(黒田)いつもと違った視点で物理を考える。
今回は…お話頂くのは結城千代子先生です。
先生よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
波は波動ともいいますけれども遠くの方まで振動が伝わっていく現象ですね。
エネルギーが伝わっていくというのを習ったと思いますけれどもお二人はどのような波をまず思い出しますか?海岸にザザ〜ンって打ち寄せる波とか。
そうだね。
あと音も波だったよね。
ああうんうん。
そうですね。
音とかそれから水の波。
これらは両方とも波という現象で考えられます。
ほかにも光も波と考える事ができるんです。
紫外線とか赤外線とか可視光線といったこれらは全て電磁波という波なんですね。
こういった光や音やそれから地震などの波を全て一括して波動という現象として捉える事ができるようになったのは19世紀末から20世紀ぐらいになってからの事です。
ですので今日はそれを踏まえてまず音楽とそれから音の正体の追求の歴史。
更に光の正体の追求の歴史。
最後に地震の研究の歴史についてお話ししたいと思います。
音を特徴づけるものとして熊谷君何がありましたか?そのとおりですね。
音はどうやったら大きくなるかとかそれからいろんな楽器によって音色がすごく違うとか更には音の高低はどうやったら作れるか。
そういったような事はもう経験的に蓄積されていったんではないかなと思います。
現在で使われている音階とかハーモニーといった考えがもうこのころに登場しています。
三平方の定理で知られるのが古代ギリシャの数学者…音楽理論家でもあったピタゴラスは音の高さと1本の弦の長さの関係を解明した。
ピタゴラスは「万物の根源は数である」と考えた人なんです。
そして例えば……で表せると考えたんです。
弦が短ければ音が高い訳ですが弦がだんだん長くなると音は低くなりますね。
で例えば高いドと低いドこの間では高いドを1とすると低いドの弦の長さは2である。
高いドと低いファこれは2対3で表せて高いドと低いソは3対4で表せるというふうな非常に簡単な比で弦の長さの比で音の高さを表現できたんです。
そもそも音の正体っていうのはいつごろ分かったんですか?これはいつごろとはちょっと言いにくいんですけれども少なくとも16世紀から17世紀ごろのヨーロッパでは音の音源が揺れると音が耳に伝わってきて音が来たっていうふうに分かるとかそれから音源の揺れが非常に速くて細かいと高い音になるなんていうような事は例えばガリレオを含めた科学者たちは認識していたようなんです。
このころそれでも音はまだ波動という統一された理論ではなくて音としての興味の延長線上だったんですが17世紀になって音を伝える媒質についての研究が盛んになってきます。
アイルランド出身の貴族で物理学者発明家として知られる…ボイルは真空の瓶の中でベルを鳴らすとその音が聞き取れない事を実験で示した。
その実験って前にやったよね。
ねえやったね。
そうですね。
空気が薄いと聞こえずに空気が入っていると音が聞こえました。
これは音源から出た振動が空気を伝わっていく。
空気が媒質であるという事を確かめた訳です。
このように音を伝える媒質の存在が分かってきて少しずつ波的な理解がなされるんですけれどもやはりこれは音に対する追求にすぎなかったんですね。
ところで音の波形がコンピューターなどで見るとギザギザの波になってんのは知ってますよね。
(2人)はい。
これは今は当たり前なんですけれども実は19世紀の中頃に音の波形を記録する事これを気が付いた人がいるんです。
記録っていう事は録音っていう事ですか?そうなんです。
人は音を記録したかったんだと思います。
そうですよね。
それで音の現象の解明にもつながっていく訳なんですけれども。
1857年にフランスの発明家のスコットという人がフォノトグラフという音を記録できる機械を考えつくんです。
これは煙で紙を黒くしましてそこを音声の振動に沿ってひっかいていってそして波の形で音を記録するというものだったんですね。
ただこれは記録だけで再生はできなかったんです。
あぁ〜残念。
その20年後に今度は再生ができる機械が考えつきます。
これが日本でいうところの蓄音機。
これを考えついた人は発明王と呼ばれた…。
あっ発明王。
エジソンか。
うん。
そうです。
アメリカの発明家…1877年エジソンはフォノトグラフを改良し再生可能な録音装置を開発。
実用化に成功した事から「蓄音機の発明家エジソン」といわれるようになった。
お二人はキーボードこれからいろんな楽器の音が出せんのはご存じですね?
(2人)はい。
これは楽器が出す音の波形が非常に詳しく分かっているからなんですけれども実は楽器の出す波形はとても複雑なんですが複雑な波形を非常に基本的な音叉が出すようなきれいな正弦波それをいろんな正弦波の組み合わせでできているという事を解明した人がいるんです。
その人とはフランスの数学者…フーリエはどんなに複雑な波でも単純な正弦波に分解する事のできる方法フーリエ解析を見いだした。
習いましたね?
