医療関連の判例集

 

最終更新日 2015/08/11

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★ 歯科医療事故の損害賠償請求訴訟が和解

# 150708: 平成22年に埼玉県内の歯科医院でおきた2才時の歯科治療時の死亡事故で、約8000万円の損害賠償請求がおこされていましたが、7月2日に和解が成立。なお、刑事事件ではさいたま地裁で罰金80万円(求刑100万円)が確定。

 卒業試験の過誤判定に対する損害賠償請求訴訟(鹿児島地裁判決 平成27年2月18日)

・ 鹿児島大学に約370万円の支払いを命じる判決(請求額は約4160万円)
・ 裁判所の判断では、大学側の責任は認めたが、故意ではないとした。

 インプラント手術事故死亡事故(東京高裁判決 平成26年12月26日)

・ 東京の歯科医院でインプラント手術後に患者が死亡した事故の控訴審判決で、東京高裁は1審と同じ執行猶予のついた禁錮1年6か月執行猶予3年の有罪判決。
・ 東京高裁の判断: 「1審の判断に不合理なところはなく誤りはない」と判断。
・ 東京地裁の判断: 「血管を傷つける危険性が高いことは認識できたはずだ」と判断。

 懲戒処分による退職金の支払いを違法とした請求(盛岡地裁判決 平成26年12月5日)

・ 平成25年2月に酒気帯び運転を原因に岩手県奥州市から懲戒免職処分を下された歯科医が、「市の処分と、県市町村総合事務組合による退職金の全額不支給処分の取り消しを求めた訴訟」判決で、「職金の不支給は違法だとし、組合の処分の取り消しを命じる」判決。
・ 裁判所の判断: 「長年の勤続の功を抹消し、退職後の生活保障を奪い去るような重大な非違行為であるとは評価し難い。組合の裁量権の範囲を逸脱したもの」とし、懲戒免職処分については、「原告の飲酒運転に対する規範意識の低さは著しいと言わざるを得ない」などとし、適法とした。

 埋伏智歯抜歯後の麻痺に対する賠償請求(東京地裁判決 平成26年11月6日)

・ 下顎の智歯を抜歯した際に舌神経を損傷して味覚障害や麻痺を生じたとして約1800万円の損害賠償を請求した案件で、東京地裁は「味覚の一部を失った上、ろれつが回りにくくなって仕事にも支障が生じた」として約420万円の賠償を命じた。

★ 歯科治療中の幼児死亡事件一審判決(さいたま地裁 平成26年10月10日)

平成22年に埼玉県内の歯科医院で、「治療中の2歳の幼児が、脱脂綿をのどに詰まらせて死亡した事件」で、「安全確保に向けるべき注意を怠った程度は大きく、結果はいうまでもなく重大」として罰金80万円(求刑同じ)の判決。被告弁護人によると控訴の方向。

★ 歯科大学を退学になったことに対する損害賠償請求(横浜地裁判決 平成25年9月13日)

# 解剖実習で献体の女性に対して不適切な行為をしたとして退学処分をうけた学生が、「1500万円の損害賠償」を求めた訴訟で、横浜地裁は「退学処分は重すぎるとして約1200万円の支払い命令」をだした。詳細は調査中。

★ インプラント死亡事故一審判決(東京地裁判決 平成25年3月4日)

# 臨床歯科医に期待される努力を怠り、刑事責任は軽くないとして、禁錮1年6月、執行猶予3年(求刑禁錮2年)の判決。被告は即日控訴。
# 裁判所の判断: 当時の医学的知見に基づき危険性を容易に知り得る状況にあったと判断し、専門医の間で問題があるとされた治療法を軽信した。

★ インプラント事故における損害賠償請求訴訟(名古屋地裁 平成25年2月22日)

・ 愛知県内の歯科医院におけるインプラント治療事故に対する損害賠償訴訟で、名古屋地裁は院長と保険会社に660万円の支払いを命ずる判決。
・ 裁判所の見解: 「院長がインプラント手術の前にコンピューター断層撮影(CT)などを実施していなかった点を指摘」「術前の十分な検査・解析を行う注意義務に違反した」と過失を認めた。

 一般医薬品のネット販売規制訴訟(最高裁判決 平成25年1月11日)

「一般用医薬品のネット販売を禁止した厚生労働省令は違法」として訴えていた裁判で、「原告二社の販売権を認めた二審の東京高等裁判所の判決を支持して、国の上告を棄却」。
・ 争点: 平成21年厚生労働省令第10号(一般医薬品のうち、服用リスクの高い第1類・2類は対面販売を原則とする)は、薬事法の趣旨を逸脱したもので、通信販売を行える権利があるとの訴訟。
・ 裁判所の見解: 省令は職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかだとした上で、規定が改正薬事法の趣旨に適合するためには、省令の制定を委任する授権の趣旨が規制の範囲や程度に応じて明確に読み取れることを要すると指摘。一方で、薬事法にはそうした記述は無く、第1類・第2類医薬品の通信販売を一律に禁止する省令までを委任しているとは言えず、違法で無効というべきである。

 ロキソニンの処方による医療過誤損害賠償訴訟(前橋地裁 平成24年8月31日)

【経過】2010年1月に群馬県内の歯科医師会の休日診療所で歯科治療を行った際、処方したロキソニンが原因と思われる心肺停止で3週間後に死亡した事例。患者は非ステロイド性抗炎症薬の投与によって誘発される気管支喘息(アスピリン喘息)の可能性があった。
【判決】約6,870万円の損害賠償を起こした原告の請求を棄却。
【裁判所の判断】
・ 患者は今までアスピリン喘息の診断をされたことは無い。
・ 以前にアスピリンを服用したが異常は出ていない。
・ 従って、ロキソニンの投与により重篤な発作を発症することは予測出来ず、歯科医師の過失を認めず、死亡との因果関係も認められないと判断した。
※ これはロキソニンの服用と死亡との因果関係を認められなかった、つまり発症はロキソニンによるものでは無いという意味なのか?報道で見た限りではそういった表現になっているが、判決文をきちんと見てみないとなんとも。

経過

★ インターネット掲示板への書き込み名誉毀損事件判決(大阪地裁 平成24年7月17日)

大阪市内の美容外科医が、2chで「口ばっかりで腕が伴ってない」「ここの医者は独りよがりの考えでおかしな手術をすることで有名」「悪徳医」などと書き込まれて名誉を傷つけられたとして、1100万円の損害賠償請求訴訟を起こしたが、7月17日に大阪地裁で、110万円の支払いを命ずる判決。
【被告の主張】 医学的見地からの公正な論評で名誉毀損にあたらない。
【裁判所の見解】 誹謗中傷というべき表現が用いられ、論評とは言えない。

★ 一般医薬品のネット販売禁止に対する控訴審(東京高裁 平成24年4月26日)

改正薬事法で一般医薬品(大衆薬)のネット販売を禁じたことに対して違法としてネット販売会社が訴えていた控訴審で、「原告敗訴の一審判決を取り消して、販売を認める」逆転判決。
判決の趣旨: 改正法の目的は医薬品の適切な使用の確保であり、ネット販売の一律禁止は明記されていない。
2010年3月の一審(東京地裁)判決では「ネット販売では購入者の状況や、副作用について正確に理解しているかなどの把握が困難として対面販売と比べると健康被害を防ぐ効果が小さいと指摘。規制は合憲と判断。」

★ 非専門医への診断義務を認定した判決(福岡地裁 平成24年3月27日)

平成24年3月27日、福岡地裁は「非専門医への診断義務」を認定する判決を下した。
・ 救急搬送先の消化器専門医が、「脳梗塞の前兆の発作を見逃し治療を怠った結果、脳梗塞で半身まひなどの後遺症を負った」として病院側に8,000万円の損害賠償請求。
・ 福岡地裁は440万円の支払いを命ず。
・ 裁判官の見解: 発作は一般的な医学文献に載っており、非専門医でも診断すべきだった。
・ 病院側は控訴せず判決は確定。

※ 非専門医の診断義務に対する判決はこれが最初らしい。またこれをもって、歯科医師が歯科治療の必要のために撮影した「パノラマ」や「CT」に他科の疾患が映っている場合の歯科医師の診断義務の有無について議論されているが、個人的には「医師と歯科医師の職務範囲が全く異なることより、完全なる診断の義務は無い。しかし、疑いが有る場合には専門医への転医勧告の義務を果たすべきであると考え、またCTにおいてはその必要性がより高く、できれば放射線医の読影を仰ぐべき」と考える。しかし、逆にいえば一般の放射線医が歯科特有の疾病の読影が出来るのか、非常に疑問に思う。

★ 保険医取消処分に対する損害賠償請求(東京地裁判決平成24年1月10日)

・ 歯科医院に勤務していた歯科医が保険医取消処分を受けた。
・ 処分の発端となったのはこの勤務医の情報提供がきっかけであったが、社会保険事務所は勤務医も不正請求に加担していたとして保険医取消の処分を行った。
・ 処分の根拠として、不正請求の原因となったカルテには勤務医の氏名が入力されており、カルテの作成責任があるとされた。
・ しかし、カルテコンにより作成されたカルテで、印刷されたカルテに勤務医の氏名は印字されていたが、確認のサインは無く勤務医の責任において作成されたカルテかは不明である。そもそも、このカルテは入力者の個人識別が出来ないシステムである。
・ 勤務医は行政手続きにの聴聞に代理人である弁護士も同席させて弁明を行ったが、行政側は「代理人の資格を有する弁護士であっても直接の弁明は許可せず、不適切な発言をしたら退席させる」とした。
・ 結果として、社会保険事務所は「カルテは勤務医の名前で作成されているのだから立証責任は歯科医側にある」として保険医取消の処分を行った。
・ 勤務医は、「保険医取消処分の取り消し」を求めて行政処分を提起し、それが認められて「保険医取消処分」は取り消されました。
・ 勤務医は国家賠償責任訴訟を起こして、その結果裁判所は国(社会保険事務所)の責任を求めて約1,132万円の支払いを命じた。
・ 裁判所の見解: 社会保険事務所側は、不利益処分を行う以上は行政側で立証すべきであるのに、勤務医や代理人(弁護士)の主張を無視して、行政庁が尽くすべき職務上の注意義務を怠った。また処分に対して、地方社会医療協議会の諮問を得ているとしたが、諮問から答申まで2日と短期間であり、事実上無検討で諮問を追認したとしている。
・ 被告国側は控訴せず判決は確定。
 
【考察】 カルテコンにで作成されたカルテには必ず、「署名」又は「記名捺印」が必要とされている。今回の問題となったカルテには勤務医の氏名が印字されていたので、法的にはここに「勤務医の捺印」があれば要件は満たされることにある。しかし、今回の件に限らず書類作成上の作成者の意思を確認するには「記名捺印」にはちょと問題があり、なるべくなら署名で対応すべきすべきと考える。まぁ、実印の捺印は別として。
なぜなら、今回の件においても、カルテコンの機能上プリントアウトされたカルテが誰の責任において作成(入力)されたか不明。そして、例え勤務医の氏名が印字されていたとして、署名はおりか捺印(たぶん)もなかったと推察される以上、このカルテの作成責任者が勤務医であるとは到底いえないのではないでしょうか。ただし、院内において常態として、診療を行った人がカルテコンに入力するという実態があれば別ですが。
従って、行政側が単に氏名が記載されていたということを持って勤務医にカルテの作成責任(不正請求の当事者責任)を追わせることは立証内容としては不十分ではなかったかと思われる。
しかし、歯科医師法で歯科医師には診療録(カルテ)の作成義務があるとされており、この義務は医療機関に課された義務では無く歯科医師個人に課された義務である。上記の資料を見る限りではこの勤務医は自己のカルテの作成義務を果たしていたとは言えないことも事実のようだ。

 患者に安易に「頑張れ」というのは違法(大阪地裁判決 平成23年10月25日)

自立神経症の患者に対して、医師が「頑張れ」と発言し、結果として症状が悪化し復職が遅れたとして患者が医師に対して530万円の損害賠償請求訴訟をおこしていたが、大阪地裁は60万円の支払を命じた。
内科医師の発言: 病気やない、甘えなんや」「薬を飲まずに頑張れ」と力を込めて発言。

裁判所の事実認定: 原告は2008年6月から同失調症で休職。治療で復職のめどが立った同年11月、元産業医との面談で、「病気やない、甘えなんや」「生きてても面白くないやろ」「薬を飲まずに頑張れ」などと言われ、病状が悪化。復職の予定が約3か月遅れた。
裁判所の判断: 安易な激励や、圧迫的、突き放すような言動は病状を悪化させる危険性が高く避けるべきで、産業医としての注意義務に違反した」
※ とすると、患者に安易に「大丈夫、心配ないよ」というのも要注意ですねかね?まぁ内容次第でしょうが。

 歯科医師会の役員の懇親会費用は必要経費か?

