東京で年に1度開かれる移住相談のイベントです。
ことしは過去最高の1万人を超える人たちでにぎわいました。
今、都会から地方へ移住している人の数が増えています。
全国の自治体に去年1年間の移住者の数を尋ねたところ1万人を超えていたことが分かりました。
おいしい。
特に目立つのは若い世代の移住者。
年収はダウンしても生活の質はより豊かにできると考えています。
こうした中、地方で今大きな注目を集めているのが移住1%戦略です。
移住者を今より僅かに増やすだけで地域生き残りの有効な手だてになるというのです。
若者の移住は地方を救うことができるのか。
その可能性を考えます。
こんばんは「クローズアップ現代」です。
人口減少に悩む自治体は今、競い合うように移住者の獲得を目指しています。
ことし、日本創成会議はご覧の青で示した全自治体のおよそ半分に当たる896の市区町村を今後、人口が減り存続が危ぶまれる消滅可能性都市としました。
国は人口減少に対する対策など地方創生のために使える新たな予算として、1兆円を設け地方自治体に今後の人口の展望人口ビジョンと総合戦略を取りまとめるよう求めていますが人口を増やす効果的な対策は容易には見つからないのが現状です。
働く場所はあるのか。
都会から地方に移住すると収入が減ってしまう。
濃密な人間関係の中で暮らしたくないなど地方への移住に二の足を踏んでしまう要因が少なくないと見られているのですがこの数年、実際には地方移住の静かなうねりが起きています。
明治大学とNHKなどが調べたところによりますと地方に移住した人の総数はこのところ右肩上がり。
2009年度に2800人余りでしたが2014年度に1万人を超えています。
転勤、結婚、進学といった理由ではなく空き家バンクや移住支援制度を利用するなどして定住目的で県外から移り住んだ人が右肩上がりで増える傾向を見せているわけですけれども特に移住者の人数が多いのが岡山県、鳥取県、長野県島根県や岐阜県です。
地方移住といえば、退職後ゆっくりと老後を過ごすシニア世代のイメージがありますが今、増えているのが20代から40代の家族連れの働き盛りの若い世代の移住です。
若い世代は何を魅力に感じて地方に向かうのか。
移住の実態からご覧ください。
地方移住を支援するNPOです。
数年前から、40代までの若い世代の相談が増え始め今では半数以上を占めています。
相談で必ず伝えているのが移住後の収入面です。
移住者に行ったアンケートによると60%以上の人が移住後に収入が減ったと回答。
さらに、年収300万円以下で暮らしている人が半数以上いることが分かっています。
収入減などのリスクを承知で地方での生活を始めようとする人が増えているのです。
2009年から14年までの6年間の累計で移住者の数は全国で3万7000人に達していることが分かりました。
その中で最も多かったのが人口57万人の鳥取県。
移住者の数は、6年間で4000人を超えていました。
鳥取が移住者の人気を呼んでいるのはなぜなのか。
ことし4月、東京から鳥取市に移住してきた石垣さん夫妻です。
石垣さんはIT企業のシステムエンジニア美和さんはアパレル。
共に正社員の立場を捨て鳥取への移住を決断しました。
もちろん最大の心配は収入面でした。
実際、鳥取に移り住むと収入は東京と比べ大幅に減りました。
しかし、日常生活に全く支障はないといいます。
家賃は東京の半分近くで済む一方で間取りは2LDKの広さを確保できるようになりました。
いただきます。
直売所で安く新鮮な食材が手に入るため食生活を楽しみながら食費も減りました。
石垣さんは地元IT企業に再就職し美和さんも同じ会社でパートで働いています。
やりがいは東京と遜色ないといいます。
移住して8か月。
意外なことに、貯金が東京時代を上回る月も出ています。
先月は…。
では、生涯で比べるとどうなるのか。
2人はファイナンシャルプランナーに試算をしてもらいました。
子どもは3人作り、大学まで入れマイホームはローンを組んで40歳で購入することを考えている石垣さん。
最初は、東京のほうが年収が高いため貯蓄も鳥取を上回ります。
その後、貯蓄額は鳥取のほうが高くなっていきます。
これは住宅ローンの額が東京と比べ低く抑えられているからです。
ローンを終える65歳。
貯蓄は鳥取が東京を上回りそれが生涯にわたり続きます。
鳥取県と東京都の平均で比べても同じ傾向になるとしています。
そもそも2人が移住に求めたのはお金に換算できないもの暮らしやすさです。
しかし、暮らしやすさには通勤時間、子育て環境緑の豊かさなどさまざまな指標があるため一律には比較できません。
そこで国が移住を検討している人向けに開発したプログラムをもとに異なる指標をお金に置き換え評価してみることにしました。
例えば、通勤時間の場合です。
通勤時間が異なる複数の住宅を想定し、それにどれくらい支払う価値があるのか尋ねます。
