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    NettyLandは「地球・子ども・学校をむすぶwebサイト」。子どもの未来にとって最良の出会いがあることを願い、日本全国の中高一貫校の情報を発信しています。

2009年1月13日 (火)

特別編 ~熱い!楽しい!立教女学院の中高合同体育祭~

ピカチューが跳ねる。

チアリーダーが踊る。

学ランが弾ける。

セーラー服が舞う。

2午後一番のプログラムは応援合戦です。全校が5色のチームに分かれて、それぞれのチームごとに音楽に合わせた創作ダンスが繰り広げられます。ただ見ているだけなのに、何だか気持ちが高揚し、わくわくさせられてしまいます。さすがに全国にその名を馳せるダンス部を擁する立教女学院と思いきや然に非ず、ほとんどが有志だということです。中でも受験生を含めた高校3年生がその半数以上を占めるというから驚きです。昼休みなどに練習を重ねてきたそうですが、完成度の高さには目を見張るものがあります。

「高校3年生にとっては情熱を傾けられる最後の全体行事なので、みんな張り切っています。立大の推薦を希望しないで他大学へ向かう生徒も、よりエネルギッシュに参加しています。」と山岸教頭。これが終わると受験へまっしぐらということからでしょうか、彼女たちの活き活きと躍動する姿は「後悔」という言葉を寄せ付けない、凛とした清々しさに満ち溢れています。飛び散る汗の滴が美しく光輝きます。応援団に向かって下級生から大きな歓声があがります。演じる側も見る側も一切の手抜きがありません。全校が一丸となって創り上げている熱い空間にぐんぐんと引き込まれていきます。

生徒の自主運営による完成されたプログラム

プログラムは流れるように進みます。すべての段取りが良く、見るものを飽きさせません。これは競技ごとに配置や進行に関しての決め事が詳細に記された『体育祭ルールブック』に従って運営されているからですが、このルールブックもすべて生徒の手作りです。先生はアドバイスをする程度で、基本的にはすべて生徒に任せられています。『自主・自立』を標榜する立教女学院の教育姿勢に生徒がしっかりと応えていることが、現実のものとして目の前に繰り広げられているのです。

みんな本当に一生懸命、それが実に格好良い!

41421 中高部活リレーでは東京一俊足の生徒も走ります。中3の40人41脚では勢いあまって繋がったまま転んでしまう生徒たち。多少の怪我をものともせずに決勝へ進んだチームの掛け声はさらに大きく力強くなっています。

1

高3生全員による創作ダンス―竜に翼を得たる如し―では一転して水を打ったように場内が静まり返ります。音楽のほかに聞こえるのは踊る生徒のステップの音と衣擦れの音だけです。静かで熱い幾多の視線が注がれる中、まさに竜が翼を得たかの如く力強く、しなやかに舞う生徒たち。高2から1年間かけて作ってきた学校生活の集大成です。彼女たちはその強く、澄んだ視線の先に何を見ているのでしょうか。

2_2  最後は中高の各学年から選抜された生徒による2400mリレーです。みんな一生懸命走り、必死にバトンを繋ぎます。応援席では勝ち負けに関係なく一人ひとりの走者に精一杯の声援を送り続けます。こうして全校が一生懸命、熱く燃えた体育祭の幕は下りていきました。

一人ひとりはとても良い子であるのに、集団活動はうまくできない、あるいは敢えて斜に構えて格好つけてみるといった生徒が増えている現代において、一生懸命に前向きに取り組む姿がこんなにも感動をよぶほどに格好良いものなのだということをあらためて教えられた一日でした。

 

 

【初出:NettyLandかわら版2008年12月号】
(藤崎 正彦)

2008年12月25日 (木)

入試問題から学校を探る 算数の問題にみる吉祥女子中学校の教育理念

数多ある女子校の中で、御三家に次ぐ進学校としての地位を不動のものとしつつある吉祥女子中学校。

2008年春の現役生だけの合格実績を見ると、東大2名をはじめとして国立大学に30名、早稲田42名、慶応23名、上智17名を含めた私大への合格者は実に787名を数える。さらに、このうち医科、歯科、薬科大学へは国立、私立を合わせて34名の合格者を輩出した。当然複数合格もあるが214名の卒業生数に対しての数字であることを考えると立派というほかない。また、同校には芸術コースも設置されており、こちらも卒業生40名に対して、芸大、音大への合格者は57名だ。これらの数字だけを見ても、生徒の中にある、あらゆる可能性を引き出し、育て上げていることは否定の余地がない。

