東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命
【第41回】 2015年12月5日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家]

福島県「県民健康調査検討委員会」を
牛耳る“二枚舌座長”
星北斗の罪
――おしどりマコちゃん×広瀬隆対談【パート2】

『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が増刷を重ね、第6刷となった。
本連載シリーズ記事も累計298万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者と、吉本興業所属の芸人・おしどりマコちゃんが初対談!
おしどりマコちゃんは、フクシマ原発事故以降、マスコミ記者顔負けの「ロジカルな質問力」で東電幹部も答えに窮する場面も多数あったという。
芸人ながら、タブーといわれる原発事故の真実に、詳細なデータベースで迫る稀有な女性だ。聞けば、以前、鳥取大学医学部生命科学科に所属していたという。
そんな折、8月11日の川内原発1号機に端を発し、10月15日の川内原発2号機が再稼働。そして、愛媛県の中村時広知事も伊方原発の再稼働にGOサインを出した。
本誌でもこれまで、40回に分けて安倍晋三首相や各県知事、および各電力会社社長の固有名詞をあげて徹底追及してきた。
スベトラーナ・アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り』がノーベル文学賞を受賞した今、精神論やきれいごとでなく、真の科学的データで迫る姿勢が日本でも問われている。
なにごともなかったかのように、次々再稼働される日本の原発。
本当にこれでいいのか?
安倍政権により、真実の声が消される中での対談2回目をお届けする。
(構成:橋本淳司)

福島県の小児甲状腺検査の判定区分

広瀬 隆
(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

広瀬 マコさんは、医学部出身で、医学の知識が豊富で、被曝問題をずっと追及してくれているので、被曝の現状について、調べたことを話してください。福島県に、よく行っているのでしょう?

マコ 福島県はもちろんですが、被曝に関して気になっているのは周辺の県です。
 千葉県の柏市や、松戸市など、福島以外で甲状腺検査をしている自治体を取材していますが、自治体ごとに判定基準が違います。

広瀬 どのように違うのですか?

マコ 福島県の小児甲状腺検査の判定区分は、下記の4つです。

A1:「結節やのう胞を認めなかったもの」(次回の検査まで経過観察)
A2:「5.0ミリ以下の結節や20.0ミリ以下ののう胞を認めたもの」(次回の検査まで経過観察)
B:「5.1ミリ以上の結節や20.1ミリ以上ののう胞を認めたもの」(A2の判定内容であっても、甲状腺の状態等から二次検査を要すると判断した方については、B判定)
C:「甲状腺の状態等から判断して直ちに二次検査を要するもの

 福島県では甲状腺ガンの悪性ないし悪性疑いが138人と言われていますが、二次検査を必要とするC判定は1人です。
 柏市では、Bが7人、Cが11人(最新10月末の公表で増)ですが、福島県のように「ただちに二次検査」ではなくて、「専門医に回す」となっています。

おしどりマコちゃん
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。社団法人漫才協会会員。認定NPO法人沖縄・球美の里理事。フォトジャーナリズム月刊誌「DAYS JAPAN」の編集委員。兵庫県神戸市生まれ。鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんとん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。東京電力福島第一原子力発電所事故(東日本大震災)後、随時行われている東京電力の記者会見、様々な省庁、地方自治体の会見、議会・検討会・学会・シンポジウムを取材。また現地にも頻繁に足を運んで取材し、その模様を様々な媒体で公開中。 【Twitter】https://twitter.com/makomelo

広瀬 どうして、そうなったのですか?

マコ 福島県では専門医が診て、サイズが小さくても怪しいものは「B判定」、急を要するものは「C判定」としています。
 ところが、福島県以外の自治体で検査をしているのは、必ずしも専門医ではない場合もありました。触診して、結節や、のう胞のサイズはわかりますが、それ以上のことは専門医に診てもらってほしい、ということで、BやCの判定結果をつけています。

 いい検査をしているのが、北茨城市です。
 茨城県の一番北にあって、福島県いわき市に隣接しているところです。ここでは、福島県と同様の考え方で、2011年の東日本大震災が起きたときに、北茨城市に住んでいた18歳以下の市民すべてを対象に検査しています。
 それも希望者だけではなく、全員に通知して、日立メディカルセンターで検査しています。
 3593人を調査し、甲状腺ガンと診断された人が3人いました。これはとても高い比率だと思います。

