硫酸の1京倍強力な酸も 世界で最も危険な化学物質5選
世界には毒や酸など、危険な化学物質がたくさんあります。サイエンスチャンネル「SciShow」が今回解説するのは、びっくりするほど危険な5つの化学物質です。コンクリートやレンガすら燃やしてしまう三フッ化塩素。何もしなくても爆発してしまうアジ化アジト。ほんの僅かな量でも死に至るジメチルカドミウム。数百メートル先にも悪臭が届くチオアセトン。硫酸の1京倍の強度の酸、フルオモアンチモン酸。実際にお目にかかるのは遠慮したいですが、それぞれの解説を見てみましょう(SciShowより)。
- ログ名
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SciShow / 5 of the World's Most Dangerous Chemicals 2014年12月13日のログ
- スピーカー
- Hank Green(ハンク・グリーン) 氏
ナチスさえも尻込みをした危険な物質
ハンク・グリーン氏:1993年、ドイツ・ポーランド国境にある秘密の地下壕の中で、ナチスのエージェントたちは先日発見されたばかりの化学物質“物質N”の製造の監督にあたっていました。 その物質は、空気に触れると沸騰し、水に触れると爆発を起こし、さらに人間に吸引されるとその人間を死に至らしめるという性質を持っていました。また、それは分解されると猛毒のフッ化水素酸になる物質でした。 火炎放射機でその物質を放射した場合、その温度は2400度にも達しました。当初、部隊にこの“物質N”を装備させ、連合国軍の地下壕をドロドロに溶かしてしまう作戦が立てられていましたが、物質の研究が進むうちに、現場の兵士達の間では次のような会話が交わされ始めました。 「うわっ、“物質N”の研究はもう中止すべきだ。この物質はあまりにも危険すぎる!」「我々が扱っているこれは、世界で最も危険な化学物質だ」 この物質は、触れただけで爆発を起こし、100万分の1グラムを吸い込むだけで人を死に至らしめます。また、その臭いをかいだだけで人は憔悴し動けなくなってしまいます。 そう、この化学物質は、そのあまりの威力に、あのナチスでさえもしり込みをしたという代物です。
コンクリートをも燃やす三フッ化塩素
では、ドイツ軍が秘密の軍事豪の中で密かに所有していたモノについて見ていきましょう。当初、彼らはその物質を毎月90トンのペースで製造する予定でしたが、結局、終戦までにわずか30トンを製造するにとどまりました。
彼らが製造していたものは三フッ化塩素と呼ばれるものです。これは最も強力なフッ素化剤として知られています。フッ素化剤は他の分子をバラバラにし、水素原子と自身のフッ素を置き換えます。その結果、いわゆる重度発熱反応が起こるのですが、特にこの場合はフッ素火炎と呼ばれます。
これは化学の知識がある人にとっては当たり前のことですが、フッ素ガスよりも取り扱いに伴う危険度が高いのです。またこの物質は酸素よりも優れた酸化剤です。酸化剤とは、化学反応時に他の化学物資の電子を奪い取り、燃焼を可能にする化合物のことです。
三フッ化塩素はこの性質が非常に強く、一般の人なら燃えるはずがないと思うような物、例えばレンガや石綿のようなすでに一度焼かれている物も燃え上がらせることができます。
また、酸化剤はロケット燃料の点火にも使われています。アメリカのロケット科学者たちはこの物質をロケットの推進剤として使うことも考えていたようですが、すぐにその危険性に気付き取りやめになりました。
1950年代初め、アメリカの科学者たちが初めて大量の三フッ化塩素を輸送しようとしたとき、鉄製のタンクがひび割れ、1トンもの三フッ化塩素が流出するという事故が起きました。それは大変な高温で燃焼し、コンクリート製の床およびその下に敷き詰められた1メートルもの土砂と砂利にまで達するほどでした。
その流出事故の目撃者のひとりはこう言ったそうです。
「コンクリートが燃えている……!」
三フッ化塩素は今日でも製造されおり、半導体製造会社で施設を清掃するために使用されています。幸いなことに、気密性さえ保たれていれば、三フッ化塩素は鋼鉄製のドラム缶で安全に保管することができます。ただ、この物質は一瞬で貯蔵容器の内壁を焼き尽くし、非反応性金属フッ化物に変えてしまうので、慎重な取り扱いが要求されます。
最も爆発しやすい化学物質・アジ化アジト
「非反応性」という言葉は次に議論する化学物質アジ化アジトには無縁だと思われます。それは人類がこれまで生み出してきた中で最も爆発し易い化学物質です。この不安定な化合物は高窒素エネルギー物質として知られ、他の物質と融合することを嫌います。窒素原子と他の窒素原子との結び付きはとても安定しており、この地球上で最も安定している分子のひとつと考えられています。
彼らの電子は互いに三重結合で強固に結びついています。通常、自然界でこの結びつきが壊れるのは落雷の直撃を受けたときぐらいです。
結合の強固さは、2つの窒素原子の結びつきが解かれたとき、莫大な量のエネルギーが放出されることを意味します。もしあなたがAAの分子を観察していれば(アジ化アジトの発音は大変なので、これからはAAと呼ぶことにします)、どのようにそれが起こるか見ることができるでしょう。
AAは14個の窒素原子を持っています。分子は原子の組み合わせであるため、そこに三重結合は見られません。代わりに、それらは緩やかな結合で結び付いています。
そして、それらはエネルギーが高い状態からより低い状態へ移行しようと絶えず試みています。これは、このプロセスの過程で、抑圧されてきた莫大なエネルギーが放出されることを意味します。
結果的に、AAは高い反応性と極度の爆発性を併せ持つことになります。この物質の反応性がどれほど高いかは、反応性が高すぎてその反応性を測定すること自体が困難であるという事実からも分かります。
2010年、ドイツの化学者チームが、より強力なエネルギー化合物を求めていたアメリカ陸軍の協力の元、AAを開発しました。開発当初の彼らのレポートにはこう書かれています。「この物質C2N14の反応性は我々の測定能力を遥かに超えている」「最小限のショックや摩擦でもすぐに爆発的分解に直結してしまう」
下記は、どれ程AAの反応性が高いかを示すための「AAの爆発を引き起こす行動リスト」です。
・動かす
・触れる
・溶液の中に混ぜ込む
・ガラス板の上に放置する
・明るい光にさらす
・エックス線にさらす
・分光計の中に入れる
・分光計のスイッチを入れる(私のお気に入りです)
・何もしない
この物質は温度調節機能付きの暗室で耐衝撃性の爆発物保管箱に入れられ管理されていましたが、それでも爆発しました。この物質を合成した化学者チームのリーダーはAAを「胸躍る発見」と呼んでいました。AAを取扱っている期間、朝起きるたびに自分の指が全て揃っているのを発見して、そう思っていたそうです。