そんな同校の入試問題の中から、2月1日の算数の問題を取り上げてみた。

P25

掲載した問題をご覧いただければ分かるとおり、何の変哲もない商と余りと約数に関する問題だ。上位校を目指してきた受験生であれば、何度となく演習してきたことであろう。ただ単に答えを出すということに関しては何の苦もない問題なのだが、ここで敢えて取り上げたのには理由がある。まずは囲みの部分を見ていただきたい。ここに書かれているのは、この問題を解くにあたっての考える手順だ。一見するとヒントのように見えるが、実は問題の構造そのものについて書かれているのだ。これを読んで、頭の中だけで理解しようとするのは少しばかり難儀なことかもしれない。実際にここに書かれた順番の通りにリンゴとミカンの絵を描いて考えてみると理解できるものと思う。③の段で言っていることは、元々同じ余りがでるのだから、ミカンの余りからリンゴの余りを取り除いて、余りの部分を確定してしまえば、残りのミカンは子どもにちょうど配れる個数になるということだ。ここで、もう一度①、②と振り返ってみると、③の作業は元々あったリンゴとミカンの総数の差をとることと同じであることが分かるだろう。ここに吉祥女子で展開されている数学の授業が垣間見られると言ったら飛躍を感じるだろうか。算数では、そのほとんどのことを具体量を用いて考え、理解していくのに対して、数学では抽象的な数の操作に歩を進めることになる。ここに数学での躓きの大きな要因があるのだが、どんな数を扱うにしろ本質の理解が不可欠であることに変わりはない。速さの三公式が理解できずに方程式は立てられないのだ。この囲みの部分には、きちんと本質を捉えさせた上で数学の世界へと誘う意識が感じられるのだ。卒業生の15%が医歯薬系に合格している現状と合わせて考えると、確固たる基礎を築いた上で柔軟な思考力を養うような授業が展開されているのだろうという推察ができるのではなかろうか。

【初出:NettyLandかわら版2008年11月号】
(藤崎 正彦)

2008年12月 5日 (金)

入試問題から学校を探る 理科の問題にみる学習院女子中等科の教育理念

学習院女子中等科は卒業生の約7割は学習院大学へと進学するが、その影で他大学への合格実績を着実に伸ばしているのをご存知だろうか。2008年春の他大学への現役合格者数は東大2名を含め国立大学が10名、早稲田、慶応、上智の合計39名をはじめとした私大の合格者数が合計146名となっている。単純に卒業生数を分母とした他大学への合格率は実に85%にも上る。あまり取り上げられることはないが、立派な進学校なのだ。その内訳も医科大、薬科大等の理系から、音大、美大等の芸術系まで多岐にわたる。これは、自主性を重んじ、自分の頭で考え行動できる女性を育てることを進路指導においても徹底していることの証であろう。

P17 さて、今回取り上げた問題の素材はメダカという慣れ親しんだものだが、教科書的な知識にとどまらず、自分の頭を使って考えることを要求している。問題文の第1段落は食物連鎖の問題だが、大きな魚や鳥以外のメダカの天敵が2つ、すぐ思いつくだろうか。水辺の生き物の生態をじっくりと思い起こしてみて、やっとザリガニやヤゴ、タガメといった水生昆虫が浮かんでくる。しかし、これさえも実体験があるからこそであり、ヤゴやタガメなど見たこともない受験生の方が圧倒的に多いのではなかろうか。そうであれば、あとは持てる知識を総動員して自分の頭で考えてひねり出していくしかないのである。そのためには、普段から様々なことに興味、関心を持ち、身の回りに起きる現象を観察したり、自ら調べたり、考えたりということがどうしても必要となる。

第2、第3段落ではメダカとヒトのからだのつくりを比較している。メダカの5種類のひれのうち、ヒトの手と足に相当する部分を答えさせているのだが、ここでもなぜそのように考えたのかを記述しなければならない。さらに第4段落ではメダカが絶滅危惧種に指定されたことを取り上げているのだが、ここではメダカが減少した主な原因を2つ記述しなければならない。絶滅危惧種自体は聞きなれた言葉であるが、ここでも単語として知っているだけでよい訳ではなく、何故絶滅の危機に瀕しているのかということを一歩進めて考えておくことが必要だ。環境問題が様々に取り上げられる昨今、生活の場を失っている生物が多いことや、外来種に駆逐されていく生物について見聞きする機会は少なくないはずで、やはり社会現象や自然科学に対する自発的な学習姿勢が求められているのだ。

