(下薗)はい。
こいつね前に殺しの事件の時によく働いてくれたんすよ。
俺が捜査一課の時ですけどね。
そうでしたか。
それほどじゃあないですよ。
てっきり今頃は刑事になってると思ったんだけどなぁ。
残念ながらお巡りさんのままです。
フフ…まいっかぁ!
(笑い声)あのよろしければ奥でお茶でも。
ではお言葉に甘えてそうしましょうか。
そうっすね!じゃああとよろしく!
(リポーター)「先日泉川町のアパートの郵便受けに…」おっやってるやってる。
「現金600万円の入った無記名の封筒が投函されているのをその部屋に住む大学生の男性が発見し警察に届けました」「大学生の方ですね?少しお話を伺いたいんですけれども」彼が一番の災難ですよねぇ。
正直に届け出てこれですもん。
それにしても600万もの大金を一体誰がなんのために投函したのでしょうねぇ。
ねぇ。
もしも善意でお金を投げ込むのならばもっと別の場所を選ぶと思いますがねぇ。
確かにね。
とにかくこれからあと何人の偽者足長おじさんが出てくるか賭けませんか?…冗談です。
いえいえその程度のお笑い種ですめばいいのですが。
はい。
(大学生)「すいません勘弁してください」
(電車の警笛)
(呻き声)
(咳)
(古谷稔)返せ。
(古谷)俺の600万返せっつってんだよ!
(池田俊太郎)なっなんですか「俺の」って…!盗まれたんだよ。
ハア!?どこのどいつか知らねえが俺の600万盗んでテメエんちに投げ込んだヤツがいるんだ!知りませんよそんな事!あれがねえとヤベエんだよ!今すぐ「あれは間違いでした」っつって取り返してこい!じゃねえとマジ殺すぞ?無理ですよ!じゃ警察に被害届出せばいいじゃないですか!うるせえっ!オラアッ!取り返してこい!
(呻き声)
(呻き声)
(呻き声)おい君!おいどうした?ん?おい大丈夫か?
(喘ぐ声)こちらで少々お待ちください。
ありがとうございました。
いや〜言い掛かりもいいとこだよなぁ。
災難だったねぇ池田君。
ねえ責める相手を間違ってますよ。
ねえ。
その前に。
君を襲った男はなぜ君が例の拾得者だとわかったのでしょう?顔や住所までは報道されなかったはずですが。
これのせいですよ。
あっちゃ〜。
こりゃひでえや。
(池田)金額が金額ですからニュースになるぐらいは覚悟してました。
でもどうしてここまでされなきゃいけないんですか?顔や住所まで暴かれて揚げ句にこれですよ!?わかる。
気持ちはわかるよ。
家の周りのパトロールを強化するように頼んどくから。
ねっ。
正直者がバカを見る世の中なんですよ。
こんな事ならネコババした方がよかったですね。
ああダメダメ!ダメ!そういう考えダメよ。
俺らはね「悪者がバカを見る世の中」これを頑張って作るから。
ねっ。
フッ…フフ…。
(奥寺美和子)えげつない事するねぇ…。
だろ?暴行受けたのってほとんどこの雑誌のせいじゃない。
同業者として許せんね。
「正直者大学生」なーんて嫌味たっぷりな書き方してな!結局嫉妬してんだよ。
そうまさに嫉妬です。
600万円が池田君のものになる可能性が残っている以上人は少なからず彼を羨むものです。
ある意味その雑誌は大衆の心理を突いていると言えます。
(宮部たまき)でもいき過ぎじゃないですか?これ。
もちろんやり方を認めているわけではありませんよ。
ただ…。
ただなんですか?彼が匿名で届け出をし拾得者の権利も一切放棄していたのならばいわゆる美談で終わっていたでしょうねぇ。
そりゃそうっすけどね600万っていったら大金ですよ。
持ち主が現れない事ちょっとぐらい期待しちゃうのが人情ってもんじゃないですか?届け出ただけでも立派ですよ。
しかし今後も受難は続くと思いますよ。
だったら守りましょうよ!こんな理不尽がまかり通る世の中なんていかん!いかんですよ!
