「SWITCHインタビュー達人達」。
クラシック界の異端児井上道義が登場。
世界の名だたる楽団でタクトを振ってきた日本を代表するマエストロの一人だ。
破天荒なキャラクタークラシックの既成概念にとらわれない企画で観客を魅了してきた。
ところが去年井上は半年間の活動休止を余儀なくされた。
咽頭がんが見つかったのだ。
絶え間ないせきと発熱。
過酷な闘病生活を経験した。
そして井上は再び舞台に帰ってきた。
演劇界の奇才野田秀樹と共に3年がかりで作り上げた…モーツァルトの名作オペラの舞台を長崎に移し大胆な新演出を施した。
まさに東洋と西洋音楽と演劇とが結婚した刺激的な作品だ。
公演を終えたばかりの井上のもとに一人の男がやって来た。
(須磨)ハ〜イブラーヴォ。
(井上)どんなでした?今日。
ブラヴィッシモ。
何が…?おめでとう。
神の手を持つといわれる心臓外科医須磨久善。
もう元気にタクト振ってるところ見て本当にうれしかった。
どうもありがとうございます。
おめでとうございます。
須磨は世界の心臓外科手術をリードしてきたパイオニアだ。
肥大した心臓の一部を切り取るバチスタ手術をはじめ日本初世界初となる難手術を次々に手がけてきた。
320万部のベストセラー「チーム・バチスタの栄光」は須磨がモデルといわれる。
映画化の際は医療監修も務めた。
須磨自身の半生も水谷豊主演でドラマ化された。
これまで30か国以上で5,000件を超える心臓手術を行ってきたスーパードクター。
実は2人は20年前知人を介して知り合って以来のつきあいだ。
破天荒なマエストロと神の手を持つ心臓外科医。
芸術と医療の意外な共通点とは?それ指揮者と同じです。
それやっぱり指揮者と同じです。
井上道義が指揮総監督を務め野田秀樹が演出したオペラ「フィガロの結婚」。
フィガロとスザンナの結婚を巡って雇い主の伯爵夫妻をはじめ人々の思惑が入り乱れる恋愛喜劇だ。
新演出の舞台はなんと黒船来航時代の長崎。
フィガロとスザンナは日本人という設定。
名前もフィガ郎とスザ女。
日本人キャストは日本語で歌う。
一方黒船でやって来た伯爵とその夫人はイタリア人歌手がイタリア語で演じる。
言葉遊びに満ちたセリフで知られる野田は新たな日本語訳にも挑んだ。
伯爵夫人がスザンナに化けて浮気性の夫を懲らしめようとするシーンではなんと土鍋やこたつまで登場する。
演劇的な仕掛けをふんだんに盛り込んだ驚きの新演出。
次は何が飛び出すか3時間半片ときも目が離せない。
向こうから見てるともっと広〜く見える。
舞台が大きく見えるでしょ?うん。
これはこういうふうになってるのが…もう何だかね…「フィガロの結婚」は名曲中の名曲っていわれてるんだけど…モーツァルトなんかはザルツブルクで生まれたオーストリア人なんだけど…須磨さんも外国でずっと手術なんかしてて言葉の壁ってのはいざっていう時に大変だったんじゃないですか?そうでもない?ああ通じない通じない。
手術室でナイフだ何だかんだ言っても何にも出てこないの。
だから手術にならない。
もう徹底的に勉強して。
それは大変でした。
もうめちゃくちゃ大変でしたよ。
めちゃくちゃ大変ですよ。
僕のその家庭教師のおばあさんが言ってたけど日本人だったら…そんな…。
いや本当。
本当かな?だまされてない?それ。
新演出の「フィガロの結婚」は井上道義が野田秀樹に20年越しでラブコールを送り続けて実現した。
クラシック音楽の王道から外れずにいかに日本人にも違和感のないオペラにするか。
2人は3年にわたって議論を重ねた。
例えば歌詞の日本語訳。
野田はイタリア語の歌詞を徹底的に分析しあっと驚く意訳をしてみせる。
フィガロとスザンナの二重唱もこのとおり。
訳ってのはもう本が出てるんですよ。
野田の言葉使いたかったから…・「ラーベンデッタオ〜ラーベンデッタ」っていうのをどうしようかどうしようかって考えて最初が「あだを討つあだを討つ」って最初に彼は書いてきてるんだよ。