「自ら学習に励むこと」を大切にすることが「その時代に生きる女性にふさわしい品性、知性を身につけること」の根幹であると言えよう。

【初出:NettyLandかわら版2008年10月号】
(藤崎 正彦)

2008年9月30日 (火)

入試問題から学校を探る 社会の問題にみる光塩女子学院の教育理念

2008年春の現役合格者数は早稲田、慶応、上智が52名、GMARCHに80名、国立が16名、ここまでで148名、その他私立の四年制大学の合格を合わせると実に404名に上る。卒業生数が133名であることを考えると、その実績の素晴らしさには目を見張るものがある。

この背景にあるものは、所謂先取り授業や予備校なみの進学のための受験対策授業であろうか。そうではないことは同校の入試問題を見れば明らかである。

今回取り上げた問題は今春の第2回試験からのものだが、全編鉄道をテーマに構成されている。社会科の専門家でなく、鉄道に興味のない者から見ると、鉄道ひとつでこんなにも多くの問題が作れるものかと妙に感心させられる。しかし、少し考えてみれば、鉄道の発展とともに、地域、都市、国の発展があり、物流、文化の交流、技術の開発、経済の発達、様々な利権の発生等、鉄道の歴史と世の中の流れの相関は明らかだ。ここでも、地場産業から二酸化炭素の排出量、鉄道の短所、2000年前の日本の様子、16世紀の日本とヨーロッパの交流、世界地理、線路や蒸気機関の構造、外国為替、東京の路線図、満州事変等、実に多岐に渡った設問が作られている。そのすべてはここに掲載した900字程の文章から導かれているが、総数10ページ、21の設問すべてを掲載できないので、興味のある方は同校のサイトを訪問してみることをお勧めする。

P13

さて、広範な設問の中から問14の②を見てみよう。ここで取り上げられているのは鉄道唱歌だ。なんとなく見聞きした覚えがあり、メロディも浮かんではくるのだが、習った覚えもしっかりと歌った覚えもない。調べてみると1900年5月10日に第1集東海道篇が作られ、同年11月までに全5集、334番まで編まれたということだ。改めて歌詞を眺めてみると、鉄道の沿線に地理と歴史が編みこまれ、教材としての完成度の高さに感嘆する。

鉄道というひとつの素材から、これだけ話題を広げ、課題を掘り起こしていく姿勢は、きっとそのまま授業に反映されているに違いあるまい。様々な項目を覚えこまなければならない暗記科目と捉えられがちな社会科という科目において、生徒の興味、関心を掘り起こし、自ら学び進む姿勢を生徒の中に育んでいくために幾多の工夫がなされているのだろうということが、入試問題から垣間見られる。こうした生徒や教科への姿勢が光塩女子学院の冒頭の合格実績を生み出しているのだろう。

 

 

【初出:NettyLandかわら版9月号】
(藤崎 正彦)

2008年8月27日 (水)

入試問題から学校を探る 理科の問題にみる宝仙理数インターの教育理念

理数インターという名称は「理数的な素養を重視し、21世紀のグローバルスタンダードとなる教育を提供する」という、同校の教育方針に由来する。

PISAをはじめ、様々な調査報告において、日本の子どもたちの理数科目の学力の低下に懸念が表されているが、ここに正面から向き合い、もっとも大切な力として育て上げようという壮大なる挑戦だ。

では、理数的な素養とは何だろうか。もちろんそれは数学や理科の得意な子を育てますという単純なことではない。物事を論理的に考え、本質を見抜いていく力を養うことであり、自分の持てる知識を駆使し、自分自身の頭で粘り強く試行錯誤を重ねていくことで問題を解決していくという科学的で高度な思考力を養成しようということだ。

P12 そんな視点で同校のすべての入試問題を眺めてみて、目に止まったのが別掲の問題だ。これは第3回午前入試のものだが、まず地球の誕生に関しての文章から始まる。この素材からして、「あぁ、そうなんだ」「この文章の前後がもっと読んでみたい」といった知的好奇心が刺激された受験生は多かったのではないだろうか。教え手としては生徒にいかに興味を持たせるか、ということも大きな命題のひとつであり、そういう意味では素材選びも大きな位置を占めるものだ。ここで大事なことは、初めて出会う入試問題にも、こうした配慮がなされているということであり、それはとりもなおさず授業でも実践されている証にほかならないだろうということだ

