プロフェッショナル 仕事の流儀「自動車整備士 小山明・博久」 2015.12.07


いうことなんですよ。
この日工場に年代物の小型車が運ばれてきた。
半世紀以上前に造られた国産車。
全く動かずスクラップ寸前。
他ならさじを投げるレベルだ。
難しい依頼ほどうれしそうになるのがこの兄弟。
は〜い。
修理を始めて3日。
(エンジン音)車は息を吹き返した。
(クラクション)往年の名車や高級車を次々よみがえらせる車のドクター。
一般に10万キロ走れば買い替えと言われるこの世界。
だが2人の腕は常識を超える。

(主題歌)派手な宣伝もせずホームページも持たない。
だが全国から整備士がその技術を学びにやって来る。
いい事ばかりではなかった半世紀。
だが兄弟は常に支え合ってきた。
この秋車に乗る事を諦めかけた客がやって来た。
直すのは特別な思い出が詰まった車。
そして試乗の日を迎えた。
整備一徹50年。
油まみれの現場に密着。
ここに車のドクター小山兄弟の工場はある。
1階は工場。
2階は兄が住む自宅だ。
朝7時半。
まず兄の明が姿を現した。
弟がやって来るまでの1時間半世紀続ける日課がある。
明は無駄口をたたかない。
年に一度しか使わない機械まで毎朝丹念に磨いていく。
8時半弟の博久が自転車で10分の自宅から愛犬と共に現れた。
博久は気さくな人柄。
客の応対も主に担当する。
(笑い声)工場で働くのは博久の息子芳徳を含め3人だけ。
だがその腕を頼って月に150件の依頼が殺到する。
ディーラーが音をあげたものも少なくない。
兄の明は主に車検の整備を担当。
一方弟の博久は急きょ持ち込まれる故障車の整備を受け持つ。
この日弟の博久が故障したセダンを引き取ってきた。
(エンジンをかける音)平成14年式の国産車。
エンジンのかかりに異常があるという。
このままでは何かの拍子に暴走し事故につながりかねない。
持ち主は原因に心当たりがないという。
博久はエンジンまわりのホースがどこかで外れていると読んだ。
整備工場では珍しいスモークを発生させる装置を使い煙を送り込む。
探す事10分。
奥まった場所でホースの外れた所を発見した。
ホースを付け直しエンジンがかかるようになった。
一般的な故障整備ならここで作業は終了。
だが仕事を終える気配がない。
故障の根本原因は何か。
それを突き止めてこそ整備といえる。
エンジン内にある点火プラグ。
僅かな黒い漏電の跡はプラグが故障した事を意味する。
点火プラグが故障するとガスが燃焼しないままエンジンの外に出てしまう。
そのガスに引火して爆発が起こりその衝撃でホースが外れた事が分かった。
(エンジン音)これで同じトラブルは起きないはず。
整備がようやく終わった。
仕事への姿勢は車検整備担当の兄・明も同じだ。
まず最初に行うのは洗車。
(洗浄する音)本来車検には洗車は不要。
だが隅々まで汚れを落とし壊れたパーツを探る。
ブレーキパッドという部品を交換すると言いだした。
更に翌日。
全ての車検整備を終え車を走らせた時だった。
(ハンドルの振動音)見た目では全く分からないがハンドルの振動が気になるという。
この程度の振動ならば車検は通る。
だが明は部品を交換する事にした。
費用を抑えるため4つある部品のうち交換は1つにとどめる。
(エンジン音)明は振動を抑えてみせた。
小山さん兄弟の強みはどんな車でも直せる事。
外国車も国産車も半世紀前のものも最新のものもそしてダンプカーも。
県外からも兄弟を頼ってわざわざ依頼が来る。
その秘密を探りに全国から同業者の見学が引きも切らないが皆驚くのは道具の豊富さだ。
これはコンピューター制御の車につなぎ故障を発見する最新の機械。
(エンジン音)更にかすかな音の異常も発見できる聴診器も使う。
限られた儲けの中から最大限道具に投資。
それを使いこなすのが博久さんの役割だ。
一方兄の明さんの役割は車や整備に関する最新情報をつかむ事だ。
月に13冊もの専門誌を熟読。
明さんはいわば兄弟コンビのブレイン役だ。
こんにちは。
ご無沙汰しています。
更に明さんは展示会を回り工場で役立ちそうな道具を見つけ出す。
仕事場では話をしたり共同作業をする事はほとんどない二人。
だけど二人はいつも役割を分担し支え合っている。
9月下旬博久はひときわ難しい整備に取りかかっていた。
(エンジン音)37年前に製造された有名スポーツカー。
車の持ち主は50代の男性。
この車に乗るのが長年の夢で6年前に購入。
しかし最近エンジンの調子が悪いという。
博久は不調の原因となった部品を2日かけ交換し終えた。
だが…。
ある事を気にしていた。
(エンジン音)この車の人気の一つはエンジンの安定した音。
だが今は詰まった感じの不安定な音がする。
悩み始めた。
この車のエンジンは8気筒。
8か所の気筒の中でそれぞれ爆発が起きそれがエンジン音になる。
その音を左右するのが気筒の中に空気とガソリンを混ぜて送り込む「キャブレター」という装置だ。
空気とガソリンの配合は極めて繊細。
うまく調整できていないと不安定な響きになってしまうのだ。
キャブレターの働きを調整するネジを動かし始めた。
(エンジン音)コンピューター制御の車にはこのネジは存在しない。
こうした調整をできる整備士は今ほとんどいないと言われる。
挑み始めて3日目。
博久は車を走らせてみた。
(エンジン音)だがまだ満足できない。
音の問題は大事な乗り心地にも関わる。
整備のプロとして一つの信念を心に刻んできた。
そのあとも博久はミリ単位の調整を繰り返した。
車の持ち主に試乗をしてもらった。
ところが…博久は浮かないままだ。
「真剣であればあるほど不満足になる」。
それが兄弟の毎日だ。

