【extraコラム③】 チャンピオンシップに見た監督の人間力(2015/12/10)
純粋に見応えのあったCS決勝の2試合
サンフレッチェ広島が2年ぶり3度目の優勝を飾った。純粋に試合として決勝の2試合は見応えがあった。試合後の記者会見場に現れたガンバ大阪の長谷川健太監督が第一声で、「まず森保一監督、広島の選手、サポーターにおめでとうと心から言いたいと思います」と話し、清々しい表情をしていたのも、すべてを出し切ったからだと思われる。“ドーハの悲劇”を共に経験したほぼ同世代の2人による駆け引きは、本当に見応えが満載だった。第1戦を3-2の広島の勝利で終え、中2日で迎えた第2戦で両指揮官が最初に出したアンサーは、“変えない”という選択だった。長谷川監督はオ・ジェソクの出場停止に伴い右SBに米倉恒貴を起用したが、他にはG大阪も広島も変更はなかった。それだけ両指揮官は、第1戦の戦いに手応えを感じていたということだ。
チャンピオンシップ第2戦の勝敗を分けたポイントは大きく2つ。
森保監督が「ガンバさんは勝たなければならないという状況で、圧力を掛けてきた。それにより、うちの選手たちにも緊張が見られた」というようにG大阪がある程度、前がかりに来るとは予想してはいた。しかしその想像を超える圧力に防戦に回った広島は、27分に右CKから今野泰幸に第1戦同様、ボレーシュートを決められ、先制点を許してしまう。その失点は敗北につながらなかった。
広島にとって救いだったのは、失点がセットプレーだったということ。
広島のGK林卓人も「崩されての失点ではなかったから、流れの中では絶対にやらせないという思いがあった」と振り返ったように、セットプレーでの失点だったからこそ、広島は焦ることもなく、チーム全体で開き直ることもできた。
明暗を分けた57分と64分、65分の選手交代
1-0とG大阪のリードで折り返した後半に、もう1つのポイントがやってくる。それが57分と64分、65分の選手交代である。57分、G大阪は大森晃太郎に代えて倉田秋を投入する。すると広島は佐藤寿人に代えて浅野拓磨を投入。そして続く64分、G大阪がFW長沢駿を下げてパトリックを送り出す。それに合わせるように広島は65分にミキッチに代えて柏好文を入れたのである。
長谷川監督は倉田を投入した理由を「追い掛けるチームが先にカードを切らざるを得ないのは仕方がないこと」と語り、森保監督も「交代する準備はしていましたけど、相手が動いてきたので、交代を急がせた」と相手に合わせた交代だったと話す。
8分間の各2回の交代劇が試合の明暗を分けた2つめのポイントだった。
長谷川監督は交代の意図をこう説明した。
「(長沢は)前半あれだけ攻守に動いてくれていたので、最後はパワーがある選手を使いたかった。パトリックは今シーズン、ずっとエースとしてやってきてくれていて、彼の存在は本当に大きなものがありました。倉田とパトリックは今シーズン終盤まで特によくやってきてくれた選手ですし、彼らに賭けようということで投入しました。ただ、それにより
森保監督も交代のタイミングについて明かす。
「交代のタイミングは、ガンバさんが2点目を奪いに圧力を掛けてくるときに、我々も受け身に回るのではなく、攻撃に出るというメッセージを伝えられるようにまずタクマ(浅野)を入れました。柏の投入についても、(0-1のままならば優勝なので)逃げ切ろうとすると、ガンバさんの圧力に屈して2点目を奪われるかもしれないので、攻撃的姿勢を出しながら2失点目をしないようにという考えでいました」
足の速い浅野が1トップになり、広島はカウンターを仕掛けやすくなると、さらに柏が右サイドで果敢にドリブル突破を図り相手陣内に入り込んでいく。一方のG大阪も前線にボールを送ったが、肝心のパトリックへのパスは、ことごとく広島の3バックに弾き返されてしまう。
そして、賭けに勝ったのが森保監督だった。
76分、柏が右サイドからクロスを上げる。それまでは再三、ドリブルで仕掛けていた柏だったが、このときだけは勝負することなく素早くゴール前にボールを供給した。
「それまで何回か仕掛けていて、あのときは(相手DFと)距離を空けることができていたので、クロスを上げることができてよかった」とは柏のコメントだが、まるでそれまでの仕掛けがジャブだったかのように、ドリブラーは強烈なパスのパンチを見舞った。
その柏が上げたクロスに飛び込んだのも途中出場した浅野。交代した2人が得点に絡み、広島は1-1に追いつく。その瞬間キャプテンの青山敏弘は「これで優勝だ~!」と叫んだという。少し気が早い気もするが、その言葉が思わずこぼれたのも守り切れる自負があったからだろう。それだけ浅野が決めた同点弾は広島にとって大きなものだった。
交代選手が得点に絡んだ広島の総合力