これを1万人に行い通勤時間の価値を金額に置き換えるのです。
石垣さんは東京では1時間かけて電車通勤していましたが今では車で15分です。
鳥取と東京の平均の通勤時間をお金に換算すると鳥取のほうが月2万円以上価値が高くなりました。
自然環境も鳥取のほうが2万円以上価値が高くなりました。
子育て環境も待機児童率が低いため4000円以上高い価値が出ました。
利便性については東京に劣るものの総合評価で比べると鳥取のほうが3万円以上価値が高くなりました。
鳥取の暮らしやすさは全国でもトップクラスという結果がはじき出されています。
都会から移り住んだ移住者がさらに移住者を呼び込む循環を作り出した町もあります。
6年間で370人余りが移り住んだ徳島県。
その3分の1を占めているのが神山町です。
町にことし7月新たな宿泊施設がオープンしました。
オーナーは東京からの移住者です。
調理人を募集したところ県外から飲食業に携わってきた2人の女性が、シェフとして移り住んできました。
町では、新たな施設や店が誕生するたびに移住者を呼び込みそれがまた新たな需要を生んでいます。
以前は若い世代が利用できる飲食店がなかった商店街。
そこに、東京からの移住者がフランス料理店をオープンさせました。
今ではすっかり地元のお年寄りも常連です。
町は多様ななりわいを持つ人たちであふれ以前にはなかった活気が生まれています。
お店を訪れたお客さんがついでに隣の店をのぞき欲しいものがあれば買い物をする。
そんな地域を巡る需要の輪が生まれつつあります。
今夜のゲストは、過疎や農村の問題、そして地方移住の政策にお詳しい、明治大学農学部教授、小田切徳美さんをお迎えしています。
移住者が移住者を呼ぶ、そういういい循環が生まれる地域まで生まれているということで、この地方移住のトレンドが見えてきた。
ただ、一極集中が強まっていたのではないですか?
そうなんですね。
東京圏の一極集中は、確かに強まっているんですね。
具体的な数字を挙げますと、昨年の数字で東京圏への流入超過は11万人。
先ほどのNHKと明治大学の調査では1万人ということでした。
しかし、5年間で4倍になっている。
つまり、5年後には4万人になる可能性がある。
そうすると、この11万と4万という数字は、もちろん数は少ないんですが、しかし、ある程度評価することはできますね。
ー具体的に、今、VTRでは暮らしやすさを求めた若い夫婦の方が紹介されていたんですけれども、どういった理由で、どんな人たちが、地方に移住してるんですか?
少し前までの若者の移住というのは、実は単身の男性がほとんどでした。
所がですね、最近の傾向として、1つは、家族単位で、先ほどの石垣さんのように夫婦であったり、あるいは子連れであったり、そういう特徴があります。
それからもう一つは、それに伴って女性の比率が増えているんですね。
それから、移住者がなぜ移住するのかということなんですが、それは非常に多様です。
子育て環境がやはりいいからというですね、そういう理由もあります。
しかし一方では、農山村に対して地域貢献をしたいという、そんな理由もあります。
さらに、非正規雇用の中で東京で疲れてしまった、そういう方もいらっしゃいますね。
ただ、一極集中が東京で一極集中が強まっている理由としては、地方に仕事がないからという理由が大きいかと思うんですけれども、移住者にとって、仕事を探すのは、やはり難しいんではありませんか。
そうですね。
こういった動き、私どもは、田園回帰というふうに呼んでるんですが、この田園回帰には、3つのハードルがあるというふうに言われております。
1つは、濃密過ぎるコミュニティーの問題、それから2つは、空き家がなかなか流動化しないという問題、そして3つが、今おっしゃった仕事の問題があります。
ただこの仕事の問題も、ハードルが徐々に下がっているというのが、実態ですね。
と申しますのは、先ほどのカップルのように、2人で就業する、就業というパターンがあるんですが、それとは別に、業を起こす、起業ということもあります。
そしてごく最近では、それに加えて継業、業をつなぐ、これは農山村の中では、廃れてしまった仕事を、それをつないでいくという、そういうパターンが生まれてきまして。
それは後継者がいない。
そうなんですね。
需要はあるけど、後継者がいないことによって、供給できないような、そういう産業や行事に関わりを持つということですね。
それでもやはり収入が都会よりは減ることは覚悟しなければならない?
そうですね。
収入はもちろん下がるんですが、しかし一方では、移住者の中には決して多くはない、恐らく3割、4割だというふうに思うんですが、例えば60万円の仕事、これは月当たり5万円という意味なんですが、それを5つ集めて、夫婦で暮らす。
そんななりわいとか多業化という、そんなパターンも出てきてますね。
それは具体的には、農業?