(カメラのシャッター音)
(伊丹憲一)ひでえなぁ…集団リンチってとこか。
古谷稔36歳無職です。
いかにも訳ありだな。
(芹沢慶二)先輩!先輩!ああ?ちょっとちょっと…。
なんだよ…。
こちら第一発見者の…。
(大家)ああどうも!ここの大家です。
大家だけど名前も「大家」なの。
ホントだよ。
今日こそはたまってる家賃取り立ててやろうってんで乗り込んだんですわ。
コンチキショってな具合にね。
そしたらあんたドアに鍵かかってなくてで開けてみたらもう…。
ウッ…。
ああ!新井山さん新井山さん!
(新井山宗次)あっ大家さん。
僕出て行きますからね。
殺人があった部屋の隣になんて怖くて住めませんよ。
いやいやこっちだって困ってんだよあと借り手がつかないからね。
ああちょっとすいません。
お隣の方ですね?ええ。
昨夜何か変わった事は?あ…夜中に男たち数人が言い争う声が…。
何時頃です?寝ていたんで正確には…。
多分午前1時ぐらいかと。
そろそろよろしいでしょうか?会社時間にうるさくて。
ああ失礼。
それじゃまた連絡差し上げます。
フウ…さてと怨恨の線からあたるか。
ですね。
…そうですね。
よお!正直者のI君〜。
あのさあ落とし物の保管期限ってどのくらいなの?半年だけど?正確には半年と2週間。
じゃあ半年後に600万でパーッと飲み会やろうよ!そのうち持ち主が現れるよ。
ヘヘッ偽者しか出てこねえよ。
ほら昨日だって5人。
じゃあな。
600万だってよ…。
(池田)間違いありません。
そいつが君に暴行を?はい。
そうかよし…。
ホントに…殺されたんですか?ええ。
古谷の主張は言い掛かりじゃなかったんですね。
何者かが古谷から金を盗んだ。
でも持ってるのが怖くなって池田君の家に。
どうして…。
こんなはずじゃ…。
あ〜君のせいじゃないよ。
なっ!君はあくまで正しい事をしたんだから。
その事だけは…。
これ以上怖い思いはしたくありません!犯人を…どうか早く犯人を捕まえてください!わかったわかったから。
なっ落ち着こう。
じゃあとは我々にお任せください。
どうぞこちらです。
ありがとうは?古谷は以前からマークされていた薬の売人。
でも何者かに売り上げ金を盗まれてしまいそのせいで暴力団から報復を受けた。
まそんなとこですかね。
ああしかし鑑識の言う事も気になるねえ。
ねえありがとうは?うるせえよお前はさっきからよ!早期解決への重要証言だろうが!誰のおかげだと思ってんだよ!ああ〜ありがたいありがたい。
お前が交番へ左遷されたおかげで助かったよ。
手伝っただけだよ!あっいっそそのまま居着いちまえよ亀山亀吉!