・ 東京高裁判決平成23年9月19日判決
・ この判決は弁護士会のものであるが、同類の事例として参考になるか? 
・ 弁護士会の役員を務める弁護士が、弁護士会の役員活動に伴って支出した懇親会の費用が事業所得の必要経費になるかを争ったもの。
・ 高裁判決: 弁護士として行う事業の遂行上必要な支出であれば、弁護士会等の役員等として行った活動に要した必要も、その事業所得の一般対応の必要経費に該当すると判断して一審の判断を否定、弁護士側の主張を一部認める逆転判決を言い渡す。
・ 一審判決: 事業所得を生ずべき業務に直接関係して支出された費用であるとはいえないとして国税庁(国)の処分は妥当とした。
・ 高裁の判断: ある支出が業務の遂行上必要なものであれば、その業務と関連するものであると指摘。加えて、事業の業務と直接関係を持つことを求めると解釈する根拠は見当たらず、直接という文言の意味も必ずしも明らかではないとも指摘して、国側の主張を否定。
ただし、二次会の費用は過大部分として必要経費として否定。
・ 現在は上告中。

 智歯抜歯後の骨髄炎に関する損害賠償訴訟(名古屋地裁 平成23年6月15日)

・ 名古屋市内の40歳代の男性が2004年8月に市内の歯科医院で右下の智歯を抜歯。
・ その後下顎の骨髄炎を発症。2005年4月以降名古屋大学病院で骨髄炎の摘出手術を計15回受けたが、症状が慢性化して疼痛と摂食不良が続いている。
・ 歯科医院側は抜歯後の対応に問題は無く、病院での「残った親知らずの抜歯が骨髄炎を発症した可能性がある」とした。
・ 判決では、「名古屋大学病院の処置は適切」「感染の時期は被告の抜歯手術特後」とし、「注意義務違反と抜歯後感染や骨髄炎は因果関係が認められる」と結論。1億8000万円の請求に対して4000万円の支払を認めた。

★ 保険指定取消の取消訴訟(東京高裁 平成23年5月31日)

・ 山梨県内の医師が、保険医療機関指定と保険医登録の取消処分を受けたことを不服とし、その取消を求めた裁判で一審では敗訴。
・ 処分の原因となった内容: インフルエンザに伴う無診察投薬を原因とし、指導、監査で約42万円の不正を指摘。
・ 保険医取消後、執行停止の申立が認められて保険診療は再開。
・ 二審の判断事由: 「保険医療機関の指定および保険医の登録の各取消処分が事実上、医療機関の廃止および医師としての活動の停止を意味する極めて重大な不利益処分である」とした上で、「処分に当たっては、処分理由となる行為だけでなく、その行為の動機など諸事情も考慮しなければならない」とし、取消処分は、その処分理由に比べて重きに過ぎ、比例原則に反するとしている。

・ 国は上告期限の6月14日までに上告せず、判決が確定。

★ 虫歯治療によるアレルギー症状の裁判の和解(大阪高裁 平成23年5月26日)

・ 患者(53才女性)が2006年5月に自宅近くの歯科医院で虫歯の治療(たぶんCR)を行った。
・ 治療後唇が腫れ上がったので他の医療機関に受診。そこで治療に使用したプラスチック材のアレルギーの可能性を指摘された。
※ 個人的見解だが、麻酔による誤咬の可能性は無かったのか?
・ 患者(原告)は「アレルギーテストをしなかった」として2009年5月に提訴。
・ 2010年12月の一審判決で「アレルギーテストの必要性を否定」して、原告敗訴→控訴。
・ 控訴審で、和解を提案。被告歯科医は「原告がアレルギーテストとは別に、唇を強く引っ張るなど治療上の対応に問題があったと主張したことに対して、身に覚えがなく精神的なダメージを受けた」として謝罪を和解条件に盛り込むよう求めた・
・ 和解内容: 「被告は見舞金として25万円を支払う」「女性が医療行為を批判して医師のプライドを傷つけたことを率直に謝罪する」。

★ 歯科治療時の死亡事故の賠償請求(さいたま地裁 平成22年12月16日)

2002年に埼玉県深谷市の歯科医院で治療中の幼児(4才)が死亡した医療事故の損害賠償請求訴訟で、裁判長は「意識や呼吸の有無などの観察義務を怠った」として一部の過失を認定の上慰謝料440万円の支払を認めた。なお、過失と死亡との因果関係は「手をつくしても救命ができたとは言えない」として却下。しかし、歯科医がバイタルサインの観察義務をつくしていれば、患者が生きていた可能性があるともしている。
※ さて、過失の認定だが「術前に泣いていた患者が麻酔後に泣きやんだことを、異常と疑って確認する予見義務がある」としているようだ。

刑事事件としては、2005年1月に業務上過失致死容疑で書類送検。2005年7月に不起訴。その後検察審査会への申し立て、2006年10月に検察審査会は不起訴不当とする判断を示したが、2007年3月に検察は再度不起訴処分とした。

★ 未払い報酬請求訴訟(熊本地裁 平成22年12月7日)

熊本市内の歯科医院に勤務していた女性が、未払いの理事報酬の支払いを求めた裁判で、4400万円の支払を命じた。

 インプラントに関する損害賠償訴訟(名古屋地裁 平成22年10月13日)

・ 愛知県内の歯科医院でインプラントを受けた60歳代の男性が、「不適切な治療で苦痛を受けた」として約550万円の損害賠償を請求。
・ 術後、噛み合わせが悪くなったり痛みが続き、別の歯科医院でインプラントを除去。
・ 被告歯科医師側は弁論期日に出廷せず反論もしなかった。
・ 判決では、「院長は事前の検査結果を十分解析せず、同意なく行った治療の方法も適切でなかった」として約440万円の支払を認める。

【参考】 インプラントの成功基準(トロントコンセンサス)

★ 個別指導の賠償請求(青森地裁 平成22年9月8日)

青森県内の歯科医院が個別指導を受け、その際に「選定理由の開示」を求めたが認められなかったことにより「精神的な苦痛」を受けたとして40万円の損害賠償請求を行ったが、9月8日に青森地裁は「違法であるということはできない」と請求を棄却。
判決の理由: 行政手続法や国民健康法などでは個別指導の対象として選定された理由の開示を直接義務づける規定はなく、理由を開示する義務はない。

★ 「賃金の支払いと労働契約上の地位確認の仮処分」決定(福島地裁 平成22年9月1日)

福島県内の専門学校における解雇処分で、福島地裁は「教務副部長」と「歯科衛生士科の学科長」の「賃金の支払いと労働契約上の地位確認」の仮処分申請に対して、「賃金の支払いを命じる」仮処分を決定。地位保全は認めず。
※ 争点は「有期雇用か否か」「雇い止めに合理性があるか」。報道内容だけでは詳細がわからず理解不能。

 保険医取消処分の取り消し訴訟(横浜地裁 平成22年4月14日)

判決: 保険医資格取消の処分の取り消し。
判断: 故意に診療録へ不実記載を行ったとは認められず、処分は違法。このケースでは処分対象となったのが勤務歯科医で「固定給で勤務しており、直接的・具体的に利益を得る立場にはなく、コンピューターに不実記載となる入力をした事実を認めるに足りる証拠はない」としている。つまり、診療入力内容についてコンピュータに不実記載はあったものの、この勤務医が行ったという証拠が無いという意味で、不正請求への関与は否定しているが、不正請求による処分自体を違法としたものでは無いようで、ある種特殊な例と思われる。

★ 弁護士無しの医療訴訟判決(千葉地裁 平成22年3月19日)

矯正治療を原因とした医療過誤訴訟。提訴の原因は「矯正治療を受けても歯並びが良くならなかった」ということですが、平成22年3月19日に千葉地裁で「十分な説明を尽くすことなく治療を行った」として140万円の請求に対して100万円の支払い命令があった。
まぁ、これは医療過誤訴訟の一例ということですが、原告である30才代の女性、「歯医者も弁護士も信用ならない」として、自分で勉強して「本人訴訟」を行ったというからご立派。

★ ガイドラインの採用(大阪地裁平成21年11月25日)

判断基準として、基礎となっている論文等が医療行為時に既に発表されていることを理由に、診療行為時には作られていなかったガイドラインが裁判所の判断に利用された例。

★ 診療応召義務訴訟(東京地裁 平成 年 月 日)

2004年7月の午前7時40分頃、路上で転倒した女性が、近くの医院に受診したが、診療時間(9時から)前で準備が整っていないとの理由で救急病院への受診を指示した事例で、「診療応召義務違反で謝罪と50万円の慰謝料」を求めて提訴。東京地裁の判決では「診療時間外で応急体制になかったことや、救急病院での受診を勧め、患者が救急車を呼んだ経緯などから、診療を拒否したものとは認められない」としてこれを棄却。

★ 091016: 保険医取消処分の執行停止(静岡地裁 平成21年10月16日)

静岡地裁は、静岡県内の歯科医院に対して地方厚生局が保険医取消処分としたのに対して「審理を尽くす必要がある」として、「処分の執行停止」を決定。処分の要因は「抜歯を難抜歯に振り替え」など、計166万円の不正請求。
# 最近、このように保険医取消の執行停止の訴訟が目に付きます。中には原告勝訴もありますが高裁で逆転敗訴となるケースもあり、こういった裁判の流れが今後注目されます。

 091016: 義歯の輸入禁止訴訟控訴審(東京高裁 平成21年10月14日)

全国の歯科技工士が起こした義歯の輸入禁止訴訟の控訴審判決で「歯科技工士法は公衆衛生の保持が目的で、個々の技工士に業務を独占的に行う利益を保障したとはいえない」と一審判決を支持し、原告敗訴。

★ 090929: 混合診療禁止の適法性を認める訴訟控訴審(東京高裁 平成21年9月29日) 最高裁判決文

東京高裁は「混合診療禁止の適法性を認める訴訟」の控訴審判決で、「1審判決を取消、原告の請求を棄却」した。
※判決要旨: 現状でも「保険外併用療養費制度(旧特定療養費制度)」が認められており、一定の条件下ですでに混合診療は認められており、医療の質などの確保の観点や財政的観点から範囲を限定するのはやむを得ない。

★ 111025: 最高裁第三小法廷は「国の政策は適法」との判断を示し、「保険診療分については保険が使える権利の確認を求めた」患者の上告を棄却。
★ 071100: 東京地裁判決では「禁止に法的根拠はない」と患者側の請求を認めた。

★ 090911: 保険医取消訴訟控訴審(大阪高裁 平成21年9月9日)

兵庫県で保険医を取り消された医師が、「処分の取り消しを求めた裁判」で、一審では「処分は過酷だ」と原告の主張を認めて原告勝訴であったが、大阪高裁では「自己の経済的利益を得ることが主な目的ではないが、悪質性が高い」として取消処分を適法と判断し、原告逆転敗訴。

★ 090723: 歯科研修医の資格外研修事件(最高裁  平成21年7月23日)

いわゆる、「札幌市立病院事件」であるが、7月23日に最高裁第2小法廷は4人の裁判官全員一致で「上告棄却」の判断を示し、罰金6万円の有罪が確定。
(1) 一審の判断: 医師と歯科医の資格の違いに配慮せず、同様の医療行為を長期間行わせた責任は軽くない。
(2) 二審の判断: 一審の判断を支持。
(3) 最高裁の判断: 医師法で定められた医業の概念は不明確とは言うことはできず、被告の主張は憲法違反などの上告理由に当たらない。
# 事件の概要: 被告は1998年〜2001年にかけて札幌市立病院救命救急センターに受け入れた研修歯科医を当直医などに配置し、救急車内における救命処置(医行為)をさせたもの。

 090601: 誤抜歯事故和解へ

2001年6月に神奈川県藤沢市立病院で高校生の女子生徒の左下の智歯と誤って第二大臼歯を抜歯した医療過誤について約118万円の損害賠償で和解へ。

 保険医取消処分の取消訴訟(福島地裁 平成21年3月24日)

裁判所は、原告歯科医院の保険請求について、「規定に適合していなかった部分はあるが重大な過失とは認められず、処分は重きに失し違法なものといわざるを得ない」として保険医取消処分の取消を命ず。

その後、4月8日東北厚生局は仙台高裁に控訴。控訴の理由は「処分に至った経緯をもっと詳しく説明し、妥当性を訴える」

★ 刑務所内の受刑者歯科治療訴訟判決(鳥取地裁 平成21年3月23日) 

鳥取刑務所内の受刑者が歯科治療を希望したが受け入れられなかったとして160万円の損害賠償を求めた裁判で、裁判所は「受刑者の歯科診療の申請件数が非常に多い状況をかんがみれば、緊急に治療すべきと判断しがたい受刑者について8カ月を要する状況はやむを得ない」として退けた。

★ 麻酔による脳梗塞判決(仙台地裁 平成21年3月12日)

宮城県内の歯科医院で麻酔後に脳梗塞を引き起こした事例の損害賠償(約3400万円)請求で3月12日に、仙台地裁は500万円の支払いを命じた。この判決では「麻酔後、意識障害が疑われる臨床所見があり、脳疾患の予見が可能だったにも拘わらず、適切な判断により専門医に転医をさせなかったことに過失を認めた。」が「過失と右半身の麻痺などの後遺症との因果関係は否定」し、「適切に対処していれば、後遺症が残らなかった可能性」を踏まえて、精神的苦痛に対する慰謝料を認めた。

★ 矯正治療による不具合に対する損害賠償請求事件(東京地裁 平成20年12月25日): 非公開資料集

# 大学病院の小児歯科と矯正歯科に受診していた患者が、小児歯科で診療中に歯根吸収と開咬を生じ、また矯正歯科で診療中に悪化したことについて、約1860万円の損害賠償請求訴訟をおこしたが、請求が棄却されたもの。
# 請求の根拠
@ X線撮影で歯根吸収を発見した時に速やかに矯正治療を中止するなどの対応をとらなかった。
A 新たな不正咬合を発生させない義務を怠ったこと。
B 矯正治療に歯根吸収の危険性があるとの説明義務を怠った。
# 裁判所の判断
@ 歯根吸収の性質については、歯根吸収が起きるか否か、どの程度の歯根吸収が起きるかは個々の患者によって異なることになるから、患者の希望に基づいて歯の矯正治療を行っている医師が、歯根吸収を発見した場合に常に矯正治療を中止し又は治療方針を変更する義務や、歯根吸収の発生を防止するために画一的に年1回又は6か月に1回の頻度で前歯部のデンタルレントゲン撮影を行う義務を負っていると解することはできないというべきである。
A 患者の希望に基づいて歯の矯正治療を行っている医師が、一般的に歯根吸収の危険性のより低い消極的治療を選択すべき義務を負っていると解することはできないというべきである。
B 説明義務違反の主張について
D医師は、最悪の場合は、失活、脱落も考えられるとまで説明しており、このような説明を受ければ、通常、歯根吸収が進行する危険性を認識し得るというべきであるから、D医師の歯根吸収に関する事前の説明について、説明義務違反の違法があったとはいえないというべきである。

★ 試験削合の正当性と説明義務違反(大阪高裁判決 平成20年10月3日頃)

# 大阪高裁判決(地裁では歯科医師の勝訴、高裁では患者の勝訴)
# 原告(患者)は頬部の圧痛と冷痛で、被告(歯科医師)の歯科医院を受診。
# 歯科医師の対応: X線(異常なし)、患歯(上の3番)の処置歴無し、2回の電気歯髄検査で異常なし。その後、歯科医師は「中を開けてみないとわからない」とは言ったもののその(試験削合)の必要性を説明せず。
# 犬歯を神経ぎりぎりまで削合したため激痛が発生。歯髄炎から神経因性疼痛を発生させたものと、大阪高裁では認定。
(1) 試験削合の必要性: 「歯科文献」により「最終的手段」とされており、歯髄の生死は「問診、視診、レントゲン検査、電気診・温度診・打診・麻酔診」などの諸検査を総合して判断すべき。電気歯髄診断においてはエラーを念頭に置くべきで電気診だけに頼ってはいけない。
(2) 過剰な試験削合: 「歯科文献」により、生活歯の削合による歯髄への刺激は非常に危険。
(3) 経過観察の必要性: 被告は本件において「経過観察が可能(急性症状がなかった)」であることを認めており、性急に試験削合を行う必要はなかった。
# 高裁判決の判断 
(1) 本件削合を実施したこと自体、必要性及び緊急性もないのに、危険な侵襲を与える検査に及んだものであって、注意義務違反があった。
(2) 歯髄ぎりぎりまでの切削を行う必要性は存在しなかったというべきであり、試験削合の実施方法についても注意義務違反があった。

★ 医師のパワハラ損害賠償訴訟判決(長崎地裁判決 平成20年9月26日)

