【五輪コラム】思いつなぐ五輪エンブレム、愛し育む力
2020年東京五輪・パラリンピックに向け、選び直しとなった公式エンブレムのデザイン募集が締め切られたが、いまだ桜をモチーフにした五輪カラーのリース(花輪)のデザインの「招致エンブレム」の再活用を求める声が後を絶たない。インターネット上だけでなく、大会組織委や東京都、JOC(日本オリンピック委員会)などにもだ。
この招致ロゴは平成23年11月に公募の38点から選ばれた。作者は当時、女子美術大4年の島峰藍さん。
五輪カラーの赤、青、黄、緑に加えて黒の代わりに東京を表す色「江戸むらさき」の5色を使い、日本を象徴する桜を選んだ。東日本大震災が起きたばかりで「日本に活気や勇気が戻ってきてほしい」との祈りも込めた。リースには「再び戻る」の意味がある。
とはいえ、島峰さんの作品が招致エンブレムとなったとき、東京の支持率はわずか47%。「低い支持率の影響で、当初はエンブレムの影も薄かった」と関係者は話した。
潮目が変わったのは2012ロンドン五輪。史上最多38個のメダルを獲得した日本のメダリストによる東京・銀座での凱旋(がいせん)パレードには約50万人が詰めかけた。沿道は招致エンブレムの小旗で埋め尽くされた。
支持率も上昇し、招致活動もオールジャパン態勢が組まれた。エンブレムはポスター、ピンバッジなどの形で街中やメディアでの露出も増え、開催決定まで急速に浸透していった。
「多くの国民が親しんでいる。これをベースに公式エンブレムを作成することはできないのか」
今年9月、旧エンブレムの白紙撤回が発表された翌日の衆院文部科学委。民主党の笠浩史議員はこう提案した。
ただ、IOC(国際オリンピック委員会)は規定で「エンブレムは発表まで機密事項として管理すること」などと定めており、組織委は同じものを継続して使用しないとの見解だ。
招致ロゴの作者の島峰さんは、大学時代に視覚障害者団体のロゴに応募した作品が選ばれた。表彰式で目が見えない人に思いを必死で説明すると泣きながら感謝されたときの感想をこう語っている。
「技術的な部分を気にして時間をかけたが、伝わったことは違った。根本的な思いが大事だ」
桜のエンブレムには抜きつ抜かれつの招致レースとともに、子供たちの夢、被災地復興、障害の有無にかかわらず誰もがいきいきと暮らせる社会の実現…そうした願いが込められた。今度は新たに生まれてくるエンブレムを愛し、育む力が未来への“思い”をつなぐことになるのではないか。
(社会部編集委員 石元悠生)