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「戦後レジーム」からの脱却  「熟議空間」の創造を 明治大学教授 小田切 徳美 (2015/11/2)

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 「戦後レジーム」がいよいよ崩れつつある。
 
 安保法制は平和国家を壊し、環太平洋連携協定(TPP)合意は国民経済という枠組みを崩しつつある。推進者は、その対応をしなければ危機が迫るという。「脅威」を理由とする大きな政策転換という点で両者は共通する。
 
・「脅威」を理由に
 
 こうした国際的「脅威」は国内の地方のあり方まで届かない。しかし、そこにも、別の「脅威」が登場した。それが「地方消滅論」である。いわゆる「増田レポート」は、市町村の約半数に相当する896市区町村に「消滅」の可能性があるとして、国民にショックを与えた。これを契機として、公立小中学校の学校統合が促進され、さらに人口減少に対応した地方制度のあり方の検討も進んでいる。その延長上に、今は下火となった道州制の議論が復活したとしても不思議ではない。
 
 つまり、「戦後レジームからの脱却」は内外の「脅威」を梃子(てこ)として進みつつある。そして、それらの政策転換の動きにはいくつかの共通点がある。第一に、「脅威」を強調するあまり、その事実が乱暴に扱われ、時にはずさんな内容となる点である。増田レポートの人口推計がその典型であろう。第二には、「脅威」が振り回され、「時間がない」ことが強調され、大きな政策転換がごく短期間で行われることである。それは、安保法制の決定過程に如実に見られた。
 
 そして第三に、政策転換の内容を措(お)いたとしても、その手法自体から副作用が生じることである。例えば、増田レポートの場合には、「消滅」「消滅」の連呼が、そこに住む住民の諦め意識の拡大につながっている。そのようなインパクトがなくとも、農山村では、進みつつある空き家や耕作放棄地の増加の中で、地域住民は時として、地域の存続を諦めてしまうことがある。そうならないことが、地域再生のスタートラインである。地域づくりに関わる者は、住民のそのような気持ちと日々闘っている。そうした時に、名指しで地域の将来的可能性を「消滅」と断じてしまったことが、地域に取り返しのつかないダメージを与えている。
 
 このような「脅威」を強力に喧伝(けんでん)し、短い時間に少ない選択肢の中から政策転換に導く手法は、古今東西における政治的常套(じょうとう)であり、目新しいことではない。しかし、現政権には、それが集中している。
 
 そうした中で、今必要なことはむしろ、できるだけ時間を確保して、できるだけ多くの選択肢の中から、できるだけ多くの参加者を集め、熟議を積み重ねる条件を意識的に確保することである。いわば、「熟議空間」の創造である。
 
・地域レベルから
 
 その点で、安保法制をめぐり、国会前で巻き起こった「民主主義ってなんだ!」という叫びは「戦後レジームからの脱却」が言われるこの時代の政策決定の問題点を射貫いている。TPP合意をめぐる対応にしても、遠回りのようであるが、熟議の民主主義空間を地域レベルから敷き詰めていくことが、今求められている。
 
<プロフィル> おだぎり・とくみ
 
1959年神奈川県生まれ。農学博士。東京大学農学部助教授などを経て2006年から現職。専門は農政学、農村政策論。明治大学農山村政策研究所代表。『農山村再生』『農山村は消滅しない』など著書多数。  

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