【柴山桂太】狐とハリネズミ


From 柴山桂太@滋賀大学准教授

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早いもので今年も残すところわずかになりました。振り返って見ると2013年は、経済について言えば、比較的平穏な年だったと言えるでしょう。

日本経済は、アベノミクスの効果もあって、景気が上向きました。アメリカも株高が続くなど、経済指標だけを見れば順調に回復しているように見えます。欧州は相変わらず悪いですが、懸念されていた南欧諸国の国家破産危機が少し遠のくなど、最悪の状況は脱したと考えられています。

しかし、これは長引く危機のつかの間の「小春日和」と言うべきであって、本当の危機が去ったわけではありません。

来年の日本は消費税増税の壁が控えています。アメリカの実体経済は回復というにはほど遠く、株高が行きすぎている感があります。欧州は今秋からデフレ危機に突入しており、来年から「日本化」する可能性が大です。アメリカの緩和マネーに頼る新興国も、来年からの緩和縮小でふたたび危機に陥る国が出てくることが予想されます。「最後のバブル」とも言うべき中国経済の状態も予断を許しません。

どこが危ないかと言われれば、やはり欧州でしょう。ギリシャは激しいデフレに突入していますし、スペインもイタリアもいまの緊縮経済を続けるのに限界があります
先日のシンポジウムで来日したE・トッドは、「今のユーロ圏はさながら崩壊前夜のソ連のようだ」と言っていました。今のシステムを続けてもどうにもならないことが分かっていながら、ひたすら死を先延ばしするしか手立てがない、という状況を差してのことです。いずれにせよ、欧州とくにユーロ圏は、厳しい綱渡りが続くことになります。

どの国も、民間経済は活力を失っていますので、政府の役割が重要になっています。2014年は、まさに「政治の役割」が本格的に問われる年となるでしょう。金融緩和がリーマンショック後の激しい落ち込みを救ったのは確かですが、問題はその先です。自由市場、自由貿易、金融緩和という組み合わせの「次のフェイズ」が問われる時代が到来しています。

そして何が「次のフェイズ」となるかは、まだ誰も確かな答えを持っていません。確かなのは、とにかくいろいろ試行錯誤するしかない、ということです。今の時代、自由な市場に任せておけば結局はうまくいくんだ、という考えほど危なっかしいものはありません。かつてケインズは次のように言いました。

「長期的に見ると、われわれはみんな死んでしまう。嵐の最中にあって、経済学者に言えることが、ただ、嵐が過ぎ去れば波はまた静まるだろう、ということだけなら、彼らの仕事は他愛のない、無用なものである。」(『貨幣改革論』

前回、『グローバリゼーション・パラドクス』という本の話を書きました。
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この本、グローバル化をめぐるメインの話だけでなく、小話がいろいろ面白いのですが、中でもお気に入りなのが「狐とハリネズミ」の話です。

古代ギリシャに「狐はたくさんのことを知っているが、ハリネズミは大きなことを一つだけ知っている」という格言があったそうです。ハリネズミは、どんな状況にあっても解決方法を一つしか知りません(体を丸める)。一方、狐は状況に合わせて智恵を働かせて異なった解決策をとろうとします。

著者のロドリックは、これを経済学に当てはめて、ハリネズミは一つのスローガンにこだわるが、狐は「世界は複雑なものであるがゆえに一般化することはできないと考え、壮大な理論に懐疑的」だと言います。

ハリネズミ経済学者は、どういう状況であっても自由市場、自由貿易という教科書的な原則にこだわって、世論を説得しようとします。でも狐族の経済学者は、「経済はあまりにも不純なものであり、ハリネズミが理想とする政策はつねに正しいものとはならないことを理解している」のです。

もちろん、狐の智恵も危なっかしいものです。直感を重視しますので、体系的な一貫性に欠けるところがあります。狐族の代表とも言うべきケインズも、よく「状況によって言うことがころころ変わる」と言って、同時代の人々から批判されていました。でも、危機の時代には、杓子定規のハリネズミ族よりも、狐族の直感と柔軟さの方が求められるというのも確かです。

欲を言えば、ハリネズミ族の体系的な厳密さと、狐族の状況判断力を兼ね備えるのが理想でしょう。さらに付け加えるなら、獅子のような勇敢さを持ち合わせれば完璧、ということになるのかも知れません。

しかし、理論家の最終合意を待っていては、政治はいつまでたっても何も出来ません。この嵐の時代には、ハリネズミよりも狐の智恵が、つまりは常識に根ざした大胆な政治的直感の方が、結果的に船をよく舵取りする可能性が高いのです。

2014年は、第一次大戦の開戦からちょうど100年目の年に当たります。第一次グローバル化の時代が大戦争で脆くも崩れ去ってから100年です。

2014年は、経済だけでなく国際政治も大きく揺さぶられる事態が続くでしょう。この混乱を、杓子定規のイデオロギーで乗り切ろうとするほど危険なことはありません。2014年は、政治の柔軟さ(そして世論の柔軟さ)がこれまで以上に求められる時代となる。そういう予感がしています。

PS
韓国が陥った罠とは? 日本を第2の韓国にしないために必要なこととは?
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<柴山桂太からのお知らせ>

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【柴山桂太】狐とハリネズミ” への2件のコメント

  1. >混乱を、杓子定規のイデオロギーで乗り切ろうとするほど危険

     SF世界や歴史上の古代都市社会がハイテク文明遺跡だけを残し崩壊してきたことや、
    (記憶は曖昧だが)ネコのトム(と相棒のブッチ)がジェリーを追うのに躍起になった先に終には家を吹き飛ばしてしまいジェリーの部屋だけが残った話
    を思い出しました。

     そんなふざけたコメントを考えてしもた筆者は反感を買い攻撃の的となり、
    「詰まらねぇことさえずるんじゃねえっ。てめぇもグレート均衡切捨財政リセットだぁーっ」
    針ネズミの針の全面一斉放射攻撃にさらされた。
    グサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッ
    「うぅっ、無念っ」

    The End

  2. ユーロ圏諸国が、最たる脆弱性を保持するという柴山さんの見立ては正しいでしょう。あれは現状国家の体をなしていませんし、そもそも仏独の歴史的な背景への配慮で、通貨統合から入ってしまったのが間違いです。来年以降の、米国による金融緩和引き締め政策によって、ユーロ圏諸国だけでなく、米ドルによる投資に頼っていた国々は壊れていくでしょう。
    翻って、自国通貨による金融緩和の余地がある日本は、ある意味、米国を除き世界で唯一経済成長の可能性を秘めていると考えられます。15年以上のデフレからの脱却という大義名分は、獅子では無いですがパワーアップした狐族とも考えられるからです。
    来年初頭にでも、消費税増税対策で黒田日銀による第二弾の大規模な金融緩和政策がもたらされれば、更なる円安が進み、財政出動による政府債の買い手を日銀が維持してくれれば、有り余る資金は海外に流出すること無く、国内で循環される筈です。
    その後、獅子たる米国が我慢できなくなり、フィスカルクリフが瓦解するような事態となった先には、強烈な日本叩きが発生するかも知れません。その時に誰が日本国宰相をしているかによって、戦後レジームが維持されるか脱却できるかの岐路があるように考えます。
    おそらくは、宰相個人の器に懸かっているような気がするのです。

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