起訴後の「犯罪人」は「引き渡し条約」
次に「犯罪人」については、「日韓犯罪人引き渡し条約」の対象となります。これは捜査がすでに進み、起訴、裁判、または刑罰の執行が決まっている者であるとの考えに立っています。
また、同条約の対象となるのは「すべての犯罪人」ではなく、死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処せられる重犯罪です。国家間での犯罪人の引き渡しは重大なことであり、手続き的にも非常に煩雑なので軽犯罪まで引き渡しを認めることは現実的でないからです。
また、同条約は、引き渡しを求める要件として、要求している人がその犯罪者であること、つまり人違いでないことを説明した資料の提出のほか、犯した犯罪についても関連の法令の内容や、有罪となった場合どのような刑罰を受けるのかを含め詳しい説明を必要としています。
日本で判決が下っていない者も引き渡しの対象になりますが、起訴、裁判、または刑罰の執行が決まっている者に限られます。
犯罪人引き渡し条約は、犯罪人を「訴追し、審判し、または刑罰を執行するために」引き渡しすることを定めているのであって、「捜査する」ために引き渡すことは想定していません。ただ「被疑者」の状態でも、逮捕状が出ている場合には捜査が進んでいて「公訴するため」と理解できるので、引き渡し対象になる可能性はあります 。
「引き渡し」を拒否できる場合はあるの?
一方、「日韓犯罪人引き渡し条約」は引き渡し要求に対して拒否できる場合を定めています。その中には弁護の機会が確保されていない場合のように裁判に特有の問題もありますが、「政治犯」の場合と「自国民」の場合は、いわば超法規的に拒否できる道を残しています。
「政治犯」と「自国民」の場合はすべて引き渡しを禁止しているのではなく、また、どのような場合に拒否できるかについて基準も示していますが、どうしても解釈が分かれることがあります。
韓国側が「政治犯」を理由に引き渡しを拒否したケースが2013年にありました。その2年前、ある中国人が靖国神社に火炎瓶を投げつける事件を起こし、その後韓国へ逃れました。日本政府は韓国政府に引き渡しを要求しましたが、韓国の裁判所は「政治犯」を理由に引き渡しの対象でないとの判断を下しました。