noporin
芸人の私小説なんてとんでもない。センスあふれる抒情的表現に引き込まれる人間小説
売れない後輩芸人と、借金まみれで破天荒ながら哲学的に後輩を導く天才肌の先輩芸人。その二人のやり取りを中心とした、ヒューマンストーリー。
誰かの生死がかかるとか、ドラマチックな駆け引きがあるとかいう起伏が激しいわけではなく、かといってつまらないわけでもなく、ただただ主人公・徳永に話をする、先輩芸人・神谷の言葉がいちいち心に刺さりまくって痛い。
二人の会話が何とも抒情的で、刺激的で、ウィットに富んでいて、読者が芸人の世界に興味があろうとなかろうと、誰の人生においても当てはまり、私も何でもないようなところで、何故か涙ぐんでしまったこともあった。
芸人・ピース又吉の人生観と、作家・又吉直樹の引き出しの深さと大きさが相まって、短い作品ながらも、これまでの読書の中で思わずブックマークやハイライトを付けた箇所が一番多かった作品。
以下私が一番印象に残った表現を引用する。
以下、本文引用
「誹謗中傷は・・・・・(中略)、他を落とすことによって、今の自分で安心するというやり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けてると思うねん。可哀想やと思わへん?(中略)俺な、あれ、ゆっくりな自殺に見えるねん」(引用終わり)
ゆっくりな自殺・・・人として一番痛々しい末路かもしれない。
心に刺激ではなく、一筋の指針が欲しいとき、何度となく読み返したくなる一冊となった。