[写真]靖国神社の鳥居。11月23日に南門近くの公衆トイレで爆発音がする事件が起こった(アフロ)
靖国神社(東京都千代田区)のトイレで11月23日、爆発音がした事件で、警視庁は現場付近の防犯カメラから爆発に関わったのは韓国人の男だった可能性が高いと見て捜査を進めています。この男はすでに日本を出国し、韓国に帰っていると報道されています。かりにこの人物が事件を起こしたのが事実だったとして、日本政府が韓国政府に引き渡しを要求すれば、韓国政府は要求に応じる義務があるのでしょうか。
【図】容疑者が海外に行って行っても引き渡しは可能なの?
日本は米韓とのみ「引き渡し条約」結ぶ
刑事事件を起こした犯人が海外へ逃亡した場合、日本の警察はそこへ行って捜査、逮捕することはできません。しかし、国境を超える人の往来が多くなり、それに伴って国際的な犯罪が増加している今日、凶悪犯でも外国へ逃れれば簡単に法の目をかいくぐれるのははなはだしく不都合です。そのため、あらかじめ政府間で取り決めておいて、外国で犯した犯罪についても、その国から要請があれば犯人を引き渡すことができるようになっています。
その取り決めが「犯罪人引き渡し条約」ですが、欧米では数多くの国がこれを締結しています。しかし、日本は米国および韓国とだけ結んでおり、欧米諸国と比べるとかなり異なる状況にあります。ただ、人の国際的往来が増えたと言っても欧米諸国とは比較にならない程度であり、犯罪人引き渡し条約を締結しなければならない必要性は高くないという考えもあります。
「被疑者」が出国した場合は「捜査共助」
日韓間では、国境をまたがる犯罪の処理について、次のような協力の仕組みが作られています。
まず、「被疑者」と「犯罪人」を区別しなければなりません。「被疑者」は、事件を起こした犯人かどうかを明確にするために捜査の対象になっている者であり、訴追(起訴)はまだ行われていません。
「被疑者」が国外へ出国している場合は、日本の警察はその国の警察に協力してもらって捜査を進めます。この協力を「捜査共助」と言い、具体的には証拠の提供などが含まれます。
そのような協力のための取り決めが「共助条約」です。日本は米国、韓国、中国、EU、ロシアなどとこの条約を結んでいます。
「被疑者」が捜査を逃れて出国するケースは「犯罪人」よりはるかに多く、2012(平成24)年度には53人の韓国人被疑者が出国しました。
一方、引き渡された「犯罪人」の数は、過去10年間の累計が米国と韓国を合わせてせいぜい20人ですので、出国した被疑者の方がはるかに多いのが現状です(法務省の犯罪白書は内訳を公表していません)。
今回、靖国神社のトイレで起こった事件の首謀者として韓国人男性が被疑者となっていますが、まだ不明確なことが多く、この件についてまず必要となるのは捜査であり、犯罪であったか、また、その被疑者が犯人であったかなどはその先で判断される問題です。報道されている限りでは、その韓国人は「犯罪人引き渡し条約」に基づいて引き渡しを要求できる対象ではなく、「捜査共助」の対象に過ぎないように思えます。