付利引き下げ困難で黒田日銀に手詰まり感、ECBは緩和の「弾」残す
2015/12/07 10:41 JST
(ブルームバーグ):欧州中央銀行(ECB)が預金ファシリティ金利のマイナス幅拡大を含めた金融緩和策を段階的に進める一方で、日本銀行は付利の引き下げに踏み込めず、緩和余地が限られるとの見方が出ている。
ECBは3日の金融政策決定会合で、下限政策金利の中銀預金金利をマイナス0.3%と、10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き下げた。ドラギ総裁は、量的緩和を少なくとも2017年3月まで続ける方針を示した。資産購入の月額は600億ユーロに据え置き、地方債を含めた。一方、みずほ銀行や東短リサーチは、日銀の長期国債買い入れを円滑に実施し、マネタリーベースを拡大するには当座預金の超過準備にかかる利息の年0.1%(付利)は不可欠とみる。
みずほ銀の唐鎌大輔チーフマーケットエコノミストは、「ECBは将来的に量的緩和が必要になった場合に備え、弾を残す形になった」と述べた。一方で、日銀には付利の引き下げしか残されていないとし、「それはレジームの変更を決定することになるのでなかなかできない」と指摘。日欧間の政策に「かなりコントラストが出てきた」と言い、日銀には「手詰まり感」が生じつつあると話す。
ECB緩和度合い圧倒的ドラギ総裁はユーロ圏のデフレを阻止するため昨年6月にマイナス金利政策に踏み切り、その後段階的に預金ファシリティ金利のマイナス幅を拡大。3日の会合後の記者会見での質疑応答では、預金金利が下限制約にあるかどうかとの質問に対し、回答を控えた。ECBはユーロ圏のインフレ率見通しについて、17年を1.6%と、従来の1.7%から引き下げており、目標とする2%弱に届かない状況が続くことになる。
三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの天達泰章シニアアナリストは、ECBはインフレ目標の達成が難しい状況下で、マイナス金利の下限について明確にしておらず、まだ緩和余地が残されていると説明。「日銀の政策スタンスはゼロ金利制約下で量的緩和を進めており、マイナス金利の副作用も計りきれていない状況下では、不確実なことはやらない」とした上で、緩和の度合いは「ECBの方が圧倒的に強い」と言い、日欧の緩和策を比較すると、ユーロ安・円高方向に進みやすいと見込む。
ユーロ・円相場は昨年10月に日銀が追加金融緩和に踏み切ったことなどを背景に、同12月に1ユーロ=149円78銭と、08年10月以来の水準までユーロ高・円安が進んだ。その後、ことし4月には126円10銭までユーロが下落。年初来のユーロ下落率は8%に迫っている。
付利下げに踏み込めない理由日銀は2013年4月に量的・質的金融緩和を導入し、金融市場調節の操作目標を無担保コール翌日物金利からマネタリーベースに変更。昨年10月には追加緩和に踏み切った。現在までに日銀が買い入れた国債は発行残高の28.5%に上る。国債市場では需給逼迫(ひっぱく)懸念を背景に金利水準が低位で推移しており、緩和余地が限られるとの声が聞かれる。
日銀の黒田東彦総裁は10月の金融政策決定会合後の記者会見で、追加緩和の手段として、「付利の引き下げについては検討していないし、考えが近い将来変わる可能性もない」と明言。11月には政策手段について「2%の物価目標を達成し、それを維持するという観点から、限界があるとは考えていない」との見解を繰り返した。
モルガン・スタンレーMUFG証券の河野研郎チーフ債券ストラテジストは、「付利があるから、金融機関は日本国債を日銀に売って、当座預金にお金を置ける」と言い、日銀の長期国債買い入れオペが「うまく回っている」と説明。付利の0.1%がなくなると、「銀行は国債を手放さず、日銀のオペに応じなくなる」とみる。
日銀のマネタリーベース(平均残高)は11月時点で344兆円と、前年比で約30%程度拡大している。財務省によると、銀行が保有する国債および国庫短期証券の保有比率は全体の30%を占める。
マイナス金利は枠組み変更必要ブルームバーグが11月13日から17日にかけてエコノミスト41人を対象に行った調査では、日銀の生鮮食品を除く全国消費者物価指数(コアCPI)の前年比上昇率2%の物価目標を達成できないと見込んでいる。10月の全国コアCPIは3カ月連続で前年比マイナス0.1%と目標から程遠い。エコノミスト41人中21人が来年の4月までに日銀が追加緩和すると予想し、19人が緩和をしないと見込む。付利引き下げを予想する回答者は4人にとどまり、17人がマネタリーベースの増加ペースを引き上げるとみている。
東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、ECBのマイナス金利政策について、「元々の狙いがユーロ安誘導というところが多分にある」と指摘。「ECBがやっているから、日本でもできるかというと同じようには言えない」とし、「仮に日銀がマイナス金利政策を取る場合、マネタリーベースの目標自体を変える必要が出てくる」と話した。
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更新日時: 2015/12/07 10:41 JST