(明)なあ八ちゃん。
兄・明さんは毎週父・稔さんのお墓参りを欠かさない。
小山さん兄弟の工場は昭和34年ディーラーに勤めていたお父さんが独立し始めたものだ。
兄・明さんは高校を卒業するとすぐに工場で働き始めた。
一方8歳年下の博久さんはまだ子供。
兄は頼りがいのある大きな存在だった。
その10年後。
博久さんも兄を追うように工場に加わった。
でも二人の整備士人生は順調に始まったわけではない。
博久さんが工場に入ると驚いたのは兄の働く姿だった。
当時の主な仕事は青果市場や運送会社のトラックなど法人の故障車の整備。
明さんは早朝から深夜まで注文に応えるために仕事に追われていた。
法人の担当者から無理な値引きを迫られる事もあり神経をすり減らしていた。
でもまだ経験不足な博久さんには明さんを助ける事はできない。
故障車の整備を担当する事になったものの時間がかかり客に心配される事すらあった。
しかしそんな博久さんを明さんは決して叱ったりはしなかった。
そんな兄弟に転機が訪れたのは父・稔さんが引退したあと。
工場の中心となった明さんは大きな決断をする。
法人の車の整備をやめ個人の車の整備だけに絞る事にした。
博久さんは心配になった。
「大口の取引先がなくなった穴は埋められるのか?」。
でも兄の思うようにさせてあげたい。
反対はしなかった。
案の定工場の経営は苦しくなっていった。
売り上げが落ち込み3人いた従業員はゼロになった。
そんな中でも必死に働く兄の姿を見て博久さんは思った。
格好の仕事があった。
当時流行していたアマチュアのモータースポーツ。
その車の整備だ。
スポーツカーの整備はチューニングや改造など故障車の整備以上の高い技術が求められる。
「一件でも多く手がけよう」。
必死になって客の厳しい要望に応えていった。
すると思わぬ事が起きた。
スポーツカーも手がける腕利きがいると遠方からも次々と客が工場にやって来たのだ。
ところがその直後。
兄弟をまた試練が襲う。
明さんがぜんそくで倒れた。
長年体を酷使したのがたたったのか工場に出てこられない日が続いた。
その間博久さんは工場を必死に切り盛りした。
そして胸に誓った。
その1年後の事だった。
博久さんの手がけた車が全日本選手権で1位から4位まで独占するという快挙を成し遂げた。
博久さんは真っ先に兄に電話した。
「そうかよかったな」。
答えはいつものようにそっけなかった。
だけど本当の胸の内は違った。
あのかわいかった弟が今や工場を支える大黒柱になった。
兄と弟。
小さな工場で歩んだ半世紀。
今二人が思う事。
10月上旬博久が10年来のつきあいがある客のもとを訪ねた。
システムエンジニアをしている…藤井さんは脳性小児まひで足に障害がある。
一番の趣味は車の運転。
自動車競技に参加するのが何よりの楽しみだ。
(実況)藤井選手戻ってきました。
今回藤井さんが修理を依頼してきたのは8年前に中古で買った競技で使う軽自動車だ。
(エンジンをかける音)
(エンジンをかける音)実は藤井さん5月に階段で転び首を骨折する重傷を負った。
4か月ほどの入院の間この車を野ざらしにせざるをえずエンジンが全くかからなくなってしまったという。
分かりました。
藤井さんにとってはまさに生きがいとも言える愛車。
できるだけの事をしたい。
今回は故障整備と点検整備両方を兼ねているので二人がかりで行う事になった。
