たまたま、津上俊哉さんの講演が聞きたくて、YOUTUBEで彼の動画を探していたら、日本記者クラブの「中国とどうつきあうか」というシリーズ企画を発見した。
中国、日本の各界の著名人や第一人者を招いて、日中関係について語ってもらう内容なのだが、これが非常に面白い。元海自、元海保、元領事、元駐在武官などの人々が硬派の内容を語ることもあれば、いわゆる「親中派」の人々が出てくることもある。本人の自由に話させているので、人柄も見えてきて面白い。長い動画であるが、ネットに溢れるジャンクな言論よりも、ずっと見応えがある。そう思って、11編全部を見終えたのだが、最後の11番目が非常に衝撃的な内容なのであった。
この最後の回だけ、特別な専門家や識者ではなく、姚儷瑾(よう・れいきん)さん…という日本語を学ぶ20歳の女子大生が登場する。彼女は「中国人の日本語作文コンクール」(日本僑報社、日本交流研究所所長主催)の最優秀賞受賞者である。
彼女の作文のテーマは、『ACGと日中関係』というもの。(「ACG」とは「アニメ、コミック、ゲーム」の略)。
▲こちらがその全文である。
14歳の頃に見た『ガンダムSEED』に深い感銘を受けた彼女は、「関係悪化の原因は政治以外に、双方の理解不足も原因の一つだと考えます」として、「中国人に人気がある日本のACGには、このような誤解を解く力が秘められています。好きなACGについて話し合いながら、相手国の姿を確認し合う、これは新たな文化交流の形になるかもしれません」と主張するのだが、上掲の動画の受け答えや最後の質疑応答での回答を聞いていても、彼女の感覚は私の周囲の中国人とも近い。ごく普通の、日本好きの女子なのだ…というのがよくわかる。
ただし、この動画。12分15秒あたりから、彼女が今回の優秀賞受賞の記念旅行で、日本を訪問した際の足取りが紹介されるのだが、ここで訪問する場所、面会する人物がスゴかったのである。
姚儷瑾さん:日本訪問での足取り
- 2月2日午前 東芝国際交流財団
- 2月2日12時 朝日新聞記者と共に築地で寿司を食す
- 2月2日13時半 朝日新聞取材
- 2月2日15時半 日本語教師と座談
- 2月2日18時 歓迎会出席(元重慶総領事も出席)
- 2月3日11時 藤崎一郎氏(元外交官)と面会
- 2月3日12時 宮本雄二氏(元外交官)と面会
- 2月3日15時 高橋光夫氏(ドンキホーテ専務)と面会
- 2月3日16時 丹羽宇一郎氏と面会
- 2月3日17時 朝日新聞本社訪問、国際部長と懇談
- 2月3日18時半 大森和夫先生と面会(たぶんこの人物と思われ)
- 2月4日11時 輿石東参議院副議長と面会
- 2月4日14時半 福田康夫元首相と面会
- 2月4日15時半 外務省訪問、城内実副大臣と面会
- 2月4日17時 国会議員と懇談(近藤昭一衆院議員、西田実仁参院議員、菊田真紀子衆院議員など)
- 2月5日10時 自民党の高村正彦副総裁と面会
- 2月5日11時 鳩山由紀夫元首相と面会
- 2月5日14時 文化庁訪問。青柳正規長官と面会
- 2月5日15時 千葉商科大学島田晴雄学長と面会
- 2月5日17時 NHKラジオで番組出演。
彼女は2月6日に日本記者クラブの講演に出席しているので、来日日程はほとんど上記に書きだした通り、大物政治家、外交官、日中友好人士との面会、メディアの取材に費やされたのであろう。
段躍中氏はその後、日本の新聞が取り上げた!NHKのニュースでも取り上げられた!と「手柄」を自画自賛するわけだが、私からすると、「日中友好」というのは、やっぱり「こういうこと」なのか…と思うわけである。
54分15秒からの日中関係の悪化についての質問に、姚さんは「今、中国では、みなさんがどんどんわかるのは、政治は政治、生活は生活ということです…」と答える。若干たどたどしくてわかりにくいが、つまり「今の中国人は、日本についての理解を深めて、『政治』と『一般人の生活』は別である…と認識している」と言いたいのであろう。日本の政治と一般人を混同して嫌うようなことはない、と。こういうのは、私の周囲の中国人も同じことを言っている。姚さんの言葉は、若い中国人の素直な気持ちを卒直に述べたものであろう。
しかし、そういう考えの彼女が日本にやってきたら、政治家や官僚ばかりに面会させられてしまうのは、あまりにも皮肉な、笑うに笑えない話ではなかろうか。
姚さんが日本が好きで、アニメが好き…というのは本当の話であろうから、既存の「日中友好」の枠に押し込んで、政治家ばかりに会わせるのではなく、日本のアニメファンと交流させるなり、アニメの声優や制作者と面会させた方が、彼女も喜んだであろうし、その様子を中国で報道すれば、彼女の後に続いて日本語を学ぼうとする中国の若者も増えるのではないか。
せっかく、日本のACGの影響で、日本好きの中国人が出てきても、こうやって「政治利用」されるのでは、日本人も中国人も白けてしまう。いまだに日中友好の仕掛け人たちは、そんな簡単なことに気づいていないのだ。姚さんそのものは、日本語を一生懸命がんばって勉強した真面目な人で好感を持てるのだが、その周辺に目を向けると、非常に残念感が大きい、脱力させられる話なのであった。
「御宅」と呼ばれても―中国“90後"が語る日本のサブカルと中国人のマナー意識 (第10回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集)
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