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労働法の正義を考えよう~使用者側弁護士の立場からみた、労働法の「ひずみ」とは~ - 倉重 公太朗

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「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。

弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。

なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

【講師】
倉重 公太朗 氏

●講師プロフィール
慶應義塾大学経済学部卒業。安西法律事務所所属。経営者側労働法専門弁護士。労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、社会保険労務士向けセミナーを多数開催。近著に『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか』(労働調査会/著者代表)、『企業労働法実務入門』(日本リーダーズ協会/編集代表)など。

はじめに

 「ブラック企業」が社会問題化し、労働法を遵守しない企業に対する批判が強まっています。もちろん、悪質な企業に対する是正は法律の役割の一つですが、労働問題はそれだけで解決しない根深さがあります。労働法といえば、企業と労働者の「労使対立」の構図で議論されることが多いものですが、その内実は、正社員と非正規社員など「労労対立」の場面も少なくありません。国内でも数少ない企業側専門弁護士で、業務の約9割が労働法の案件という倉重弁護士に、現在の労働法の問題点から、今後の雇用のあり方まで語っていただきました。

 労働法を巡っては、企業側弁護士と労働者側弁護士で対立関係になりがちです。私は企業側の立場ですが、昨今の制度改革の議論を見ていると、労働者にとって不利益につながる面があると感じています。労働法遵守を叫び、正社員を守ろうとするあまりに、非正規雇用の人たちが犠牲になっているのです。能力の有無ではなく、正規・非正規という立場の違いによって不利益を被る人がいる状況が果たして正しいのでしょうか。非正規雇用は、現在の労働問題において最も大きなテーマです。

 労働法には、いくつか時代とミスマッチの点があります。その一つが「解雇権濫用法理」です。労働者の解雇を厳しく規制するもので、例え頻繁に欠勤をする社員であっても、なかなか解雇できません。企業の業績悪化などで整理解雇するには、4つの要件①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④手続きの妥当性を満たさなければならないのです。

 このうちの②解雇回避努力義務の履行は、役員の報酬カットや正社員のボーナス減額などのほか、非正規社員の雇い止めなども含まれます。実際に裁判所も正社員を解雇する前に非正規社員を解雇せよということを求めますので、あたかも「非正規差別」を裁判所が助長しているような状況です。また、①人員整理の必要性は、法人全体の赤字が要求されます。ある事業をやめたいから解雇するというのは簡単には認められないのです。これは、企業が新たに事業をはじめる障壁の1つになっています。

 その結果、起きているのが雇用の固定化です。企業としては、常に人件費のバッファを用意しておく必要がありますが、辞めさせにくいから、新規雇用に積極的になれません。労働者側からしたら、転職しにくい状況です。

 雇用の固定化は、ブラック企業を生み出す要因になっています。長時間労働が常態化し、メンタルヘルスの不調を訴える労働者は年々増加しています。これは、海外から見ると不思議な状況のようです。あるアジアの労働担当省で、日本の長時間労働やメンタル問題について話した際には、「嫌ならその会社をやめればいい」と言われました。雇用が流動化している国からすると、転職は当たり前なのです。しかし、日本はそれが難しい。私は、最も効果的なブラック企業対策は、雇用の流動化だと考えています。「嫌ならやめる」が当たり前になれば、労働条件の悪いブラック企業は人が集まらず、自然淘汰されるからです。

 解雇権濫用法理は、終身雇用制度が前提だった高度経済成長期にできたものです。当時は正しい規制だったでしょう。しかし、同じ会社に一生勤めようとする人が少なくなった今は、時代に合わない規制と言わざるを得ません。

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