謎の物質。
先日、夕方の地方ニュースを見ていたら、「情報コーナー」という名前の宣伝コーナーが始まった。いつもはたいして気にもしていないのだが、その日はちょっと気になった。聞いたこと無いものの紹介をしていたからだ。
「日本初の血清プロテイン配合の化粧品」
なに?
化粧品に血清由来の成分が入っているの?
自分は高校生の時に演劇部に入っていたが、化粧をしたのはその時くらいだ。普段はまったく化粧などしない。最近では男子も化粧をする人がいるみたいだけど、アラフォーの自分が化粧してもいやそんなことはどうでもいい。
化粧品にプロテインが配合されているのはそれ程珍しい話ではないようだ。その中でもわりとよく出てくるのが「ヒートショックプロテイン」とかいうものだ。
1962年にイタリアの遺伝学者フェルチョ・リトッサという遺伝学者が、ショウジョウバエによる飼育実験時、熱ストレスに晒された時に唾液腺染色体が変異し、非常に強いタンパク質が合成されることを発見した。これがヒートショックプロテインの発見である。いつも思うけどショウジョウバエ万能だな。
タンパク質は、それぞれ特定の立体構造に折りたたまれている。これを「フォールディング」というが、正しくフォールディングさせる為に「分子シャペロン」というものが役割を担っている。ヒートショックプロテインは、この分子シャペロンだというのだ。
我々の体は60兆個からなる細胞からなっているが、その殆どは水分と各種タンパク質だ。タンパク質はアミノ酸が結合して作られており、このタンパク質構造が傷ついたり歪んだり崩れたりすることにより、様々な症状が現れる。分子シャペロンであるヒートショックプロテインは、これを修復したり、場合によってはアポトーシス(細胞死)させて事態を収拾する。
ヒートショックプロテインは、適度な熱ストレスを加える事で増加する。一番実感できるのは入浴だろう。古くから湯治が怪我や病気に対して効果があると言われるのも、あながち間違いではないのだ。
理屈はわかった。それでは効果の程は。
ヒートショックプロテインが体に良さそうなのはわかった。それじゃ、それを化粧品に配合する事にどれほどの意味があるのだろうか。
冒頭の血清プロテイン化粧品を売っている会社のオンラインショッピングサイトを見ると「すべての製品にセラムプロテイン配合」と書いてあるシリーズがある。セラムとは「血清」の事だが、化粧品業界ではアンチエイジング効果を謳っている商品に対しても使われる用語らしい。でも、多分この会社は従来の「血清」の意味で使っているんじゃなかろうか。公式サイトにも下記のようなことが書いてあるし。
豊凜化粧品は、血清皮膚科学を基に作られた化粧品で、肌が持っている自然の回復力を補い、本来の活性力、保湿力を引き出し、素肌美を保っていくことを目的とした化粧品です。
そもそも血清皮膚科学っていうのが何の事なのかわからないんだが、一応ヒートショックプロテインがコラーゲンの生産にも重要な役割を果たしていることがわかっているので、化粧品への応用も当然ながら研究されてはいる。
血清プロテインがそもそもどうやって作られるのかも気になるが、調べても殆ど出てこなかった。それっぽいのはなんかボディビルの本のサイトの記述だったが、以下の通りである。
最近のハイテクプロテインのなかには、血液中のたんぱく質を分離・乾燥させた血清プロテイン、血漿プロテインといったものもある。
(中略)
このサプリメントには通常、牛の血液が使われている。水分を含むたんぱく質成分(血清、血漿)と赤血球、白血球に分けたあと、乾燥させてパウダー状にしたものだ。
とはいえ、これ食べる方のプロテインの話だからなぁ。
実際に化粧品に何由来の血清プロテインが使われているかは書いてないからわからない。冒頭の化粧品の成分表を見ると「ウシ除タンパク血液」ってのがあるからやっぱり牛なんだろうか。でも除タンパクしちゃったらヒートショックプロテインも無くなってしまうのでは… なにか特別な技術でもあるんだろうか。それが血清皮膚科学なのか?
人間の皮膚は、そもそも外部の異物が体内に取り込まれないためのバリアの役割を持っている。簡単には体内に薬剤が入り込むことは出来ないのだ。ましてや、皮膚に浸透するということは、細胞と細胞の間に入り込まなければならない。
この血清プロテインを使用した化粧品が、どの程度の分子量の血清プロテインを使用しているのかも書いてないから、正直判断できない。
謎が多すぎて、ちょっとこれが本当に効果のあるものなのかどうかわからないのだが、価格を見ると軒並み10000円以上するので、なかなかの高級化粧品だと言えるだろう。
美を追求するのにはお金がかかるな…