広瀬 もともと100万人に1人か2人しか発症しない、稀なガンが甲状腺ガンですからね。

北茨城市を見習え

マコ 北茨城市は、来年度から2巡目の検査もする、としています。
 そういうことを決めているのは北茨城市だけです。
 そのほかの自治体では、検査をしている担当部署が、福島県の検査内容を理解していないこともあります。
 たとえば、A1、A2は「経過観察不要」と発表している自治体がありますが、福島県ではA1、A2でも2年後、20歳を超えると5年後に経過観察としています。

 1回目は、いままで甲状腺ガンの検査をしていない人たちが一斉に検査をするので、事故前に元々あったガンを見つけるケースもあり得ます。

 でも、2回目の検査で、小児甲状腺ガンの悪性ないし悪性疑いと診断された25名のうち、13名は1回目の検査ではA1判定です。つまり、甲状腺に何もなかった状態だったのに、2~3年後には手術するサイズの腫瘍ができているのです。稀少なガン、進行が遅いガンという説明でしたのに、これは大問題だと思います。

広瀬 このダイヤモンド書籍オンラインで、前回に対談してくれたOurPlanet-TVの白石草(しらいし・はじめ)さんも、そのことが重大事なのだと言っています。
茨城県は全市町村で検査するべきだと思います。県の全域が汚染されたのだから。

マコ そうです。医師に取材すると、日立市、高萩市など、福島県に近い茨城県の北部で甲状腺ガンが出ています。親子二代、三代続けてきた開業医が、自分の診療圏では数十年にわたって子どもの甲状腺ガンなんて一人も出なかったのに、原発事故のあとに発症してきているので、この事態に大きな疑問を持っています。

 ダイヤモンド書籍オンライン第39回で紹介されているように、岡山大学の津田敏秀先生が2015年10月8日に、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見をして、

1986年に起きたチェルノブイリ原発事故のあとに甲状腺がんの発症が多発したケースが、福島に重なる事態は避けがたい

 と警告されていますが、その津田先生が、

福島県より人口密度が高い茨城県で、患者数が増える可能性がある

 とおっしゃっています。放射性ヨウ素の汚染プルーム(放射能雲)は、福島第一原発から南の方向に濃いものが流れ、沈着せず、関東地方の全域に、東京まで広がりました。そして、汚染プルームが流れた時間帯が、福島県では早朝ですが、茨城県では昼すぎだったので、人が外に出ている時間帯だったとのことです。

中絶してもデータに残らない!?

広瀬 そうです。私は、原発事故が起こった当時、茨城の人たちが送ってくる放射能の線量データをずっと見ていました。時々刻々と線量の高い地域が南に広がって、東京に向かってきました。怖かったです。

マコ さて、医学的にどうすればいいかと考えていたとき、チェルノブイリのベルラド放射能安全研究所のヤブロコフ博士から、

できるだけ公的な調査結果を集めなさい。公的なものでしか勝負できないから

 と言われ、私も集め始めました。

「わかりました。でも、念のため言っておきますけど、私、芸人ですからね」

 と答えましたけど……(笑)。

広瀬 医学者としてのマコさんが集めた公的なデータは、どのようなものですか?

マコ 医学者として集めているわけではなく、お医者さまに協力していただいています。1つは心電図です。学校保健法で、小1と中1と高1の心電図検査をすることが決まっているので、自治体に情報を開示請求して、それを集めています。
 心電図で異常がわかるのは稀ですが、生活クラブ生協取手支部などの調査では、原発事故の前と後で異常が増えているのではないかという結果もあります。
 学校の保健室と、養護室の記録も重要です。

 先生によって書き方は違いますが、注意深い先生の記録は「鼻血○人、腹痛○人、頭痛○人」に加えて、「腹痛の部位や、頭痛の症状」も書かれています。同じ先生が数年にわたってこのようなデータを取っていれば、比較できると思います。

広瀬 そうでしたか。私が個人的に聞いている話では、人口流産を推奨するケースが福島県内で多いようですが、堕胎について、何か資料はありますか?