設問に目を移すと、問1から問3までは分類上はいわゆる知識問題であるが、仮にまったく知識を持ち合わせていなかったとしても文章から推測し、自分の頭で考えだすことも可能であり、ここにこそ同校の教育方針が見え隠れする。例えば問3は、「ゲンブ岩とはこういう色で、こんな性質を持っているもの」という物事や事象とその意味といった一対一対応の知識として持っているだけでも、もちろん対応できるのだが、選択肢を読むと様々に考えを広げていくことも可能なつくりとなっているのだ。「ゲンブ岩→火山岩→溶岩が急に冷やされたもの→そうすると、つぶは荒い?細かい?⇔大きなつぶは結晶?⇔結晶を作るには時間がかかる⇔食塩の結晶を作る時はどうだった?」等々、知識や経験を縦横無尽に結びつけたり、活用していくことで課題を解決していくことは充分可能であり、こうした力を養っていくことが高度な思考力を育てていくであろうことは疑うべくもない。



【初出:NettyLandかわら版2008年8月号】
(藤崎 正彦)

2008年7月22日 (火)

入試問題から学校を探る 算数の問題にみる武蔵の教育理念

P11武蔵の入試問題は解く楽しさに満ちている。とりわけ数論の問題は秀逸である。作問経験者としては、良く毎年考えつくものだと感心させられる。数の性質を知り尽くしている方々が多いのだろうということと、数学を学んでいくうえで礎となる数論に力を入れているのだろうということが容易に想像される。さらに同校の入試問題には学校の教育理念がしっかりと背景に流れており、学校が求める生徒像が反映されている。それは「自ら調べ自ら考える力ある人物」である。

今回取り上げた問題ももちろん数論である。(1)は用意したお菓子の個数とみかんの個数の和は一定であることに気づけば、比をそろえて比の差と余りの個数の差に注目することでお菓子の個数は145個とすぐに求められる。武蔵受験生であれば難なく解ける問題だ。面白く、武蔵らしいと感じるのは(2)だ。考えていく道筋はいくつかありそうだが、ここでは実際に参加チーム数が予定の参加チーム数の6割増しであったということから、予定の参加チーム数と実際の参加チーム数の比が5:8であることに注目し、(1)で求めたお菓子の個数を利用することにしよう。配る予定だったお菓子は余りの5個を除くと140個であり、実際に配ったお菓子の個数は余りの1個を除くと144個である。チーム数は整数であるから、140と144をそれぞれ2数の積(例えば140=7×20など)に分解するとチーム数の比が5:8となる組み合わせが2つ見つかるだろう。問題の解説が目的ではないので、これ以上の記述は避けることにするが、解きながら「面白いなぁ」と思わずにはいられない問題なので、興味のある方は是非一度挑戦してみて欲しい。難しいわけではなく、奇抜な発想が必要なわけでもないのだが、数の性質の持つ醍醐味を味わえる問題だからだ。

この問題ひとつをとってみてもわかるように、様々な問題に対して興味、関心を持って主体的に取り組み、課題を解決していく過程の中にある楽しさを身につける教育が実践されていることは間違いのないことであろう。

中高の6年間や大学受験といった目先のことに止まらない、生涯にわたる知的探求の基礎を培う教育が展開されていることは疑うべくもない。




【初出:NettyLandかわら版7月号】
(藤崎 正彦)

2008年6月15日 (日)

入試問題から学校を探る 理科の問題にみる渋谷教育学園幕張の教育理念

P9

『自調自考」の力を伸ばし、倫理観を正しく育て、国際人としての資質を養うことを教育目標に掲げる渋谷教育学園幕張。高度な国際教育や躍進を続ける大学進学実績もあり、千葉県内の私学のトップに君臨しているが、やはり「自らの手で調べ、自らの頭で考える」という基本目標を基盤にしているからこそ現在の同校があると言えるだろう。

 

本年の入試問題は大問5題構成であるが、全編「水」をテーマにし「湖」を素材にした他校に類を見ない非常に面白いつくりとなっている。

 