そうですね、農業であったり、役場の非常勤の勤務であったり、あるいは自分で作り上げようとしている自営業であったり、そういうものを寄せ集めて暮らすという考え方ですね。
さあ、この人口減少、食い止めたいと考えている自治体は数多くあります。
続いてご覧いただきますのは、自治体関係者から注目を集めています、移住1%戦略です。
島根県の山あいにある人口1万1000人の邑南町です。
町は定住促進策を進め人口減少を食い止めようとしています。
そうした地区の一つ人口900人の出羽地区です。
住民は効果的な打開策を模索しています。
そこで相談を持ちかけたのが過疎対策についての研究を行う藤山さんです。
提唱しているのが移住1%戦略。
地区の人口の1%ほどの移住者を呼び込めば、企業誘致や特産品の開発に頼る必要はないというのです。
藤山さんが注目しているのは若い世代を中心にした僅かな移住者たちです。
3年前に農業を営むために夫婦が移住してきました。
ことし、女の子も生まれました。
中には20代の若者も移住しています。
この土地で結婚し家族を持つのが夢です。
出羽地区に2010年からの5年間で移住してきたのは11人。
年に2人のペースです。
しかし、このペースでは30年後の人口は大きく減ってしまいます。
地区を維持するために必要な移住者はあと何人いればよいのか。
藤山さんは、出生率や高齢化率などをもとに必要な数の移住者をシミュレーションしました。
すると、あと必要なのは人口の0.78%人数にすると7人でした。
毎年7人が定住しその中の若い世代が子どもを産めば将来、人口減少を食い止められることが分かりました。
住民は地区の維持に必要な移住者の具体的な数を、この日初めて知ることができました。
地区では人口の1%を呼び込むという明確な目標が掲げられ対策が講じられています。
就農を希望する移住者には後継者がいない農地を提供することにしました。
来年、就農が決まっている2人の20代の移住者には地区の人たちが支援を続けます。
移住者のための住まいの確保についても毎年2軒のペースで住居が必要になると見積もりました。
空き家を活用できないか検討しています。
地区を出た20代から30代に地元へ帰る意思がないか尋ねています。
人口減少を食い止められる具体的な数字が提示されたことによって、何か皆さん、勇気づけられたようだったんですけれども、1%で、本当に大丈夫なんですか?
そうですね。
この藤山さんによる田園回帰1%戦略というのは、地域の大きな光ですね。
一つはやはり、具体的な目標が提示されているということ。
こういうレベルになると、実は人口ではなく、固有名詞で勝負できますよね。
それから2番目には、実は1%ずつ積み上げていくと、現実のシミュレーションの結果、10年後には高齢化率はピークアウトして下がっていくと、その結果が出てますね。
そうすると、具体的にファミリーの方々を毎年呼び寄せることで、人口が増える層を増やしていくということですね?
そういうことですね。
高齢化によって、高齢者がかなり地域の中にいらっしゃいます。
そういう方は、だんだんだんだん亡くなっていくわけなんですが、問題は若い人をどのように再生産していくのか。
しかし、一挙に再生産してしまうと、また移住バブルが起こってしまいます。
それを1%ずつ地道に積み上げる、そんなことを藤山理論は教えてくれてますね。
冒頭でご紹介しましたように、地方移住者を多く集めている自治体と、そうでない自治体、かなり差があるようですけれども、成功している自治体では、どういう特徴がありますか?
実は、この点について、私たちは、地域磨きが移住者を呼ぶということを言っております。
この地域磨きというのは、先ほどの邑南町の出羽地区のように、小さなコミュニティーで小さな自分たちの困り事を解決していくという、あるいは新しい産業を起こして、お金の循環を作っていく、これが地域磨きなんですが、実は移住者は、そういったところに入っていくんですね。
困り事といいますと、具体的にどういうものなんですか?
例えば、農山村では今、商店がなくなるという傾向があります。
あるいはさらに言えば、生活交通が大変不便になってきてますね。
この困り事について、例えばコミュニティーが生活交通を運営するとか、中には、コミュニティーが商店を運営している、そんな所も出てますね。
そうした地域を磨いてきたところに、移住者が引き寄せられるということですけれども、いろんな方々と話されて、何がその決め手になったと、皆さん、語られるんでしょうか。
実は、移住者の方々が異口同音に、人だというふうに言うんですね。
この人っていう意味は多様です。
例えばお世話をしてくれた地域コーディネーターの方とか、あるいは移住者の先輩だったり、あるいは見守ってくれた集落のご老人だったり、いずれにしても、ああいう人がいるから、この地域に行くんだということで、引き寄せられていく、そういうパターンがあるようですね。
今、総合戦略を皆さん、自治体は作成しているわけですけども、どういうことを大事に、総合戦略を作るべきだとお考えですか?
そうですね、総合戦略は市町村単位で現在、作られています。
しかし、もっと重要なのは、コミュニティー単位でのビジョン作りです。
このコミュニティー単位でのビジョンを作って、地域を磨いて、磨いていく、そのことによって、そこに移住者が入ってそして移住者と共に、地域を作り上げることが可能になると思いますね。
2015/12/09(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“移住1%戦略”は地方を救えるか」[字]
今、急増する若者層の地方移住。暮らしやすさを徹底比較すると共に、移住者が人口の1%分増えれば高齢化や人口減少を食い止められる新戦略を導入した町の取り組みを追う。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】明治大学教授…小田切徳美,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】明治大学教授…小田切徳美,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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