(米沢守)やはりそうでした。
おお出たか。
被害者の全身の傷には生活反応がありませんでした。
という事は…。
つまり背中への刃物による最初の一撃ですでに絶命していたという事になりますね。
あとから加えたリンチが偽装だとすると…。
暴力団の筋は考え直した方がいいかもしれませんね。
周到に偽装したつもりでも基本的な知識に欠けている。
素人の犯行ですねぇ。
それも自分をかしこいと思い込んでいるタイプでしょう。
ほう…プロファイリングですね?フンッそれくらいわかりますよ。
警部殿!あとはなんの心配もいりませんからどうぞ我々にお任せください。
そうですかではお言葉に甘えて。
わかんなかったろ。
(梶多恵子)だからかい食いはよくないんだってば。
(下薗)そっかなぁ…。
今はそうでもないんじゃない?まあトモはしっかりしてるから大丈夫だけどねぇ。
いやぁ久し振りに聞いたなあかい食いなんて。
ご苦労様です!おばあちゃんこちら本庁の刑事さん。
まあこれはご苦労様です。
トモってお孫さん?えっ?しっかりしてらっしゃるんですか?あ…アハハ…。
じゃあたしゃこの辺で…。
どうも。
お知り合いですか?はい。
独居老人宅へ巡回してるうちに世間話などするようになりまして。
よっ!市民に愛される警察官!コノヤロウ!で今日の足長おじさんは?いえ今のところは。
ふーん。
ねえ僕の600万返して。
コラ!嘘つきは逮捕しちゃうぞ!へへへ…。
お手伝いする事は何もないようですね。
亀山君僕は他へ行くところがありますので。
失礼。
あっじゃ俺飯食っちゃっていいですかね?構いませんよ。
コノヤロ!ヘヘッじゃあな!腹空いたんだよな…。
おーい柔道部!はい。
帯帯ゆるんでるぞ。
ありがとうございます!すいません!頑張れよ!ヤーッ!はいっ。
ん?帯…?帯…。
来い来い…来いって!来い来い来い!よしよし…!
(ロッカーを叩く音)地方競馬?今日どこでやってんだっけ?申し訳ありません!この事はなにとぞご内密に…。
勤務中はダメよ。
はい。
あのさ例の600万の事でちょっと訊きたい事あんだけどさ。
(教授)彼ですか。
ええ実に優秀な学生ですよ。
ただ少し潔癖過ぎるきらいがありましてね。
友人はあまり多くはないようですが…。
その上600万円を届け出た事で学校でも何かと大変な目に遭ってらっしゃるようですねぇ。
ええまあそうなんですが心理学を専攻してるだけあってどこか達観したところがありますね。
なるほど。
とはいえさすがに暴行を受ける事までは想定していなかったみたいです。
かなり落ち込んでましたよ。
そうですか。
(美和子)こんばんは。
(たまき)いらっしゃーい。
こんばんは。
お疲れ。
あ…ねえねえ昨日殺された男ってあの学生さん襲った男だったんでしょ。
あらそうなの?相変わらず耳が早えな。
あの600万は覚せい剤の密売で得たお金だったんだ。
うーん…いやでもなぁ…。
ん?どした?池田俊太郎です。
池田…。
(池田)俊敏の俊。
お札は新品じゃないけど束になってたんだってさ。
白い無地の帯封で100万ずつな。
薬の売り上げ金にわざわざ帯封なんてしてねえだろ普通。
だよね。
なるほど。
右京さん?お先に失礼。
右京さんレーダーに反応あり!俺なんか言ったか?なんか言いました?いや…変なところに反応しますからあのレーダー。
26円のお返しです。
ありがとうございました。
池田代わるよ。
(池田)あはい。
お願いします。
右京さん。
ヘヘッ差し入れです。
どうもありがとう。
君にしては…。
気が利くでしょ?ええ。
池田君は?先ほど休憩に入りました。
ああ…。
なんだかんだ言って右京さんも心配なんでしょ?池田君の事が。
も〜水くさいんだから。
ちょっといいですか?はい?なぜアンパンと牛乳なのでしょう。
右京さん世代の張り込みといえばこれだろうと思いまして。
では取調室といえば?カツ丼!そういう先入観が往々にして捜査を狂わせるんですよ。
肝に銘じておいてください。
…わかりましたすいませんでした。
ああこれは遠慮なくいただきますよ。
あっ食べるんですか?
