そういった二極化はARアプリ作成が一般化するに連れて解消されていくと考えていましたが、まさにARアプリを一般化するきっかけとなりそうなツールキットが2015年10月20日にグレープシティから発売されました。それがWikitudeです。Wikitudeには、大規模ARアプリ作成が可能なWikitude Cloud RecognitionやWikitude Targets API、小規模ARアプリ向けで従来のツールキットよりも手軽な値段でARアプリが作成できるWikitude SDKなどがあります。
そこで全3回の短期連載として、Wikitude SDKを使ったARアプリ作成について紹介していきます。第1回である今回は、ARとは何かを振り返ったうえで、Wikitude製品構成について紹介します。
VR、AR、MRは何が違う?
AR(Augmented Reality)は「拡張現実」と訳されるコンピュータシステムからの出力形式の一つです。ARのベースにはVR(Virtual Reality:仮想現実)があり、類似のものとしてMR(Mixed Reality:複合現実)があります。
VRとは何か
VRとは、視界すべてがCGで作成された世界で構成され、時間の経過により変化し、利用者自身をその世界に投影できるようなシステムを指します。そのためOculus Riftのように、ヘッドマウントディスプレイで視界すべてを覆い、利用者の動きをセンシングできるデバイスはVRに必要不可欠なデバイスと言えます。
VRを題材とした作品としては、「トータル・リコール」「マトリックス」などの映画や、「ソードアート・オンライン」のVRMMORPG(アバターとして仮想現実空間に入り込み、感覚が全てフィードバックされる形式のゲーム)、「ワールドトリガー」の訓練室仮想戦闘モードなどがあります。VRにより実現するアプリの特性を理解するには、このようなVRを題材とした作品を鑑賞するのも良いでしょう。
ARとは何か
VRが視界すべてCGなのに対して、ARは現実世界の視界に情報を付加したり削除したりするシステムを指します。
VRがシステムで作り上げた仮想的な環境にセンシングした利用者を投影することに対して、ARではセンシングした環境や利用者に対してシステムで作り上げた仮想的なオブジェクトを投影するという主従逆転が発生しています。
ARを題材とした作品としては「電脳コイル」の電脳メガネなどがありますが、例えば「パイオニア サイバーナビ」のARスカウターモードやAR HUDビューによって現実世界にナビ情報を追加表示するなど、既に製品化され入手できるものが多いのもARの特徴です。
このようにVRと比べてARは現実世界がベースになっているため、スマホをかざしてARオブジェクトを表示するような形態にもフィットし、VRよりもアプリ実装はより現実的であるといえるでしょう。
現実世界に仮想オブジェクトを表示するときの位置合わせ方法としては、ロケーションベース型と画像認識型があります。ARスカウターモードではナビゲーション表示としてロケーションベース型、赤信号や前方車両への追加情報表示として画像認識型を併用しています。
MRとは何か
VRやARと共に最近よく聞くようになった用語としてMRがあります。MRは「すごいAR」「CG要素が主体のAR」と考えても差し支えありません。例えばARでは、現実世界に見えるビルにビル名などを追加するものがよくありますが、MR技術を使うと、現実環境の光源や天候に合わせてCGを生成して表示するなど、現実世界のビルのように見えていたものが実はCGのビルであり、ビルをクリックすると中のフロアが透けて見えたり、ドラッグして上空方向からの姿が見えたりできて初めて仮想世界のオブジェクトであると実感できるような世界観を構築できます。
しかしそのためには、VR同様に専用の表示デバイスが前提となります。例えば、2016年1Qに開発者キットが提供されるMicrosoft HoloLensもMRの世界を楽しむためのデバイスといえるでしょう。