豊平森、寺脇毅
2015年12月9日00時18分
郷愁を誘う大きな茅(かや)ぶき屋根で知られる白川郷(しらかわごう、岐阜県白川村)、五箇山(ごかやま、富山県南砺〈なんと〉市)の「合掌(がっしょう)造り集落」が、ユネスコの世界文化遺産に登録されて9日で20年。今や国際的な観光地だが、それゆえの悩みも尽きない。集落の「命」ともいえる屋根の茅が、ほとんど県外産に置き換わる事態も進行。地元は「自給率」アップ作戦を展開中だ。
「こんなに観光客が増えるとは」。白川郷の合掌造り家屋で民宿を営む清水喜代美さん(53)はこの20年をそう振り返る。
愛知県出身。1987年に結婚して白川村に来た。世界遺産になる前の94年、村の観光客は年67万人。それが昨年は150万人だ。
かつて「秘境」と呼ばれた白川郷と五箇山だが、世界遺産登録と高速道路の延伸で観光客が増加。2008年には中京圏と北陸を結ぶ東海北陸道が全線開通し、にぎわいが増した。今年は北陸新幹線が開業。白川郷も五箇山も、新幹線が開通した金沢方面からレンタカーで来る人が目立つ。
五箇山総合案内所には、外国人から「宿を探して」といったメールや電話が相次ぎ、白川郷の民宿経営者も「外国人客の問い合わせが多く、対応しきれないほど」。05年に約5万人だった白川村の外国人客は昨年、過去最多の21万人。今年はさらに増えそうだ。
課題も浮かぶ。五箇山でゲストハウスを営む山本さと栄さん(48)は今夏、英語表記の予約サイトに登録。台湾や欧米などから予約が入ったが、直前のキャンセルが続発した。調べると、白川郷発のバスに乗り遅れ、到着できなかった客が多かった。以来、外国人客にはバスなどの時刻をメールで送っているという。
白川村は9月、村が依頼し、東京の大学院に通う留学生たちに日本語を話せない外国人になりきってもらい、宿などの対応を調べてもらった。結果は散々だった。「ホームページは英語だが、予約の電話をしたら『ノーイングリッシュ』と切られた」「英語でメールを送ったら返事が来なかった」。成原茂村長は言う。「守るべき部分は守りながら、お客さんのニーズを達成できる観光地を目指すには、村も村民も根底から意識を変える必要がある」
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