(池田)スポーツ…ですか?ええ。
いえ特に興味は。
そうですか。
どうしてそんな事を?大した意味はないのですが君がバイトの休憩に入る際スポーツ新聞を手に取るのが見えたものですからねぇ。
監視してたんですか?いやいや監視じゃないよ。
そんな時間があるなら犯人を…。
その犯人に狙われないように見張ってたんだよ。
ねえ。
スポーツに興味がないとなるとあるいはギャンブルとか。
右京さん!ギャンブルなんてもっと興味がありませんよ。
ではもう1つだけ。
免許証を拝見出来ますか?今度はなんですか?ホントに何なんすか?悪いねぇ。
昭和59年6月28日生まれですか。
(携帯電話)あっすんません。
それがどうかしたんですか?はい亀山。
単なる確認です。
どうした?ホントか!?右京さん本物の持ち主が現れたそうです。
本物が?ええ。
もしもし?間違いないのか?ああ…。
梶多恵子さん。
昨日交番に来ていたあのおばあちゃんです。
自宅のタンス預金を調べたら丸ごと盗まれていたそうです。
それが600万?ええ。
ですが万が一に備えて紙幣番号を控えていたのが不幸中の幸いでしたね。
はいどうぞ。
BA637598F…はい。
(会計課職員)「BA637598F」ですね。
次えー…「DW593926D」。
(会計課職員)「DW593926D」。
次「EP5736…」。
(下薗の声)札束の一番上つまり6枚の紙幣番号がすべて一致したんです。
それが確証となって梶さんに全額返還する事に。
どうかなさいました?「釈然としません」ってな顔してますね。
釈然としません。
やっぱり。
いやでもこれで俺らの仕事はカタが付いたじゃないですか。
亀山君。
はい。
あれえ…?行くんですかぁ?ええ。
どうしても?お願いします。
盗まれて池田君ちに投函された経緯は不明ですけどどう考えても本物の持ち主ですよそのおばあちゃん。
紙幣番号が一致したからですか?いやだってそんなのヤマカンだとしたら天文学的な確率ですよ。
もちろんです。
しかし気になるんですから仕方ありません。
変なとこに反応するレーダーですからねぇ。
はい?ハハッいえいえ。
行きましょう。
(ため息)ちょっとよろしいですか?ああこないだの刑事さん。
こんにちは。
盗まれた600万が戻ってきたそうですね。
ええ!おかげさんで。
1つ確認しておきたいのですが。
なんでございましょうか?600万円拾得のニュースは1週間ほど前に報道されました。
タンス預金の額もちょうど600万。
念のためにその時に調べてみようとは思われなかったのですか?ああ…あたしは老眼だから新聞は隅々まで読まないの。
テレビも滅多に見ないし。
あのお巡りさんがニュースの話を教えてくれなきゃずっと気がつかなかったわ。
お礼を言わないと。
そうですか。
わかりました。
じゃあ失礼させてもらいましょうかね。
よかったねおばあちゃん。
ありがとう。
あんた死んだ旦那によーく似てるわ。
あらホント?嬉しい。
(笑い声)気をつけて。
ハアー…釈然としましたか?いいえ。
ええ?
(角田六郎)おい暇か?忙しいです!ハハッまたまた。
もう下薗手伝う必要もないし古谷殺しの犯人でも捜しますか?俺らも。
ああやっぱり暇だよお前。
あ?その犯人ならもう捕まったよ。
今取調室。
マジっすか!?
(角田)マジっす。
以前から隣の男が覚せい剤の売人だというのはなんとなくわかっていました。
なんせあのボロアパートだからな。
声も筒抜けだろうよ。
(古谷)ああもしもし俺だ。
いつもの駅前のロッカーに金隠しといたから。
ああ!?いつものロッカーだよ!057!
(伊丹の声)古谷は薬の売り上げ金を駅前のコインロッカーに入れ鍵をある場所に隠した。
(芹沢の声)鍵の隠し場所を盗み聞きしたあんたは翌朝まんまと600万をせしめた。
暴力団より先にね。
(新井山の声)悪い事をしているという自覚はありませんでした。
どうせ汚い世界で循環してるだけの金なんだって自分に言い聞かせて…。
12年間無遅刻無欠勤の真面目な男がな事件の数日前にたった一度だけ遅刻したってんじゃあいやでも疑っちまうよ。
(芹沢)古谷の勘違いで襲われたあの学生もとんだとばっちりだったってわけだ。
でもすぐに古谷の疑いの目は僕に向けられました。
隣の声が筒抜けなのはお互い様なので…。
うわっ!テメエ…盗み聞きしやがったな。
なんですかいきなり!グフッ!ちょっ…!ちょっとこっち来い!ウウッ!アアッ!おいオメエだろ。
ん?言えよどこに隠した!