平成20年9月26日長崎地裁判決: 病院に勤務する精神保健福祉士が担当科長である医師から、「侮辱的な発言を度々受けたり」「業務の制限(パソコンの立ち上げ禁止)」「退職勧奨」などを受けたことに対して660万円の損害賠償請求を行っていたが、判決ではこれを認め病院の設立者である市に90万円の支払いを命じた。ただし医師への請求は棄却。
* 公務員が職務上で行った違法行為については国や自治体が賠償責任を負うと定めた国家賠償法を適用

★ 下顎変形症のオペ後の後遺症訴訟(徳島地裁 平成20年5月16日和解)

2004年12月に徳島大学病院で下顎の変形症の手術を行った後、顎骨の骨折や開口障害が生じたことに対して約2200万円の損害賠償請求訴訟で、2008年5月16日に徳島地裁で和解。和解内容や金額は不明だが医師の過失については和解条項に盛り込まれていないとか。

 医療機関の患者への報告義務を認めた判決(大阪地裁判決 平成20年2月21日) 

・ 治療により身体障害1級の後遺症が残った患者が診療録等を示しながらの顛末報告を病院に求めたが、病院は報告をしなかった。病院の診療録等に基づいて顛末を報告する義務違反を認め、患者の慰謝料請求を認めた判決。
・ 原告は平成3年4月22日から定期的にA大学歯学部附属病院に「白板症」で通院していたが、平成4年1月30日に転移癌の疑いがあるとして同病院に入院。
・ 原告は同病院にて平成8年11月27日まで様々な加療を受けたが、平成9年7月頃、音声・言語機能障害、咀嚼機能障害、肩関節機能障害、股関節機能障害、呼吸器機能障害により、身体障害1級と認定されるに至る。
・ 原告は平成9年、大阪地裁に対して「診療に際して作成された医療記録等について証拠保全の申立て」を行い、保全がなされた。
・ 平成10年9月11日に原告は、「A病院に過失があった」として大阪地裁に損害賠償請求訴訟を行ったが一審、二審とも請求を棄却。
・ 原告は被告のA病院に対して、「診療録等を開示して本件診療の顛末を明らかにするよう求めた」が、再三の要求にも拘わらず開示しなかった。そこで原告は被告に「診療契約上の付随義務である診療録等の開示義務違反、診療契約上の顛末報告義務違反を理由に、診療契約の債務不履行、又は、人格権侵害の不法行為に基づき、損害賠償を求めて本件訴訟」を起こした。
・ 原告の請求金額は1700万円(内訳:精神的苦痛に対する慰謝料1250万円+医学文献の購入費60万円+私的鑑定書作成費用120万円+裁判所鑑定費用70万円+弁護士費用200万円)
・ 判決では、精神的苦痛として30万円の慰謝料を容認。
・ 争点
1.病院は患者に対し診療契約上の付随義務として診療録等の開示義務を負うか
2.病院は患者に対し診療録等に基づいて顛末を報告する義務を負うか
3.病院に顛末を報告する義務違反があったか

★ 抜歯の適法性と説明義務違反による損害賠償判決(東京地裁判決 平成19年10月4日)

 以下は、十分な説明を行わず抜歯を行い、その結果インプラントの必要が生じたことによる損害賠償請求訴訟の判決の要旨である。まぁ、説明義務違反とか何とかは、取り立てて取り上げる内容では無いが、この中の裁判所の判断の中に、「根管治療を行う際に実体顕微鏡を使うのは現時点での医療水準」的な見解があるが、これが定説となっては困っちゃいますよねぇ。控訴しているのか否かはわかりませんが、こういう争点はきちんと明らかにして貰いたいと思います。

★ 平成19年10月4日 東京地裁判決

 右下6番に銀合金製のアンレーが装着してあったが3度の齲蝕と診断。その後抜歯(正確には抜歯行為による歯冠崩壊)を行ったが、その際「抜歯を行う説明」をしなかった。

# 原告の主張
(1) アンレーをレジンに詰め替えるよう求めたのに、どういなく抜歯行為をした。
(2) 主訴の歯を修復不可能な状態とした。

# 原告の損害
(1) 被告歯科医院における診療費4,040円。
(2) 他院におけるインプラント費用等。約900,000円。
(3) 慰謝料6,000,000円
(4) 弁護士費用約1,810,000円
合計 約8,700,000円

# 被告の反論
(1) 当該歯を保存することが不可能で抜歯するしか方法がなかった。
(2) 今回の欠損歯の補綴に対しては一般にブリッジで十分である。

# 裁判所の判断
(1) 昔は大きなむし歯は即抜歯というのが多かったが、最近ではできるだけ歯を残す治療を行うべき。
(2) 根管治療に対する判断
 根管治療は、根管由来の細菌や刺激物質が原因で生じる根尖性歯周組織疾患の予防や治療を目的とするものであり、@抜髄後の根管(抜髄根管)やAすでに歯髄が失活して感染が生じている根管(感染根管)を機械的および化学的に拡大清掃し、適切な根管充填が行えるように根管の形態を形成すること、すなわち、根管内から根尖性歯周組織疾患の原因となる細菌や刺激物質を除去するとともに、これらの有害な物質がふたたび根管内に貯留しないように、根管内を化学的に安定で生体に傷害を起こさない物質で密閉(緊密な根管充填)できるように準備することである、と定義される。なお、根管治療のなかに根管充填を含める場合もある。
 根管治療は、根管の入り口を探すことから開始されるが、根管が細い場合などには根管口を見つけるのが難しい場合がある。根管の探索にはリーマーやファイルが用いられる。
 細い#10のファイルを根管に挿入したときに抵抗が強く根尖孔まで達しない場合には、化学用洗浄剤を併用しながら、同ファイルの引き戻しと押し込みを繰り返して根管狭窄部を拡大し、根管充填を行う。また、根管が弯曲している場合には、ファイリング操作(器具を根管壁に接触させ、ヤスリのように上下運動させる操作)のみで根管を拡大する。
 根管治療の成功率は、以前はかなり低く、適応症も限定されていたが、最近では成功率は高まり、適応症の範囲は広がってきている。現在では、歯周病や根面う蝕が進行し残存する歯根膜が極めて少ない歯を除いて、外科的療法や歯周療法との併用により、根管治療の完全な禁忌症は少なくなっている。
 髄腔や根管の形態は、歯種によって異なり、年齢、う蝕、咬耗、摩耗にも大きく影響を受ける。術前のX線写真は二次元像であり、特に複根歯ではX線写真による天蓋、髄腔壁、根管の明確な確認は難しい。根管治療時には、X線写真から得られる情報を参考に、直視で十分に確認してより正確な情報を得ること、更に術中に手指の感覚で情報を得ることが重要である。
 平成2年に入る頃から根管療法の分野で実体顕微鏡の使用が欧米を中心に普及し始め、現在では通常の根管治療でも使用されている。実体顕微鏡を使用することにより、天蓋の取り残しや見落としていた根管等を発見することができる。また、石灰変性により閉塞した根管を見つけ出すことも可能である。髄床底や根管内を実体顕微鏡でよく観察すると、閉塞した根管も容易に発見できる。
(3) 最終判断
 以上によれば、被告Bは、本件歯の抜歯を回避するための手段を尽くさず、 かつ、原告に対して抜歯の必要性を説明せずに、本件歯の抜歯を行ったものと認められるから、被告Bの本件抜歯行為は原告に対する不法行為を構成し、 被告Bは、民法709条に基づき、被告Cは、民法415条、同法715 条1項に基づき、それぞれ、本件抜歯行為によって原告に生じた損害を賠償する責任を負うと解すべきである。
(4) 将来のインプラント手術費用28万4244円
 証拠及び弁論の全趣旨によれば、インプラント手術の成功基準はインプラントを入れた後最低10年間維持されることであるといわれており、●●クリニックにおいては、インプラント治療後10年間維持されることを保証していることが認められ、原告の生涯において(本件抜歯行為の時点における原告の平均余命は39.64年)、今後少なくとも2回のインプラント手術を受ける必要があることが認められる。
(5) 賠償額
 慰謝料50万円、弁護士費用20万円を含む総額約164万円の賠償命令。

★ 裁判所の判断の追記

(1) 平成2年に入る頃から根管療法の分野で実体顕微鏡の使用が欧米を中心に普及し始め、現在では通常の根管治療でも使用されている。実体顕微鏡を使用することにより、天蓋の取り残しや見落としていた根管等を発見することができる。
 # たしかに、根管治療に実体顕微鏡は有効であり、歯内療法専門医(主として私費治療だが)を中心に普及している事は理解できる。しかし、その普及率などから考えると、現在の歯内療法の医療水準の一つとして考えて良いのであろうか?
 かりに医療水準として考えた場合、保険診療における採算の面ではどうなのだろうか?
 実体顕微鏡には色々なものがあるが、仮に100万円の実体顕微鏡を購入して10年使用し、金利や償却資産税、メインテナンス費用を無視したほんとの最低レベルのコストで計算してみた。診療日数は週休2日を前提とし、正月やお盆休みを加味すると年間250日。10年では2500日である。つまり、1日あたりのコストは、400円ということになる。
 さて、現在根管治療を行う(着手する)ケースがどのくらいあるかは意見の分かれるところであるが、当院の例では1〜2例である。根管治療の点数は130〜570点ですから、1ケース当たりの400円というコストは決して少ない金額ではないです。そして、裁判官は「欧米を中心に普及」と言っておりますが、『歯科診療報酬の日米比較 ・ 月刊保団連平成18年7月号より(1999年デンタルエコノミクス誌調査)買力平価換算』によると、根管治療の料金は「日本:8,770円、アメリカ:72,093円(大臼歯)」と8倍もの開きがあるのである。従って、欧米での普及を根拠に、日本における根管治療の水準として判断されては困りますね。
 たとえて言うならば、これは、「タクシー会社で事故の時の乗客の安全を考えると車種はベンツであることが水準である。」や「裁判はえん罪や恣意的な判決を防ぐために、全て15人の裁判官の合議制で行うのが水準である。」というのと同じで、コスト計算を逸脱した判断と言わざるを得ないのである。

(2) 社団法人東京都歯科医師会の医事担当理事がデンタルX線写真で「本件歯の根管は狭窄しており、この根管を拡大して根管治療を完遂するのは不可能に近い」と鑑定しているのに対して、裁判所は「術前のX線写真は二次元像であり、特に本件歯のような複根歯ではX線写真による根管の明確な確認は困難で、正確な情報を得るためには、X線写真から得られる情報を参考に直視で十分に確認する必要がある」と判断している。つまり、術前のX線写真だけでは根管治療の予後を判断するには不十分であるということである。

★ 手術時の説明義務違反(鹿児島地裁判決 平成19年12月5日)

鹿児島地裁判決: 鹿児島大学歯学部付属病院で顎の手術を行った患者が、術後「顔面神経麻痺や口唇麻痺」を引き起こした医療事故に対して、「医療機関側は、治療行為について事前に十分な説明を行う義務があるが、顔面神経マヒの具体的内容や発生頻度、予後について十分な説明がされたとは認めがたい」として220万円の賠償命令。ただし、今回は説明義務違反は認めたが、「手術中の過誤による神経損傷」については棄却。

★ 同意無し抜歯に対する損害賠償訴訟(東京地裁判決 平成19年10月4日)

奥歯に詰めてあったアンレーをレジンに詰め替えることを希望した受診者に対して、同意無しに抜歯したことに対する損害賠償請求。
 請求費用:
ア被告医院における診療費4040円
イ被告医院における診療を受けた後に診療を受けた他の医院(以下,「後医」という。)における診療費(後記のインプラント手術費用等を除く。)及び本件抜歯行為についての調査費用8万4260円
ウ調査費用(上記イ以外の書籍代) 3万5660円
エインプラント手術費用等40万2170円
オ将来のインプラント手術費用等96万4500円
カ慰謝料600万円
キ弁護士費用181万3126円
 判決
1 被告らは,原告に対し,連帯して金164万1967円及びこれに対する平成14年8月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その4を原告の負担とし,その余は被告らの連帯負担とする。

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 右下6番に銀合金製のアンレーが装着してあったが3度の齲蝕と診断。その後抜歯(正確には抜歯行為による歯冠崩壊)を行ったが、その際「抜歯を行う説明」をしなかった。
# 原告の主張
(1) アンレーをレジンに詰め替えるよう求めたのに、どういなく抜歯行為をした。
(2) 主訴の歯を修復不可能な状態とした。

# 原告の損害
(1) 被告歯科医院における診療費4,040円。
(2) 他院におけるインプラント費用等。約900,000円。
(3) 慰謝料6,000,000円
(4) 弁護士費用約1,810,000円
合計 約8,700,000円

# 被告の反論
(1) 当該歯を保存することが不可能で抜歯するしか方法がなかった。
(2) 今回の欠損歯の補綴に対しては一般にブリッジで十分である。

# 裁判所の判断
(1) 昔は大きなむし歯は即抜歯というのが多かったが、最近ではできるだけ歯を残す治療を行うべき。
(2) 根管治療に対する判断

 根管治療は、根管由来の細菌や刺激物質が原因で生じる根尖性歯周組織疾患の予防や治療を目的とするものであり、@抜髄後の根管(抜髄根管)やAすでに歯髄が失活して感染が生じている根管(感染根管)を機械的および化学的に拡大清掃し、適切な根管充填が行えるように根管の形態を形成すること、すなわち、根管内から根尖性歯周組織疾患の原因となる細菌や刺激物質を除去するとともに、これらの有害な物質がふたたび根管内に貯留しないように、根管内を化学的に安定で生体に傷害を起こさない物質で密閉(緊密な根管充填)できるように準備することである、と定義される。なお、根管治療のなかに根管充填を含める場合もある。
 根管治療は、根管の入り口を探すことから開始されるが、根管が細い場合などには根管口を見つけるのが難しい場合がある。根管の探索にはリーマーやファイルが用いられる。
 細い#10のファイルを根管に挿入したときに抵抗が強く根尖孔まで達しない場合には、化学用洗浄剤を併用しながら、同ファイルの引き戻しと押し込みを繰り返して根管狭窄部を拡大し、根管充填を行う。また、根管が弯曲している場合には、ファイリング操作(器具を根管壁に接触させ、ヤスリのように上下運動させる操作)のみで根管を拡大する。
 根管治療の成功率は、以前はかなり低く、適応症も限定されていたが、最近では成功率は高まり、適応症の範囲は広がってきている。現在では、歯周病や根面う蝕が進行し残存する歯根膜が極めて少ない歯を除いて、外科的療法や歯周療法との併用により、根管治療の完全な禁忌症は少なくなっている。
 髄腔や根管の形態は、歯種によって異なり、年齢、う蝕、咬耗、摩耗にも大きく影響を受ける。術前のX線写真は二次元像であり、特に複根歯ではX線写真による天蓋、髄腔壁、根管の明確な確認は難しい。根管治療時には、X線写真から得られる情報を参考に、直視で十分に確認してより正確な情報を得ること、更に術中に手指の感覚で情報を得ることが重要である。
 平成2年に入る頃から根管療法の分野で
実体顕微鏡の使用が欧米を中心に普及し始め、現在では通常の根管治療でも使用されている。実体顕微鏡を使用することにより、天蓋の取り残しや見落としていた根管等を発見することができる。また、石灰変性により閉塞した根管を見つけ出すことも可能である。髄床底や根管内を実体顕微鏡でよく観察すると、閉塞した根管も容易に発見できる。
(3) 最終判断
 以上によれば、被告Bは、本件歯の抜歯を回避するための手段を尽くさず、 かつ、原告に対して抜歯の必要性を説明せずに、本件歯の抜歯を行ったものと認められるから、被告Bの本件抜歯行為は原告に対する不法行為を構成し、 被告Bは、民法709条に基づき、被告Cは、民法415条、同法715 条1項に基づき、それぞれ、本件抜歯行為によって原告に生じた損害を賠償する責任を負うと解すべきである。

