11月下旬に行われたフィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ最終戦、NHK杯を制し、羽生結弦(21、ANA)がGPファイナル(12月10~12日、バルセロナ)に進出した。ショートプログラム(SP)、フリー、合計の全ての得点で世界最高をマーク。その強さは、2006年トリノ五輪金メダルのエフゲニー・プルシェンコ(33、ロシア)と姿がダブる。子供の頃から憧れ、今も理想とする「皇帝」の足跡をたどるように、羽生は「王者」への道を歩んでいる。
■高い出来栄え点、2位以下引き離す
「会場にいた人みんなが歴史的な演技の証人だよ。この記録(322.40点)を破るとしたらユヅ、彼自身しかいないんじゃないか」。フリー演技後、ブライアン・オーサー・コーチが興奮さめやらぬ様子で話した。米テレビ局NBCのリポーターとして、もう一人のコーチ、トレーシー・ウィルソンさんも来ており、リンクサイドで観戦。最後のステップが始まるころには何か叫びながら手をたたき、跳びはねていた。
GP初戦のスケートカナダはSP(6位)で出遅れて2位に終わり、「謙虚になれた」とオーサー・コーチ。そこから約1カ月、しっかりと練習を積んできた。GPシリーズは勝負の場ではあるが、シーズン途中のプログラムの仕上がりを探ることが優先するので、のびのびとした演技になりやすい。さらに地元大会で日本勢に点が出やすかった。様々な好条件がそろってはいたが、ほかの国でやっても300点台は余裕で出ただろう。
4回転ジャンプをSPで2回、フリーで3回決めたことが話題になったが、フリーの技術の基礎点だけなら金博洋(中国)を2.99点しか上回っていなかった。金は4回転ルッツ―3回転トーループの連続ジャンプを世界で初めて決め、SPとフリーで計6度の4回転ジャンプに挑んだ。ところが技術点で20点以上の大差がついたのは、羽生の出来栄え点(GOE、3点満点)が高かったからだ。
ジャンプのGOEは1.7点や1.9点がついたら、「おー、いいジャンプ」という感じで、女子では1点台後半のGOEを目にする機会がほとんどない。「よいしょ」という声が聞こえてきそうな、構えてから跳ぶようなところが一切ない羽生は、複雑なステップから入るジャンプもあって評価が高かった。フリーの8つのジャンプのGOEは最低が1点で、6つが1.5点以上を獲得し、うち4つは2点を超えた。
■完璧主義者もさすがに「フワフワ」
演技構成点は9審判中6人が10点満点をつけ、最も低かったのは9.25点。点数が出にくい「技と技のつなぎ」の部分だけは9.5点を切ったが、ほかの要素は全て9.5点以上をたたき出した。羽生はドラマチックな見せ場のある曲をよりドラマチックに表現するのが非常にうまい。フリーの曲、映画「陰陽師」のテーマ「SEIMEI」はこれまで用いたものと曲風が違い、羽生の個性に合っている。「振り付け」「曲の理解」への評価はそれぞれ9.82、9.89点。ほぼ満点といっていい。
現在、このレベルの演技ができるスケーターは世界にも見当たらない。オーサー・コーチらの喜び方も決して大げさではないだろう。
わずかな得点の取りこぼしも非常に悔しがる。悔しがりすぎではないか、もう少し前を向いてもいいのに……周りをそう思わせるのが羽生だ。そんな完璧主義者もさすがにこの得点には舞い上がり、「フワフワ」していたという。試合後は驚くほどハイテンションで語り、「すみません。まとまらない」の言葉で記者会見を終えた。自身をそれほどにしてしまう完璧な演技だった。
羽生を「絶対王者」と呼ぶ声が聞こえるようになってきた。本人は少し不愉快らしい。「(絶対王者には)別にこだわっていませんよ。自分が言い出したわけではないし。僕にとって理想の王者はプルシェンコだけれど、彼が絶対王者かというと違う気がするし」
羽生結弦、エフゲニー・プルシェンコ、金博洋、金妍児、フィギュアスケート
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