(携帯電話)もしもし…はい。
すいませんはい今晩中には。
(古谷)失礼します。
(呻き声)
(荒い息)
(伊丹)古谷を殺害したあと暴力団の仕業に見せかけるため暴行を加えたんだな?そのとおりです。
手の込んだ事を…。
ご苦労なこった。
不公平だ!ああ?毎日休まず出勤して来る日も来る日も電卓叩いて何千万ものお金が僕の前を通り過ぎていく。
なのに僕の給料なんて微々たるもの…。
(捜査員)ありました!なんでこんなに不公平なんですか世の中は。
ハア…ま確かに古谷に同情の余地はないわなぁ。
けどまあだからって殺しちゃダメだよね。
でも!
(机を叩く音)殺しちゃ…ダメだよねぇ。
ともかくこれではっきりしましたね。
池田君の届けた600万は無関係だったって。
しかし僕の中ではまだ終わっていません。
何が終わってないんですか?終わったでしょうが。
(多恵子の声)あんたこそわかってるの?いいのかねえばらしちゃって。
あんたこれからの長ーい人生棒に振っちゃうよ?あ〜!どうしましょう!ハハハ…アハハハ…!
(レポーター)こちらにお住まいの被害者の女性は昨夜殺害されたとみられており現在のところ目撃情報は…。
(レポーター)犯人の足取りは不明のままです。
(カメラのシャッター音)まだ終わってなかったんだ…。
ええどっかで見たと思ったのよこの子。
(伊丹)彼が昨夜この家を出て行くのを見たんですね?間違いないわ。
被害者と男が言い争う声を聞いた人もいます。
決まりだな。
ええ。
おい!お前のお気に入りの青年とんだ食わせ物だったようだな。
黙ってろよ!フンッ。
じゃ警部殿。
行くぞ。
我々も急ぎましょう。
右京さん…彼が犯人だと思ってますか?ええ。
池田君は犯人です。
亀山君下薗巡査にも手伝ってもらいましょう。
えっ?ここですね。
(電車の音)
(チャイム)
(ノック)池田さん!
(ノック)池田さん!
(パトカーのサイレン)乗れ!はい?池田君を追ってます。
お願いします。
はい!はい…そうですか。
どうもありがとう。
自宅にはいないようですね。
亀山君大学へ向かってください。
了解!
(パトカーのサイレン)ちゃんとメンテナンスしてますか?ああ…!近頃の人は追い詰められると何をするかわかりませんからね。
念のために。
頼むぞ〜下薗。
はあ…。
(パトカーのサイレン)そこから落ちたらまず助からないでしょうねぇ。
どうして僕が自殺なんか…。
梶多恵子さんが昨夜殺された。
僕が殺したって言うんですか?君は…いいヤツだと思ってたんだけどなぁ。
僕は殺してません!信じてください。
そうですよねぇ。
君は誰も殺してはいない。
しかし…君は犯人です。
社会に小石を投げ込みその波紋を広げたまさに張本人です。
600万円の拾得…あれは君の自作自演ですね?どうしてそう思うんですか?古谷が殺されたと知った時の君の言葉に引っ掛かりを感じました。
こんなはずじゃ…。
自作自演をするくらいですから本来は冷静でいられたはずです。
ところが君の想像を超える出来事が立て続けに起きてしまった。
雑誌に顔や住所を暴かれた事。
そのために古谷から暴行を受けた事。
さらに古谷が殺された事。
それらの局面で見せる君の怒りや怯え…。
実に自然な感情表現でしたよ。
そんな…。
何より本物の持ち主が現れたと聞いた時の君の表情。
あれが演技だとしたら今回のストーリーの主演男優賞はやはり君でしょう。
では600万もの現金をいかにして作る事が出来たのか。
