ノーベル賞支える浜松ホト、宇宙の謎に商機-原動力は「やらまいか」
2015/12/08 00:00 JST
(ブルームバーグ):光を電気信号に変える光電子増倍管で世界シェア9割を握る浜松ホトニクス。足元の製品需要は主力の医用機器向けにとどまらず、学術研究向けでも旺盛だ。素粒子ニュートリノの研究など日本人学者のノーベル賞受賞を陰で支えた技術力の源泉には、本社を置く静岡県浜松市に根付き、新しいことに挑戦し続ける「やらまいか」の精神が宿っている。
光電子増倍管など同社の光センサー製品は、岐阜県神岡町のニュートリノ観測の地下施設で1980年代に始まったカミオカンデ実験、その後継で96年から現在に至るスーパーカミオカンデ実験の装置に使われた。高エネルギー加速器研究機構(KEK)で粒子・反粒子の対称性の破れを発見したBelle(ベル)測定器実験、あらゆる物質に質量を与えるヒッグス粒子の存在を2013年に確定させた欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)実験でも用いられ、02-15年の間に少なくとも4つのノーベル物理学賞受賞に貢献した。
超新星爆発からのニュートリノを観測した02年受賞の小柴昌俊氏、物質と反物質のCP対称性の破れを予測した08年受賞の小林誠、益川敏英両氏、ニュートリノ振動の証明でことし受賞した梶田隆章氏は日本人学者で、日本の物理学界と浜松ホトの技術の結び付きの強さを示す。
晝馬(ひるま)明社長(59)はブルームバーグのインタビューで、「『スーパーカミオカンデ』の20インチの光電子増倍管では赤字を出してやった。ただ、それをやることによって世界における日本の素粒子研究の位置を確立し、素粒子研究は世界各国にも広がり、現在数百億円のビジネスチャンスが来ている」と述べた。
15年9月期の連結決算は、経常利益が前の期比9.4%増の247億円と2期連続で過去最高を更新。営業利益の76%を占めるのが電子管事業で、血液分析など検体検査装置向け、陽電子放射断層撮影(PET)装置など核医学検査装置向けに光電子増倍管が伸びた。用途別比率は医用機器37%、産業用機器25%、分析機器13%、学術研究5.1%。ここ数年にわたり業績拡大の原動力となってきたのが、PET装置や血液検査など医用分野だ。
晝馬社長は、「人体の中をみるのは医療にとって大事で、光の情報を分析するには電気信号に変えなければならない」と指摘。光の量子フォトン1粒まで検出できる技術力と、光センサーを活用した各検査機器の普及が同社の医用ビジネス好調の背景にある。
スーパーからハイパーへ、利用本数は8倍強に素粒子研究や宇宙プロジェクト向けなど学術研究分野は、売上高に占める比率がまだ1桁にすぎないものの、研究の高度化に伴い製品需要は高まっている。光電子増倍管関連で現在計画されている高エネルギー・素粒子実験は、スーパーカミオカンデの後継で10年後の実験開始を目指すハイパーカミオカンデのほか、中国の地下実験JUNO、欧州の深海実験KM3NeTなど。
スーパーカミオカンデでは、一般的な1-3インチに対し同社だけが生産できる世界最大の20インチ光電子増倍管が1万1200本使用された。検出タンクがスーパーの20倍になるハイパーでは、納入数量は9万9000本が見込まれ、18年にも納入が始まる。欧州のKM3NeTでは、数量は21万本に膨らむ見通しだ。
晝馬社長は、「ハイパーカミオカンデだけでなく、中国などいろいろなところで光電子増倍管の要求がある。要求を満たせる製造キャパシティを今作っている」と明かす。連結設備投資額は、13年9月期の92億円に対し14年9月期は155億円、15年9月期は143億円だった。前期は、一部を電子管事業部の第10棟建設に充てた。
16年9月期の減価償却費は前期比2割増の103億円と過去最大に膨らむ見通しで、この影響から今期経常利益は4.3%減の236億円を計画。ただし、先行投資が寄与する17年9月期は過去最高の304億円、18年9月期は337億円を見込む。
次の受賞候補は「ダークマター」世界的な理論物理学者のアルベルト・アインシュタインは1905年に光量子仮説を発表、金属に光が当たると電子が放出される「光電効果」を理論的に解明し、その功績で21年にノーベル物理学賞を受賞した。この原理が光を電気信号に変える光電子増倍管の根幹にある。
アインシュタインの遺産とともに、同社の技術力に欠かせないのが「浜松では『やらまいか』という言葉がある。英語では『Let’s Do it』。とにかくやってみようという精神がある」と晝馬社長は指摘した。やみくもに突き進むのではなく、「やったことによるリスクとやらなかったために失うリスク、それらをよく考えて最終的にやっていくのが『やらまいか』精神の基本」と同社長は説明。浜松を含む静岡県西部にはトヨタ自動車やホンダ、スズキ、ヤマハ、ヤマハ発動機といった日本を代表するメーカーの源流がある。
浜松ホトでは5年、10年といったスパンで技術開発を進めており、高出力の光と核融合を通じて発電し、未来のエネルギー源として期待されるレーザー核融合の場合は20年、30年先を見据える。同社が関与する次のノーベル賞受賞候補として、晝馬社長は「『ダークマター』の発見が一つの大きなテーマになるのではないか」と予想した。宇宙では、目に見える物質の比率は全体の約5%にすぎず、その5-6倍は未知の物質であるダークマターが占めており、その検出はCERNや東京大学のXMASS実験などで進められている。
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更新日時: 2015/12/08 00:00 JST