賢者の知恵
2015年12月08日(火) 小林恭子

プロ顔負け!「イスラム国」驚異のコンテンツ制作能力
~10ヵ国語で発信、“情報聖戦”の実態に迫る

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〔PHOTO〕gettyimages

文/小林恭子(在英ジャーナリスト)

「イスラム国は情報拡散力がずば抜けて高い」

11月19日、ロンドンで「デジタル・エディターズ・ネットワーク」(DEN)による会合が開催された。DENは、英国内外の新聞、ニュースサイト、放送局などメディア界のデジタル部門で働く実務者が集まり、互いのノウハウを共有しあうコミュニティだ。2007年に発足し、年に2回、主要メディアのオフィスを会場に会合を開いている。

BBC報道センターで開催された直近の会合で、特に注目を集めた事例を2つ紹介したい。

過激派組織「イスラム国」(IS)がどうやって情報を広めているかを披露したのが、英BBCの「BBCモニタリング」のジハード情報専門家ミナ・アルラミ氏だ。「モニタリング」は世界中のメディアをウォッチングし、10年前からイスラム教過激派の動きを追うチームを設置している。

アルラミ氏によると、ISがほかの過激派組織と大きな差をつけるのが「プロフェッショナルなレベルのコンテンツを作る能力を持っていること、メディアを通じての情報拡散力がずば抜けて高いこと」。

自前のメディアを持っていることも強いという。最初はラジオだった。イラクとシリアで聞けるだけだったが、昨年からはオンラインのポッドキャストを始めた。アラビア語、英語、フランス語、ロシア語など「少なくとも10ヵ国語で配信されている。最近のISの活動の発表媒体になっているため、モニタリングには欠かせない素材だ」。専用の雑誌も複数発行している。

ISが発行する数々の雑誌(DEN会合のプレゼンテーションにて)

グローバルな支援者をリクルートするために、2012年ごろから力を入れ出したのがツイッターだ。公式アカウントは何度もツイッター社から閉鎖されたが、「非公式なアカウントがすぐに生まれる」。

最も重要なツールが、メッセージ・アプリの「テレグラム」だ。ロシア人実業家パヴェル・デュロフ氏が2013年に始めたサービスで、セキュリティが高いことで知られる。暗号化やプライバシー擁護に力を入れており、もしハッキングできたら「30万ドル払う」と宣言しているという。「ジハード戦士にとっては、願ったりかなったりのサービスだ」。

メッセージ・アプリの「テレグラム」

9月、テレグラムが新機能「チャンネルズ」を設置すると、ISは早速これを利用。自分たちのブランドとして「ナーシャ(配信者という意味)」を立ち上げ、この名前で11の異なる言語の11のチャンネルを設置した。

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