過去に未納だった保険料を納めれば、受給資格期間の25年を満たして年金を受けられるようになる。あるいは、年金額が増える――。

 そんな国民年金保険料の「後納制度」の利用が低調だ。

 年金額が少ない低年金の人や、年金が受けられない無年金の人を減らすことを狙った今年9月末までの特例措置だった。8月末までに利用したのは約116万人。お知らせを送った人の6%に満たず、「対象者の1割程度」という厚生労働省の見込みを下回った。

 このうち、年金受給世代で無年金から抜け出せたのは約2万8千人。厚労省の推計で、特例を使えば無年金にならずに済む人は約40万人いるとされたが、利用者は一部にとどまった。

 低調なのは、過去の未納分を納めるためのおカネを工面できないことにある。未納分の保険料は時期によって異なるが毎月約1万5千円前後。制度のもとで最大さかのぼれる10年前からの分をまとめて払うとなれば約180万円かかる。

 厚労省は後納できる期間を5年に短縮し、10月からさらに3年間、特例措置を続けている。しかし、今のままではせっかくの制度がまた、利用されないままで終わってしまいかねない。無年金・低年金対策の実をあげるには、もう一歩踏み込んだ対応が必要だ。

 例えば、一部の自治体や社会福祉協議会では、無年金から抜けられる場合などに、無利子や低利子で納付するおカネを貸している。地域任せにしないで、国も前面に出て、全国的な取り組みにしてはどうか。

 制度が出来た直後から「生活に余裕がある人しか利用できないのではないか」と指摘されてきた経緯もある。生活が苦しい人が使える制度に改めるべきだろう。

 さらに、そもそも、無年金や低年金の人を生み出さない取り組みも進めるべきだ。最優先の課題は、国民年金に入っている非正社員が厚生年金に加入できるようにすることだろう。

 かつては自営業者のための制度と言われた国民年金は、今や約4割が非正社員など雇われている人たちだ。収入が不安定ななかで、毎月1万5千円超の保険料は負担感が大きく、未納が増える一因とも言われる。収入に応じた負担にし、保険料を納めやすくすることが大事だ。

 無年金や低年金の人が増えれば、生活保護に頼らざるを得ない人も増える。そうした人たちを少なくすることに、国は正面から取り組んでほしい。