★ 実体顕微鏡の使用は現時点で医療水準とは言えませんねぇ。

★ 損害賠償請求事件(東京地裁 平成19年7月26日) 

# 裁判所の判決: 原告の請求をいずれも棄却する。
# 事案の概要: A大学病院で歯科診療を受けた原告が、それを契機に大学病院時代の主治医であったB歯科診療所でインプラント治療を受け、歯科医の手技上の過失により、術後の上顎洞炎が発症し、咀嚼障害などの後遺症を負ったとして、診療契約の債務不履行又は不法行為に基づき約4100万円の損害賠償請求をしたもの。
# ワンポイント
被告はB歯科医院かと思ったら、A大学病院とB歯科医院の両方のようだ。つまり歯科医Bは当時A大学病院歯科口腔外科の口腔外科・インプラント外来の非常勤講師として勤務していたことも関係するのか?
# 診療の経過
(1) 患者は、A病院に通院していたので、A病院歯科口腔外科を受診。
(2) 患者が、右上臼歯部の動揺を訴えたところ、非常勤講師として勤務していた歯科医Bが診察し、右上6番を抜歯し入れ歯かインプラントしか無いとして、インプラントについての説明を行った。
(3) 後日、患者はB歯科診療所を受診し、インプラント治療の診療契約を行った。
(4) B歯科診療所で抜歯後、インプラントを実施。
(5) インプラントの約1年後、E歯科医院で右上7番に歯周炎急性発作を指摘され、また、後日インプラントによる歯性上顎洞炎の疑いがあるとしてA大学病院の受診を指示。
(6) 右顔面痛、歯痛、頭痛の主訴でA大学病院の耳鼻咽喉科を受診、右上顎洞炎の診断をうけ、約10日入院加療。
 判決文によると、入院期間中にF大学歯学部附属病院で、診察を受けて右側上顎洞炎と診断右上7番の抜歯が行われた。
(7) 右上7番抜歯の約2ヶ月後、患者はG病院で診察を受け、上顎洞炎は治癒との診断を受ける。
(8) それから約4年後、H大学病院歯科で右上6番のインプラント体除去手術を受ける。同時点においては、右上6番のインプラント周囲骨はインプラント中部に強硬にインテグレーション(骨組織との直接の結合)を起こしており、インプラント体を外した窩からは、洞粘膜が視認できる状態であった。
# 争点
(1) 手技上の過失の有無: インプラント体を洞粘膜(シュナイダー膜)に貫通させることにより、易感染状態にさせた過失の有無

(2) 因果関係の有無: 前記(1)の手技上の注意義務違反により、インプラント体が上顎洞に貫通し、またインプラント体の装着が不十分な状態となって、上顎洞が口腔内と交通し、易感染状態が生じたために、原告は、上顎洞炎を発症し、またインプラント体を埋入した部位で十分に咀嚼ができない状態となったものであるから、前記(1)の手技上の注意義務違反と原告の上記症状との間には因果関係がある。
# 裁判所の判断
(1) 上顎洞炎の発症について
原告は、本件インプラント術後から、原告には上顎洞炎に伴う鼻閉、頭痛等の様々な症状が生じており、これは、本件インプラント手術の際、インプラント体が洞粘膜を貫通したことによるものであると主張する。しかしながら、原告の上顎洞炎が確認されたのは、本件インプラント術から約1年後の平成14年5月であって、本件インプラント術によって生じたと認めるに足りないことは後記4に認定のとおりであり、これによれば、本件インプラント術後に上顎洞炎が発症したとの事実から、洞粘膜の貫通があったと推認することはできない。
(2) 右上6番のインプラント体は、埋入時に、原告の上顎骨を貫通したと推認することができる。 しかしながら、洞粘膜が、前記のとおり、通常6oから7o挙上することができるようなある程度の弾力性を備えた膜であると認められることに照らせば、厚さ0.13mmから0.5mmの薄い膜であるということから、上顎骨を貫
通したインプラント体が、同時に洞粘膜をも貫通したであろうと推認することはできない。
(3) インプラント体を上顎骨に貫通させたことが過失に当たるか?
本件インプラント術において、インプラント体を上顎骨に貫通させないように、骨を残してドリリングをすべき手技上の注意義務があったと認めるのが相当である。
(4) 原告の上顎洞炎は、本件インプラント術に起因して生じたものというよりは、むしろ右上7番の歯周炎に由来したものであると考えるのが合理的である。

★ 前払補綴費用返還請求事件(東京地方裁判所平成19年3月26日)

要旨: 原告Aが被告B(歯科医師)に対して、@債務不履行による診療契約の解除と既払いの補綴治療費の返還を求め、A診療契約時の説明義務違反による債務不履行に基づき補綴治療費相当額の損害賠償を求めた。
判決: 原告に対して請求額の約1/6の支払いを認めたが、その他の請求は棄却。
ポイント: つまり、原告は治療費全額の返還を求めたが、診療が進行した分の返還は認めず、未着手分の返還を認めた。

★ 保険医登録取消等処分取消請求事件(名古屋地裁 平成19年3月2日)

# 裁判所の判決: 保険医登録取消等処分の取消の請求を却下。保険医登録取消等処分の停止仮処分を却下。
# 事案の概要: 社会保険事務局長が歯科医院に対して行った保険医療機関の登録取消が違法であるとして、本件処分の取消の訴訟を起こしたのに伴い、これらの処分の効力の停止を求めた事案。
# 保険医登録の取消処分の理由
(1) 保険請求において、無資格者(歯科助手)が行った行為を、自分が行ったものとして、診療録への不実記載を行い、診療報酬の不正請求を行った。
(2) 自由診療と保険診療を同時に行い、保険診療を行ったものとして、診療録に不実記載を行い、診療報酬の不正請求を行った。
(3) 歯周疾患指導管理料、歯科口腔疾患指導管理料、歯科衛生実地指導料、加圧根充、ティッシュコンディショニング、除去、平行測定、リテイナーの算定要件を満たしていないにもかかわらず、不当に診療報酬の請求を行った。
# 争点
(1) 本件各処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるか(行政事件訴訟法25条2項本文)。
(2) 本案について理由がないとみえるか(同条4項)
(3) 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるか(同項)
# 社会保険事務局の主張
(1) 保険医登録取消事由について、不正請求が故意に行われたことは要件とされていないから、その主張(過失)はそれ自体失当である。
(2) 申立人は、無資格者である歯科助手に、歯周疾患指導管理、P処、スケーリング、歯科衛生実地指導、歯周基本検査、印象採得、装着及び研磨といった種々の診療行為を幅広く行わせていた。
(3) 申立人は、混合診療に当たることが明白なものについても保険診療として請求をするなどの不正請求をした。
(4) 申立人の「過失」という主張は、平成15年7月17日に新規指導を、平成16年1月22日に新規個別指導を実施しており、申立人は、社会保険診療請求制度を十分に理解していたはずである。
(5) 算定要件を満たさない保険請求の事例は複数種類に及び、それらの保険請求点数も決して小さくない。また、診療行為として医学的に不十分であるため算定要件を満たさないとされているものについても保険請求がなされているなどの事情から、これらの事例を、申立人が主張するように、些細な間違いと位置付けることは医学的に見て非常識である。
# ワンポイント
(1)当該歯科医院は、歯科医師1人と歯科衛生士1人、歯科助手9人という状態で1日100人もの患者を診療してきた、、、、、、。その後指摘を受けて、順次、合計6名の非常勤歯科医師を雇用したらしい。
(2) 地方社会保険事務局等は、保険医療機関等の診療内容又は診療報酬の請求について、不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由がある場合などに監査を実施するものとし(同要綱第3参照)、監査後における行政上の措置として、保険医療機関の指定や保険医等の登録の各取消処分並びに保健医療機関等又は保険医等に対する戒告及び注意を定め、これらの措置は、不正又は不当の内容により、以下の基準に従ってなされるものとしている(同要綱第6の1参照)。
(ア) 取消処分
1 故意に不正又は不当な診療を行ったもの
2 故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの
3 重大な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの
4 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの
(イ) 戒告
1 重大な過失により、不正又は不当な診療を行ったもの
2 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの
3 軽微な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの
4 軽微な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの
(ウ) 注意
1 軽微な過失により、不正又は不当な診療を行ったもの
2 軽微な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの

★ 保険医療機関指定取消取消処分等取消請求事件(青森地方裁判所平成19年02月23日) 裁判所判例サイトへのリンク 

3軒の歯科医院を開設している歯科医師が、「保険医取消処分」と「保険医療機関指定取消処分」を受けた事例で、「両処分を不当」として処分の取り消しを求めたもの。
当初青森社会保険事務局長は「戒告」相当としたが、厚生労働省が「取り消し相当」と指摘して最終的には「取り消し処分」となったようだ。
取り消し理由: 監査要綱により、「重大な過失により、不正または不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの」が理由。

★ 抜歯時の下顎骨骨折事例(富山地裁平成19年1月19日)

親不知の抜歯を行った歯科医師が、下顎骨を骨折させたとし、無理な外力を加えて抜歯をした過失があるとして、その不法行為に基づく損害賠償責任が認められた事例

● 歯科医院の所得税更正請求に対する通知処分取消請求控訴事件(仙台高等裁判所平成18年07月14日) 裁判所判例サイトへのリンク

 

 歯科医療中の死亡事故に対する刑事裁判(福岡地裁判決:平成18年4月20日)

平成12年6月に福岡市内でおきた、「2才の幼児のむし歯治療中の死亡事故」について「業務上過失致死罪:求刑禁固8ヶ月」が問われた裁判で、「現場の歯科医師を指導監督する注意義務を怠った」として罰金80万円の有罪判決。

★ インプラント治療で歯槽骨内にネジ残留した歯科に400万円の賠償命令(大分地裁平成18年2月28日) 

インプラント治療後の激痛の原因が、処置中誤ってインプラント体が骨内に取り残されたこととし、1300万円の損害賠償を求めた事案ですが、判決では「誤って固定ネジを骨内に入れたままインプラントを埋め込んでおり、通常の治療行為の過程では想定しがたい重大な過失」とし、400万円の支払いを認めた。

★ 歯科技工所はサービス業(名古屋高裁平成18年2月9日) 

歯科技工所は製造業に該当するとして、消費税の更正処分を求めたが、歯科技工所はサービス業として認められなかった事例。
製造業であれば消費税(簡易課税)のみなし仕入れ率は70%だが、サービス業であればみなし仕入れ率は50%となり税負担が増える。

# 平成18年2月9日、名古屋高裁は名古屋地裁の判決を取り消して「歯科技工所はサービス業」と判断。
# そもそも、これは歯科技工所が消費税の簡易課税において、歯科技工は製造業と判断して70%のみなし仕入れ率を適用したが、税務署から「サービス業」としてこのみなし仕入れ率を否認。それに対して、技工所が「更正処分の取消」を求めて提訴したもの。
# 名古屋地裁では「サービス業は無形の役務の提供をするのに対して、製造業は物質的な役務の提供を行い、歯科技工所は技工物という物質の提供だから製造業」と判断。
# 名古屋高裁では、「税務署が日本標準産業分類に基づいてサービス業と判断」したことは妥当とした。

★ 保険医取消に対する行政訴訟判決(甲府地裁平成18年2月2日) 

要旨: 保険医療機関の取消処分を、本案判決が確定するまで停止する。

★ 不正請求返還訴訟(岡山地裁平成18年1月31日) 

要旨: A歯科医院が歯科診療給付費を不正に受給したとして、保険者に約573万円の支払いを命じた。

● 保険医取消処分の取り消し訴訟(青森地裁平成18年1月24日) 

要旨: 保険医取消処分について、処分者の裁量権を越えているので違法として保険医取消処分の取り消しを求めたが、健康保険法に基づく保険医登録取消処分が処分権者の裁量を逸脱してなされたものではなく,違法とはいえないとされた事例。

★ 保険医取消処分の停止仮処分申請(大阪高裁 平成18年1月20日) 

# 裁判所の判決: 抗告人の保険医登録を取り消す旨の処分は、本案判決が確定するまでその効力を停止する。(一審では、本件処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることを認めるに足りる疎明はないとして、抗告人の申立てを却下)
当裁判所は、原決定と異なり、本件処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることは認められ、本件処分の効力の停止により、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとも、本案について理由がないともいえないから、本件処分の効力を停止すべきものと判断する。
# 保険医取消の理由
@ 実際に行った保険診療に、行っていない保険診療を付け増して診療録に不実記載し、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させ
た。
A 実際に行った保険診療を保険点数の高い別の診療に振り替えて診療録に不実記載し、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させた。
B 自費診療して患者から料金を受領したにもかかわらず、同診療を保険診療したかのように装い診療録に不実記載し、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させた。
C 監査や個別指導に対応するため、既存の診療録とは別に、既に請求済みの診療報酬明細書の診療内容に基づき新たな診療録を作成
し、保険医療機関に持参させた。
# 争点
(1) 「重大な損害を避けるため緊急の必要」の要件(行訴法25条2項)について
(2) 「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」の要件(行訴法25条4項)について
(3) 「本案について理由がないとみえるとき」の要件(行訴法25条4項)について
# 裁判所の判断
(1) 「重大な損害を避けるため緊急の必要」の要件(行訴法25条2項)について
上記のとおり、経済的な破綻にまで至る場合には、事業の継続という独立した利益が失われることになり、これは金銭によっては完全には償うことは困難であるというべきであるから、このような損害の回復の困難の程度、損害の性質及び程度並びに本件処分の内容及び性質を勘案すると、本件においては、行訴法25条2項の「重大な損害を避けるため緊急の必要」があるものと認めるのが相当であり、相手方の上記主張は採用できない。
(2) 「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」の要件(行訴法25条4項)(争点(2))について
本件処分の効力を停止することが本件処分の理由となった抗告人の法令違反の行為を是認することにはならないし、抗告人が保険医として診療を継続するとしても、特段抗告人が重大な医療過誤を犯したわけではなく、患者自身に経済的損害を与えたものでもないのであるから、そのこと自体が公共の利益に悪影響を及ぼすとは認め難い。また、本件処分の理由となった法令違反の行為については、抗告人に対する適切な行政指導と監督による防止を期待することができるものと考えられる(抗告人も、意見書〈甲25〉において、
今後は行政庁の指導に従い、適切な保険診療を行う旨陳述している。)。
以上のような点を考慮すれば、一歯科医師にすぎない抗告人が本件処分の効力停止期間中保険診療を継続することから、直ちに公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとは認め難く、他にこれを認めるに足りる疎明はない。
(3) 「本案について理由がないとみえるとき」の要件(行訴法25条4項)(争点(3))について
疎明及び審尋の全趣旨によれば、相手方が重視していると考えられる診療録の不実記載については、保険請求内容と異なる記載がされているのはE分だけであり、抗告人が意図的に異なる記載をしたと認めているのは、同人の平成16年5月28日の診療に関してだけであること(抗告人が電子カルテの手法を用いて計画的に不正請求をしていたのであれば、複数の患者について、不実記載が認められるのが自然である。)、相手方が認定した不正請求の額は、約85万円、不当請求の額は、約13万円であり、抗告人が自ら誤請求を認めているのはわずか数万円程度にすぎないことが認められ、これらの事実によれば、本件処分が行政裁量権を逸脱したと判断される余地がないとはいえず、本案訴訟の審理の結果を待つべきであるから、いまだ本案について理由がないとの疎明がされたとはいえず、この点に関する相手方の主張も採用できない。

