超高齢化社会に入った課題先進国、日本。人生の最期を「寝たきりや介護を受けて暮らす」人が相当数いる国とも言えます。
この課題に挑もうと提唱されたコンセプトが、IoHH(Internet of Human Health=インターネット・オブ・ヒューマンヘルス)です。IoT(モノのインターネット)のコンセプトと技術を活用し、人の健康状態や健康管理をオンタイムで可視化して予兆をつかみ、「未病」の段階で成人病や認知症を含むリスクを明確化して対応していこうという構想です。
「一億総活躍社会」の大前提といえるこのコンセプトを踏まえ、提唱者である片山さつき参議院議員が、キーパーソンと徹底討論したのが書籍『未病革命2030 予兆をつかめば社会とビジネスが変わる』。このコラムでは同書から対談の一部を抜粋して掲載します。
今回は、三木谷浩史楽天会長兼社長との対談です。ビッグデータの生かし方や健康管理のインセンティブなどについて討論します。
片山:設備や機械について、異常が発生しても壊れる前に停止させるとか、まだ動くけど何年後には手当てをしたらいいということを、リアルタイムで可視化してインターネット経由でどこからでもわかるようにするというのが、IoTの一つの発想ですよね。
DNAやタンパク質の研究が進んで、人についても細胞レベルで状態を分析できる方向に進んでいますから、同じような発想で予兆をつかむことで健康管理の在り方を一歩進めようというのが、私たちが考えているIoHH(Internet of Human Health)というもののベースなんですね。
三木谷:なるほど。
片山:もう一つのポイントは、そのデータを利用して病気になる前の段階、つまり未病というところでケアしていきましょうということなんです。今でさえ日本の医療費は約40兆円にもなっていて、これ以上増えたら本当に保険制度は破綻しちゃいますから。つまり、医療に入る前の段階で手を打って、できるだけ健康年齢を延ばし、認知症や要介護になるのを遅らせ、自立している期間を長くするということを目的にしているんです。
健康寿命が延びて自立している期間が長くなれば、高齢者でも働ける人が増えるし、未病の段階でインターセプトして医療にまでかかる必要がないようにすれば、ビジネスとしての柔軟な展開がいろいろできるようになるので、両方の面で社会が活性化していくというプロジェクトなんですね。
楽天会長兼社長。1965年神戸市生まれ。88年一橋大学商学部卒、日本興業銀行入社。その後、米ハーバード大学に留学し経営大学院修士号(MBA)を取得。97年にエム・ディー・エム(現・楽天)を設立。同年5月にネット通販サイト「楽天市場」を開設した。新経済連盟の代表理事も務める。(写真:菅野勝男、以下同)
三木谷:おっしゃるように、未病の分野というのは間違いなく大きくなっていきますから、社会としてもビジネスとしても、どういうふうにアプローチしていくかというのは重要な問題ですね。
片山:楽天はインターネットを通じて会員の情報を集めてインタラクティブにサービスを提供しているという点では、IoHHの考え方との親和性は高いと思いますし、実際に「キレイドナビ」という基礎体温管理サービスでヘルスケア的なデータを取ることをやってもいますよね。
そこで今日は、ヘルスケアの分野に対してどういうビジョンを持っているのかという話をうかがいたいと思っています。もちろん、まだ実現できていないことも含めて、大きな方向感というようなことで結構なんですけど。
三木谷:ヘルスケアに限ったことではないんですが、我々のビジネスにとって基本的に重要なことが2つあって、1つは片山さんが言われたようにデータを集めるということですよね。2つ目はデータからパターン分析をして、ノイズを減らしてしっかりとした解析ができるようにすることです。例えば、「キレイドナビ」の基礎体温のデータでも、やっぱりノイズが出るんですね。風邪をひいたりして体調が悪かったりすると。
ノイズをどうやって減らすかということについては、ビッグデータの解析技術というのが非常に重要になってくることは間違いないですね。それとやはり、結果のトラッキング(追跡)ですよね。そこでは、いろいろな分析が正しかったかという検証、PDCAサイクルをどうやって回していくかという部分がすごく重要になってくるんだと思うんです。
片山:ヘルスケアに関するところでどんなことをやっていくのかという、最終的な着地点のイメージのようなものはあるんですか。