2015-12-06
水準と成長率
経済 |
ジョン・コクランが、経済成長を高める際に水準と成長率を区別することは言われているほど意味が無い、という論陣をブログで張っている。これは、彼の成長戦略提言(html版)に対しノアピニオン氏が、コクラン提言は成長戦略ではなく一時的な押し上げ効果に過ぎない、とブルームバーグ論説で批判したことへの反論を意図している。このコクランのブログエントリについてタイラー・コーエンは、「an excellent blog post」と絶賛している。
コクランの反論は以下の4本立てになっている。
- 中国という実例
- 米国の可能性
- 中国は米国を模倣することによって大いなる「キャッチアップ」成長効果を享受できたが、米国はそれはできない、と一般に言われている。しかしその点は一考の余地がある。
- 世界銀行の「フロンティアまでの距離」*1と一人当たりGDPの間には高い正の相関がある。
- 成長の議論では「フロンティア」と「完全」を混同する人が多すぎる。米国の制度は優れてはいるが、完全ではない。米国の「フロンティアまでの距離」は82で、一人当たりGDPは53,000ドルだが、すべての指標について最先端の国に追いつけば(=「フロンティアまでの距離」が100になれば)一人当たりGDPは163,000ドルと209%増となる(20年間で考えると年間成長率は5.6%)。
- さらに、最先端の国が完全ではないことに鑑み、可能な限り最善の制度を達成した場合として、「フロンティアまでの距離」が110の場合を考える。その時の一人当たりGDPは398,000ドルと現在の651%増しとなる(20年間で考えると年間成長率は14.8%)。
- これは確かに単純な推計である*2。成長理論では、既存の「アイディア」を用いて効率性を高め「配分ミス」を解消する形の発展と、より良い「アイディア」自体を生み出すことを区別しており、新たなアイディア抜きでは超えられない効率性の限界は存在するだろう。マクロ経済学は総供給に至るまでは総需要を容易に上げられると考えているので、それが生産の限界となる。しかし世界のすべての最善の制度を組み合わせることはその限界の下限であり、それに10%追加することもそれほど非現実的とは思われない。
- また、水準ベースの非効率性がかなりの大きさであることを示した研究も数多くある。
- 成長率効果は思ったほど大きくない
- チャド・ジョーンズ(Chad Jones)の研究によれば、従来の成長理論では成長率が過大推計になっていた。具体的には、成長率は人口水準に比例することになっていたが、それでは1927年の20億人から今日の70億人に世界人口が増えたことにより、一人当たり年間成長率は2%から7%に上昇していたはず、ということになってしまう。実際には前提を変えることによりもっと理に適った成長率を導出することができる。
- こうした研究により、成長における成長率効果はそれほど重視されなくなり、水準効果が重視されるようになった。水準効果のサイズが大きく、かつ長期に亘って実現することを考えれば、両者の区別はそれほど意味は無くなる。この話は単位根論争の話に似ている。単位根検定ではラグ変数の係数が1ならば単位根があり、1未満ならば定常的、ということになっているが、係数が0.99の場合も、1世紀といったタイムスパンでは、データは単位根を持つのとほぼ同様の挙動をする。
- では現状において経済の歪みはどの程度悪いのか、という問題が残るが、これについてコクランは、悪しき政府と悪しき経済の相関がこれほど高いのだから、とにかくあらゆる歪みを見つけ次第すべて取り除いてしまえ、という立場に立っている。
- 不必要な政治問題化
- このように成長の問題は、政治的なものではなく、さらに研究を進めるべき問題であるが、ノアピニオン氏はこれを政治問題化しようとしており、コクランに保守派のレッテルを貼っている。しかしコクランは国境の開放やドラッグの合法化等を主張しており、ノアピニオン氏にも以前その点をメールで指摘した。また、自分の提唱する成長政策はNYTやヒラリー・クリントンが提唱するものとさして変わらない。
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ノアピニオン氏は、いつもスジがよくないように見えます。
リフレも推してなかったように記憶。