(2人)はい。
フーリエ解析を使うと今度はその逆に非常に複雑な波が基本の正弦波や更にはその倍音の組み合わせでできている事を見つけ出す事ができるんです。
これによって音の波も地震の波もあらゆる複雑な波がですねどんな波でできているか基本の波の組み合わせの形が分かるようになりました。
今度はもう一つ音の反射の興味深いお話をしたいと思います。
中世の頃にイタリアのシチリアにある教会で奇妙な出来事が起こるんですね。
(2人)はい。
キリスト教では自分の犯した罪を神の前で告白して許しを請うんですけれどもこの話を聞くのは神父だけなんです。
ある時神父が話を聞いているとなんと75mも離れた席そこでこの話が聞こえてしまったんです。
そんなに離れてるのに。
そうなんです。
秘密の話が聞こえてしまってスキャンダルになるんですけれども…。
そうですね。
何でそんな事んなっちゃったか分かりますか?え〜?何でだろう…。
ヒントはこの教会の設計つまり形とそれから今は音の反射の話をしていたっていう事です。
音の反射だから…音が反射して別の所に集まったって事ですか?そのとおりなんです。
この教会は実は楕円形の形をしていたんです。
それが原因だったんです。
このように音が1か所に集まってしまうようなのをささやき回廊というんです。
音の反射が原因なんですね。
先生これは実験装置か何かですか?はい。
まずこの装置の形何に見えますか?この放物面の形は。
放物面はパラボラみたいだよね。
うん。
そうですね。
パラボラアンテナ型の反射面です。
反射で音が遠くまで届く代表的な例として今日は身近な材料で作ってみました。
はい。
実験材料は……を用意する。
まず発泡スチロールの板を放物面になるように切り取り同じものを12個作っておく。
次に切り取った発泡スチロールをベニヤ板の上に放射状に接着していく。
最後はその上に紙を張りラッカーなどで固めれば出来上がり。
早速実験してみましょう。
今私と熊谷君は10m離れて立っています。
ではまず装置を使わずに何かささやいてみて下さい。
はい分かりました。
(ささやき声)熊谷君聞こえた?え?もうしゃべってたの?今度は装置の前でやってみましょう。
熊谷君の前にもパラボラ型の装置が置いてあります。
ではお二人ともお願いします。
(黒田熊谷)はい。
じゃあいくよ。
うん。
(ささやき声)おっ聞こえた。
(ささやき声)「隣の客はよく柿食う客だ」だね。
お〜すごい。
当たってる。
(ブツリン)じゃあ今度はマイクをセットしオシロスコープにつないでどれくらい聞こえるか確かめてみよう。
(ささやき声で)「隣の客はよく柿食う客だ」。
(ささやき声で)「隣の客はよく柿食う客だ」。
(ささやき声で)「隣の客はよく柿食う客だ」。
はっきりと聞こえました。
ところで有彩さん装置を使わなかった時は何て言ってたの?ああ…な〜いしょ。
え?先生これは音が反射して届いたっていう事ですよね。
そのとおりです。
実はこのパラボラは真ん中から少し離れた所に反射した音が集まる焦点という場所があるんですね。
またこの焦点から出た音はパラボラで反射して平行にずっと進んでいきます。
そして反対側のパラボラでぶつかってもう一度焦点に集まるんです。
ですからささやき声が熊谷君の耳の所にもう一度集まって聞こえた訳です。
ほかにもこのような楕円の構造物とかそれから円形のドームの内側などでもこうやって反射して次々に来た音が1か所で集まる場所ができてきます。
そこで音が集まってしまって遠くの音がかすかな音でも聞こえるというのがささやき回廊の原因だった訳ですね。
このような反射とか屈折という現象が19世紀の後半から改めて注目されてきてその研究が進んでいきます。
その結果音が音源で出た振動がエネルギーとなって媒質を伝わって遠くまで行けると。
この波の性質を見いだせるというようになったんです。
光は波の一つだとお話ししましたが高校の物理では光のお話は基礎が終わってから学習する事になっています。
ですので今日は身近な自然現象から光の性質これを追求したお話をしたいと思います。
はい。
2人は虹を見た事がありますか?もちろんあります。
あります。
虹の7色を2人は言えますか?…の7色ですね。
そうですね。
その7色です。
なぜこのような現象が起こるか説明して頂けますか?あっ…。
それが私たちの目に届いてるんですよね。
そのとおりです。
光はいろんな色を含んでいる訳なんですけれども白い色の光がいろいろな色に分かれる。
これを実験で確認した人がいるんですけれども誰か分かりますか?誰だろう。
誰だろうね。
「力学ものがたり」で活躍したニュートンです。
あっニュートン。
出た。
運動の3つの法則で知られるイギリスの物理学者…1666年ニュートンは太陽の光や白色光をプリズムに通して実験を行った。
そして光は色によって屈折率が異なりさまざまな色のスペクトルに分解される事を確かめ色の数を7色とした。
先生光が波だっていう考え方はニュートンが考え出したんですか?え〜違うんですね。