 特許取消決定取消請求事件(東京高裁 平成17年 月 日) 

# 裁判所の判決: 原告敗訴
# 事案の概要
特許権者である原告が、歯科関係業者であるX社及びAからの特許異議申し立てに基づき特許庁が特許取消決定をしたので、その取消しを求めた事案。
# 経緯
(1) 原告は、名称を「歯科情報処理方法及び装置」とする発明につき、平成7年11月9日に特許出願をし、平成10年11月27日に設定登録を受けた。(# 特許が認められるまで3年もかかるんですねぇ。)
その後、本件特許に対してX社及びAから特許異議の申立てがなされ、特許庁は、平成13年3月1日、特許を取り消すと決定。

# なおどの様なことが特許として申請されていたのか、参考までに判決文より記載する。
【請求項1】患者の各処置部位毎の歯科処置情報を登録して記憶する登録手段と、患者に対する治療時に処置を行なう処置部位を入力する処置部位入力手段と、前記処置部位入力手段より入力された処置部位に対する処置情報を入力する処置情報入力手段と、前記処置情報入力手段により入力された処置情報が適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別する判別手段と、前記判別手段による判別の結果適切な処置情報入力でなかった場合に、不適切な入力項目を一覧表表示する一覧表表示手段と、前記一覧表表示手段の表示を確認して再入力する項目が選択された場合に、当該選択項目の入力画面を表示して当該項目の入力を可能とする項目入力許可手段と、前記入力項目許可手段による入力のあった項目に対する入力情報を対応する部位の過去の対応する全ての入力に対して一括変換して前記登録手段に再登録する再登録手段とを備えることを特徴とする歯科情報処理装置。
【請求項2】前記再登録手段による再登録後に他の不適切入力項目がある場合には再度一覧表表示手段による他の不適切入力項目の入力可能画面に移行することを特徴とする請求項1記載の歯科情報処理装置。
【請求項3】前記入力項目許可手段は、前記一覧表表示手段により表示されていた一覧表示と共に前記当該選択項目の入力画面を並列表示し、入力項目の状態を把握しながら入力することを可能とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の歯科情報処理装置。
【請求項4】患者の各処置部位毎の歯科処置情報を登録して記憶する登録手段を備える歯科情報処理装置における歯科情報処理方法であって、 患者に対する治療時に処置を行なう処置部位及び入力された処置部位に対する処置情報が入力された場合において、入力された処置情報が適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別し、判別の結果適切な処置情報入力でなかった場合に、不適切な入力項目を一覧表表示するとともに、一覧表表示を確認して再入力する項目が選択された場合に、当該選択項目の入力画面を表示して当該項目の入力を可能とし、ここで入力のあった項目に対する入力情報を対応する部位の過去の対応する全ての入力に対して一括変換して前記登録手段に再登録することを特徴とする歯科情報処理方法。
【請求項5】前記再登録後に他の不適切入力項目がある場合には再度一覧表の表示を行い他の不適切入力項目の入力可能画面に移行することを特徴とする請求項4記載の歯科情報処理方法。
【請求項6】前記選択項目の入力画面においては少なくとも前記選択項目一覧表表示部分と共に前記当該選択項目の入力画面を並列表示し、入力項目の状態を把握しながら入力することを可能とすることを特徴とする請求項4または5のいずれかに記載の歯科情報処理方法。
# さっぱり、理解できません。
# 裁判所の判断
・・・・難しくて、わかりません。

★ 歯周治療時の咬合調整事例(山口地裁平成17年12月22日)

歯周病等の治療のため、歯科医師が、24歯全部を大幅に削合する処置をしたことにつき、説明義務違反、治療方法の不適切があったとして、不法行為に基づく損害賠償責任が認められた事例

歯科医師が、患者の咬合が悪く前歯部は早期接触による重度の歯周病、臼歯部は中等度の歯周病と判断。歯周組織検査を行わず、24本の残存歯すべてを大幅に咬合調整。その後咀嚼障害を起こしたもの。
裁判所の判断: 咬合調整について「一度実施してしまうと復元することができない不可逆的で侵襲性の高いもの」という説明義務違反を認定。また歯周病の治療について、充分な検査無しに重度であると誤診。その結果、「浸襲性の高い咬合調整」を行ったことを不法行為と認定。
患者の請求額:約1904万円→裁判所の容認額:約968万円(治療費184万円+将来の治療費144万円+通院慰謝料50万円+後遺障害慰謝料500万円+弁護士費用90万円)

★ 保険医療機関指定取消処分の停止仮処分申請(山梨地裁 平成17年11月25日)

# 裁判所の判決: 保険医療機関の指定を取り消す旨の処分は、本案判決が確定するまで、その効力を停止する。
# 申立人の趣旨: 本案事件において本件各処分が取り消され
るのを待っていたのでは、本件診療所の経営は破たんし、従業員らの解雇や施設の処分などを余儀なくされるなど、申立人に重大な損害が発生するという理由で、行政事件訴訟法25条2項、により申し立て。
# 本件の争点
(1) 本件各処分の効力を停止することについて、「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」(行政事件訴訟法25条2項)といえるか。
(2) 本案事件について「本案について理由がないとみえる」(同条4項)といえるか。
(3) 本件各処分の効力を停止することによって、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」(同条同項)といえるか。
# 裁判所の判断
(1) 本件各処分の効力を停止することにつき、重大な損害を避けるため緊急の必要があるというべきである。
(2) 本件各処分の適法性については、本案において相手方の主張する不正請求、不当請求などの事実を個別・具体的に検討した上で慎重に判断するのが相当である。したがって、現時点においては、本案について理由がないとみえるとまではいえないというべきである。
(3) 仮に本件各処分の効力を停止したとしても、それは本案判決
の確定に至るまで本件各処分の効力を一時的に停止するにすぎず、裁判所において本件各処分の理由となった申立人の行為を是認したり、本件各処分が違法であるとの判断を下したわけではないことは、上記2で説示したとおりである。したがって、本件各処分の効力を停止したこと自体によって直ちに、相手方の主張するような事態が発生するなど、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとは認められない。

★ 公立病院の医療費の請求時効は民法170条1号により3年(最高裁第二小法廷判決平成17年11月21日)

かつては地方自治法236条1項をたてに公立病院の医療費の請求時効は5年であるという行政側の主張があり、公立病院の医療費の請求時効は5年とされ一般の民間病院の3年(民法170条1号)と異なっていた。
 このように時効が二つあるのでは受診者にとっても迷惑な話であるが、去る平成17年11月21日に以下のような最高裁判決がでて、公立病院の医療費の請求時効も民法を基準に3年であることが確定した。

★ 抜歯時の注射針破損事件: (札幌地裁平成17年11月2日) 

歯科医院における右上8番の抜歯手術の麻酔に際して使用された電動麻酔器の注射針(14mm×0.26mm)が折根元から折れて患者の右上顎部組織内に迷入し、後遺症を負ったことにつき、担当した歯科医師に過失があるとして不法行為に基づく約1700万円の損害賠償が認められた事例。

右顎の痛みを訴えて受診した患者に対して、右上8番と右下7番の咬合干渉を原因とした顎関節症と診断。右上8番の抜歯を予定。30Gの浸麻針を刺入したが刺入部の組織が固かったため33Gの針に交換して再度刺入。その後注射針を抜こうとしたら注射針が電動麻酔機本体の根元から折れ、右上顎部組織内に破折片が迷入。その後大学病院の口腔外科で除去手術を受けたが成功せず。摘出困難。
裁判所の判断: 患者Xの後遺障害の程度は、後遺障害等級12級12号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」の程度に達していると判断。
患者の請求額:約2903万円→裁判所の容認額:約1717万円(治療費と交通費約29万円+慰謝料400万円+逸失利益約1139万円+弁護士費用150万円)

● 長崎地裁: 2001年に長崎大学歯学部附属病院で舌の腫瘍の手術を受けた女性が2003年に死亡した医療事故で9000万円で和解

大学歯学部病院で、舌の腫瘍(舌リンパ管腫)の手術を受けた後、気道閉塞が原因で低酸素脳症により死亡した原因は医療ミスとして1億円の損害賠償を求めた事案で9100万円の支払いで和解した事例。

★ 東大病院口腔外科の顎手術で後遺症 慰謝料など700万支払い命令(横浜地裁平成17年9月16日) 

顎偏位を治すための手術後の後遺症の原因は「医師が手術前に十分な検査や検討を行わなかったため」として1億3000万円の損害賠償を求めた事案であるが、「手術の承諾を得るのに必要な説明義務(手術による合併症や後遺症の危険性など)を果たしたとは言えず、女性の選択する機会を奪った」として700万円の支払い命令の判決。つまり、本判決では説明義務違反は認めたが、医師の治療上の過失は認めなかった。

★ 病院の新規開設申請に対し県知事が出した中止勧告は取消訴訟の対象となる。(最高裁第2小法廷平成17年7月15日) 

病院の新規開設申請を出した際、「県知事が中止勧告を出したのは行政処分と同様に取消処分の対象となる」という争点で、最高裁は「通常は訴訟の対象とならない勧告でも、処分と同様と認められる場合は対象になる」と初判断。つまり、行政指導も処分性がある場合には行政訴訟の対象となるということである。

★ 2000年6月、福岡で歯科治療中に幼児が死亡して業務上過失致死に問われた裁判で無罪判決。(福岡地裁平成17年7月14日) 

2才の幼児が歯科治療時の麻酔注射後に死亡した事故で、業務上過失致死(求刑禁固8ヶ月)に問われた事例で、「注意義務違反と死亡に因果関係は認められない」として無罪判決。 判決理由: 「女児は拘束器具を付けられており、見た目で容体の異変を確認できない状況だったのに、被告は簡単な呼吸確認をしただけだった」と注意義務違反を認めたが、「この時点で、女児に急性呼吸循環不全が生じていたと認めることには、疑問が残る」との判断。

 関西医科大学附属病院研修医未払賃金請求訴訟(最高裁第二小法廷: 平成17年6月3日判決)

・ 判決内容: 臨床研修のプログラムは、研修医が医療行為等に従事することを予定しており、研修医が病院開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り、研修医は労働基準法9条所定の労働者に当たる。
・ 原告は、上告人の指揮監督の下で労務の提供をしたものとして労働基準法9条所定の労働者に当たり、最低賃金法2条所定の労働者に当たるというべきであるから、上告人は、同法5条2項により、原告に対し、最低賃金と同額の賃金を支払うべき義務を負っていたものというべきである。

 問診義務に関する事例(大阪地裁平成17年3月30日)

歯科治療の際に浸潤麻酔を実施するに当たって、問診義務を怠った結果、患者の既往歴からは原則禁忌とされる麻酔薬を投与した過失が認められたが、患者に生じた障害との因果関係は認められなかったケース

★ 根管治療における穿孔を原因とする抜歯に対して賠償命令(東京地裁平成17年2月25日)

右下6番の根管治療の際に誤って穿孔した過失及び右下8番について不必要な断髄及び不完全な根管治療を行った過失により抜歯に至ったことをもとに損害賠償請求を求めた事例で、過失があきらかでないとして棄却した事例。

★ 転医勧告義務違反損害賠償訴訟(仙台地裁平成17年2月25日) 

より高度な医療を施すことができる医療機関への転医を勧めるべきであったにもかかわらず、これを怠ったことにより上顎癌の発見が遅れ、効果的な治療を受ける機会を失ったことが原因であるとして、診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償を求める事案で、550万円の賠償を認めた事例。

★ 歯科医院のトイレで転び転倒 院長に387万円賠償命令(平成16年11月29日)

歯科医院の小用トイレで転倒して足を骨折した原因が「足下に段差があり、床が濡れていた」ことが原因として損害賠償請求した事案で、387万円の支払いを命じた。便器の乗っていた台は高さが7.5cm、幅94cm、奥行き51cmだが、「建築設計資料集成」(日本建築学会編)では奥行きを90cmとしており、それより40cmも短い事などが指摘された。

★ 抜歯ミスで神経損傷 歯科医に780万円賠償命令(福岡地裁判決平成16年11月18日) 

親知らず抜歯後の疼痛の後遺症は医療ミスとして1660万円の損害賠償を求めた事案で、「歯科医は十分に注意して抜歯する義務を怠った」として過失により後遺症が生じたとして780万円の支払いを命じた。
過失:手術中に歯を切断するための器具の先端部分が折れ、長さ1cmの破片が歯肉内に残った。

● 「笑顔ない」理由に解雇は無効」として慰謝料20万円を認める(札幌地裁判決平成16年11月10日)  

病院勤務の契約社員が「笑顔がない」などの理由で契約更新がなされなかった事に対して慰謝料を求めた事案で、「主観的で、解雇の理由として著しく合理性、相当性を欠く」として慰謝料20万円の支払いと更新拒否後の賃金の支払いを命じた。本件では、1年毎の契約社員の身分について、職員の4割以上が契約社員だったことなどをもとに、「実質的に期間の定めのない労働契約と異ならない」として、解雇には相当の理由が必要としている。

★ 智歯抜歯時の過失の有無事例(大阪地裁平成16年9月29日)

左下顎第3大臼歯の水平埋状歯の抜歯術について、手術不適応、説明義務違反、不適正な施術の過失がいずれも否定され、抜歯術後に見られた症状との間の因果関係も否定されたケース