そうすると「あ〜だを討つあ〜だを討つ」になる訳。
そうすると「討つ」ってのは「鬱」?それから「撃つ」?分かんないんですよ。
だから「討つぞ」っていうふうに「あだを討つぞ」っていうふうにしないと・「あ〜だを討つ」っていうとお客さんにいろんなふうに誤解されちゃう。
そういう事がもう山盛りあるの。
また野田さんは一番困ってたのは…たくさんあるのよ。
それやりたくない人なんですよ。
「愛してるどこまでも美しいあなたを」とかやりたいんですよ。
でも繰り返しっていうのは…ものすごい大変だった。
だから僕は簡単に言って…普通だったらやめてる。
ただ僕が…でしょうね。
いや〜のけぞりましたもんね。
でもそれをやってもらわないと僕が頼んだ意味がない。
道義さんの満足度としては非常に高い…。
僕の満足度なんかどうでもいいんですけどやっぱりだからお客さんがオペラを見に来て…「病気なのに太った人が死ぬの?」とか。
それから「何で恋人なのに寄ってくるやつがこんなでぶっちょで『愛してる』って言ってそれが美しい歌だったり何かしてもそれを拍手する気になんの?」と思う訳。
ひどい事言うと日本人はやっぱりこういう女の人の肩ここまで出した服とかお殿様なり何なりがこうルイ14世とか何かこうやってここからタイツとかさ合わないとか思う訳。
だから出てきただけでももう帰りたくなっちゃうんですよ失礼ですけどね。
それは日本人じゃなくても…だからそういうのが僕は耐えられなかったから野田さんは完全に日本の方に全部自分の方に彼はこう…。
確かにね僕らみたいにオペラ通でもオペラ狂でもない普通の人がねこれ見てもあっ「フィガロの結婚」ってこういう話なんだと。
それなら納得いくといって最後までちゃんと見守っていけるのでね。
これは本当に本物を理解してもらうツールとしてはすごくいいとは思いましたけどね。
隣町プラハに行って大成功したって事はあの街は音楽もだけど演劇の街なんですよ。
プラハってすごい演劇が今でも盛んだけどそのころ演劇盛ん。
ウィーンよりも演劇が盛ん。
だから演劇的なオペラだった訳ですよその時から。
だからそういうのを歴史的に言っても…簡単に言って…だからやってるのはパンパンパンタンタンタンパンパンパンパンパンパンパンってのが入ってたでしょ拍手で。
そんな事モーツァルト書いてないから。
それは俺は相当どうしようかなと思ったんだけど。
あそこは…おだてておだてておだててやるとこなんだけどまあそういう時には何て言うの…。
いわゆるはちゃめちゃをやってもいいのかなと思って。
モーツァルトじゃなくなるかもしれないけど…こたつが出てくるとかね「カチカチ山」のタヌキが出てくるとかねあと何だろう…皿回しが出てくるとかね。
とんでもないと思うんだけどでもオペラってそれでいいの。
分かりやすくて楽しめるというのはやっぱ基本ですよね。
だからオペラを見るっていう事は本当に楽しむっていう事は…どんなに「フィガロの結婚」好きな人でも言うの。
それがここに来ると「うん長さだけは短く感じた」と。
それで僕はいいと思ってる。
それは確実に達成させられた…。
だから手術がパ〜ッとね実際速く終わるってのも大事なんですけど速く感じさせるっていうのも。
感じさせる。
そうなの。
いい手術は9時から始めてふっと時計見たらもう12時。
その間…自分も。
うん。
やってる連中も疲れない。
それはそう感じる時とそう感じない時とあるんですよ不思議と。
同じ事やってても。
あれ不思議ですね。
やっていてありがたい事です。
舞台の本番1時間前。
劇場入りした井上は片ときもじっとしていない。
まずは舞台に直行。
出演者やスタッフオーケストラの楽員たち会う人ごとに次々声をかけて回る。
これでしょ?うん。
引っ掛かって取れなくなったらどうしようかと思って。
あっあれでよかったですか?あれで大成功。
あっこうか。
よかったですそれは。
そういう人がいるかどうか…破天荒なイメージのある井上だが驚くほどこまやかに気を遣う姿があった。