G大阪に関して言えば、長谷川監督は「パトリックの足がね……。彼は先発で出たかったと思いますが、我慢してチームのために(控えを)受け入れてくれた」と、パトリックの状態が万全でなかったことを明かした。倉田同様、レギュラーシーズンを戦った主軸がベストコンディションでなかったことがこの試合に影響した。それでも「さまざまなことを含めて交代については私に責任があると思います」と潔さを見せたのは、シーズンを戦い抜いてくれた2人への信頼と、彼らと勝負したいという覚悟の現れだと思う。敗れはしたが、G大阪も、長谷川監督もグッドルーザーだった。一方の広島も、リーグ戦では主力として活躍した柏がベンチスタートとなった。それは柏がケガで離脱した間に清水航平が奮起し、結果を残していたからである。復帰した柏をベストの状態でベンチに置いておくことができたのも森保監督にとっては大きかった。広島は浅野だけでなく、柏という2枚のジョーカーを手にCS決勝を戦うことができたのだ。
まさに明暗を分けたのは、先発の11人だけではなく、ベンチ入りした18人、それ以外のチーム全員で戦い抜いたレギュラーシーズンにおける戦い方の蓄積だった。
だからこそだろう、キャプテンの青山は、優勝した要因を聞かれ、「総合力」と答えている。
選手と厚い信頼関係を築く森保監督の人間力
最後にどうしても優勝した森保監督の人間力について触れたい。長谷川監督は試合後の会見で森保監督について聞かれ「普通に考えれば、(エースである)寿人をあの時間帯に(毎試合そうしていたように)判で押したように交代させるということは俺にはできない。それだけの信頼関係があの2人の間にはあるんだと思います」と話した。
確かに昨シーズンの佐藤は、早々に途中交代させられることに納得がいかない時期もあった。だが、監督と腹を割って話し合うことで確固たる信頼関係を築き、今シーズンに至っては「先発で起用してもらえるということに監督からのメッセージを強く感じている」 (佐藤)と現状を受け入れ、自分に期待された働きを見せた。
森保監督自身3年前に初めて広島でJ1の監督となり、2012年のJ1初優勝、2013年のJ1連覇を経験することで確実に成長している。
思い起こすのは2013年のホーム最終戦。森保監督はそのシーズンをもって現役を引退する中島浩司を起用することができなかった。1-0という僅差で試合が進んでいたこともあり、自らリアリストと語る森保監督は、勝負に徹するがゆえに中島に出場機会を与えられなかったのである。リーグ最終節の鹿島アントラーズ戦では他の選手たちの懇願もあり、やっと中島を送り出し、優勝の瞬間をピッチで味あわせてやれた。
だが、今シーズンの森保監督は、指揮官としての余裕なのか、男気すら感じられた。
まずは2ndステージ優勝を決めたリーグ最終戦で、最後に山岸智をピッチに立たせたことだ。おそらく森保監督は、今シーズンで山岸が契約満了となる事実を知っていたはずだ。だからこそ、出場機会が得られずとも腐ることなく練習を続け、第14節の川崎フロンターレ戦ではアディショナルタイムに劇的な決勝弾を決めた山岸を、最後にサポーターの前に送り出したのだろう。
そしてCS決勝第2戦でも、長谷川監督が79分で3枚の交代カードを使い切る中、森保監督は最後の最後まで1枚を残していた。 「第1戦もうちが最後に劇的な勝ち方をしたように最後まで何が起こるか分からなかったので、本当はもっと早く起用したかったんですけど」(森保監督)
90分、森保監督が告げた最後の交代で入れたのは、2ndステージ第16節で負傷した水本裕貴だった。森保監督は水本がピッチに入る寸前に駆け寄ると、強く抱きしめて送り出す。この交代は、かつてのJ1連覇を支え、今シーズンも負傷するまではリーグ戦33試合に出場して堅守を支えたDFリーダーへの信頼の証だった。
広島では、メンバー外となる若手を中心に行う午後練習がある。どのクラブにもそうした練習はある。その中には練習をコーチに任せる監督もいるという。だが広島では、森保監督が午後練習も直接指導を行っている。選手たちも、監督に直接アドバイスを受け、成長した姿を見せることができるから、腐ることもない。そのきめの細かい指導が、選手たちとの信頼を育み、広島は戦う集団となった。広島が優勝した最大の要因は、森保一の“人間力”にある。
監督が、いつも話す言葉がある。
「当たり前のことを当たり前にやるというのは本当に難しい」
その積み重ねこそが、広島に3つ目の星をもたらした。 CSの後には、選手たちが「心の底からサッカーを楽しめる場所」と語っていたFIFAクラブワールドカップの舞台が待っている。Jリーグを席巻した紫の旋風を世界の強豪相手にも起こすことができるか。広島は、10日にオークランド・シティと初戦を戦う。胸につける星は3つでは足りない——選手たちはCSに優勝した後のミックスゾーンで、早くもFIFAクラブワールドカップと天皇杯への欲を口にしていた。その欲が広島を常勝軍団へと導いていく。
選手交代の流れ
サンフレッチェ広島57分 佐藤寿人out → 浅野拓磨in
ガンバ大阪
57分 大森晃太郎out → 倉田秋in
ガンバ大阪
64分 長沢駿out → パトリックin
サンフレッチェ広島
65分 ミキッチout → 柏好文in
ガンバ大阪
79分 西野貴治out → 井手口陽介in
サンフレッチェ広島
90分 清水航平out → 水本祐貴in
取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹
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