2週間前若者が競馬で万馬券を当てたというニュースがありました。
当たり馬券は6−2−8の三連単。
628…君の誕生日と同じですねぇ。
ギャンブルに熱狂する人を観察したくて自分も適当に買ってみたんです。
皮肉な事にそれが大当たりしてしまった。
思いがけず手にした600万円。
君は使い道を考えたんですねぇ。
そして思いついた。
郵便受けに入っていたと偽りどれだけの人間がそのお金に群がるかデータを取り役立てたかった。
君の目指す心理学の研究にな。
そのための実験だったわけだ。
差し詰め卒論のテーマは「高額の金銭に対する大衆の反応」といったところでしょうか。
苦労せずに大金が手に入るなら…必ず人は群がってくる。
これが結論です。
1つ聞かせてくれないか?君が昨夜梶多恵子の家に行ったのは金を取り戻すためか?あれはどう考えても自分のものです。
どうやって手に入れたのか問い詰めるつもりでした。
でも…。
あたしゃねえ若い時に離婚したもんだから国民年金しかもらえないのよ。
あの600万円がなかったらこれから先とてもじゃないけど生活出来なかった!ああいやその…。
ですからその…。
誰が盗んだのかわからないけどご親切に届けてくださってありがとう!ありがとうね!いやそのおばあちゃん…。
おばあちゃんねおかげで命拾いしたんだよぉ…。
ありがとう…。
(池田の声)あんな姿見たらもう何も言えなくなって…。
納得はいかなかったけどどうせあぶく銭だし。
あのお金が誰かの役に立ったならそれでいいかって…。
それがどうしてこんな事に…。
ほんの出来心だったのに…。
どうせ半年経てばお金も戻ってくるからって…。
でもこうして現に殺人事件にまで発展しちまったんだよ。
僕のせいなんでしょうか?僕があの人を危険な世界に巻き込んでしまったんでしょうか?そのとおり。
君があんな事をしなければ誰も人生を踏み外さずにすんだんです。
そうですね?下薗巡査。
調べたところ競馬でかなりの借金を背負っているようですね。
身内を疑いたくはありませんがあなたが犯人だとすればすべてのつじつまが合うんですよ。
あなたは池田君の届け出た600万円をなんとか自分のものに出来ないかと考えた。
そこで6枚の紙幣番号を控えそのあと神谷署へ移管した。
さらに梶多恵子に儲け話を持ちかけた。
そうだな?先日の2人の会話あれは小学生の買い食いを話題にしていたのではありませんねぇ。
競馬の話をしていたのでしょう。
だからかい食いはよくないんだってば。
(下薗)そっかなぁ…。
今はそうでもないんじゃない?まあトモはしっかりしてるからいいんだけどねぇ。
「かい食い」とは馬のエサである飼い葉の食べっぷりつまり食欲の事ですよね?トモというのもお孫さんの名前などではなく馬の腰から後ろの部分を指す用語です。
以前からの競馬仲間だったんだろ?まず控えておいた紙幣番号を多恵子さんに教える。
それから虚偽の被害届を出させ紙幣番号を会計課と照合しまんまと多恵子さんを持ち主に仕立て上げる事に成功した。
どうして殺しました?600万円の分配でもめましたか?あのばあさんが…一枚上手だったんすよ。
(下薗)全部使った!?ごめんねぇ。
借金まみれはあんただけじゃなかったんだね。
嘘だ…。
なんなら家中探してみな。
無駄だけどね。
明日までに500万…500万返さなきゃまずいんだよ。
そりゃお気の毒様。
どうなるかわかってんだろうな。
そりゃあこっちのセリフ。
あんたこそわかってるの?