ニュートンは実は光は実体のある粒子だと考えてたんです。
ですから光がまっすぐ進む性質とか反射する性質こういうものが粒子だととても上手に説明できたのです。
でも光の正体がはっきり言えた訳ではないですしまたこの粒子の考えでは説明できない現象もたくさんあったんですね。
そこでニュートンと同じぐらいの時代の時に光が波である波動であるというふうに主張した人がいました。
土星の環の発見者として知られるのがオランダの物理学者…1690年ホイヘンスの原理を発表し光の波動説を主張した。
ホイヘンスは目に見えない光を伝える物質があると考えたんですね。
そして光が波のように伝わっていくと考えました。
それで説明すると粒子で説明できなかったものが非常にうまく説明できたんです。
そういう議論が粒子説と波動説との間で戦わされていくんですが1800年になって赤外線が発見されます。
その翌年紫外線が発見される。
そして19世紀の中頃になるとイギリスの物理学者のマクスウェルという人が電磁波という理論を発表するんです。
つまり可視光線もそれから赤外線も紫外線も更には電波も同じ一つの波として説明できるというふうに述べたんですね。
ところがその一方で今度は光を粒子として説明しないと説明のできない現象も出てきてしまったんです。
それでついに20世紀の初めになるんですがアインシュタインが光は粒子と波動の両方の性質を持っているという理論を発表します。
現代では光は波動と粒子の両方の性質を併せ持ったものとして説明されています。
地震の原因に生き物が関係してるって聞いた事ありませんか?
(2人)は?あっそれってナマズですか?そうなんです。
1855年に江戸の町を非常に大きな地震が襲います。
安政の大地震っていうんですけれども。
このあとナマズの事を風刺した鯰絵という浮世絵がたくさん作られるんですね。
(2人)へえ〜。
地震とナマズの言い伝えを基にさまざまなモチーフで被害の様子や地震後の世相について描かれた鯰絵。
破壊者としてのナマズや世直し救いの神として感謝されたものまである。
ユーモアのあるものが多く人々の心の慰めに役立ったと考えられている。
やっぱり…実は明治時代の頃のヨーロッパの方でもまだ地震の研究はそれほど進んでいません。
というのも近代科学が進んでいるヨーロッパにおいては地震はほとんどなかったんですね。
あっそっか。
むしろ明治時代になって特にヨーロッパからたくさんの科学者や技術者の人を日本の指導のために呼ぶんです。
その人たちが日本の地震の多さに驚いて研究を進めて日本人たちを巻き込んで日本の地震学の基礎ができていくんですね。
また地震計も優れたものがどんどん開発されていって地震の揺れを波の形で記録できるようになっていったんです。
イギリスの地質学者だったジョン・ミルンは来日したその日に初めて地震を経験しました。
日本の地震の多さに興味を持ったミルンは地震について科学的な研究を進めていきます。
ミルンは地震の頻度や大きさ振動の幅と方角時刻などの正確なデータを集めるために地震計を開発していきます。
やがて日本人の中から地震の研究者が現れ地震計を改良開発するようになります。
こうして地震は岩盤のずれなどで生じた振動のエネルギーが岩石や土を媒質として伝わる「波」と理解されていくのです。
音も光も地震もそれからもちろん海の波なども人類はさまざまなこういった波についての経験を積み重ねていって波動という一つの理論で一見全く違った現象をまとめて説明できるようになった訳です。
この統一的な理論を基にして今度は逆に再び音ならば例えば音声認識とか光ならばレーザーの利用とかさまざまに生活を豊かにしていく研究が深まっていった訳ですね。
地震の分野でも予知やそれから振動をもっと軽減するなどといった研究が今後どんどん進んでいくかもしれませんね。
2015/12/09(水) 14:20〜14:40
NHKEテレ1大阪
NHK高校講座 物理基礎「“波”ものがたり」[字]
音や光そして地震の波は、それぞれ別の形で研究され、最終的には波動の現象としてとらえられることになる探求の歴史を追う。ポイントは音の波、光の波、地震の波の3つ。
詳細情報
番組内容
音楽と音の正体追求の歴史は、古代ギリシャの時代に始まる。17世紀には、真空の中では音は伝わらないことも分かった。一方、光の正体追求の歴史は、光は粒子だという説と音と同じに波だという説の論争の末、20世紀にアインシュタインが、光は波動と粒子の両方の性質を持つと主張。日本では明治期以降、地震の研究が盛んに行われた。今回、「波」に注目して研究の足跡をたどる。【講師】結城千代子(サイエンスライター)
出演者
【講師】サイエンスライター…結城千代子,【司会】黒田有彩,熊谷知博
ジャンル :
趣味/教育 – 中学生・高校生
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趣味/教育 – 生涯教育・資格
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