起業家精神と社会的責任はコインの裏表だ。躍動性と創意性が起業家精神の必要条件ならば、社会的責任感と道徳的義務感は十分条件だ。フェイスブックの創業者、マーク・ザッカーバーグ氏は先週、時価5兆円を超える自社株を生涯かけて寄付していくと表明したことは、よりよい世の中をつくる責任が企業経営者にはあることを示している。雇用創出だけでなく共同体的価値を高める企業の社会的責任は包容的資本主義の発展を促進する役割を果たす。「冷静な頭と温かい心は両方必要だ」という英経済学者アルフレッド・マーシャルの言葉が我々には警句として聞こえる。
起業家精神の育成は国益を尊重する政治・社会環境下で可能となる。規制緩和や労働改革など急務の法案処理を無視する国会の無責任や年間の研究開発支出を上回る無理な準租税負担は投資意欲を冷え込ませる。不法デモが相次ぎ、法治が崩壊する貧弱な土壌で生産的な起業家精神が生まれるはずはない。クリーンな政治と革新的な起業家精神を結合して成し遂げたシンガポールの「神話」は示唆するところが少なくない。
2015年も暮れを迎え、韓国経済が「中進国のわな」にはまるのではないかという警告音が高まっている。このままでは20代と30代の人が社会の主役となる2030年代の潜在成長率は1%台に落ち込み、政府債務が急増してしまう。青年たちの間では「ヘル朝鮮」(地獄という意味のhellと朝鮮の合成語)、「泥のスプーン」(不平等の最下層という意味)といった流行語が広まっている。そうした言葉に込められた青年たちの怒りと挫折を熱情と勇気に変える責任が上の世代にはある。国を生き返らせ、未来の世代の希望を与えるためには企業経営だけでなく国家経営も真の起業家精神へと生まれ変わらなければならない。