2015年に読んだ、忘れられない一冊『働く男 – 星野源』#読み終わった本リスト Advent Calendar 2015

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2014年4月、「起業したい」というよりも、「自分の事業がしたい」という気持ちだけで、A4用紙に捺印した日のこと。あの日の僕が何を思い、どんなことを考えていたのかなんて、全く覚えていない。その後事業に失敗し、100万近くの借金を背負っていたことも、イマとなっては笑い話だ。

それから半年、事業主の筈がバイト三昧の日々。憧れや妬みを繰り返しては、毎日妙に高価なミルクをスチームしていた気がする。道標を失った頼み綱、コンサルタントという名の洗脳の終着点には、マルチ商法の勧誘が待っていた。

「何がしたいのか分からない。だから僕は事業主になりました」

なんとなく胸を張ることができない自分が、なにより嫌いだった。

働く男 (文春文庫) 働く男 (文春文庫)
星野 源文藝春秋 2015-09-02
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今年、僕の心に大きな爪痕を残した本は、星野源さんの『働く男』。この本には「星野源」という人物の仕事の解説、自身のエッセーが多数収録されている。といいつつも、僕は未だに、彼がどういった人物なのかよく分かっていない。彼が「SAKEROCK(サケロック)」の中心的な存在だったことも、この本で知ったこと。そして、解散していたというのも、既成事実だったこと。

村上春樹や東野圭吾、伊坂幸太郎などの有名著名人の描く物語小説は、読了後に独特な後味がある。体内で鍋パの片付けをしているような感覚が、正直苦手だ。こういった、エッセーやコラムのような「言葉の詰め合わせ」を好むようになったのは、今年に入ってからだった。

話が逸れてしまったので戻そう。単刀直入にいえば、この「働く男」というのは、今の僕ら、若い世代に必要な考え方が記されている。(と思う)

読了後、さまざまなレビューを見てみた。多くの人は、「星野源という男は多才で何でも卒なくこなす。意外な人間性も知れて面白かった」というファン的視線で「星野源」のレビューをしていた。

ではなく。

この本が印象を残った理由、それは「自分と似ていたから」だった。もちろん、ルックスや才能が云々とか、そういうのではなくて。

「働きたくない」という一文から始まるこの本。(導入部分は校了後に加筆したことが文末に添えてある)内容は、「働きすぎて入院し、いろんな人に迷惑をかけてしまった」というもの。そんな前書きから始まる、「働くこと」についてのこの本は、僕の働き方、いや、人生に様々なヒントを与えてくれた。各見出しでは、彼の職業について、歌うこと、書くこと、演じることについて、自身の考えを述べている。

なるほど、星野源って多才なんだな、と落とし込むのは容易だと思う。だけど、僕の立ち位置はソレを許さなかった。

“文筆も音も芝居も、別に仕事にしなくても、趣味としていくらでも追求することができます。

でも、お金が発生しない表現はあまり好きではありません。儲けたいとかそういうことではありません。

表現に対し対価が発生し、そのお金でやり取りがある中で、その厳しさの中で、やりたいことを追求していきたい。それが僕のやりたいことです。”

『働く男』- 星野源

ああ、なるほど、と。
この一文で、大勢の人前で映し出された「星野源」という実像は、才能に恵まれているわけではなく、ありふれたチャンスを手にして、自分の力で芽を出したんだということに気づいた。

“才能があるからやるのではなく、才能がないからやる。という選択肢があってもいいじゃないか。いつか、才能がないものが、面白いものを創り出せたら、そうなったら、才能のない、俺の勝ちだ。”

『働く男』- 星野源

どうしてこの「星野源」という人物が人気を博しているのか、頭のてっぺんからつま先まで伝わった。説得力がある。そして、僕もそうだった。高校時代、国語の点数がよかったわけでもなく、文章を書くことに突出していたわけでもない。ただ、書きたいと思ったから、文字を書くことを始めた。そしたら仕事になった。音楽が好きだから、曲を作った。デザインが好きだから、それでやっていこうと思った。

結論、星野源さんが伝えたいのは、「どうせ死ぬほど働くなら、好きなことにしてみたほうがいいんじゃない?」ってことだ。自然に、何気なく、こんなカッコイイことを言える大人が羨ましい。読んで、悔しい気持ちで胸が熱くなった。

僕がなりたいのは、「社長」でも「事業主」でもなく、「彼のような大人」だった。

 

2015年12月、上京して半年が経った。
目まぐるしく変化していく環境と情報速度に圧倒されながらも、「生きている」を実感できてる。

「自分がやりたいことくらい、仕事にしようと思いました。なので、事業主やってます」

後付けで格好悪いかもしれないけど、こうして胸を張れるようになってきたことが、僕はなにより幸せだ。