● 患者が歯科医師を訴えた民事訴訟を報じた雑誌報道によって休業に追い込まれた歯科医師の控訴審判決(平成16年9月16日)

医療訴訟を起こされた歯科医が、新聞記事で休業に追い込まれたとして1億円の損害賠償請求をおこしたが、「治療行為や医師のモラルの問題は一般国民にとっての関心事」として記事の公益性を認定して「不法行為は無い」として原告の請求を棄却した。

★ 抗菌薬にいるショックに関する注意義務(最高裁判決平成16年9月7日)

※ 一般の開業歯科医院で抗生物質の点滴を行うケースは少ないと思われるが、内服の薬剤にも通じる注意義務として念頭におくべきでしょう。
ただ下記にもあるように、今回の判決のポイントは「問診」「経過観察」「救急体制」。
歯科医院で投薬する抗生物質を服用するのは一般に患者さんが帰宅してからのことが多いと思われます。従って実務上「経過観察」やアナフィラィシーショックが起きてから「救急処置を行う」ことは不可能。つまり、「事が起きてからの対応」を論ずる前に、「事が起きないように」という対応として「問診」の重要性は言うまでも無い。 

# 事件の概要
・ 受診の際に患者が記入する書面に「異常体質過敏症、ショック等の有無」という項目があった。これに対して患者は「抗生物質」の箇所に丸印をつけた。
・ 患者は看護師に対して「風邪薬で蕁麻疹が出たことがある」と伝えた。
・ 主治医は書面を見て問診し、「薬物アレルギーがあり、風邪薬で蕁麻疹が出たことがある」ことを聞いた。しかし医師は一般の風邪薬のことを指し抗菌薬が含まれているとは解釈せず、薬品名やアレルギーの具体的な内容は問診しなかった。
・ 結腸癌の手術後感染予防のためパンスポリン、エポセリンの投与を開始。その際、皮膚おける過敏症試験が陰性であることを確認。
・ その後抗菌薬をペントシリンとベストコールの併用に変更して点滴静注。
・ その際も、皮膚おける過敏症試験が陰性であることを確認。
・ さらにペントシリンとミノマイシンに抗菌薬を変更して点滴静注。
・ この際には皮膚おける過敏症試験は行わなかった。
・ 点滴開始から数分後異常を発し、手当てをつくすものの心肺停止にいたる。死因はペントシリンとミノマイシンのいずれか、または双方の作用に基づくアナフィラキシーショックと判断。

# 下級審判決
・ 一審の大阪地裁では主治医の過失を認定し510万円の損害賠償を認めたが、大阪高裁では「やむを得ない事故」として主治医の責任を否定。

# 最高裁判決(2004年9月7日判決)
・ 添付文書の記載について
ペントシリンとミノマイシンの添付文書には、経過観察を十分に行い、一定の症状が現れた場合には投与を中止して、適切な処置を取るべきことが記載されている。
・ アレルギー歴と問診について
主治医は、アレルギー反応を起こしやすいという患者の申告を知りながら、患者に対し、薬物アレルギーの具体的内容や、その詳細を尋ねなかった。
・ 経過観察と救急について
薬剤投与に伴うアナフィラキシーショックは、ほとんどの場合、投与後5分以内に発症するものとされており、発症した場合には、薬剤の投与を直ちに中止するとともに、発症後5分以内に適切な治療を行うことが予後を左右するとされている。
・ 実際の医療行為について
主治医による心臓マッサージが開始されたのは発症後10分以上経過した後であり、気管内挿管が試みられたのは20分以上、アドレナリン投与は40分経過後だった。
・ 最高裁は以上を踏まえ、「主治医は看護師に対し、投与後の経過観察を十分に行うよう指示し、アナフィラキシーショックに対する迅速かつ的確な救急処置を取り得るような医療態勢に関する指示、連絡をしておくべき注意義務があり、これらの指示をせずに看護師に薬剤を投与させたのにはその義務を怠った過失がある」と判断。大阪高裁の判決を破棄して、大阪高裁に審理を差し戻した。
 
※ 最高裁が重視した点は「問診」「経過観察」「救急体制」
主治医が、薬物等にアレルギー反応を起こしやすい体質である旨の申告をしている患者に対し、アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある本件各薬剤を新たに投与するに際しては、主治医には、その発症の可能性があることを予見し、その発症に備えて、あらかじめ、担当の看護婦に対し、投与後の経過観察を十分に行うこと等の指示をするほか、発症後における迅速かつ的確な救急処置を執り得るような医療態勢に関する指示、連絡をしておくべき注意義務があり、主治医が、このような指示を何らしないで、本件各薬剤の投与を担当看護婦に指示したことにつき、上記注意義務を怠った過失があるというべきである。
そうすると、主治医には、上記注意義務を怠った過失があるから、これと異なる原審の判断には、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。そして、本件については、上記過失と患者の死亡との間の因果関係の有無等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 
【判決文】http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319130621194227.pdf

● 石川県立中央病院で親知らずを抜いた後の舌神経障害についての訴訟で、金沢地裁は約505万円の支払いを命ず。(平成16年7月5日)

病院歯科で親知らず抜歯の際舌神経を損傷して後遺症をおったとして900万円の損害賠償を求めた事案で505万円の支払いを命じた。判決では「神経麻痺の原因は手術とは特定できない」として過失は認めなかったが、「患者の(麻痺の訴え)に対して適切な処置をとらなかった」ことを認めた。

★ 歯科治療時の亜砒酸による後遺症(平成16年5月26日)

歯科治療において亜砒酸糊を過剰に使用した過失により左下顎骨骨髄炎、左オトガイ神経麻痺の後遺障害を負わせたとして、その後の治療関係費、慰謝料、弁護士費用の請求を認めたが、休業損害、逸失利益の請求を退けた事例。支払い命令額は約400万円。

裁判所の判断: 亜ヒ酸使用による失活抜髄に過失は無い。亜ヒ酸の使用時間は原則48時間以内最長72時間以内(象牙質の厚さによっては+1〜2日延長可)に留めるべきだが、その点でも過失は無い。
原告の請求額:約4336万円→裁判所の容認額:約409万円。

★ 歯科インプラント後遺症事件(名古屋地裁平成15年7月11日)

# インプラント治療時の手技ミスで左側下唇及びオトガイ部分の麻痺という後遺障害が生じたことを理由に損害賠償を求めた。
# 裁判所の判断: 賠償額約674万円を容認

● アトピー治療の歯科医に医師法違反で実刑判決(平成15年4月21日)

 

★ 智歯抜歯後の不具合事例(東京地裁平成15年12月24日)

歯科医師が智歯抜歯の際にタービンバーの破折片を抜歯痕に残置し、患者の下顎部に腫脹などを生じさせたことに対して慰謝料が認められたが、抜歯後に患者を診察した別の歯科医師が破折片の存在に気付かなかったことには過失はないとされたケース

★ 咬合治療時の顎関節症の危険性(東京地裁平成15年10月20日)

歯の咬み合わせの治療を開始するに当たり、顎関節症を発症する危険性の説明を怠った過失、未熟な歯科医師に治療を担当させた過失がいずれも認められず、顎関節症を発症させないよう万全の措置をとるべき注意義務を怠った過失も認められなかったケース

★  麻酔によるアナフィラキシーショック判決(青森地方裁判所弘前支部: 平成15年10月16日)

 歯科医において、麻酔注射を受けアナフィラキシーショックにより死亡した女子について、歯科医師の注意義務又は注意義務違反と死亡との因果関係がないとされた事案。
@ 発症から死亡まで約1時間半
A キシロカインを投与後意識を失った。
B 担当歯科医は隣のクリニックの医師を呼んだが対応できず病院に搬送。
C 鑑定の結果によれば、問診をすることは診療の基本であるものの、歯科用局所麻酔剤を投与されて異状を生じたことがあるというような特段の訴えがない限り、アナフィラキシーショックに関する詳細な問診を行う必要はなく、過去に歯科用局所麻酔剤によるアナフィラキシーショックを発症した事実がない限り、本件のアナフィラキシーショックの発症を避けることはできなかったことが認められる。
D 本件において,皮内テストを実施する必要はなかった。
E アナフィラキシーが発症した場合には,歯科医師は,診断を中止し,直ちに患者を水平位にしたり,患者の頭部を低くし,スタッフに緊急事態が発生したことを周知させ,応援医師の来院や救急車を要請するとともに,第1次救命処置を開始すべき注意義務を負うというべきである。
F アナフィラキシーショックは、アレルギー反応の一つで、発現する症状や程度は様々であること、一般に、ショック状態の場合には点滴のための血管の確保が困難であるところ、点滴が困難となれば,薬剤の投与を筋肉内注射や皮下注射に頼らざるを得ないこととなるが、これらの場合には薬剤の奏効が遅くなる上、もともと薬剤が期待通りの効果をもたらすかはどうかは判然としないことが指摘さ、仮に、設備及び薬が十分にあり、これらが適切に使用されるなどXに対する十分な措置が採られたとしても、同人の死亡の結果を避けることができたかどうかを判断することはできないとしている。

● 日歯連盟大津裁判で、慰謝料30万円を認める判決。請求額は300万。退会確認請求については却下(平成15年10月16日)

 

★ 保険医取消に関する掲載の期間(名古屋地方裁判所:平成15年9月12日)

保険医取消処分の内容を、保険医の再登録が可能となった後も厚生省がホームページ上に掲載した点において、国に30万円の賠償を命じた事例。請求額は2500万円。
要旨: 厚生省あるいは厚生労働省の担当者は、原告の取消処分から2年間の欠格期間経過後においては、本件記事を本件ホームページから削除するか、もしくは、掲載を継続するのであれば、2年の欠格期間をホームページ上で明示するなど原告の処分について既に欠格期間を経過していることが閲覧者に分かるような態様で掲載すべき注意義務があった。

★ 智歯抜歯の手技(東京地裁: 平成15年9月11日)

智歯(親知らず)抜歯の手技について過失が認められなかったケース

 誤った歯の抜歯(東京地裁: 平成15年9月8日)

歯科医師が、抜歯すべき歯を誤ったとして損害賠償請求が認められたケース

● インプラント後の神経麻痺で約670万円の賠償命令 (名古屋地裁: 平成15年7月11日)

インプラント植立術をうけた原告が執刀医である被告に対し、手技上のミスによって左側下唇及びオトガイ部分の麻痺という後遺障害が生じたと主張し、医療契約上の債務不履行責任に基づき、治療費、休業損害、後遺障害慰謝料、逸失利益等の支払を求めた事案につき、被告の過失を一部認めた事例で674万円の支払い命令。


● 
矯正時のブラッシング指導不足による齲触の発生に対する損害賠償請求(東京地裁平成15年7月10日)

矯正治療中にむし歯になったのは歯科医が適切な歯磨き指導をしなかったのが原因として410万円の損害賠償請求を行ったが、判決では「矯正治療に伴うむし歯のリスクと、固定器具の周辺を丹念に磨くよう十分に指導しなかった診療契約上の義務違反があり、ブラッシング指導が十分に行われていたら、虫歯の発生を防止できた」として55万円の賠償を命じた。


★ 歯痛の診断について(東京地裁: 平成15年6月11日)

患者が訴えた歯痛の原因を歯髄炎と診断して抜髄治療をしなかったことに過失が認められないとされたケース

★ 歯科治療時の口腔内損傷事例(東京地裁: 平成15年4月24日)

むし歯治療の際、患者の唇をタービンで傷つけたことについて、担当歯科医師の手技上の過失が認められたケース

★ 義歯作製時の過失事例?(東京地裁: 平成15年3月20日)

歯科治療において、義歯の製作順序等に不適切な点はなく、説明義務違反も認められないとされたケース

★ アルゼンの漏出事例(山口地裁: 平成15年3月17日)

左側下顎第一臼歯が少し欠け舌に当たるので、その治療を受けたところ、左側下歯槽神経ニューロパチー、左側下顎骨髄炎を生じ、これにより左下顎の難治性の疼痛の持続、左下臼歯部の欠損に伴う義歯装着及び咀嚼力の低下の後遺障害が生じた場合に、歯科医師が投与した歯髄失活剤アルゼンの漏出によるものであるとして過失が認められた事例

 即時重合レジンによる火傷に関する損害賠償(岡山地裁平成15年1月14日)

加熱した?(重合熱でしょ)即時重合レジンを用いて咬合採得をしたさい、高温のレジンを口腔内にセットしたまま経過観察を怠たり、前歯4本の歯髄と歯肉に火傷を負わせたとして賠償請求を行った。判決は100万円の支払い命令。

 インプラント手術における後遺症で歯科医に170万円賠償命令 大阪地裁(平成14年11月14日)  

 

★ 歯根膜炎の診断責任(大阪地裁: 平成14年9月25日)

歯根膜炎の診断に関して責任が否定されたケース

★ 抜歯時の不手際(山口地裁: 平成14年9月18日)

★ 歯科治療の際、医師が、上顎骨を口蓋根と誤って上顎骨を掘り、上顎洞穿孔を生じさせたうえ、上顎洞内に印象剤が迷入したか否かを確認せず、かつ、その事実を患者に報告、説明する義務を怠った過失があるとして、医師の不法行為責任が認められた事例。

★ 要旨

(1) 争点: 医療事故後の歯科医師の対応の過失の有無
(2) 原告(患者)の歯科医療の求めに応じて被告(歯科医師)が右上6番にメタルコア作成のためポスト形成として口蓋根を削合。しかし、そもそも口蓋根が存在せず、上顎根を口蓋根と誤認して削合。その結果上顎洞穿孔をおこした。その後歯科衛生士が印象のため寒天を注入したため寒天が上顎銅に迷入。その時点で、挿入した補強ワイヤーの長さが長かったため、上顎洞穿孔を疑った。しかし歯科医師は視認したのみでワイヤーの上顎洞穿孔を確認しなかった。その後患者は急性上顎洞炎の症状が出たため、患者の指摘に対して歯科医師は医療過誤を認めた。
(3) 損害賠償請求額:約243万円 → 判決額:約153万円
(4) 裁判所の判断: 歯科医師は上顎洞穿孔に対して患者に説明することを怠り、また印象剤やワイヤーの迷入の確認を怠った過失を認定。

# 上顎6番に口蓋根が無い?骨を削合したら出血するのでそれ以上の削合には至らないはずだが。


 歯科医療費の返還訴訟(審美関連) 東京地裁(平成14年7月31日) 

