先日投稿した記事*1に対し,予想をはるかに超える反響をいただきました。その中には批判的なご意見もあり,建設的なご批判から罵詈雑言,誹謗中傷にいたるまでさまざまなレベルのものがありました。建設的なご批判に関しては,もちろんありがたく真摯に受け止めますが,罵詈雑言や誹謗中傷のレベルのものに関しては,傷ついたというよりも,失望した次第です。「はてな」ユーザーになってもう10年にもなりますが,はてなの言論空間はこんなに不健全な形で発達してしまったのか,と。
こうした罵詈雑言や誹謗中傷を総称して,よく「匿名の暴力」という言葉が使われます。韓国の女優さんが自殺した事件や学校裏サイトを苦にした自殺などの事件にも表れている通り,言葉は暴力であり,人を殺しうる凶器ですらあります。こうした事件の影響もあって,インターネット上でも何でも,匿名で暴力的な言葉をぶつけるというのは,忌むべき卑怯なことであるとの認識はあると思います。行き過ぎると,犯罪にもなりえます。
ただこれ,「はてな」ではまた独特なところがあって,コメント欄で正面からコメントする以外に「はてなブックマークでコメントする」というやり方もあります。「IDを明記しているから匿名ではない」というような意識があるのかもしれません。しかしながら,基本的にははてなブックマークでのコメントに「返信する」ということはできません。個人的に連絡を取ることもできません。*2できるのは「スターを付ける」というあいまいな行為だけです。そして,コメントが付いたことは当該ブログの筆者には通知があるわけですから,本当に筆者の「知らない」ところで罵詈雑言が飛び交っているわけでもない。筆者はそれを認識することができるわけです。だから「堂々と批判している」というような錯覚を起こすのでしょうか。*3しかし私にはこれこそ,人を攻撃し,しかしそこから反撃されることはなく,ただニヤニヤしながら筆者のダメージを想像して楽しんでいるように思えて不気味でなりません。*4そして,いちいち筆者がこれらに反応することも,「みっともない」ことのようにとらえられている節がありますから,まったくもって不公平であると思います。たとえばブックマークコメントなどでおっしゃったようなお言葉を,私の顔を真正面から見て,口に出しておっしゃることはできますか。誰とは申しませんが,ご丁寧にもご自身のブログで「論評」する形で私や私の記事を侮辱してくださった方,ご自身の書かれたことを,公の場で朗読することはできますか。*5また,その対象は私だけではありません。婚活しているすべての人を集め,「お前たちは婚活しなければならないような売れ残りの負け組だ」と,罵倒することはできますか。「つぶしのきかない文系博士」と,私以外の文系博士に会ったとき,面と向かって言うことはできますか。「一生非正規雇用だ」とおっしゃる,その根拠を挙げることはできますか。*6何より,自分はインターネット上で他人にこのようなことを言ったと,ご両親やお友達や恋人や会社の上司など,あなたの周りの人々に話すことはできますか。もし少しでも「できない」とお思いになるのであれば,ご自身のご発言を顧みるべきではないでしょうか。言葉選びは,その人の人格を如実に反映すると私は思っています。ちなみに私は,私が過去に書いたいかなる記事も,公の場で朗読することに抵抗はありません。
あと,これもよく見られたご発言ですが,「こういうことを書けばいろいろ言われるのは当然」。なにか言われるのが嫌ならブログなど書くな,ネットで発言するな,まして物議を醸すようなことを言ったのだから当然だ,という見解です。一見,正しいことをおっしゃっているようですが,果たしてそうでしょうか。不愉快だからお前を殴る,殴られる理由はわかっているはずだ,という正当化は,果たして通用するでしょうか。しかもこちらは反論できないわけですから,人を縛りつけて殴っているも同然です。ご覧の通り,私はコメント欄も公開してありますし,メールフォームも設けてありますし,また私自身の個人情報に関しても,割とオープンにしてあります。年末には帰国する予定ですから,なんでしたら直接お会いしてお話することさえも可能です。こうしてあるのはひとえに,私が自分の発言に責任を持ちたいからです。様々な選択肢がある中で,敢えて「匿名で」,さらに「こちらが個々に反論できない形で」コメントすることを選ばれた。それはつまり,私を縛り付けて殴って逃げたかったのだ,と理解しています。お前が嫌いだ!叩いてやる!という考え方はもはや3歳児か4歳児のそれですし,反撃も受け入れる形で真正面から攻撃する分,子供の方が誠実かもしれません。「こういう記事はブーメランだ」とおっしゃる方がおり,そのご意見に反論はありません。ただ,みなさまが放つ言葉もまたブーメランなのだ,ということは考えておかれた方がよいでしょう。
上にも書いた通り,私は私の発言にすべて責任を負っているつもりです。逃げ隠れするつもりはありません。こちらの日記に書いていることは間違いなく,すべて私個人の意見ですし,それに対して何かしら言い訳をするつもりもありません。ただ,私も未熟な人間ですから,認識が間違っていたり,何か頓珍漢なことを述べたりすることはあると思います。その時にはきちんとご批判いただければ,誠実に反省し,対応いたします(し,そうしてきたつもりです)。批判を恐れていては研究者などつとまりませんし,何よりこれは,個人としての私の良心です。アイルランド文芸復興をリードした人物の1人であるグレゴリー夫人(Lady Augusta Gregory, 1852-1932)は地主階級の人で,土地戦争(Land War)の時匿名で脅迫を受けたのに対して,私は何時から何時までの間は必ず窓際のこの椅子に座っているから,話したければその時に来い,殺したければどうぞ殺せ,と言ってのけたという逸話があります。