Ⅰは湖のでき方と断面図、Ⅱが季節ごとの水温の変化とそれが起こる理由に関しての考察、Ⅲが湖水にすむ生物と環境の関係、Ⅳが水溶液の性質、ⅤがⅠ〜Ⅳまでの内容を踏まえた上での総合的な正誤判断とひとつのテーマと素材でありながら、バラエティに富んだ出題となっている。

 

問題数は多くはないが、問題文が長くヴォリュームがある。さらに、単に知識を問う設問はまったくない。自分の知っていることを縦横無尽に使いこなし、「知恵」へと昇華させて課題へ取り組み、自らの力で打開していくことを徹底的に求めているのだ。まさに徹頭徹尾「自調自考」の姿勢が貫かれたつくりとなっているのである。だからといって、ただ高い壁を提示して頑張って登って来なさい、と突き放して高みの見物をしている訳では決してない。問題文がまるで科学エッセイのように書かれていて、興味深く読み進めることができる。そして読み進むうちに新たな知識がごく自然に与えられ、無理なく思考を展開することができるような仕掛けが施されているのだ。そこには、受験生が「自調自考」の力を発揮できるように、愛情にあふれた手が優しく添えられているようにさえ感じられる。

 

解き進めるごとに理科という科目の持つ楽しさや奥深さを感じられる、非常に良くつくり込まれた問題なので、是非全問に目を通してもらいたい。渋谷教育学園幕張の「自調自考」を基盤とした教育の実践のありようが想像できるのではないだろうか。

 

【初出:NettyLandかわら版6月号】
(藤崎 正彦)

2008年5月22日 (木)

入試問題から学校を探る 社会の問題にみる麻布の求める生徒像

自主、自立を重んじる」—麻布中の教育方針は、と問われれば、ほとんどの人がこう答えるのではないだろうか。実際、同校に足を一歩踏み入れると「大丈夫なの」と心配になるほどの自由な雰囲気に包まれるのだが、それでいて日本屈指の進学実績を作りだしているのであるから、そこには「やらされる勉強」ではなく「自ら学ぶ」環境があるのは疑いようもない。

この麻布の学習環境そのものが反映された入試問題を毎年楽しみにしているのだが、その中で今回は社会の問題を取り上げてみた。

P9

大問一題構成というのもほかにはあまりない形式だが、いきなり5000字に近い長文を読まされるというのも、いかにも麻布らしい。身近な行動やその背景にある法律をテーマに書かれたもので、文章は平易なのだが、内容は「食べ物について」、「ゴミについて」、「大日本帝国憲法と日本国憲法の違いについて」など多岐にわたる。その間にも循環型社会の形成の大切さや地球環境問題など昨今話題になることの多い時事問題にも触れ、さらには、人間の内にある「何が正しいかについてのルール」を暗黙の了解として法律が作られることによって生じる問題にまで大きく話が展開されている。

さて、近年、輸入が解禁されては危険部位の混入が発見されるということを繰り返しているアメリカの食用牛肉や農薬が混入した中国産の食品など、食の安全性についての関心が高まる一方である。こうした社会の要請を受けて食品の情報開示に関する法律が作られたのだが、その受け止め方は企業と消費者では当然異なるものとなるだろう。通常この手の問題では単純に「なぜだと思いますか」「あなたの意見、考えを述べなさい」といった形で生徒個人の意見を書かせる場合がほとんどである。ところが、この問題では「企業と消費者の置かれている立場の違いを明確にしながら、説明しなさい。」となっている。受け止め方の異なる両方の立場に立って考えさせているところが麻布らしいのだ。できる限り正確な情報を知りたい消費者と、利益を確保するために「出せる情報」と「出したくない情報」を抱える企業という異なる二者の視点で考えることを要求する背景にあるもの、それは「生徒自身が自ら学習する力」であり、「深い教養に基づいた自由な発想」という同校の教育理念そのものである。


【初出:NettyLandかわら版2008年5月号】
(藤崎 正彦)

2008年4月 4日 (金)

入試問題から学校を探る 理科の問題にみる十文字中学の教育理念

 「学ぶ。それは自ら興味を持ち、それを深く掘り下げていくこと。」十文字中学の学びの定義だ。あたりまえのことのように思われるかも知れないが、奥の深い言葉だ。与えられたことをそつなくこなす子は多いが、自らの興味に突き動かされて探究心を持ってものごとに取り組む子はどれだけいるのだろうか。欲しい情報はいとも簡単に手に入り、ともすれば大人と同じように時間に追われる日々を過ごすことが多い子どもたちが増えている状況にあっては、一番難しい課題となってしまったようにすら思える。この難しい問題に正面から取り組んでいるのが十文字中学だ。