歯科医院を経営する被告との間で自己の歯について審美治療をする契約を締結した原告が、被告が雇用していた歯科医師において、@奥歯から整形するという歯科医学の常識に反する治療を行い、しかも、そのことについて原告の同意を得なかった、A前歯2本について、不適切な治療をしてこれを出っ歯にした、B破折しやすい奥歯を装着し、現に装着された奥歯3本が破折したと主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、支払済みの治療費の返還を請求した事案で約67万円の支払い命令。
判決では、奥歯から整形することが歯科医学的に妥当でないとは言えないとしている。ブラギシズムのある症例においては、ハイブリッドセラミックスを使用すると、破折するおそれがあるため、ハイブリッドセラミックスを使用してはならない点で支払い命令があったようだ。


 歯科医療の債務不履行に関する損害賠償請求訴訟 岡山地裁(平成14年6月14日) 

歯科医師である被告から歯科治療を受けた原告が、被告の治療行為に関し、債務不履行、不法行為がある旨を主張して、甲事件被告に対し、損害賠償を求めた事案で、283万円の賠償命令。
判決の理由は不明。


● 麻酔ミス:北海道に1億円余の支払い命令 札幌地裁判決(平成14年6月14日)

 


 誤って健康な奥歯を抜いた歯科医に150万円の賠償判決(東京地裁)(平成14年5月27日)

抜歯する必要のない歯を抜歯した等として損害賠償請求が認容されたケース


● 入院中の死亡に関する管理責任を問う訴訟(平成14年5月9日)

かぜ薬の副作用で皮膚がただれ、県立病院に入院していた津久見市の女性=当時(67)=が死亡したのは、病院が感染症に対する適切な治療を怠ったことなどが原因として、女性の長女(46)が県に約三千四百万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は九日、原告の請求を棄却した一審判決を変更し、県に約三千万円の支払いを命じた。(大分合同新聞社より)


★ 誤飲義歯の摘出に際しての説明不足(平成14年4月26日)

原告が、被告に対し、被告の開設するB市立病院の医師が、原告に対し、@原告が誤飲した義歯を内視鏡的処置により摘出する際、器具の操作を誤り、操作器具ないし義歯を食道壁に食い込ませた結果、原告は、緊急開腹手術を余儀なくされたこと、A緊急開腹手術の可能性などについて事前に説明しなかったことを理由に、債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償を請求している事案であり、172万円の賠償命令。

 いわゆる「外川裁判」の控訴審も勝訴(平成14年1月24日)

 下記の盛岡地裁の判決を受けた控訴審で、外川先生が再び勝訴。
 なお外川先生によると、2月6日に支払基金から「、歯周治療用装置の診療報酬2,400円と利息722円を振り込む」との通知が有ったそうで、被告は控訴を断念して判決確定のようである。 
外川審査訴訟について

★ 歯科医院におけるセクハラ裁判(長崎地裁: 平成13年11月30日)

長崎県内の歯科医院に勤めていた歯科衛生士が院長からセクハラを受け、且つ院長からの交際の申し出を断ったのに対して解雇を言い渡されたのは違法として500万円の損害賠償を請求したもの。
判決: 解雇権の濫用を認め、慰謝料100万円の支払いを認めた。

● 薬害エイズ事件(東京地裁平成13年9月28日)

薬害エイズ事件で、業務上過失致死罪に問われた元厚生省生物製剤課長について、東京地裁は関西の病院でHIVに汚染された非加熱製剤を投与された血友病患者の死亡について、過失責任を認め、有罪判決を言い渡した。


● 研修医は労働者か(大阪地裁堺支部平成13年年8月30日)

研修医は、指導医の命令に従って診察や治療をしており、労働者に当たる。「自発的な研修の部分もあるが、全体としては他人の指揮命令下で医療業務に従事する労働者だった」と認定し、「研修医は、自分の意思で教育研修を受けており、労働者には当たらない」という被告の主張を退けた。

# 平成17年6月3日最高裁: 福田博裁判長は「研修医には教育的側面があるが、病院のため患者の医療行為に従事することも避けられず、労働者に当たる」と述べ、約42万円の支払いを命じた大阪高裁判決を支持、同医大側の上告を棄却した。遺族側の勝訴が確定した。

★ 交通事故後の咬合調整(東京地裁: 平成13年6月21日)

1.交通事故後の咬合調整等について歯科医師の不法行為責任が否定された事例
2.医療訴訟において、当事者が作成した診療経過一覧表が判決に引用された事例

★ 雇用契約上の地位確認等請求事件(大阪地裁: 平成13年3月20日)

# 某新聞社の診療所で勤務していた歯科医師が自主退職を要請されたが、拒否したため就業規則により解雇されたことを不法行為として「解雇権の濫用により無効」と訴えたもの。

# 自主退職要請の原因: 歯科医師が多数の患者に、「不適切な対応、診療を継続」「故意に虚偽のカルテを作成し診療報酬の不正請求」により健保組合と患者に損害を与えた。

# 判決: 請求棄却(解雇権の行使は社会通念上相当)
(1) 保険請求の方法について指摘を受けてからも不適切なカルテの記載を行ったことは歯科診療所の管理者として不適切。
(2) 原告(歯科医師)の診療内容に対する患者からの苦情と、スタッフの疑念、日頃の勤務状態などから職場における人間関係が悪化。それに対して配置転換という対応法もあるが、専門職でそれも不可能。

# 特定の事業所(健保組合)が開設する医療機関における不正請求が及ぼす経済的な損害のほとんどは健保組合と受診者に限定される。その受診者の一部負担金についても、組合からの付加給付があれば、実質的に健保組合内だけの金銭(数字)の移動だけで損害は発生しないし、歯科医師にも利益は発生しない。従って、不正請求は存在しないという見方もあるが、それでいいのか?

# 今もそうであるが、2001年時点で歯科には電子カルテが無い。しかし判決文には「また原告は、電子カルテに実際には行っていない」とあり、事実誤認。まぁ、つっこむほどの内容では無いが。

★ リーマーの破損(東京地裁: 平成13年3月12日)

1.破損したリーマーを歯牙に残したまま根管充填したことについて、歯科医師に損害賠償責任を認めた事例
2.矯正歯科医師が患者に対し通院を促す電話連絡を怠ったことが診療契約上の債務不履行に当たらないとされた事例

★ 治療中断時の医療費の返還事例(東京地裁: 平成13年2月26日)

# 歯列矯正治療契約の債務不履行が認められず、同契約が中途解約により終了した場合に、歯科医師である被告は特約がない限り履行の割合に応じて報酬を取得することができるにとどまり、これを超えて受領した分を原告に返還すべき義務を負うとされた事例
原告の請求額:471万7,895円→裁判所の認定額:75万3,685円。つまり、準委任契約として、未治療の期間(部分)の相当する医療費の返還を認めた。
(以下、経緯の概要)
# 原告(患者)は、結婚前に短期間で矯正をすることを目的に、平成8年2月19日に被告の歯科医院を矯正治療目的で受診。4番の抜歯とコルチコトミー(外科的矯正)により8〜10ヵ月程度で約295万円の費用との説明により矯正治療契約を結んだ。その後原告は平成9年1月頃から被告の治療に疑問を抱いて、治療開始から10ヵ月経過後も治療が継続され、それに対する治療終了の見通しの説明が得られず、平成9年5月16には今後の見通しとして治療費用が約697万円になると言われた。その後、不信が高まって平成9年7月11日に、被告に対して治療契約の解除を申し出た。その結果「治療期間の延長」「上顎前歯部と臼歯部の歯間空隙」「左右の臼歯部を舌側に傾斜させたことによる債務不履行」をもとに損害賠償を求めたものである。
# 原告の請求額: 471万7,895円。
# 裁判所の容認額: 75万3,685円。
# 裁判所の判断
@ 矯正治療は、生体に矯正力を加えることにより咬合状態の不正を改善することを目的とするものであるから、矯正治療契約の法的性質は準委任契約であり、仕事の完成を目的とする請負契約ではないと判断。
A 治療期間は、その期間内に矯正治療を終了させるように努めることを約束したにとどまり10ヵ月以内に終了すると、「履行期限」として合意されたとはいえないと判断。
B 上顎の前歯部と臼歯部の間の空隙については、被告は矯正治療後に補綴物により空隙を閉鎖する治療方法をとることを予定しており、そのことが矯正歯科医師としての裁量を逸脱したものとはいえない。
C 臼歯部の舌側への傾斜についても、特に異常なものではなく、矯正治療が適正にされた結果であり、被告には注意義務違反がないと判断。
※ 結論として、被告の債務不履行は認めず、未治療部分の治療費の返還のみが認められた。

 顎関節治療における説明義務(東京地裁平成12年12月25日)

歯科医師が、顎関節症の治療のため歯牙の削合を伴う補綴治療につき、患者に対する説明義務に違反し、患者の自己決定権を侵害したとされた事例。


 患者への説明義務(東京地裁: 平成12年12月8日)

患者に侵襲性の高い治療を施すに当たり、患者から有効な承諾を得るために行うべき当該治療の目的や必要性についての明確で十分な説明を怠ったとして、歯科医師の不法行為責任が認められた事例

● 病理解剖時の臓器の所有権に関する判例(東京地裁 平成12年11月24日)

一、大学病院を持つ学校法人が死者の遺体を遺族の承諾を得て解剖し、臓器をプレパラート等にして保存する関係は、遺族と学校法人との間の寄付(贈与)、又は使用貸借契約であり、信頼関係を失わせる事情がある場合には、遺族は将来に向かって取り消すことができる。
二、遺族が学校法人との間の臓器保存に関する契約を取り消し、所有権に基づきプレパラート等の返還請求が認められた。

● 最高裁が医療事故の因果関係に新見解(平成12年9月22日) 

「医師の過失と患者の死亡との因果関係の存否にかかわらず、一定の条件下では慰謝料の認定が可能である。」
「医師の過失のある医療行為と患者の死亡との間に因果関係の存在が証明されないが、医療水準にかなった医療が行われていれば患者がその死亡時点に於いてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には、医師は損害を賠償すべき不法行為責任を負う。」


● レセプト不正請求返還訴訟 東京高裁判決抄録 (東京高裁 平成12年5月11日) 

 


● 療養担当規則を外れた治療の診療報酬請求権(京都地裁 平成12年1月20日)

旧厚生省保険局長の定めた「抗生物質の使用基準」と異なる用法で抗生物質を使用した診療行為に対して、診療報酬の支払いを認めなかった。


 ライト付き歯科用ミラーの実用新案に関する訴訟(東京地裁 平成11年12月24日) 

 

● 後発医薬品は先発医薬品の特許権を侵害しているか(最高裁 第2小法廷 平成11年4月16日) 

要旨: いわゆる後発医薬品について薬事法一四条所定の承認申請をするため、当該医薬品を生産し、必要な試験を行うことは、特許権を侵害しない

★ 診療情報の提供が不法行為か?(東京地裁: 平成11年2月17日)

大学歯学部の学生が同大学医学部付属病院に受診中、右病院の医師が歯学部教授に対して右学生のHIV感染症に関する情報を開示したことが診療契約上の守秘義務に違反しないとされた事例

● エホバの証人輸血拒否事件

エホバの証人輸血拒否事件というのは御存知の方も多いと思われます。
この訴訟事件における、97年3月12日東京地裁の一審判決では「公序良俗、医の職業倫理を理由に輸血を行うのは、誤りと言えないとし、原告
の訴えを棄却」
控訴裁の98年2月9日東京高裁の二審判決では「患者が拒否していても生命の危機があれば輸血する、ということを説明しなかったのは違法であるとして、原告の主張を認める。」
それに対しして、00年2月29日最高裁上告審では「宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否すると固い意志を有している患者に対して、医師が他に救命手段が無い事態に至った場合には、輸血するとの方針をとっていることを説明しないで手術を施行して輸血をした場合
に、医師の不法行為責任が認められた。」
つまり、患者に不十分な説明ですました場合には、その医療行為に不法性がなくとも債務不履行が問われかねないという意味で重要な判決のようです。
つまり、患者の自己決定権が優先されるということです。
Brか義歯かインプラントか?といった選択の場合にも関係するのかな?

● 3才児の歯科治療時の死亡例における和解 新潟地裁

 虫歯治療の麻酔で、当時3歳の長男が死亡したのは歯科医師の診療ミスが原因だとして、長岡市の会社員夫婦が歯科医師らを相手取り総額8087万円の損害賠償を求めていた民事訴訟が13日、地裁長岡支部(大谷吉史裁判長)で和解した。
 夫婦は「裁判長が、子供に病気などの先天的な原因がなかったことや歯科医師が注意義務を怠ったために救命措置が遅れて死亡したことなどを言葉で説明してくれた」と、理由を述べた。和解金は支払われなかった。
 訴状によると、長男は1996年8月、長岡市内の歯科医院で虫歯の治療を受けた際、麻酔をかけられたが、数分後に嘔吐物が気管につまって呼吸停止し、2日後に死亡した。夫婦は「医師が注意義務を怠ったために息子は死亡した」と、97年11月に提訴していた。


★ 補綴物は10年保つべきだが鋳造ポストの長さの不足がブリッジの脱離の原因となって2年でとれた事件(京都地裁 平成4年5月29日)

# 昭和58年6月13日に装着したMBのBrが、昭和60年4月30日、昭和62年9月1日、昭和62年11月13日、昭和63年5月26日の4回に渡って脱離した事例。
# 歯科医師は昭和58年5月16日に、患者とセラミック前装鋳造冠(MB)のブリッジを適切に補綴することを目的とする診療契約を結んだことから、歯科医師は患者に、支台築造やブリッジの設計、製作を適切に行い、少なくとも10年間の長期使用に耐えるようにブリッジの補綴を施すべき債務を負っていたことが認められる。
 ポストの長さは歯冠部と同じ長さか、歯根部の2/3が一般的に求められるが、実際は3〜4mmしかない。根の長さが17mmに対して短すぎる。

# 患者の請求金額:154万4,520円(Br代金相当額:22万5,000円、治療費:16万9,520円、慰謝料:100万円、弁護士費用:15万円)
# 判決による容認額:60万9,520円(Br代金相当額の80%:18万円、治療費:16万9,520円、慰謝料:20万円、弁護士費用:6万円)

● 転医義務に関する判決(大阪地裁 平成10年10月21日)

平成10年10月21日判決(一部認容・一部棄却・控訴)
 患者が無菌性髄膜炎に罹患している旨の診断をした一般開業医は、ウィルス性髄膜脳炎を罹患している疑いの有無について鑑別診断を行い、その可能性があるときは速やかに抗ウィルス剤の投与による治療を開始すべき義務を負い、この義務を履行するため高次の医療機関へ転送義務を負うとされた事例

 歯科医療における代表的な医療水準言及例(大阪地裁: 平成9年3月7日)

