(2015年12月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

700億ドル規模の半導体産業は台湾経済の大きな柱となっている(写真:Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.)

 パーティションで仕切られたオフィスで静かに働いている様子を見ると、カジュアルな服装の矽創電子(シトロニクス)の技術者たちは、明らかな国家安全保障上の資産には見えない。

 だが、台湾政府からは、そのように扱われている。政府は長年、スマートフォンや自動車のディスプレーパネル向け半導体を考案するシトロニクスのような半導体設計会社に中国本土企業が投資するのを禁じてきた。

 禁止措置は、貴重な知的財産が本土に漏れ出し、ひいては、この700億ドル産業を蝕むのを食い止めることを目的としている。半導体は、台湾の輸出の40%を生み出す電子産業の要(かなめ)だ。

 台湾は1980年代に半導体チップ生産の新たなモデルを開拓した。インテルやサムスン電子といったメーカーが使う統合モデルと異なり、各工程が別々の会社によって遂行されるモデルだ。

 バーンスタインのアナリストらによると、この「分散」システムは着実に広がり、昨年、世界生産の4分の1を占めたという。台湾企業はこのシステムにおいて、設計、ファウンドリー(受託生産)、組み立て・検査という3つの主要工程すべてで重要な役割を果たし続けている。

「本土の投資家は歓迎」の声

 だが、業界経営者の多くは、自分たちが本土市場で豊富な資金源を活用し、有利な関係を築けるようになる政策変更を望んでいる。シトロニクス最高経営責任者(CEO)の毛穎文氏は「中国からの投資家は歓迎だ。問題はない」と言う。

 同氏によれば、中国からの投資を受け入れたら、シトロニクスは中国の税制優遇を受けられるかもしれない。「お金はお金。そうでしょう?」

 半導体企業に対する中国の投資を巡って高まる議論は、台湾が直面している大きなジレンマを反映している。台湾は中国と政治的な膠着状態にはまり込んだままだが、貿易の30%を中国に依存しているのだ。