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彼らは既成概念をどう「ハック」したか? CREATIVE HACK AWARD 2015 全受賞作品

 
 
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PHOTOGRAPHS BY KIMIKO NAKAHARA
TEXT BY WIRED.jp_M

ワコム特別賞:
「EMIGRE」中島 渉

とある街を襲った大きな災厄と、それを生き延びたひとりの少女の記憶を描いたアニメーション。

審査員からのコメント:
笠島久嗣(イアリンジャパン) 「王道の作品がついにきたな」というのが最初に観たときの感想で、こうした作品の応募はこれまであまりなかったので、個人的に応募していただいて嬉しかったです。学生時代にこれだけの長尺で、しっかりとした世界観とゆったりとしたカット割り、10名近いスタッフをコントロールしてここまでの作品に仕上げた力。その演出力や監督力を評価しました。

岸田茂晴(ワコム) すでに企業に就職して活躍されている方だと聞いていますが、これだけの才能と力をもっているので、ぜひこれを機会にこれから自分の世界観で勝負していってほしいという願いを込めて推薦いたしました。

特別賞:
「宮沢賢治のこころの柔らかいところに触れる-『銀河鉄道の夜』の装幀」金丸 みのり

執筆当初とはまったく違った結末になった『銀河鉄道の夜』。そのふたつの物語を収めた一冊の本。右頁では最終稿、左頁では第3稿を展開。第3稿の文章は、空押しして「影」を読む仕様にすることで、宮沢賢治の心の影を表現している。

審査員からのコメント:
佐々木康晴(電通 CDC) 紙の書籍は衰退し、デジタルに移行していくという世の中の流れがあるなかで、あえて「触れる本」に挑戦している。また、単に読むだけではなく、読んだあと、作者がどう考えていたのかといったことを疑問に思いながら触れることまでできる。何でもデジタルになってシンプルになっていくなかで、考えさせられる本として面白いと思いました。

齋藤精一(ライゾマティクス) 宮沢賢治が苦悩しながらストーリーを変えたという話のように、活字だけでは著者の意図が伝わらない本はほかにもたくさんあるだろうと思うので、アートに留まらず、将来的にプロダクトになっても面白いと思います。また、こうした作品を受け入れるアワードは、ほかにはあまりないと思います。本アワードの懐の深さを改めて感じた作品でした。

ヤングクリエイター賞:
「trace」 宮嶋風花

人が歩いてくる様子を半透明のセルにコマごとに切り出し、時間・空間的な要素を再構成­。ロトスコープという手法を用い、マルチスクリーン上に位相を伴って人物がレイヤー上に­歩いてくる。「アニメーションをバグらせたい」。そんな思いから生まれた作品。

審査員からのコメント:
岸田茂晴(ワコム) 日常空間を切り取って形にしていくというのは、個人的にインパクトがありました。また、どこかほっとするような気持ちにもなりました。これからも、ぜひその感性のまま突き進んでいってほしいと思います。

笠島久嗣(イアリンジャパン) 「ヤング」だからというだけで選出されたわけではありません。デジタルを使っているけれど、あえてアナログに戻って作品を仕上げている点を特に評価しています。作品制作に対する自由さ、垣根のなさ、フレッシュさには、ぼく自身も影響を受けまして、そういう気持ちをもちながら頑張らなければいけないと、教わったところがありました。

ベストプレゼン賞
「般若心経読経装置」 倉持 叡子

従来の読経の姿が持っているネガティヴなイメージ(ちょっと怖い、古臭いなど)を払拭して誰でも気軽に触れられるコンテンツにしたいと思い制作された、映像をつかって読経する装置。

審査員からのコメント:
岸田茂晴(ワコム) ひとりでできることには限りがありますし、今後ビジネスにしていこうとなると、自分でつくった作品について、限られた時間のなかで適切に人に伝える力はとても重要になります。倉持さんの作品は個人的にとても気に入っていたのですが、この賞では彼女のプレゼンテーションを高く評価させていただきました。冒頭でいきなりお経を読み上げたとき、会場がシーンとなったのですが、それにめげず、強い心で押し通し、一環していいリズムで発表できていたことを評価して推薦しました。