本当に…だから例えばオーボエの人に…それがドイツ人の人だったらそんな音俺には…。
「40年そんな音出してねえよ」って言われるかもしれない訳だしそれから…それからこの曲は…いろんな事ある訳ですよね。
そういう事はもう…失敗したら「うん?」ってやんじゃなくて…よく見なきゃいけないからその時に練習の話ね本当に失敗した時には頭ごなしにバンって言ってもいいんだけど…そういう気を遣わなきゃなんないって事では言葉遣いも必要だと…。
どんなオケにもいるんだよ。
例えば「お前何やってんだ」って言ってもさ…だから言ったってしょうがないと。
だから言葉を気を付けなきゃいけないんだけど…そう見える。
そう見えるのね。
楽しいとか。
でもそれは全てのマエストロがそうなんですか?もうそんな気にもせずに腕力でガ〜ッと持っていくような…。
それは僕の先生両方ともそう。
齋藤秀雄先生もそうだしチェリビダッケさんもそう。
もう相手を完全にやり込むどんなオーケストラでも。
今日は読売交響楽団だったけどチェリビダッケさんは読響にも来てるしロンドンシンフォニーオーケストラもやってるしパリのオーケストラもやってるしどこでもやってるけど…だから一度みんな潰すんですあの人は。
いや本当に潰すんです。
すごいよ…。
僕そういう人がマエストロだと思ってたけどじゃないんですね。
僕はできないですそれ。
いや易しく見えないよ見えないからね。
いや見えるって。
指揮者でましてや…いろいろあると思うけど何が大事なんですか?そんな逆に聞いてもいい?いや努力…。
あとやっぱりその…。
努力のいらない仕事ってないからね。
いくら君頑張っても外科医ましてや心臓外科医には絶対なれないという人いるもん。
それ指揮者と同じです。
それやっぱり指揮者と同じです。
例えばモーツァルトだったらオペラはちょっと難しいかもしれないけどシンフォニーだったら指揮者なしでもできますよ。
でもやっぱり僕は…自分のオーケストラでもやってできるんだけど面白くないんだな。
モーツァルトから近現代音楽まで井上は幅広いレパートリーで知られている。
2007年には旧ソ連時代の作曲家ショスタコーヴィチの交響曲全曲演奏を行いブームの火付け役となった。
井上道義は1946年東京生まれ。
実の父はアメリカ人だという事は40歳を過ぎてから知った。
14歳の時育ての父に「自分の道を決めろ」と言い渡された井上は指揮者を志す。
小澤征爾らを育てた齋藤秀雄の下で高校大学と学ぶ。
25歳の時ミラノ・スカラ座主催の国際指揮者コンクールで優勝。
世界の舞台へと躍り出た。
道義さんって子どもの頃クラシックバレエやってたんでしょ?やってたよ。
その道で行こうとはそのころ思ってたんですか?でも行ったらね熊川哲也みたいになれなかったと思うよ。
体硬いんだよ。
指揮者を選んだのはどうしてですか?なぜ舞台が好きかっていうと…先生は先生の格好してるだけで例えば須磨先生っていう人がそのまんまの姿で医者をやってないと思った訳。
例えば僕の父親見たら父親っていうのもこの父親ちょっと本当の人間じゃなくて…だったら舞台で思いっきり大うそでもいいんだけど…最初副指揮者っていうの東京都のオーケストラになって生意気じゃないですか若い時って。
野田さんもすげえ若い時生意気だったらしいけど。
で…許せなかったんですよねその自分の置かれてる状況。
それからだからもうこんなんなっちゃってさ天狗になっちゃって。
それでもう本当にヨーロッパでいいオーケストラばっかで振ってて…だからオペラなんか知らなかった訳だし。
ちゃんと勉強してない人が何でそこでそこまでもてはやされてしまうんですか?井上道義のすごさって何なの?知らないそんなの。
痩せてたからよかったんじゃないの?僕はだから最初に例えばロンドンのオーケストラ振ったりドイツの本当にいいオーケストラ振ったりした時25歳とかそんなもんだったんだけど何か若さの特権みたいなのあるんじゃないですか。
俺その才能ないよ。