まず明が4か月の汚れを丹念に落とす。
一方の博久。
エンジンがかからない原因を探っていた。
キーを回し電流をチェックする。
あ〜!燃料ポンプを新たなものに交換する事にした。
更に燃料タンクも中までさびてしまっていた。
燃料タンクにクリーニング剤を入れ一晩寝かす。
そしてさびを予防するコーティングを施す。
整備作業は順調に進んだ。
今懸命にリハビリを続けている藤井さん。
首を骨折し入院した当初は車の運転ができなくなると落ち込んだ。
だがその時励ましてくれたのが小山兄弟だった。
整備を始めて1週間藤井さんがやって来た。
半年ぶりに愛車を運転する。
(エンジン音)危ないですから。
ハハハッ。
無事試乗が終わった。
だが藤井さんが引き揚げたあとの事だった。
博久がまた整備を始めるという。
外しだしたのはサイドブレーキ。
実は試乗中気になっていた事があった。
それは藤井さんの左手の動き。
藤井さんは長期の入院で腕力がやや落ちていた。
それを見て博久はサイドブレーキを改造し始めたのだ。
まずは握る場所を5センチ伸ばす。
てこの原理で藤井さんが少ない力で引けるようにする。
更に…。
より握りやすいよう溶接で先端に微妙な角度もつける事にした。
ただ一徹に考え続ける。
いよいよサイドブレーキを取り付ける。
先端を助手席側に僅かに向ける。
最後は明の出番だ。
ネジの緩みはないか。
摩耗した部品はないか。
納車の日を迎えた。
許可を取り自由に走ってよい場所で競技の時のようにサイドブレーキを使いターンしてみる。
(ブレーキ音)ダーッと踏んで…。
そこら辺で引く。
で戻す。
もうもう踏んでしまう。
そのまま踏んでしまう。
そうそのまま踏んで…。
一度は諦めかけた車の運転。
藤井さんは楽しんでいた。
ここで…ドン引く。
でブーン!いいですね今度は。

(主題歌)当たり前の事を当たり前に。
どんだけ心を込めて。
もうそれだけです。
特別になんかしよるんじゃなしにそれが当たり前になっとる。
どんな種類どんなボロでもどんな高級車でも向き合う姿勢はもう真剣にはしたい。
手を抜かない。
それに伴った仕事に対してお客様が満足してお金を払ってもらえるのがそうじゃないですかね。
2015/12/07(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「自動車整備士 小山明・博久」[解][字]

「神の手を持つ」と評される自動車整備士の老兄弟がいる。小山明と博久は、往年の名車から最新の車まで直す。半世紀に渡り二人三脚で歩んできた兄弟のプロの現場に密着!

詳細情報
番組内容
広島に「神の手を持つ」と評される老兄弟・小山明と博久が営む、小さな自動車整備工場がある。エンジンが動かない半世紀前の車。コンピューター制御の最新高級車。そしてトラック。県の内外から続々持ち込まれるどんな種類の車でも、二人は直してしまう。しかも単に修理を施すだけでなく、客すらも気づかない点まで気づき、快適に運転できる車に仕上げていく。半世紀に渡り二人三脚で歩んできた老兄弟。心温まる感動の現場に密着!
出演者
【出演】自動車整備士…小山明,小山博久,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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