マコ 私も取材するうち、医師から堕胎を勧められた人に何人も会いました。
「被曝しているから、堕ろしたほうがいい」と。旦那さんにも、家族にも言っていない、というケースもあります。

広瀬 すると、そういう数字は、データとして出てこないですね。

マコ 出てきません。福島県の妊産婦調査では、母子健康手帳を発行する前の中絶はカウントされません。だから、福島県の妊産婦調査での、中絶、流産は、明らかに実際より数字が少ないのです。
 私が取材して知った中絶数より妊産婦調査の数字が明らかに少ないため、県民健康調査検討委員会を取材すると、母子健康手帳発行後の中絶・流産のみの数字ということでした。

二枚舌座長・星北斗の罪

広瀬 マコさんは、その福島県「県民健康調査検討委員会」が開かれるたびに足を運んで、福島県の医師にも取材していますね。

マコ 毎回ではないですが、2011年に公開になってから、ほとんど取材しております。
 福島県「県民健康調査検討委員会」の星北斗座長
は、県の検討委員会で言っていることと、東京の規制庁や、環境省の検討会に呼ばれて言っていることが、異なります。

 私は何度も、福島県の検討委員会に、
「甲状腺だけでなく血液検査の情報を出してほしい」
 と言ってきました。職員の方から「次回に出ます」と言われたことがありましたが、結局出ませんでした。理由を担当者に聞くと、「星先生が出さない」と言われたので、と。

 記者会見で質問すると、星座長が、

世間が興味があるのは甲状腺の結果だけだから、その他の検査結果は出さなくていい

 と指示したとのことでした。ところが、その数日後の環境省の検討会では、

世間の興味が甲状腺にばかり向いてしまっている。他の健康調査もやっているので、それらも問題として議論していただきたい

 と発言していました。

広瀬 自分がデータを出さないと決めておきながら、一方で、逆のことを言っている。あの男は、政治的で、信用ならない。
「県民健康調査検討委員会」は、副座長も「福島県民の被曝量はきわめて小さい」というような、実測値の根拠のないことを言うし、実に怪しげな集団だ。

マコ 福島第一原発の事故現場で働いてきた作業員の被曝線量もおかしいのです。作業中の線量は、電離放射線障害防止規則に基づいて測定されています。
 その一方で、普通に生活しているときの内部被曝線量は、2011年3月11日~7月11日までの4ヵ月間の行動記録から計算されています。
 でも、これを合算していない! 私は、「生活時の被曝線量と作業時の被曝線量を合算すれば、線量限度を超えるのに、どうして合算しないのか

 と毎回質問してきました。

 そうしたら、その3日後に、星座長が環境省の検討会で、

作業員の方々の被曝線量も、県民として仕事中のものと、生活圏のものと、一括して評価してくれる部署をぜひつくってほしい

 と言いました。

広瀬 自分が「合算しないように」しておいて、環境省では逆を言う。のちのち追及されないように、アリバイをつくっているわけだ。けしからん男だ。
 福島の検討会では「安全安心」を強調して、被曝の影響がないかのように宣伝する。こういう人間が検討委員会を取り仕切っているので、このままでは本当に心配です。

 次回は、「半径2メートルに公安が立っている『異常な日常」について、マコさんのおそろしい話を聞きましょう。

(つづく)

なぜ、『東京が壊滅する日』を
緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ

 このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。

 現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超
 2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。

 東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
 映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。

 1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。

 核実験と原発事故は違うのでは? と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い。

 3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。

 不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
 子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない

 最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?

 同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。

 51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。

「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実

 よろしければご一読いただけると幸いです。

<著者プロフィール>
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『日本のゆくえ アジアのゆくえ』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

 

おしどりマコちゃん
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。社団法人漫才協会会員。認定NPO法人沖縄・球美の里理事。フォトジャーナリズム月刊誌「DAYS JAPAN」の編集委員。兵庫県神戸市生まれ。鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんとん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。東京電力福島第一原子力発電所事故(東日本大震災)後、随時行われている東京電力の記者会見、様々な省庁、地方自治体の会見、議会・検討会・学会・シンポジウムを取材。また現地にも頻繁に足を運んで取材し、その模様を様々な媒体で公開中。【Twitter】https://twitter.com/makomelo