サンフレッチェ広島のエンブレムには「三本の矢」が描かれている。その矢は森保一という指揮官によって新たなる哲学となり、Jリーグチャンピオンシップ優勝という最高の結果をもたらした。
12月5日、3万6609人の大観衆が詰めかけたエディオンスタジアムに、ガンバ大阪を迎えた広島は、CS決勝第2戦を戦った。アウェイで行われた第1戦で3-2の逆転勝利を収めていた広島は、第2戦を1-1で引き分け、2試合合計4-3で勝利。エースの佐藤寿人が「CSは正直、プレッシャーでしかなかった」と試合後に重圧を打ち明けたが、広島はCSの舞台でも年間勝ち点1位のプライドをしっかりと誇示すると、文句なしの優勝を果たした。広島はここ4年で3回目のリーグ制覇。まさに黄金期とも言える時代を歩んでいる。
ただ、今シーズンは佐藤も「タイトルを獲ろうというチーム作りでは決してなかったとは思う。主力2人(髙萩洋次郎と石原直樹)が欠けて、その中でもうまく補強はできましたけど、未知数の中で開幕を迎えた」と語ったように、不安を抱えてのスタートだった。
その中で森保監督が「チームも個も成長していこう」と選手たちに強く訴え、努力していくことでチームはタイトルを獲得できるまでの強固な集団となった。そして、今シーズンのチームの根本にあったのが、「三本の矢」ではなく「三つのチカラ」だった。森保監督がことあるごとに口にする“忍耐力”“反発力”……そして“継続力”こそが、チームに3つ目の“星”をもたらしたのである。
CS決勝第2戦は、そのすべてが体現されるような、まさに今シーズンの集大成とも言えるゲームだった。
|焦ることなく我慢強く戦う忍耐力
ホームで戦った第1戦を2-3で落としたG大阪が、第2戦ではより攻撃的に打って出てくることは容易にできた。ただ、ピッチの指揮官と呼ばれる森﨑和幸も「前半は特にG大阪の思う壺というか、全くウチらしいサッカーができなかった」と話したように、G大阪の圧力は想像を遙かに越えていた。
G大阪は出場停止のDFオ・ジェソクに代わって先発出場した米倉恒貴、藤春廣輝の両SBを含め、トップ下の宇佐美貴史もがサイドに流れ、早めにクロスを入れることで広島のゴールに度々迫った。27分、広島はその圧力に屈してしまう。右CKから今野泰幸にCS3戦連発となるボレーシュートを決められてしまう。
これにより第1戦で得たビハインドは薄れ、2-0になればG大阪の逆転優勝という状況に立たされたが、それでも広島に焦りはなかった。前述の森﨑和が語る。
「先制された後も割り切ってやろうと思っていた。それは僕だけじゃなく、チーム全員が感じていたと思います。それが今シーズンを象徴している。我慢強く、やり続けた結果だと思います」
GK林卓人も「崩されて失点したわけではなかったので、流れの中では絶対にやらせないという思いがあった。1点取られたのは仕方がない。その中でもこれ以上はもうやらせないという思いで戦っていた」と同調した。
これこそが、チームに根付く第一のチカラ“忍耐力”である。
3バックの一角として主軸を担ってきた塩谷司が語る。
「正直、本当にしんどかったです。何回も心が折れそうになった瞬間があったけど、そのたびにチバちゃん(千葉和彦)が『笑ってやろうぜ』って言ってくれた。それが彼の良さでもあるし、またアオくん(青山敏弘)もカズさん(森﨑和)も周りに声を掛けてくれた。チバちゃんが試合後に『今日はサッカーしてないよ〜』って言っていたけど、本当にその通りというくらい自分たちらしいサッカーはできなかった。でも、我慢するところは我慢して、そういう試合を引き分けに持ち込んだり、勝ちに持ち込んだりできたのが今シーズンの広島の強さだと思う」
0-1で折り返した57分、G大阪の長谷川健太監督が大森に代えて倉田秋を入れると、広島の森保監督も佐藤を下げて浅野拓磨をピッチに送り出した。さらに64分、長谷川監督がFW長沢駿を下げ、パトリックを交代させて勝負に出れば、森保監督も第1戦の逆転勝利の立役者である柏好文を投入した。G大阪が前線にパワーを掛けようとすれば、広島はサイドと前線のスピードを活かして主導権を握り返そうとしたのである。
そして76分、ついに広島は同点に追いつく。それまで対峙するDFと再三ドリブルで勝負していた柏だが、このときばかりは切り込まず、素早くゴール前にクロスを上げた。
「(得点シーンは)その前の仕掛けが活きて、相手と距離が開いていたのでクロスを上げることができた。(クロスは)感覚で上げました。高さを活かすというか速いボールを入れようと思った。あとはタクマ(浅野)の速さだけじゃない、バネみたいなものが出たんじゃないですかね」(柏)
柏のクロスに飛び込んだのは、「正直、入るとは思っていなかった。気持ちでねじ込んだら、ゴールネットに吸い込まれていった」と話す浅野だった。若きストライカーは、ゴール前で大きく跳躍すると、ヘディングでねじ込んだ。
