大変な盛り上がりである。2020年東京五輪・パラリンピックの新エンブレム募集に、1万4599点の応募があった。

 旧エンブレムの応募は104点だったから、実に140倍。前回は主要デザイン賞の受賞者に限っていたのを改め、門戸を開いた結果である。

 五輪は、選ばれた少数の誰かが開くものではなく、国民自身が広くかかわり、造りあげるもの。そんな意識が醸成されている証しとして歓迎したい。

 大会組織委員会など五輪運営に直接かかわる責任者たちは、今後も国民の声を聴く姿勢を大切にしてほしい。

 前回は盗用疑惑で混乱し、撤回された。新案を選ぶ委員らは反省点として、選考過程での国民不在や、エンブレムを国民と共有する意識の欠如を挙げた。

 仕切り直しの大方針が「国民参加」だったのは当然だろう。組織委などによる不透明な決め方への批判が強かった分、再公募が大きな関心を呼んだ。

 その結果、エンブレムづくりそのものが、五輪参加の新たな形を示したといっていい。

 埼玉県鶴ケ島市では、市をあげて公募した。市民らから募った485点から1点を選び、市長が代表の団体として出した。東京では、授業の課題として取り組んだ学校もあった。

 自由に祭典のイメージを思い描き、自分の希望や発案を生かそうとする国民の積極的な意識こそ、五輪の成功に欠かせない社会の基盤といえるだろう。

 新エンブレムの委員会は、最終候補を3、4点に絞ったうえで改めて、国民の意見を聴くことを決めた。時間やコストとの見合いはあるが、可能な限り多くの声が反映される方法を模索してもらいたい。

 国民理解の欠如を指摘されたのは、やはり出直しとなっている国立競技場の問題も同じだ。こちらは近く、デザインを含む応募案が公表される。ここでも多くの意見に耳を傾ける工夫をこらすべきである。

 ドイツのハンブルクは先月、住民投票の末に24年夏季五輪の招致断念を決めた。22年冬季五輪の招致をめぐっても、住民投票の反対多数を受けて撤退した都市がある。

 巨額の財政負担などが理由だが、いずれも一部の政治家やスポーツの有力者らが住民の声を聴かずに突っ走った結果だ。

 世論の支持と、さまざまな形での国民参加という広い裾野があってこその五輪である。2度目の開催となる20年の東京は、新しく成熟した五輪像を世界に示してほしい。