新日本プロレス社長に訊く! 失われた人気を取り戻すヒント【後編・サッカー界はこう変えろ!】
●インタビュー=小松春生
1970年代から1990年代まで、日本のスポーツ、エンターテインメント界をけん引する団体の一つであった新日本プロレス。しかし、2000年代に入るとファン離れや経営の悪化が叫ばれ、低迷期に入ってしまった。
転機となったのは2012年、当時ユークスの子会社となっていた新日本プロレスを、カードゲームの製作・販売などを行うブシロードが買収したことだった。当初は懐疑的な目も向けられていたが、巧みな広報戦略やリング上での試合の充実を図るなどして、人気や動員が復活。現在は「プ女子」(プロレス好き女子)などという言葉も、いろいろなメディアで目にするようになるなど、プロレスの世間の認知度が回復した。
Jリーグに目を向けると2015年はリーグ戦の観客動員が900万人を超えたことが発表されるなど、少しずつ活況を取り戻しつつあるが、若年層やライト層と呼ばれる部分の取り込みには至っていない。
今回、『サッカーキング』では、業界、企業においての「V字回復」、「再生」のヒントを聞くべく、新日本プロレスの手塚要代表取締役社長にインタビューを敢行。
インタビュー後編となる今回は、日本のサッカー界への提言や、自身がチェアマンになったときの改革案など、スポーツ団体の経営者として、どのように見えているのかを尋ねた。
インタビュー前編『新日本プロレス復活の理由と展望』はコチラ
http://www.soccer-king.jp/sk_column/article/375712.html
どんなに愛してくれているお客様も、そこまで好きでいてくれるわけではないお客様でも、会場に来ればみんな“お客様”
―――日本のサッカーについて、スポーツ団体の経営者としての視点をおうかがいします。ちなみにサッカーは見られますか?
手塚要代表取締役社長(以下、手塚) そんなには見ないですね。経営者としてサッカーのビジネスモデル自体はすごく気になるんですが、関心を持っている人の母数が違いすぎるのであまり参考にならないなと。
Jリーグで気になった話題がありまして、東南アジアの選手を日本に連れてきて、その選手の母国の人が日本のサッカー自体にも興味を持ってくれるという話です。これは我々にとっても参考になるなと。例えば東南アジア出身者をプロレスラーに育てるべく日本に連れてきて、現地のテレビ局にドキュメンタリーでも作ってもらえれば一気に広がると思いました。ただ、プロレスラーになることはなかなか難しい。でもサッカー選手はたくさんいます。だからいいな、と思ったんです。サッカー自体は人気がありますし、やっぱり羨ましいですね。
―――Jリーグは新規のファン獲得に苦しみ、観客の平均年齢が毎年1歳ずつ上昇しています。新日本プロレスも低迷期は新規層獲得に苦しんだ時期があり、木谷高明オーナーも『マニアがジャンルを潰す』という発言をされました。
手塚 『マニアがジャンルを潰す』という発言はマニアが悪いということではなく、マニアに傾倒していく会社がいけない、ということです。マニアと呼ばれる方は、愛のあるお客様なので。プロレスもそうですが、すでにいるファンの方は一見さんお断りかと言えば違います。結論から言うとファンが増えると嬉しいものです。自分たちの好きなものをたくさんの人が好きになれば、「ありがとう」と感謝の気持ちを感じるものです。「にわかファンが増えた」と思う方もいるかと思いますが、でもファンが増えることで会社が潤えばもっと派手なこともできるし、もっと面白いこともできる。最終的には「自分の大好きなことが盛り上がって嬉しいな」で終わるんです。
だから、やってはいけないことは、マニアと言われる方に見向きもされなくなったら恐いと思って、迎合しようと運営する側がそういう人たちにしか向き合わなくなることです。
Jリーグではサポーターとチームが話し合いの場を持つこともあるという話を聞くこともありますが、なぜ話し合いをするのかわからないですね。なぜ声を聞かなければいけないのかと。どんなに愛してくれているお客様も、そこまで好きでいてくれるわけではないお客様でも、会場に来ればみんな“お客様”です。全ての方に対して平等に接するのであれば、なぜ一部の方の声を聞かなければいけないのでしょうか。もちろん、クレームは真摯に受け止めます。ご意見をいただくことはありがたいですが、そこで話し合いをする必要はあるのかなとは思います。
