情報学者の西垣通氏を迎えて送る「正義」を巡る対談の第4回。最終回となる今回は、いよいよ消費者コミュニティをメインテーマとして展開する。消費者コミュニティは、新たな共同体と新たな広告モデルを生み出す可能性があると語る西垣氏。そこから話題は、これからの社会の一大テーマでもある、コンピュータと人間の共創関係に広がっていく。
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消費者コミュニティは広告の在り方を変える
東京経済大学コミュニケーション学部教授。東京大学名誉教授。1948年、東京生まれ。東京大学工学部計数工学科卒業。工学博士(東京大学)。株式会社日 立製作所と米国スタンフォード大学でコンピュータを研究した後、明治大学教授、東京大学社会科学研究所教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、2013 年より現職。専攻は情報学・メディア論であり、とくに文理にまたがる基礎情報学の構築に取り組んでいる。近著として『ネット社会の「正義」とは何か』(角川選書)、『集合知とは何か』(中公新書)など。『デジタル・ナルシス』(岩波書店) でサントリー学芸賞(芸術・文学部門)を受賞。
西垣 私は、武田さんの会社でやってらっしゃる「消費者コミュニティ」に、未来を創る新たな可能性を感じています。アルビン・トフラーが1980代に著書『第三の波』のなかで予言した「プロシューマー」を連想させますね。
武田 プロシューマー。生産活動を行う消費者のことですね。生産者 (producer) と消費者(consumer) を組み合わせたトフラーの造語でしたね。でも、現実にはそういった波はあまり来なかったようにも思います。
西垣 仰る通りですが、それは時代が未成熟だったのです。でも、インターネットが普及するにつれて、ソーシャルメディアなどを使って、一般の人々が自分の声を発信する手段を持つようになってきました。そこで、企業が、自社の財やサービスにまつわるコミュニケーションの場を設ければ、消費者にも参加してもらえるようになってきた。消費者コミュニティは、うまくいけば、新しいタイプの共同体とプロシューマーを生み出すかもしれません。
武田 今まで100を超える消費者コミュニティを見てきましたが、面白いのは、どれひとつとして同じコミュニティに育たないということです。
西垣 それぞれにユニークなのですね。
武田 はい。本来、企業は法人として、個性があり、アイデンティティがあり、それぞれにヒストリーがあります(岩井克人氏対談)。どの会社も創業時には社会に対して、なにか貢献の目的を持って活動を始めたはずです。それが長い社史のなかで、または、大量生産と分業化と流れ作業のなかで、希薄になってしまうこともあるのだと思います(國領二郎氏対談)。企業を中心として生成される消費者コミュニティは、そうしたCI(コーポレイト・アイデンティティ)を思い出させてくれるものであると思います。企業と消費者が心と心でつながる場面に幾度となく遭遇しました。
西垣 それは企業にとっても消費者にとっても幸せなことですね。
武田 消費者が生成するネットワークから生まれる様々な発言が、企業やブランドを物語ってくれています。CIが消費者のつながりから縁起しているのです(小田嶋孝司氏×武田隆対談)。