沖縄の米軍基地の返還が進むことは歓迎したい。だからといって、県民の意思に反して、普天間飛行場の辺野古移設を強行する理由にはならない。

 菅官房長官とケネディ駐日米大使が先週、米軍普天間飛行場の一部などを2017年度中に返還することで合意した。

 合意したのは、普天間飛行場東側沿いの土地4ヘクタールと、米軍牧港補給地区の国道58号に隣接する土地約3ヘクタールなどだ。

 この土地はともに20年ほど前に返還が合意されていた。返還されれば、宜野湾市の市道の整備や国道の拡幅に使われ、市民の利便性は高まるだろう。

 だとしても、今回の基地返還は普天間飛行場の危険性の除去につながらない。国土交通相が翁長雄志知事を訴えた代執行訴訟など、安倍政権の沖縄に対する強圧的な姿勢を正当化することはできない。

 今回返還される飛行場東側の4ヘクタールは飛行場全体の0・8%。牧港補給地区の3ヘクタールを合わせても、県内の米軍専用施設の0・03%と、ささやかな規模だ。

 普天間が辺野古に移り、嘉手納基地より南の米軍基地がすべて返還されるという前知事時代の2年前の日米合意がすべて実現したとしても、沖縄の米軍専用施設の割合は全国の73・8%から73・1%へと、わずか0・7ポイント減るだけである。

 なのになぜ、普天間飛行場の代替施設は、同じ沖縄県内でたらい回しすることが前提になっているのか。沖縄県が辺野古移設に同意しない根本的な理由はそこにある。

 沖縄では来年1月、普天間飛行場を抱える宜野湾市の市長選がある。6月以降は県議選や参院選も控えている。

 市長選は、辺野古移設容認の現職と反対派の新顔がぶつかる公算が大きい。政府としては、長年進まなかった基地返還を実現することで、現職を側面支援する狙いもあるのだろう。

 その意図はともかく、政府がさらに基地の早期返還に努めるのは当然のことである。

 同時に、政府にはもっと大きな視野をもってもらいたい。

 民意に背いて移設を強行すれば、円滑な工事も、移設後の基地の安定的な運営も望めないだろう。長期的にみれば日本の安保環境を損ねる恐れがある。

 普天間の危険性を取り除くには結局、「普天間か辺野古か」の二者択一を脱し、日米両政府も、沖縄県民も納得できる「第三の道」を探るしかない。

 辺野古に固執する姿勢は問題解決を遠ざける。日米両政府はそのことに早く気づくべきだ。