1-1の同点に追いつき、CSのMVPに選ばれた青山敏弘が「これで優勝だ」と叫んだと、試合後に塩谷が笑いながら教えてくれたが、広島にとって優勝に近づく大きな、大きな1点だった。
この得点こそが、第二のチカラ“反発力”だった。攻め続けられても、押し込まれても、培ってきた“忍耐力”により耐えしのげば、いつかチャンスは訪れる。チームとして虎視眈々と好機を窺うのは、まさに劣勢をはね除ける力そのものだった。
|二つのチカラを支えた継続力
そして、その二つのチカラを支えたのが“継続力”だった。
自分に代わって出場した浅野が大きな仕事をやってのけたことについて、「タクマが成長して優勝につながる活躍をしてくれたのは素直にうれしい」と話す佐藤寿人が教えてくれた。
「ベンチに入れなかった選手も含めて選手たちのクオリティーが高かったですし、チーム内で常に激しい競争があった。その結果、練習のクオリティーが間違いなく高くなった。僕自身もプロで16年やっていますけど、これほどいい練習ができたチームはない。だからこそ、自信を持って試合に臨めるし、ガンバは難しい相手で、押し込まれる状況も多かったけど、ギリギリの中で、我慢強く戦えた。土俵際で粘れる強さがあると思いますね」
CS決勝の第1戦、第2戦で大活躍した柏は、シーズンを通してWBとして攻守を担った。ケガにより戦線を離脱すると、それに代わって出場した清水航平がリーグ戦で2試合連続得点をするなど、CS出場に大きく貢献した。柏にしても先発できない悔しさをエネルギーに代え、CS決勝では決定的な仕事をして自身の存在価値をアピールした。
3バックを支えてきた水本裕貴が2ndステージ第16節のG大阪戦で負傷すると、最終節の湘南ベルマーレ戦から先発起用された佐々木翔が強さを見せた。佐々木はCS決勝第1戦では同点弾を叩き込み、千葉、塩谷、水本となんら遜色ないことを示した。CS優勝を決めるゴールを上げた浅野にしても、同様である。リーグ戦まで遡れば、2ndステージ第14節で劇的な決勝弾を挙げた山岸智も、出場機会が得られずとも腐ることなく、“継続力”を見せてきた選手の一人である。
CS決勝の2試合ともに先発に抜擢された清水が語る。
「モチベーションを切らさず、1年間できたことで、最後にチャンスが回ってきたと思うし、そこに尽きるかなと。苦しい時期もやりきることができた。そこは今季の自分の唯一評価できるところですね。メンバー外の選手たちもみんながんばってきた。だからこそ試合に出る選手は責任を感じてプレーしたし、そこも広島の強さだと思います」
“忍耐力”は、圧倒的に攻められながらも1点を守り切り勝利した1stステージ第10節の川崎フロンターレ戦や連敗して迎えた2ndステージ第8節のアルビレックス新潟戦などで勝利することで培ったものだ。森保監督もCS決勝第2戦の試合中にその川崎戦の光景を走馬燈のように思い出したという。また、“反発力”は1stステージ第8節の横浜F・マリノス戦や2nd2ステージ第3節の浦和レッズ戦などで逆転勝利したタフさだった。
そして、その2つを支える“継続力”こそは、日々のトレーニングによって培ったものだ。継続は力なり——森保監督は「当たり前のことを当たり前にやることは難しい」と常日頃から話す。主力選手たちが口を揃えて「今シーズンは本当に練習が厳しいし、クオリティーが高い」と話すように、出場機会を得られない選手たちが腐ることなく、1年間、高い意識と姿勢を維持し続けたことで、チームはひとまわりもふたまわりも成長したのである。
その結果、“三つのチカラ”は総合力という大きなパワーへと変わった。まさに毛利元就の「三本の矢」と同様、一つのチカラでは勝ちきれないが、三つが揃うことで内容も結果も伴っていったのである。
その広島は、レギュラーシーズンでは、最多となる年間勝ち点74を獲得。得点数もリーグ最多の73得点であり、失点数はリーグ最多の30失点だった。選手たちはリーグ戦34試合のすべてをCS決勝の2試合で出し切ることによって、3度目となるシャーレを夜空に掲げた。
J2降格やJ1連覇、クラブの栄枯盛衰そのすべてを知り、しばしば森保監督と同じコメントをする、森﨑和の言葉で締めよう。
「今日の試合であったらタクマ(浅野)がゴールを決めてくれた。今シーズンは連覇を経験していない選手たち、広島で優勝したいと思って移籍してきてくれた選手たちが活躍して、優勝できたというのは非常に意味のあること。タクマは今日活躍しましたけど、若い選手で言えば、まだまだウチには将来有望な選手がたくさんいる。そういう選手たちが今後、さらに出てきてくれれば、もっと、もっと強くなる」
文/原田大輔
写真/佐野美樹