(机を叩く音)いいのかねえばらしちゃって。
あんたこれからの長ーい人生棒に振っちゃうよ?あ〜!どうしましょう!ハハハ…アハハハ…!頼むよ出してくれよ。
あるんだろ?出せよ!離しなさいよ!出してくれって…出してくれよ!うるさい!
(多恵子)ないんだったらないんだよ!チクショーッ!
(多恵子の悲鳴)アーッ!
(苦しむ声)裏切りやがって…。
なんてこった…。
許せない…ウワーッ!
(叫び声)下薗!
(荒い息)お前だけは絶対に許さない!卒論だかなんだか知らないがあんな大金見せつけられれば誰だって魔が差すさ!そうじゃないっすか!?知ってたんだよ俺は。
お前が万馬券当てたのを。
ああの…郵便受けに…。
(下薗の声)そいつが今度は600万拾ったって届け出てきて…。
なんのつもりだ?って思ったよ。
そんなにいらない金なら俺がもらってやるよ。
捨てた金拾って何が悪い?じゃなきゃ俺はあの金に手ぇ出したりなんかしなかったよ。
これでも正義のお巡りさんだからな!俺はもうおしまいだ。
でもせめてお前も道連れに!どいてください。
こいつを殺さないと気がすまないんすよ!確かにお前は道を踏み外した。
でもな!俺の知ってるお前は間違いなく…警察官だったよ!その制服着て人が撃てんのか?ああ?撃てんのか!?たった600枚の紙切れに振り回された人生か…。
待てっ!
(引き金を引く音)
(引き金を引く音)アアーッ!
(嗚咽)下薗さん。
念のために抜いておきました。
(嗚咽)あん時!も〜右京さ〜ん!
(下薗の嗚咽)池田君。
あっお忙しいところお呼びたてしてすいません。
いやいや俺らも気になってたからさ。
どう?その後。
ええなんとか。
当時の自分の心理を冷静に見つめなおしているところです。
そうか。
何か見えましたか?あの札束が…一瞬悪魔に見えたんだと思います。
今まで見た事もない金額だったから。
(池田の声)あんなにもあっさり手に入ってしまうと逆に持っているのが怖くなってきて…。
卒論とか実験ってのは後付けの理由だったんだよな?ええ。
お金に群がる大衆を高みから見物して自分だけは違う人間だと安心したかった。
今思えばそういう心境だったのかもしれません。
覚悟は出来ています。
僕はどんな罪に問われるんでしょうか。
君のした事は虚偽の拾得物報告。
それ自体は大した罪には問われませんがその波紋はあまりにも大き過ぎました。
どうやって償っていけば…。
急ぐ必要はありません。
自分が何をしたのか考える時間は十分にあると思いますよ。
じゃあ。
ところでこの1万円札の原価いくらぐらいかご存じですか?なんですか?やぶからぼうに。
考えた事なかった。
いくらだろ?約20円です。
20円!?この紙切れは社会的な信用があって初めて紙幣として通用するんです。
信用ですか…。
ええ。
しかし果たしてそれを信用と言うべきか魔力と言うべきか。
ないと困るけど怖いわねお金って。
ホント。
安心しろ美和子。
ハア?俺といる限りそんな大金に遭遇する機会は…ない!フフッ何得意げに言ってんだよ!任せなさい。
フフフ…。
2015/12/10(木) 16:00〜16:58
ABCテレビ1
相棒season4[再][字]
「波紋」
詳細情報
◇番組内容
“警視庁一の変人”だが天才的頭脳で鋭い推理をみせる杉下右京(水谷豊)と“おひとよしな熱血刑事”亀山薫(寺脇康文)の名コンビがあらゆる難事件に挑む!
◇出演者
水谷豊、寺脇康文、鈴木砂羽、高樹沙耶(益戸育江)、中村友也、音尾琢真、絵沢萠子、六角精児 ほか
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32723(0x7FD3)
TransportStreamID:32723(0x7FD3)
ServiceID:2072(0x0818)
EventID:45308(0xB0FC)