内閣府の調査によれば、平成26年中における自殺者の総数は25,427人(男性68.4%、女性31.6%)で、前年に比べ1,856人(6.8%)減少しています。原因・動機が明らかなもののうち、その原因・動機が「健康問題」にあるものが12,920人で最も多く、次いで「経済・生活問題」(4,144人)、「家庭問題」(3,644人)、「勤務問題」(2,227人)の順となっており、この順位は前年と同じです。※平成19年に自殺統計原票が改正されたことから実際の自殺数はさらに多いともいわれています。
その原因の1つがうつ病といわれています。厚労省によれば、うつ病を含むメンタルヘルス疾患の患者は、2008年には104万1000人に達し、2012年に精神障害で労災認定された人は、3年連続で過去最多を更新しています。
「ストレスチェックを社内に理解をさせ定着させるためには、人事機能を刷新しなければいけない」とYSメンタルヘルスの岡田基良社長は指摘します。今回は、運用のポイントについて伺いました。
●厚労省の努力が実ったストレスチェック
---施行後のストレスチェックの動きをどのように判断していますか。
岡田基良(以下、岡田) 厚労省は、メンタルヘルス対策が急務となっている背景を受け「ストレスチェック義務化法案(通称)」を通常国会に提出し、関係各所と協議のうえ可決・成立した背景があります。まずは施行にいたるまでの尽力に対して深く敬意を表したいと思います。
しかしストレスチェックが機能するかという観点においては、課題は多いと感じています。厚労省が用意したストレスチェック診断には留意ポイントがあります。そのいくつかを指摘したいと思います。まず職場に関する質問です。
Q.非常にたくさんの仕事をしなければならない
Q.時間内に仕事が処理しきれない
Q.一生懸命働かなければならない
Q.勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない
「たくさんの仕事」「時間内に仕事」という表現は定量的ではありません。労働時間を規定したうえで「相当程度上回り負荷に感じている」などを聞く質問にしなくては具体的とはいえません。「一生懸命働かなければならない」「勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない」という質問も、仕事をしていれば当然の心構えなのでなにを測定したのかが分かりにくいと思います。次に、個人の最近1ヶ月の状態についてです。
Q.元気がいっぱいだ
Q.生き生きする
Q.目が疲れる
恐らく、これらの質問に回答してもストレス度合いを測定することは困難でしょう。日常的にどれもが該当するものだからです。従業員がいまの気持ちに素直に答えられるような環境を整備し診断を受けなければ、本来ストレスチェックに必要な判定基準を見定めることは困難だと思われます。
●最重要課題は運用方法にある
---ストレスチェック導入における課題を教えてください。
岡田 厚労省が用意したストレスチェック診断では個人のストレス状況を確認することや、職場単位でのストレス評価をおこなうことが必ずしも充分とはいえません。本来、メンタルケアが必要とされる従業員を特定しサポートすることが難しいためです。
いまの運用方法では、面接指導を受ける人が少なくなることが予想されるため目的を達成することが困難になります。さらに、「本人の同意」が必要とされるため受験が促進されない可能性があります。特に、雇用に対して不安を覚えている従業員は受験を躊躇し正直に回答することはないでしょう。
社内に医師や保健師などがいる場合は、そこに入室することに躊躇を感じるはずです。「あの人はストレスチェックに問題がある人」という烙印をおされてしまう可能性があるからです。そうなれば、医師や専門家の面接指導が阻害されることが充分に考えられます。
ストレスチェックが機能すれば素晴らしい仕組みになりますが、成否のすべては各企業の運用方法次第だと思います。最後に現状考えうるストレスチェックを効果的に導入するための5つのポイントを提示したいと思います。
1.ストレスチェック診断やスクリーニングの精度アップ
2.ストレスチェックの結果を労働者に通知する際の工夫
3.クリニックが内包され情報のファイアーウォールが万全であること
4.高ストレスに対して不合理な差別が助長されないこと
5.結果が人事評価上のマイナス影響を被らないこと
丁寧な運用を心がければ、ストレスチェックは浸透しメンタル予防につながるはずです。社内の正しい知識と理解が深まることを願ってやみません。
---ありがとうございました。
施行されたばかりのストレスチェックですが、正しい理解がされて運用が開始されるまでにはいくつかの課題をクリアする必要性がありそうです。
尾藤克之
経営コンサルタント・ジャーナリスト