川島なお美さんの闘病手記「カーテンコール」(新潮社) が本日発売され、目を通してみました。芸能人ならではのリテラシー問題も垣間みえましたが、生活(=life)の質というQOLではなく、人生(=life)の質、生き方(=life)の質というQOLを何よりも大切にされていたことが伺えました。あとは、本書にたびたび登場してくる藁にもすがる思いにつけ込んだ、がんビジネスが盛んなことにも驚きました。
そして、かねてから問題視してきた近藤誠氏によるセカンドオピニオンのまずい実態が明らかにされたことだけではなく、彼女が受けた腹腔鏡手術についての新たな疑問点もみえてきたので述べてみたいと思います。
本書の中では、ドクターとの「お見合い」と記されているように、川島さんは自身の信頼のできる医師を求めて、多くのセカンドオピニオンを受けていたようです。その中でも、近藤氏のもとへは2番目に訪れて、以下のように言われて大変ショックを受けたと記述されています。
(近藤氏)「(前略) 手術しても生存率は悪く、死んじゃうよ」
- 言葉が出ませんでした。
きっと、この先生の前で泣き崩れる患者さんは多々いたはず。
前回ブログでも示しましたが、患者さんと向き合う近藤氏の姿勢には昔から問題があったのは事実のようです。
そして、当時の川島さんの「がん」の大きさは径1.7cm大という記載があります。予後の良い2cmに満たない「肝内胆管がん」に対して適切な手術を受けることで得られる生存利益について、なぜ公平に説明されなかったのでしょうか。
以前にこのブログでも示した通り、適切な手術をこのタイミングで受けていれば、少なくとも5年生存率は70%以上、場合によっては100%まで期待できる状況であったことが明らかとなりました。
それなのに、近藤氏は以下のような説明をしていました。
ぼく(近藤氏) は『ラジオ波なら手術をしないで済むし、1ショットで100%焼ける。体への負担も小さい。そのあと様子を見たらどうですか?』と提案しました。『手術しても十中八九、転移しますよ』ともお伝えしました。むしろ手術することで転移を早めてしまう可能性もあるからです」
ラジオ波で根治は望めません。手術で十中八九転移はしません。明らかに誤った医学的判断といえます。これに対して、川島さんは以下のように述べています。
M(近藤)先生がデータを見ながら説明してくれた時間は、約15分。お支払い含めて、20分足らず。消費税がまだ5パーセントの時代、20分のセカンドオピニオンで3万1500円也。領収証は頼んでいないうちから書かれていました。お高い!!
文藝春秋(十一月号)で意気揚々と記事にされた川島さんへのオピニオンは、わずか20分足らずのものであり、なおかつ、川島さん本人はまるでそのオピニオンには納得していなかった様子がみてとれます。そして、3番目に受けたセカンドオピニオンを聞き終えたあとで、川島さんは以下のようにも述べています。
M(近藤)先生は確かに「私の患者で、胆管がんの人を何人もラジオ波専門医に送り込んだよ」とおっしゃっていましたが、あれって一体なんだったんでしょうか?
夫の鎧塚氏も、あとがきとしてこう述べています。
専門医による「胆管がんにラジオ波は有効ではない」との判断とM(近藤)先生との見解の違いについては、確かに今でも疑問に感じることがあります。
結果的に、「肝内胆管がん」が早期に発見されてから半年近くたち、重要なパラーメーターである「2cm」を超えて3.3cmほどにまで急速に大きくなり、さらには中肝静脈への浸潤が疑われる状態でようやく手術を受けています。しかも、性質の悪い「肝内胆管がん」に対して開腹手術と同等であることが何一つ検証されていない腹腔鏡手術で行われているのです。当然ながら、標準的な手術とはいえません。
ひとつ気がかりであったのは、手術後かなり早い時期に再発していて、かつその再発形式が腹膜播種 (お腹の中で、がん細胞が種を撒かれたように広がる) だということです。それも腹壁に「しこり」という形でも発見されています。
これは、いち外科医の立場からみると、炭酸ガスでお腹をパンパンに膨らませながら長時間にわたって手術操作を行ったがゆえに、播種を引き起こしてしまったのではと疑ってしまいます。さらに、体表の「しこり」に関しては、腹腔鏡手術で使用する器械の出し入れによって、腹壁にがん細胞が付着して起きる (ポートサイト) 再発のような印象ももちましたが、今となっては検証は不可能です。
腹腔鏡手術の名医K先生が執刀されたと記されていますが、どなたかはわかりません。しかし、どのような名医であったとしても、急速に進行しつつある状態で、再発リスクがより高まった「肝内胆管がん」に対して、いくら患者さんの希望とはいえ病院内で倫理的な手順をふんだうえで行われた手術であったのでしょうか。
さらには、このK先生は手術したあとのアフターケア (フォローアップ) を他の病院にゆだねているわけですが、これでは手術やりっ放しというということになります。再発してしまったことへのフィードバックがないということになってしまい、また同様な転帰を辿る患者さんを生み出しても、一向に反省が生まれないということにもなりかねません。
本書を最後まで読んで思ったのは、情報過多の波に溺れないで、賢くリテラシーを身に着けることは意外と難しいのかもしれないというものでした。あらためて、川島なお美さんのご冥福をお祈り申し上げます。