パブリック賞
「I see stars」佐々木 大輔・前田 麦

目から火が出る花火の作品。オンライン投票で最多票を獲得した。

審査員からのコメント:
福原志保(バイオアーティスト) みんなに愛される賞とはもらうのも難しいし、もらった後も難しいものです。SNSで様子を見ていたら、友だちが多いのだろうとは思いましたが、パッと見て欲しいなと思わせるほどのインパクトを映像で表現されていたことがこの賞を獲得できたいちばんの理由ではないかと思います。プレゼンのときに、花火を本当はつけてほしかったですけどね(笑)。

佐々木康晴(電通 CDC) 今日いちばんハラハラするプレゼンでした。シンプルなアイデアなのですが、誰しもが子どものころに夢見るようなアイデアに挑戦されていて楽しかったです。次回作も楽しみにしています。

3Dプロダクツ賞
「toki-」後藤映則

時間と動きの関係性、時間の流れについてを探った作品。

審査員からのコメント:
水口哲也(KMD) 時間と空間というものをぼくらは別々のものだと思って普段生きていますが、改めて時間と空間は一緒のものだということを見せつけられるような、非常に力のある作品です。インスタレーションとしても美しさがあるし、動きのあるアート作品に仕上げられていて、いままで見たことのないような表現でした。個人的にメディアアーティストの岩井俊雄さんの作品がとても好きなのですが、その先にまた新しいものがついに出てきたな、と感じました。

齋藤精一(ライゾマティクス) 3Dプリンターがあるいまだからこそつくれた、ゾエトロープ(回転のぞき絵)の新しい表現方法です。個人的には(メディアアーティストの)岩井俊雄さんの作品のように、等身大くらいの大きなサイズのものがつくれたら面白いだろうと思いました。今後プロダクトにしていくのか、何か違う表現にしてこれを多くの人に見てもらえるものにするのかなど、これからの展開がとても楽しみな作品です。

ベストアイデア賞
#VIsibleMe」Bhavani Esapathi

本人も患っている、あまり認知されていない慢性的な障害に対して、ソーシャルメディアを通してストーリーを紹介していくプロジェクト。

審査員からのコメント:
クラウディア・クリストヴァン(AKQA Tokyo) 本アワードでは毎年、今後どこに向かっていくかよくわからない非常に新しいものにこの賞を贈っています。このプロジェクトは、現状のソーシャルネットワークの問題点をうまく補って、バランスをとっていこうとするものだと思います。そういった意味で、世の中にとって、とても前向きな影響をもたらすものになるだろうと期待しています。

佐々木康晴(電通 CDC) どうしても目に見えない障害を抱えている人たちは世界が狭くなってしまうと思うのですが、このプロジェクトによって仲間が増えて世界が広がるわけですから、とても夢のあるストーリーだと思います。これから活動が本格化されていくようですが、サイトがどんどん広がっていき、仲間が増えていく姿が見れることを、とても楽しみにしています。

ムーヴィー賞
「Bubble Membrane Painting Machine」 Tommy Hui

シャボン玉を使ったペインティング作品。美しい色合いが特徴的だ。

審査員からのコメント:
福原志保(バイオアーティスト) アートがもつ力というのは、わたしたちが生きているこの世界を記述していき、自然と人間のあり方、関係性を露わにしていくことだと思います。この作品はまさに「生命と非生命の間」を表現しているものです。シンプルな表現で、どこにでも手に入れられそうなものを組み合わせて自らツールから制作した点を評価しました。また今後アートという分野を越えてプロダクトにつなげていくという構想も楽しみにしているので、ぜひ頑張ってもらいたいです。

齋藤精一(ライゾマティクス) 個人的には今年の「One of Best」だと思っています。最近は「4Kだ8Kだ、プログラムだCPUだ」と言ってさまざまなテクノロジーを使って、自然現象を再現しようと試みていますが、この作品は「自然のパーティクルってこんなに綺麗なんだ」ということに気づかせてくれました。プログラムで自然現象を再現しようとする行為がアホらしくなるほどでした。世の中の自然現象を使ってこれほどまでに美しいと思える作品を、これからもぜひつくり続けていってほしいですね。