昭和50年3月、患者が開業歯科医師に下顎部歯茎内側に発生した直径約1.5センチメートル大の半球様のこぶ状の物の診察を受けたところ、レントゲン検査の必要はなく軟骨であるから心配いらない旨の診断を受けたので放置していたが、約1年後に改めて大学病院に受診した結果、レントゲン検査等を経てエナメル上皮腫と診断され手術を受けたので、開業歯科医師に対し、レントゲン検査をせずに誤診をしたとして訴えおこした例。
 判例として、「本件において、大病院の医師としての高度の注意義務を被告に要求することは・・・妥当ではない」とし、エナメル上皮腫については一般開業歯科医師の設備及び技術ではレントゲンによる撮影及び病名診断は困難であること等を理由に「一般開業の歯科医としての医療水準からみて、被告が原告を診断した時点において、原告の右こぶ状の物について的確な診断を下すことはその症状からなお困難があったものとみるを相当とし、被告がレントゲン撮影その他の検査を行わず、また、他の十分な設備の整った病院の診断を受けるよう原告に勧めなかったからといって、右段階において、直ちに被告に一般開業の歯科医師として通常用うべき注意義務を怠った過失があるものとして、その責任を問えない」と判決して請求を棄却しています。
# 結論: エナメル上皮種は一般開業医での診断は困難であるというのが当時の医療水準である。

★ パチンコ店2階の歯科診療所は風営法上の保護対象施設に当たるか(東京地裁平成5年1月26日)

パチンコ店が1階に入っているビルの3階に歯科医院を開設していたが、入院施設を備えた24時間体勢の歯科診療所の開設を計画し、2階の空き室の賃借を申し込んだ。パチンコ店では有床の診療所が開設されると、近隣地域へのパチンコ店の開業ができなくなり競争相手の進出を防止できることから賃貸を受諾。それに対して、近隣にパチンコ店の開業を計画していたAが公安委員会から、「同歯科診療所」の存在を理由に「パチンコ店の開設不許可」の処分を起こしたため、取り消し訴訟をおこした。
# 裁判所の判断: パチンコ店開業の不許可処分を支持して請求棄却。

★ ブリッジの支台築造に過失が認められたケース(京都地裁 平成4年5月29日)

A歯科医院で以前行った前装ブリッジの変色を主訴にB歯科医院を受診。セラミックのブリッジの診療契約を行い装着した。その後、2〜4年後にかけて4回の脱離が発生。その原因は右上1番の支台築造の作製上の過失(鋳造ポストの長さが不足とコアのテーパー過剰)を認め、債務不履行として計609,520円(ブリッジの代金の80%である18万円+治療費169,520円+慰謝料20万円+弁護士費用6万円)を認定。
* 術後3年間は支障無く使用できていたことから、損害は80%と認定。

● 診療応召義務に関する判決(千葉地裁 昭和61年7月25日)

救急病院による救急患者の診療拒否が医師法一九条一項の医師の応招義務に違反し、不法行為を構成するとされた事例。
診療要請を断り他に転送のところ、患児が気管支肺炎により死亡するに至つた場合に、適切な対応により救命できたとして、医師の過失に基づく病院の責任を肯定した事例

● やむを得ない場合の診療拒否に関する判決(名古屋地裁 昭和58年8月19日)

判旨: 救急告示病院が心臓病の救急患者に対し夜間診療を拒否し患者が死亡した場合につき、右はやむを得ない診療拒否であつて不法行為責任を負わないとされた事例
高齢の心臓疾患患者に対する甲病院の夜間入院診療の拒否、及び、この間の乙医院医師の診療・入院拒否につき、いずれも義務違反がないとされた事例

● 医薬品の添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項と医師の注意義務(最高裁判決 平成8年1月23日)

 医師が医薬品を使用するに当たって医薬品の添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。

★ 上顎智歯抜歯後の視覚障害(東京地裁: 平成7年11月28日)

1.歯科医師による上顎埋状智歯の抜歯を目的とする手術後に視覚機能に障害が生じたとして提起された訴訟につき、事前の説明、手術手技、術後管理等に義務違反はないとされた事例
2.医師(耳鼻咽喉科)と歯科医師(口腔外科)の境界領域に当たる上顎手術につき、これを歯科医師が実施したことに問題はないとされた事例

● インフォームドコンセントに関する判例

 患者に対する説明の範囲としては、「当該患者が重要視し、そのことを合理的医師ならば認識できたであろう情報」が該当する。

# 判例(1)
「患者の現症状とその原因、その治療行為を採用する理由、治療行為の内容、それによる危険性の程度、それを行った場合の改善の見込み・程度、当該治療行為をしない場合の予後等についてできるだけ具体的に説明すべき」東京地裁判決 平成4年8月31日
# 判例(2)
「一般的には、治療方法の概要と主要な合併症について説明すれば、使用薬剤名などの専門的内容や細かい合併症については、説明義務は無い」
松江地裁判決 平成5年6月16日


 PL法関連(水道事業者のフッ素濃度管理)(大阪高裁判決 平成3年11月25日)

# 高濃度のフッ素を含む水道水の飲用により斑状歯に罹患したことについて、 水道事業者の責任を否定した判例
# 斑状歯被害の内容(審美障害として発現するものであること)と浄水宅配を 実施する場合の被控訴人の財政上の莫大な負担とを比較衡量すると、浄水宅配義 務を肯認することができず、また、これまでに認定した事実関係によれば、被控 訴人の住民は、水道水中のフッ素が斑状歯発生の一因であり、その被害の防止の ためには各家庭の蛇口にフッ素除去装置を取り付けるのが望ましいことを知つて いたものと推認できるから、被控訴人が控訴人ら主張の各措置を採らなかつたこ とをもつて、斑状歯被害の発生につき過失があつたということはできない。

● カルテの開示請求裁判(東京高裁 昭和61年8月28日)

簡単に言うとカルテの開示義務は無い。

# 東京高裁昭六一(ネ)六五六号
昭61・8・28民一四部判決
控訴人 甲野太郎
被控訴人 国
右代表者法務大臣 遠藤要
右指定代理人 西口元〈ほか四名〉

       主   文

一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。

       事   実

一 控訴人は、

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は控訴人に対し、原判決別紙目録記載の診療録を閲覧させよ。
3 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び右2項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人指定代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

二 当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

       理   由

一 被控訴人は、控訴人の本訴請求の趣旨及び原因が特定していない旨主張するが、控訴人は、本訴において、原判決別紙目録記載の本件診療録の閲覧を求めるものであり、その請求の原因として、1 一般的に医療契約そのものに基づき、2 また被控訴人との間の具体的な本件医療契約に基づき、右閲覧を求めることが明らかであるから、請求の趣旨及び原因の特定に欠けるところはない。

二 控訴人は、一般的に医療契約そのものに基づいて本件診療録の閲覧を求め得る旨を主張するので、まず、その点について判断する。

1 請求原因1(本件医療契約の締結)の事実は当事者間に争いがない。

2 医療契約は、通常、患者本人もしくはこれに準ずる保護者等(以下単に「本人」という。)が、医師・医療機関等(以下単に「医師」という。)に対し、医師の有する専門的知識と技術とにより、疾病の診断と適切な治療とをなすように求め、これを医師が承諾することにより成立するものであり、一種の準委任契約であると解せられる。したがって、基本的には民法六四五条の法意により、医師は、少なくとも本人の請求があるときは、その時期に説明・報告をすることが相当でない特段の事情のない限り、本人に対し、診断の結果、治療の方法、その結果等について説明・報告をしなければならないと解すべきである。しかしこのように義務と解される説明・報告の内容・方法等については、患者の生命・身体に重大な影響を及ぼす可能性があり、かつ、専門的判断を要する医療契約の特質に応じた検討が加えられなければならない。このような観点からすれば、この場合の右説明・報告に当たっては、診療録の記載内容のすべてを告知する義務があるとまでは解し難く、その方法も、当然に、診療録を示して行わなければならないものではない。それぞれの事案に応じて適切と思料される方法で説明・報告をすればよいと考えられる(口頭による説明・報告で足りることも多いであろう。)。
 また、医師法が医師に診療録の作成を義務付けているのは、本人に対し医師が正確な説明ができるようにとの趣旨をも含み、結局患者ができ得る限り適切な診療・治療を受けられるよう配慮しているためであると解するとしても、そのことから直ちに本人がこれを閲覧することをも権利として保証していると解することは困難である。
 仮に、医療事故等の発生が前提とされたり、診療録の記載そのものが問題とされたりするなど、診療録閲覧の具体的必要性があると考えられるような事情の存する場合において、医療契約に基づく診療録閲覧請求権について、何らかの異なる立論をする可能性があるとしても、本件において、そのような事情の存在についての主張立証はない。
 以上のとおりであって、一般医療契約上の権利として本件診療録の閲覧を求め得るとする控訴人の主張は採用することができない。

三 次に、控訴人は、本件医療契約の特質に基づいて本件診療録の閲覧を求め得る旨をも主張していると解されるので、その点について判断する。
 前記のとおり、本件医療契約には、控訴人の慢性肝障害の治療のためインターフェロンを使用することが特約されており、しかもその中には医学上確立されていない医療行為をすることも含まれていて、もし右医療行為により控訴人に予期しない結果が発生しても、被控訴人は免責されるとの約定が交わされていることが明らかである。したがって、この点に関する限り、本人である控訴人としては、通常の医療契約の場合より以上にその結果について関心を抱いたとしても当然であり、治療を担当した医師としても、通常の場合にくらべて、より詳細な報告をなすべき義務があるものといえよう。
 しかしながら本件医療契約の右の特殊性を考慮したとしても、それだけでは、いまだ被控訴人において前記説明・報告義務の履行として、本件診療録そのものを本人である控訴人に示し、これを閲覧させなければならないとまでいうことはできない。
 そして、その他本件全証拠によっても、本件医療契約に関して、被控訴人が控訴人に対し、本件診療録を閲覧させることを約束したなど、控訴人の請求を裏付けるような事情を認めることもできない。
 してみれば、本件医療契約に基づく控訴人の主張も理由がない。

四 よって、控訴人の請求は理由がなくこれを棄却すベきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

★ 地位確認請求上告事件(最高裁昭和58年3月8日)

昭和47年4月に医科大学の附属病院看護婦に採用され、病棟勤務後本人の希望により手術室に配転。昭和50年3月から産前休暇→5月出産→6月まで産後休暇→12月18日まで育児のため休職。復職後歯科外来診療室への配転命令がでたので、「配転命令を違法無効」なものとし、「手術室勤務の権利を有することの確認」を求めた。
病院側の主張: 看護婦の就労場所は雇用契約の内容とはなっていない。産後の復職の際は総婦長が「業務上の必要等を考慮して新しい勤務場所を指定する慣行がある」。
# 一審の判決(東京地裁昭和54年4月24日): 採用時に専属科目や勤務場所の特約はなく、業務上の必要において配転されることを黙示的に承諾していた。として、配転を有効とした。
# 二審の判決(東京高裁昭和56年12月17日): 一審を支持
# 最高裁判決: 高裁判決を支持して上告人(看護婦)の上告を棄却。
# 最高裁の判決要旨: 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。また、記録に照らしても、原審の訴訟手続に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。 → さっぱりわからねぇ(^^;)

● 放射線技師法違反に伴う医業停止裁判(新潟地裁 昭和55年8月25日)

 本件は、診療放射線技師法違反で罰金一万円の刑をうけたものが、三か月間の医業停止処分を受けたのは、他の処分に照らして重いので処分の取り消しを求めた行政訴訟であるが、「行政処分の取消の訴えは、処分の効果が期間の経過その他の理由により消滅した後においても、なお法律上の利益を有する者に限り、これを提起することができる」との根拠で、処分が終わった後の請求を事実上退けたもので、「診療放射線技師法違反による医業停止3ヶ月」に対する妥当性には触れていない。


● 麻酔時の説明義務違反(広島高裁 昭和52年4月13日) 

医師と患者との間に診療契約が存する場合でも、患者に特別の危険を伴う診療行為については、応急の場合その他特段の事情ある場合を除き原則として個別の承諾を必要とし、その承諾を得るについては患者が右診療行為に伴う危険を認識し又は当然認識すべき場合を除いては、これに先立ち医師がその説明を与えることを要し、右説明を欠く承諾は、有効な承諾とはいえず、かかる承諾のもとになされた診療行為により患者の生命身体を害したときは不法行為が成立する。


 歯科医師法違反被告事件(東京高裁昭和28年3月30日)

 


 歯科医師法違反被告事件(高松高裁昭和28年2月25日)

歯科技工士の歯科医業の不法性


● 医師法違反被告事件(昭和27年9月5日)

 


 歯科医師法違反被告事件(高松地裁昭和27年5月2日)

 


 歯科医師法違反被告事件(高松高裁昭和27年4月16日)

 


 歯科医師法違反被告事件(札幌高裁昭和26年9月25日)

 

★ 医師の歯科医業の合法性(大審院判決)

(1) 歯科は医学上口腔外科の一部分にして眼科耳鼻咽喉科と同じく医科の範囲に属するものとす。
(2) 歯科医師の免許を受けたる者は唯歯科医たるに止まり普通の医業を為すことを得ざるも之に反して普通医師の免許を有する者は当然歯科医業を為すことを得。
* 内務省見解(明治41年): 「歯科医師法の法制は、医師の歯科医業を禁止するものではない」



● 名古屋地裁 判決
昭和58年8月19日
昭51(ワ)1803号
判時1104号107頁、判タ519号230頁

判旨
救急告示病院が心臓病の救急患者に対し夜間診療を拒否し患者が死亡した場合につき、右はやむを得ない診療拒否であつて不法行為責任を負わないとされた事例
高齢の心臓疾患患者に対する甲病院の夜間入院診療の拒否、及び、この間の乙医院医師の診療・入院拒否につき、いずれも義務違反がないとされた事例

● 大阪地裁 判決
平成10年10月21日判決(一部認容・一部棄却・控訴)
 患者が無菌性髄膜炎に罹患している旨の診断をした一般開業医は、ウィルス性髄膜脳炎を罹患している疑いの有無について鑑別診断を行い、その可能性があるときは速やかに抗ウィルス剤の投与による治療を開始すべき義務を負い、この義務を履行するため高次の医療機関へ転送義務を負うとされた事例

● 神戸地裁 判決
平成4年6月30日
平元(ワ)1569号
神戸市立病院救急患者受入れ拒否訴訟判決
判時1458号127頁、判タ802号196頁、判例地方自治101号59頁

判旨
第三次救急医療機関である市立病院が交通事故により受傷した重篤な救急患者の治療を拒否し、その後患者が死亡した場合に、診療拒否に正当事由がないとして市に不法行為責任を認めた事例


● 千葉地裁 判決
昭和61年7月25日
昭56(ワ)731号
判時1220号118頁、判タ634号196頁、判例地方自治26号21頁

判旨
救急病院による救急患者の診療拒否が医師法一九条一項の医師の応招義務に違反し、不法行為を構成するとされた事例
診療要請を断り他に転送のところ、患児が気管支肺炎により死亡するに至つた場合に、適切な対応により救命できたとして、医師の過失に基づく病院の責任を肯定した事例

 

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