でも音楽をやる分には僕はちゃんと勉強した。
どんな国の人にとっても…例えばだからピアノで言えばショパンのポーランドの言葉から彼がフランスに行ってフランス語でもやっていたそういう背景。
そういう事を知ってピアノ弾かなきゃいけない。
だからそういう事はずっとクラシック音楽やると勉強していくんでそこはすごい面白いんだけど。
それってすごい面白いんだけど。
だからグスタフ・マーラーなんていうのやってると世界が引きちぎれそうになったり地獄が現れたり突然ふわ〜っと十字架が浮かんだと思ったらそういうのは消えて町の酒場の音楽が出てくるみたいなのがシンフォニーに出てくるんだけど。
それを聴けるってのが一番…クラシック音楽の喜びだと思ってるんだな。
だから…。
ふだんごはん食べたり何かしてる時の僕っていうのはどうでもいいとか思ってるんだね。
後半は舞台をスイッチ。
メス。
水谷豊主演の…須磨の半生をドラマ化したものだ。
須磨は世界で初めて胃の動脈を使った心臓バイパス手術に成功。
その後も新しい術式を次々に考案し世界的な注目を集めてきた。
94年バチカンの大学病院に招へいされたほか世界各国から公開手術の要請を受け30か国を回る。
2000年には最新の設備を備えた心臓外科専門病院を創設。
年間400件を超える執刀を続けた。
須磨は現在手術の第一線から退きクリニックを構えている。
ここ実は何回か来てて須磨さんが最初「クリニック作ったから見せてあげる」とか言われて来た時それは何ともなかったんで…その次は実際俺がどうにもなんなくて「なんとかいいお医者さん紹介してくれ」みたいな時で全然違う感じで来たんですけどね。
井上の喉にがんが見つかったのは去年4月。
酒にもタバコにも縁のなかった井上には予期せぬ出来事だった。
治療の成果で無事復帰した井上。
20年来の友人須磨の仕事場を改めて訪ねる。
こんにちは。
いらっしゃい。
かっこいいな〜。
ここってさ心臓に関わる事やってんだけど美容整形とかさエステティックみたいな感じでさ…。
気持ちよくなる所…。
命に関わるのに何か「いいの?」って感じなんですけどね。
昔は入院して検査しないと分からなかったのが今こういうCTで全部分かるんですよね。
おっきなのが心臓で大動脈が出ててその根元から心臓を養う冠動脈という血管がね右と左と2か所から出てるんですね。
数はこんなもんなんですか?冠動脈っていうのは。
大きく分けて右っ側と前と後ろ。
太い所がまあ3ミリぐらい。
この下の方にいくともう1ミリ2ミリ。
普通はその心臓感じないじゃない?心臓を感じるっていう時はこの辺全部がドキドキするから感じるんですか?だから不整脈でドクッドクッていう…。
なった事ある。
あれは気持ち悪い。
感じるのとそれから狭心症っつってね血管が詰まって筋肉に血が行かなくなって…全く違う痛みですけどね。
その2つ?大体は。
そうですね。
心臓が変だなと感じるのはそうですね。
だから逆に言うと知らないうちに弁が壊れていたりいろんな病気になってる事はあるけどね。
マエストロ心臓外科の0コンマ数ミリの世界をのぞく?見えます。
それが冠動脈を縫ったりする時の…須磨セットと呼ばれる特注の手術器具。
一般的に日本人の血管は欧米人より細いためより繊細な作りになっている。
糸を結ぶっていうのがあって外科医はこう…ワンハンド・タイっていってね片手で結べないといけない。
たくさん結ぶの?ほどけないようにね。
それで縫い終わったらこういうふうに…。
やってみて下さい。
ピンセットをまずこう持つ。
こう?針はスクエアに入れる。
それから…戻ったら駄目こっち行かないとこっち。
あっこっち?こう縫っていくからね。
ラグビー…ラグビーと違う。
こんな薄さでいいの?あんまりよくないけどまあいい。
これクロスするよこっち側から取らないと。
針と針との間隔も一定でないとこっから次のあるこのインターバルとねこっち側のインターバルが一緒でないと駄目なの。