グラフィック賞
LOGO MOTION」 てらおか 現象

既存のロゴを使いアニメートをさせる作品。2014年の2月からロゴの収集を始め、日々数を増やしている。

審査員からのコメント:
笠島久嗣(イアリンジャパン) 実はこの作品、ぼくは2年前からTwitterにアップされていたのを拝見していました。今年、一時的に五輪エンブレムの話題に巻き込まれてしまったことは残念でしたが、そもそものコンセプトである、異なる場所で異なる人たちがつくった日常のなかにあるロゴをひたすら並べて再生することでそこに新たな意味を見つけるというものは、とてもクリエイティヴだと思います。

クラウディア・クリストヴァン(AKQA Tokyo) この作品が受賞されたことを、とても嬉しく思っております。ロゴはブランドのためにあるかと思われがちですが、実際には人々の視覚的、感情的な領域に属するものです。さまざまなロゴをすべて一箇所に集めることで、とても自由に考えることができるようになる。てらおかさんはロゴに対してのリスペクトをもって、「平等なものさし」によってロゴを“ハック”しているのです。

準グランプリ
Ethical Things」 Matthieu Cherubini・Simone Rebaudengo

「オン・オフ」スイッチの代わりに、年齢や性別、宗教などを選ぶスイッチが付いている扇風機。

審査員からのコメント:
クラウディア・クリストヴァン(AKQA Tokyo) テクノロジーというものは、わたしたちの生活のなかに中立を装って入ってくるわけですけれども、それに対して「怪しむ」という気持ちをもつことも重要です。この作品はユーモアと少し皮肉も込めて、テクノロジーの背後にある人間の繊細な部分を表現していた。その点を評価しました。

齋藤精一(ライゾマティクス) フィジカルとデジタルのオーケストレーションを試みているこの作品は、身体と心の定義といったことまで考えさせられるものです。悲しいことにテクノロジーの文脈においては、身体は心ほど成熟はしていません。この作品ではアナログで安価なファンが使用され、高度なアルゴリズムが組み込まれています。人工知能をテーマとして扱っていることは、重要なことだと思いますので、今後の制作においても、この問いは続けていってほしいです。

グランプリ
「Fairy Lights in Femtoseconds」 落合陽一

フェムト秒(10の-15乗秒)の単位でプラズマを発火させ、空中に浮かせる「触覚ある映像」を生み出すメディア装置。

審査員からのコメント:
水口哲也(KMD) いまぼくらがイマジネーションを介在化するときに、とても限られた方法でしかできていません。ぼくらの頭のなかにあるイメージはもっとマルチモーダルで、共感覚的なもの。これはおそらくマルチメディアの先にある世界を予兆させる作品というかメッセージのような気がしています。130年前にはまだ何もなかったことを考えると、今後新しい触覚のある映像が生まれてくるかもしない。そういうものを先駆けて見せてくれる落合さんにありがとうと言いたいです。

福原志保(バイオアーティスト) 1960〜90年代の初めごろまで、一部の人しかアクセスできなかった世界にアーティスト自ら飛び込んでいき、コンピューターやプログラミング言語をつくり、やがてわたしたちの生活にコンピューターやスマートフォンというかたちで広まりました。でも最近、特に日本においては、そのようにないものをつくっていこうとするアーティストが減ってしまっている。落合さんがいまつくっているものが、新しいメディアとして何十年か後に社会にデプロイされるとき、どうわたしたちの日常を変えていくのか。その未来を楽しみにしています。

グランプリ&準グランプリ受賞者には、副賞として、ワコムの液晶ペンタブレット「Cintiq」シリーズのうちから好きなものが1台贈呈されるほか、ロンドンの最先端のVFX技術を有するDouble Negativeを視察する、「CREATIVE HACK TOUR」へ招待される。

 
 
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