○コラム

2015年11月15日

 ホームページ一時休止のお知らせ
捲土重来を念じつつ……

捲土重来を念じつつ……
突然ですが、このホームページを一時休止することになりました。書斎の移転に伴い、新たな執筆環境に適応するため、時間が必要と考えるからです。それまで公開とし、想を練りたいと思います。

震災対策を兼ねた書斎および書庫を、岡山県の吉備高原という中山間部の“吉備高原都市”(ニューシティ)に定め、執筆活動を開始したのは1997年5月のことでした。ホームページはその活動の一環として始めたもので、同地にて創作活動にいそしむ日本画家、森山知己さんの全面的なご協力によるものでした。

森山さんのご案内で岡山の豊かな自然と伝統にふれているうちに、氏と共同執筆にて「吉備悠久」という連載を「山陽新聞」に寄稿するようになり、同時に刺激に富んだ日々の生活と意見を、ホームページという形に凝縮したいと思うようになったのです。

このころが私の文筆生活の上で最も幸せな時期だったのはたしかですが、好事魔多しのたとえ通り、思いがけない客観的情勢が生じました。バブルの崩壊です。

あえて経緯は記しませんが、ニューシティも建設途上で頓挫、2010年になって私も経済的な事情から、折角の吉備高原の書斎・書庫を引き払わなければならなくなりました。情けない次第ですが、当時神奈川近代文学館への関わりが強くなったり(理事長職)、執筆体力が盛期を疾うに過ぎ、急速な低下を自覚せざるを得なくなったりしたという事情も手伝って、万やむを得ない選択だったと思っております。

このホームページもそうした実情に合わせ、現在のように模様替えしたのですが、実際には進行中のテーマ紹介をはじめ、過去に執筆した文章の再録や絶版本の紹介といった当初のアイディアは、思ったほど実現できず、維持が苦しくなってきたというのが正直なところです。

当然ながらリニューアルを考え始めたところ、持ち上がったのが、この数年間つきまとわれていた住居移転問題です。子どもがいない私ども夫婦は、健康上の理由も含め、近い将来老々介護となるのは必定で、そのために現住居がはあまりにもノン・バリアフリーでありすぎるということを意識しておりました。無論いまから知的楽しみが乏しい施設に入る気にもなれず、考えたあげくが先端的な医療施設の多い、自然に恵まれたシニア環境下の住居に入ることです。この探索に1年以上を費やし、ようやく見つけたのが、この動画でお見せするような環境であり、住まいなのでした。

ただ、最大の難点は住居空間の狭隘なことで、私の蔵書の大半は失うこととなります。苦悩の結果たどりついたのは、私もこの4月に八十路を越え、知的生産は実質的に終了したのではないか、という厳しい認識でした。

新たに持参する本はせいぜい1800冊です。つとめて若いころワクワク感を覚えた本だけを持っていくことにします。一種の退行ですが、余力あれば今回の全経緯や、個人が蔵書を維持できない文化環境の貧困性を追求した“大蔵書論”を執筆するかもしれません。

ホームページは、一定規模の蔵書をバックに維持してきましたので、再開についての確信が100%あるとはいえませんが、努力はいたします。この機会にあらためて森山知己さんをはじめ、ご愛読いただいた皆様に感謝申しあげます。各位のご健康を心から祈念し、捲土重来を念じつつ、中締めの挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。