こっちが大きくてこっちが小さいと寄せた時こっちから口が開くでしょ?フィッシュマウスっていうんだけどそこから血液もれるんです。
だから理想的には一回タ〜ッとかけてパッて閉じたらもう絶対血液がもれないようにピタッと縫わないと駄目。
コンマ何ミリの間隔でこっから入れてこっから出すっていうのがきちんとできないとうまくいかない。
心臓外科手術に用いられる最も細い糸は0.06ミリ。
ちょっと…。
落ちちゃった見えないでしょう。
見えないね。
あっ本当に見えない。
裸眼じゃ分かんない。
どっかこの辺にあるんだな。
0.06ミリといえば髪の毛よりも細い。
糸は水色らしいのだが…どこにも見えない。
あった!見えないですよ。
ここにいるでしょう?これをつまんで下さい。
ちょっと待って下さい。
縫えるように…。
何でイタリア語になるの。
そうそう。
楽しい。
いやいやいやあなたがやりたいって言ったんじゃない。
という事をやってきたんです。
そうね。
でしょ?もう体によくない事をずっとやってきた。
須磨は36歳の時世界で初めて胃の動脈を使ったバイパス手術を成功させその名を世界に知らしめた。
当時心臓のバイパス手術には足の静脈を使うのが普通だった。
ところが静脈はもろい上不調を起こしやすかった。
須磨は誰も目を付けなかった胃の動脈に着目。
現在では世界的に広く普及している方法だ。
96年46歳の須磨は日本初のバチスタ手術に挑んだ。
当時は心臓移植以外に治療法がないとされていた…バチスタ手術は肥大した心臓の一部を切り取り収縮力を回復させる画期的な方法だった。
手術が無事終わってから7時間余りが過ぎました。
病院では今夜8時から執刀に当たった須磨副院長らが記者会見を行いました。
「手術後に心配されるのは出血と不整脈だがこのまま2〜3日安定した状態が続けば大丈夫だと思う」と話しています。
ところが手術から12日後患者は肺炎を併発し亡くなってしまう。
須磨は「バチスタ手術は時期尚早だったのでは」との批判にさらされた。
この手術を日本で行う事が時期的に早すぎるというふうには思っておりません。
今回の経験を十分に見つめ直してまた次の手術に生かしていきたいと思っています。
3か月後須磨は医師生命を懸けて2度目のバチスタ手術に挑む。
失敗すれば不治の病と宣告された患者を救う道は閉ざされてしまう。
結果は成功。
その後も須磨チームは日本での実績を重ねていく。
須磨先生もこういうのは練習をした訳?しました。
かといって動物で犬を殺してこれも僕絶対やりたくない。
そうすると…だけど本当の人間の血管。
しかも病気になって傷んだ血管に似たぐらいのもろさ薄さのものを使って練習しないと意味がない訳。
雑巾いくら縫ったってこんなもの全然役に立たない。
そういうものあるんですか?いろいろ考えたあげく…ああ。
ティッシュペーパーを縫うんだ。
そう。
こんな細い糸で縫う訳ですけどやっぱり…という事は血管もちぎれちゃう。
これじゃ駄目。
それから…きれいにピッピッピッと並んでないと駄目。
そういうのが自分としてでもねちゃんとできるのって本当は若い頃じゃないんですか。
やっぱり僕の友達なんかで「俺はさ今四十いくつだけど本当に指が回ったのは25ぐらいだよ」とか言うんだけどそういう事ありませんか?2本の腕10本の指がちゃんと動けばできるような器用さなんですよ。
手術で要求されるものっていうのは。
問題はねティッシュペーパーいくらちぎったって何ともないけど…メンタルの問題だな。
おんなじように…そこがやっぱ一番大事で。
やっぱりビギナーは緊張しちゃう訳ですよ。
いっぱい練習してきたはずなのに手が動かない訳。
その辺を…いわゆる外科医の習練ですね。
そういうのってでも性格もありませんか?やっぱり人食っちゃわないとできないでしょ。
だって…思ってやるんですか?思ってやるけども…。
まずいとか感じたら駄目じゃないですか。
大丈夫だって自分は絶対大丈夫だと思って…。
それはもうやる前に自分がやればこの手術はサササササッといってピシッとおしまい。