かっこいい。私もグレゴリー夫人に敬意を表して,彼女と同じ態度を取るつもりです。私の本名を含む個人情報や来歴は,プロフィール中のresearchmapのリンクからご覧ください。私に直接ご連絡をなさりたければ,メールフォームからどうぞ。コメント(ただし建設的なものに限らせていただきます)をなさりたければ,コメント欄をお使いください。私の姿勢はここで改めて表明しておきますので,この上でどのような手段を選ばれるかということについては,みなさまがご自由にお考えください。それでもなお,匿名で誹謗中傷をなさりたいのであれば,もちろんそれで構いません。大好きなナラティヴ分析の材料にもなりますし,面白く見守らせていただこうと思っています。
反対に,ブックマークコメントで同意のコメントをくださった方,また何よりも,私のことを擁護してくださった方々には,心からお礼を申し上げます。匿名の暴力に失望した反面,匿名の優しさがあるのもまた事実なのだと思い,とても救われた思いがいたしました。また私に向けられた敵意に対し,家族や友人などに心配をかけてしまいました。*7家族が,同居人が,友人が,またお名前も存じ上げない人々が,自分のことのように傷つき,憤ってくれました。私は当初,誹謗中傷は受け流そうと思っていました。冒頭に書いた通り,誹謗中傷に対して筆者が何か述べるのは「みっともない」ことと思われている節がありますし,誹謗中傷をなさる多くの方が私のもともとの記事をきちんと読んだ上で反論なさっているわけでもなさそうでしたから,*8いちいち相手にするのも損です。私には他に書きたいことが山ほどありますし,本業もそれなりに忙しいですから。しかし,私自身がこのまま黙っていたら,心配してくれたり怒ってくれた人々に申し訳ありません。また,註に引用したお友達の記事にもある通り,Twitterでもブログでも何でも,匿名の暴力に晒されてアカウントが閉鎖に追い込まれる例は後を絶ちません。そしてそれが当たり前とされる状況は,やはり健全ではないと思うのです。また,それは誹謗中傷の「数」には関係ありません。私のように無神経な女もいれば,ひとつ暴力的な言葉を浴びせられて自殺を考えるほどに落ち込んでしまう人もいます。あなたが悪意を持って放った一言によって,あなたが殺人者になりうることもあるのだ,ということをよくよくご自覚ください。
蒸し返すようなことはしたくありませんでしたが,「匿名の暴力」に関する意見と立場表明を兼ねて,また私のために義憤に駆られてくれた人々の溜飲を下げるためにも,こちらの文章を書かせていただきました。上にも書いた通り,残念ながら私は昔から図太い人間で,心無いコメントによよと泣いて,10年書き続けた日記を閉鎖するような繊細さは持ち合わせておりません。むしろ,おかげさまで読者登録してくださった方も増えたようですし,いわゆる「アンチ」の皆様も目を皿のようにして私の動向を見守ってくださっている*9ようですし,今後ともご愛顧くださいましたらこの上なく幸いに存じます。
*1:
*2:やろうと思えば可能らしいんですけどね。
*3:そもそも,「批判」と「攻撃」は全く違うものです。批判は考えの間違いや足りないところを指摘し,改善・改良に導く建設的なものですが,それ以外はただの人格攻撃です。
*4:たとえば2つめの記事に対して,「盛り上がったね。楽しませていただきました,うふふ」とのコメントをいただいた時にはもう心から戦慄しました。人が攻撃されているのを見るのが「楽しい」という,その気持ち自体が私には理解不能です。理解したいとも思わない。
*5:ちなみにこちらの方は私個人への侮辱がエスカレートした結果,性差別発言にも及んでいましたし,さらにほかの記事でも他ユーザーを繰り返し攻撃するなど悪質性が際立っていたように思いましたので,はてなに通報させていただきました。スタッフの方も「論評の範囲を逸脱している」とおっしゃっておいででしたので,近いうちに何かしら処置があることでしょう。
*6:重ねて申し上げますが,婚活や文系博士に関するご意見は,見当違いもいいところですよ。『高学歴ワーキングプア』『最貧困女子』などといったトレンドの新書,さらにネット上での特集記事などから得た生半可な知識で,まことしやかに知ったかぶりをなさるのは,あまり賢明とは思われません。
*7:Twitterでお友達のはななちゃんは,記事まで書いてくださいました。「名前を明かさずに批判的なコメントをする行為は、やはりスッキリしません。ここ最近、Twitterでも有名なジャニヲタさんたちが立て続けにアカウントを閉鎖しています。何か解決する方法はないのでしょうか。」私も心から同意いたします。
*8:当該記事の最初の方にも明記してあるはずですが,件のリストは「パーフェクトに満たす人はいないと思うので,参考程度」のものです。この条件をすべて満たす人とでなければ結婚しません!などと言っているわけではありません(そんなことは恐ろしくてとても言えない)。なのにこれを「最低条件」だととらえられた方の多かったこと。批判したければまずその対象を熟知するというのは,最低限のお作法だと思うのですが……。
*9:私は「時間の無駄だろうし,嫌なら見なければいいのに」と思うタイプなのですが,残念ながらこの理屈が通用しない方もいらっしゃるようですね。私に対して批判的なコメントすべてにスターを付けていらっしゃる熱心な方までいらっしゃるようです。もうオリジナルの記事公開から3日も経ちますし,なにより楽しい週末ですのに,その熱意にはただただ頭が下がります。