Hotnews10

 まずは問題に目を通してみて欲しい。ドアイアイスをテーマにした母と子の会話からはじまっている。問題を解くにあたって、この会話文が特別必要なわけではない。しかし、これがこの入試問題の肝であり、受験生の頭を「自ら考える」モードへと切り替える役割を担っているのである。

実際の入試では、この後すぐに、問題にあるような3つの実験が受験生の前で行われ、それを見せた後3つの問いに答えさせている。問題そのものは実験がなければ解けないわけではない。しかし、敢えて実験を観察させているのだ。知識の量で受験生の能力をはかるのではなく、まずは「なんだろう?」「なぜだろう?」という疑問を持つことを出発点として、起きたことをつぶさに観察し、自分なりに仮説をたてた上で良く考えて結論を導き出すということを求めている。こうした科学的なものの見方や考え方の大切さを入試を通して受験生に実体験させているのだ。単にふるいにかけるための入試ではなく、十文字中学での学びそのものを体験してもらうという、受験生に対する優しさに富んだ内容になっているのである。

 入試という枠組みの中にあってさえ、受験生に興味を持たせ、学ぶ意欲を刺激し、自ら考えられるような環境を設定するという労を惜しまない十文字中学。普段の授業においても「学ぶ意欲を育て、自ら考え、創造する力を養っていく」ための工夫が数多くなされているだろうということは想像に難くない。

[初出:NettyLandかわら版10月号]
(藤崎正彦)

入試問題から学校を探る 社会の問題にみる鷗友学園の教育理念

近年めざましい進学実績をあげ、進学校としての地位を確立した鷗友学園。その実績の裏にあるものは、来る大学入試に備えるための「先取り学習」や「受験指導」ではない。ものごとをどのように捉え、知識や情報を活用し、自分なりに考え、表現をすることで整理し、解決へ向かうという「真の思考力」の養成が生み出した結果の一部が進学実績となって現れているのだ。

そもそも戦後日本の学習指導要領では、社会科は体験学習を重視した科目であったはずだ。しかし、知識の獲得に追われることの方が多くなり、結果として社会科という科目から本来学ぶはずだった本質的な部分が隅に追いやられることになってしまっているのが現状ではないだろうか。ここに警鐘を鳴らし、正面から立ち向かおうという姿勢が鷗友学園の入試問題の端々に見て取れる。

知識を単に頭の引きだしにしまい込んでしまうのではなく、それらを元に「なんでなんだろう」と世の中に目を向ける。これこそが新しい学びと思考力を育てるための出発点であり、鷗友学園が大切にしているものであると言えよう。

さて本年の入試問題は、地理、歴史、公民の3分野から満遍なく出題されているが、今回は公民の問題を取り上げることにする。ここでは現代日本の民主政治の抱える問題点を様々な角度から取り上げている。

まずは民主主義の代名詞とも考えられている多数決という名の暴力について考えさせ、問3では法律案のほとんどが立法府の国会議員によってではなく、行政府によって作られているということに目を向けさせている。国民の代表者である国会議員の法律案が成立しにくい状況であるということは、国民主権の原則から考えると、現在の行政主導の政治は民主政治のあり方としていかがなものかという投げかけだ。さらに在日アメリカ軍の基地が沖縄に集中しているのにはどんな理由があり、その移転問題で世間が騒ぐ背景には何があるのか、と次から次へと考えることを要求している。これらの問いは入試問題のひとつの設問としてではなく、世の中の動きに広く目を向け、興味、関心を持ち、普段の学習から得られた知識と結びつけ、問題を探り出したり、自分なりの解決策を考えたりすることの重要性を受験生に提示しているのだ。そして最後にまた、はじめに投げかけておいた数の論理による暴力について考えさせるという、手を抜かせない構成になっている。

徹底的に考えさせ、表現させることによって「社会の中で創造的に生きる、力強く、明るい女性」を育てる鷗友学園。その充実した学園生活は想像に難くない。

[初出:NettyLandかわら版11月号]
(藤崎正彦)

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