うまくいった。
やってる途中で「大丈夫だかな」って…。
そう思ったらもう全部駄目。
全く駄目ですね。
だからそういう…須磨は手術の前に必ずイメージトレーニングを行う。
途中で起こりうるトラブルを含めて初めから終わりまで全てイメージする。
手術のために心臓を止める時間が長いほど患者の負担は大きくなる。
須磨の手術時間はほかの外科医の半分といわれた。
もちろんどんな科でも判断力必要だけど…例えば内科の患者さんが来て検査結果と診断がどうも合わんなと。
何か違う病気かもしれないなって。
今日はここまで。
本読んで勉強して明日考えようで間に合う。
ところが…元に戻れない。
「ちょっと待て」と。
みんなにこうするって言ったけどこっちに変えるからね。
「君はこういうふうにしなさい」って…何か失敗…起こるじゃない?何か起こるんだよね。
そん時に失敗と見せないで先に進ませなきゃいけないとか失敗はもう元に戻らない訳だからそこを別の道で通っていかなきゃいけない訳でしょ。
やっぱりどれだけねこうなった時はこうとかこんな事もあるよという…だから一応そのイメージを作った時っていうのは胸を開ける心臓が出てくる目的の血管はここにあるはい見えた切ったつなぐこの糸にしてこうやってはいおしまい。
元気になって帰りました。
こういう起承転結3分ぐらいでザッと思い描けるようになるんだけれども…ない。
この人違う。
ない訳ないんで表に出てないだけなのね。
筋肉や脂肪の中潜ってるかも。
でもそれは…そこで…じゃあこういうふうにして探してみようああいうふうに探しても今までやった中でこの辺にあるはずだって。
やっぱり…じゃあ年取った方がいいんだその点じゃね。
だからおっしゃったように…だけど…だからアスリート的な運動能力と経験値の必要な量が…僕はやっぱり40代50代ですね。
47歳の時須磨は2つの新しい術式を考案する。
一つは…手術中に超音波を使って心筋の状態のいい部分と悪い部分を見極める。
従来のバチスタ手術のように無作為に切り取るのでなく状態の悪い部分を糸で縫い縮めるだけにした。
もう一つはSAVE手術。
特殊な繊維で出来たパッチで間仕切りし肥大した心室の容積を2/3に収縮させる。
これにより手術成功率は90%を超えた。
SAVE手術は海外でもSUMA手術として知られている。
相当違うなって思ったのは僕指揮者だけど…そこで何をやんなきゃいけないか何をやっちゃいけないかっていうのはその先生にとって正しい事がこの井上という指揮者にとっては毒だったりする事もあるんですよね。
アートってそういう事あってね。
だから何て言うのかな…。
すごく…1匹オオカミって言ったらかっこいいんだけど非常にもうひとりぼっちでさどうにもなんないの。
もう全然…外科医はその点ね別に似たような手術であってもきちんと手術して患者さん助かればそれでいい訳ですけども…。
ただまあやっぱり…今この病気には手術はできないとかあるいはこの手術をやるんだけどもリスクは相当高いっていうのを…すごいねそれ。
それはちょっと指揮者と似てる。
何しろそういうのを…オーラなんかじゃないんだけどね。
それはオーラって何かこの辺にピカピカするもんじゃなくて本当にいろんなところから経験だとか…ああ何ていう言葉で言っていいのか分かんないけど知識いろんな本を読む。
実際に…それって教えられないんですよ。
でもやっぱり音楽会のいいのは初めと終わりがはっきりしてる。
でも先生の場合は生きて終わっちゃったら失敗だから大変だな。
終わったら困るんですよね。
本当にこればっかりはね。
だけどねだけど…だからなぜかというと心臓は止まってる間にどんどん弱っていく訳でやる事やったけどもその時間に耐えられなかったっていう事もあるしせっかく心臓元気になったのに脳梗塞起こしました肺炎になりましたってある訳でしょ。
そんなのストレスだとか言ってられないでしょう。
言ってられないでしょ。