出向という立場だが、様々なことを試さないといけない
―――クラブの考え方で違いは出ます。
手塚 僕はブシロードから出向している立場ですが、新日本プロレスの人間となった以上は何が一番かと言ったら、波風を立てないことではなく、結果を残すしかないと思っています。様々なことを試さないといけないですね。
親会社がどういうつもりで出向させているかにもよりますが、会社としては利益を出さなければいけない。その利益を出すためには、いろいろなことを考えなければいけなくて。自分の給料や将来を気にしている人間がトップにいるのであれば、そんな会社はすぐ終わってしまいますし、お客様に対して失礼なことです。
お客様がお金を払う価値を見出したいのであれば、会社側も真剣に向き合わなければいけません。だから、意見を聞くことは必要だと思いますが、話し合いをする必要はなく、意見を聞いた上で吟味して、そこから何をやろうか考えなければなりません。それはどのお客様に対してやることなのか、一部に偏っていないのかを吟味しながらやっています。もちろん、お金をたくさん払ってくれる、毎回足を運んでくれるコアなお客様に対して、何かをやることは悪いことではありません。我々もファンクラブ向けのイベントもやります。でも、ファンクラブ向けではないイベントもやります。それは『ファンクラブに入らないとイベントに参加できない』と思ってほしくないからです。
ただ、やりすぎるとファンクラブに入っている方からすれば『高いお金を払って入っているのに』と思ってしまうので、そこの線引きは大事ですね。
―――多方面の意見を聞くことによって、それぞれが今何を考えているのかわかりますね。
手塚 偏らないように意見を聞くことやアンケートを取ることもあります。直接ご意見を聞く機会はなかなかないですが、集客状況を見ながらやっています。
ネットで動画を見てテレビを見なくなった世代に刺さることを考えなければ
―――ちなみに若いファンは増えていますか?
手塚 両親につれられる形で小・中学生は結構来ていただけるようになりました。ただ10代後半から20代はまだまだ少ないですね。
―――その少ない層を獲得する施策はしていますか?
手塚 やはりYouTubeなどの動画配信になると思っています。要は見せるやり方ですね。インターネットで動画を見るようになり、テレビをあまり見なくなった世代なので、そういう子たちに刺さることを考えなければなりません。インターネット配信のビジネスもやっているので、その広告を出すこともしています。とにかく目に触れる機会を増やそうと。あとは、雑誌へのアプローチもしています。とにかく取り上げてもらうように努力しています。
目に触れてもらえれば話題になります。漫画もやりたいですね。少年誌で連載があるといいなと思います。ただ、今はできることはやっていますが、10代20代を囲うことよりも、その下の世代に対してもっと注力しています。
その子たちが大きくなったら自動的に好きでいてくれる、新日本プロレスを認識してくれている状態になりますから。
2016年1月4日(月)
「バディファイトPresents WRESTLE KINGDOM 10 in 東京ドーム」開催!
●大会公式ホームページ
http://wrestlekingdom.jp/
対戦カード
●IWGPヘビー級選手権試合
オカダ・カズチカ(王者) vs 棚橋弘至(挑戦者)
●IWGPインターコンチネンタル選手権試合
中邑真輔(王者) vs AJスタイルズ(挑戦者)
●IWGPジュニアヘビー級選手権試合
ケニー・オメガ(王者) vs KUSHIDA(挑戦者)
●IWGPジュニアタッグ選手権試合4WAYマッチ
カイル・オライリー&ボビー・フィッシュ(王者) vs リコシェ&マット・サイダル(挑戦者) vs ロッキー・ロメロ&バレッタ(挑戦者) vs マット・ジャクソン&ニック・ジャクソン(挑戦者)
and more…