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 精神障害のある長女(41)を殺害したとして、和歌山市の村井健男さん(81)が7月に執行猶予付きの有罪判決を受けた。家族が20年にわたって長女の暴力を受けた末の事件だった。「私の事件を最悪の事例としてほしい」。同じ境遇にある家族の助けになればと、朝日新聞の取材に体験を語った。

 今年のバレンタインデーの夜だった。

 「お菓子買うてこい」

 市中心部の住宅街にある築50年の一軒家。午後7時半ごろ、2階の部屋から起きてきた長女が言った。村井さんはワッフルを買って来たが、長女は「こんなもんいらん」と拒んだ。

 午後10時すぎには、自宅が気に入らないと大声をあげ始めた。「新しい部屋を借りろ」。長女はベッドに横たわる妻(75)を布団ごしに何度もたたいた。

 妻と長女との3人暮らし。妻は昨年5月から間質性肺炎を患い、足腰も弱っている。布団を頭までかぶり、おびえる妻の姿が目に入った。なぜ暴力を振るうのか、自分が死んだらどうなるのか――。

 足元にあった電気コードで後ろから長女の首を絞めた。ぐったりした長女を見た妻が、別居の長男家族を通じて救急車を呼んだ。駆けつけた警察官に村井さんは現行犯逮捕された。

 「肉体的、精神的に限界を迎えた末の犯行で強く非難できない」。7月17日、和歌山地裁は懲役3年執行猶予5年(求刑懲役6年)を言い渡し、確定した。