そういうのどうするんですか?どうやって切り替えるの?問題はねその日の手術予定が全部終わりました。
明日の手術もこんだけありますっていう時の…これがグジャグジャグジャグジャ手術の場面が出てくるんですよ。
「あそこああやっときゃよかった」とか…。
「もっとこうしよう」とか…。
「何でああなっちゃった」とか。
終わんない訳。
それやると今度…ああ駄目ですね。
やっぱり…次の…。
うん。
あれは昨日やった手術は「あそこもっとこうしたらよかったな」とかね「今度こうしてみよう」とかねもう手術の場面がバ〜ッと出てくるから何も聴いてませんごめんなさい。
本当に…手術漬けになってた頃はね。
演奏悪いんだよ。
持っていかなきゃやっぱり。
ガバッとつかんで持ってってくれるんでしょうけどねなかなかいつでもそういうのに出会えるとは限らない…。
切り替えようと思った時に何するかっていうと…要するに下ごしらえして…。
切る?それから煮たり焼いたりする順番があって…ネギ切りながら次何しようかなって料理にならないじゃない。
そうですね。
何を作るか決めておかないと。
だから結局…そうだね。
何かほかのものに集中する事ですね。
5,000例を超える心臓外科手術を手がけてきた須磨。
命懸けの手術に臨む患者に接してきて強く思う事があるという。
ありがとうございました。
いろんな患者さん診てきましたけどね…手術室から出て麻酔から覚めて…それから実際退院していく時の…だからもちろん病気にならないに越した事はないけれども…それと対面して…やっぱり何か…また次の人生に歩み始めるような人たちを随分たくさん見ましたからね。
道義さんも…聞かれたくないな…。
延長線?前の続き?だっていつか死ぬじゃないですか。
…でいつ死んでもいいと思ってるからね。
あなただって絶対そうだったと思う。
だから病院行ってあんなつらい治療を受けた。
いや…。
何言ってるの?いや俺は…治らないっていうんだったら全然何もしなかったと思う。
治りたかった訳でしょう?可能性があるって言われたから治りたいと。
可能性がないんだったら痛い目に遭いたくないもん。
(笑い声)井上道義は今オペラの作曲に挑んでいる。
タイトルは「太郎」。
今は亡きある人物に生前伝えきれなかった思いを伝えるための作品だという。
葉巻が好きな人でした。
アメリカ生まれの日本人で戦中戦後の激動の時代を生きた。
このオペラを上演するまでは死ねない。
井上は全力で作曲に向かっている。
一方須磨久善は講演のために飛び回っている。
この日は母校の私立高校を訪れた。
これは誰も助けてくれない。
友達が手引っ張って「行こう」って言ってくれない。
須磨に接して医師を目指そうと決めた生徒は全国にいる。
命を預かる仕事の責任とやりがいを伝えていく。
2015/12/10(木) 00:00〜01:00
NHKEテレ1大阪
SWITCHインタビュー 達人達(たち)「井上道義×須磨久善」[字][再]
「クラシック界の異端児」指揮者の井上道義と「神の手を持つ心臓外科医」須磨久善。オーケストラとチーム・バチスタを率いる二人が明かすアートと医療の意外な舞台裏とは?
詳細情報
番組内容
スキンヘッドの強烈なキャラクターと型破りな企画力で知られる井上。実は楽団員に一声かけるにも、極めて繊細に気を遣っていると明かす。世界が認めるマエストロのコミュニケーション術とは?いっぽう40か国で5千例、世界初・日本初の心臓外科手術を次々手がけてきた須磨。肉眼では見えないほど細い糸でティッシュペーパー並みにもろい血管を縫うような作業を何万時間と続ける。ぎりぎりの命の現場から見えてくる真実とは?
出演者
【出演】指揮者…井上道義,心臓外科医…須磨久善,【語り】吉田羊,六角精児
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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