パリセーヌ川の左岸モンパルナス。
このエリアには歴史あるカフェが集まっています。
街の中心地ヴァヴァン交差点の角に建つ…。
ここには哲学者のサルトルとヴォーヴォワールのカップルが通い…。
通りを挟んだ向かいのラ・ロトンドには詩人のジャン・コクトーに寄り添うデザイナーのココ・シャネルの姿が。
またその並びにあるル・セレクトは若き日の小説家ヘミングウェイのお気に入り。
そして向かいのラ・クーポールは『愛の賛歌』で知られるシャンソン歌手エディット・ピアフが常連でした。
時は第一次世界大戦の勝利に酔い開放感にあふれたまさに狂乱の時代。
当時異国の若い画家たちもパリに憧れて移り住みカフェをたまり場にしていました。
エコール・ド・パリと呼ばれた画家たちは毎晩乱痴気騒ぎに興じそのなかでもひときわ異彩を放っていた1人の日本人が…。
パリっ子がつけたあだ名は…。
とびきりの社交家でした。
ところが…。
藤田の作品はパリ画壇を騒然とさせました。
衝撃を与えたのは美しい肌の色。
真珠のような乳白色です。
なぜか当時流行りの激しいタッチや色の多彩さはありません。
今夜は日本人画家が異国でたどり着いた油彩画の革新を…。
1937年のパリ万博に合わせて建設されたその一角にあるのが所蔵するのは20世紀の絵画や彫刻など8,000点。
特に人々の注目を集める傑作がこちら。
今日の一枚縦1m30センチ横1m95センチの油彩画です。
背後の漆黒が横たわる女性の肌の白さをいっそう際立たせています。
モデルはエコール・ド・パリの画家たちに愛されたモンパルナスの女王キキ。
やわらかさや温もりさえ感じさせる肌の色は美しき乳白色と呼ばれその謎に包まれていた技法は近年ようやく解明されました。
画面は薄塗りで平坦しかし不思議なことに女性の体が浮かび上がり輝いて見えます。
よく見ると体の輪郭は黒い線で描かれて細く滑らか。
これこそが日本人画家藤田の真骨頂。
寝台を囲む飾り布の描写は驚くほど緻密で見事です。
当時人々を魅了したのは乳白色の肌と繊細な線の描写。
藤田はこの絵で新しい油絵に挑戦しました。
持てる技すべてをつぎ込んで…。
トレードマークのおかっぱ頭に丸眼鏡。
そしてチョビヒゲ。
藤田は今でもパリで最も有名な日本人画家です。
その藤田の半生を描いた映画が上映されています。
演じたのはオダギリジョーさん。
1920年代のパリと戦時下の日本。
藤田は2つの文化と時代をどう生き描いたのか?その世界観と心情に迫った作品です。
今日の案内人はオダギリさんと同様藤田に魅せられたパリジェンヌ。
あぁここね。
浮世絵の勉強をするために日本へ来て1か月。
皇居のそばの美術館で藤田展を開催していると聞いて訪ねてみた
パリで観たあの「キキ」の絵と同じ肌の色の作品を展示しているはずだけど。
あっ藤田だ。
猫もいる。
そうそう藤田はいろんな作品に描き込むほど猫が好きだった。
そのとおりよくご存じですね。
えっ誰?こちらですほらここ。
えっ絵の猫がしゃべった!ボンジュールマドモアゼル。
私は藤田の飼い猫。
あなたは?名前?リュシーですけど。
ほうこれは奇遇。
何のこと?いやね3番目の奥さんと同じ名前。
ご主人様は彼女を白い肌からユキと呼んでいましたけどね。
藤田の猫ならあの『寝室の裸婦キキ』を描いているときも見ていたんですか?何か特別なことをしていたそうですが。
そうだねこの先にその絵と同じような作品が。
そうその奥。
『五人の裸婦』です。
これもきれいな乳白色。
これこそまさに藤田ね!そうですね。
『寝室の裸婦キキ』の次の年に完成した作品です。
ご主人様が初めて裸婦の群像を描いたもの。
それぞれの女性が人の五感を表しているそうです。
ふ〜んところでこの独特な乳白色の秘密を知りたいんですがあなたはご存じ?それはですね…。
果たして真珠のような光を放つ白い肌はどのように生み出されたのでしょうか?乳白色の美は誰も真似ができないものでした。
藤田が生前に一切明かさなかったその色彩の秘密とは。
藤田嗣治が日本からパリモンパルナスへ渡ったのは…。
そこで出会ったのがエコール・ド・パリの画家。
異国から来た若き画家たちでした。
その中の一人スペイン人画家パブロ・ピカソのアトリエを訪ねた際藤田は一枚の絵画に衝撃を受けたのです。
アンリ・ルソーの『女性の肖像』。
ピカソが惚れ込んだ一枚。
背景の遠近法や陰影はまったく無視。
一見稚拙に思えるものの女性の人格までも描き出した作品でした。
藤田は絵画に対する概念を覆されます。
最先端のはずの印象派はすでに過去のものだったのです。
藤田の試行錯誤が始まります。
ルソーのような絵画やキュビスムの作品を描きますがしょせんそれは人真似に過ぎませんでした。
7年後苦心の末に完成したのが今日の一枚。
乳白色の傑作がパリ画壇に衝撃を。
『寝室の裸婦キキ』人真似ではない藤田独自の絵画。
藤田の言葉です。
そして時流に逆らうように描いたのが薄塗りで繊細な輪郭線の裸婦でした。
子供の頃に見た『寝室の裸婦キキ』もこの絵のように肌の乳白色がきれいで飽きずにずっと見ていました。
当時は「すばらしい白い下地」と絶賛。
すぐに高値で売れたのですよ。
一流画家の仲間入りですね。
この作品も乳白色。
注文が殺到しましてご主人様は乳白色の絵を数多く描きました。
でも肝心の乳白色の秘密は生涯明かさなかったんですよね?なぜ?そう謎でした。
皆さん知りたがっていましたがご主人様は「臥薪嘗胆の末の我が秘伝私独自の技法です。
そう簡単に明かすわけにはいきません」と頑として…。
でもやっぱり知りたいですその秘密。
人々を魅了した謎の一枚。
映画で藤田を演じたオダギリさんは…。
今日の一枚を美術展覧会サロン・ドートンヌに出品し名実ともに時代の寵児になった藤田。
しかし乳白色の秘密は決して明かしませんでした。
近年藤田の作品は傷みが激しく修復の機会が増えています。
2000年にパリで行われた大掛かりな修復のメンバーでした。
謎を解き明かすカギは自らの手で作ったキャンバスに。
藤田は下地に仕掛けを。
まず市販のキャンバスより目が細かく薄い麻布に水で溶いた硫酸バリウムを塗ったものを使いました。
次に油で溶くと黄色みを帯びる炭酸カルシウムと油絵具の鉛白を1対3の割合で混ぜ合わせ2層目を薄く塗ります。
これによりかすかに1層目が透けて見える乳白色が生まれるのです。
しかも仕掛けはこれだけではありません。
作品から発見されたタルクはベビーパウダーの主成分。
藤田はタルクを脱脂綿につけキャンバスの下地の上に擦り込んでいたのです。
日本の墨を使い面相筆で繊細な線を描く藤田にとってタルクは重要な画材でした。
水性の墨は油性の下地でははじかれます。
しかしタルクを擦り込んだ下地は吸水性が高まり墨がむらなく置けるのです。
藤田が細く長い輪郭線を描ける秘密はここにありました。
更にもうひとつタルクの使い方に秘策が…。
修復中の作品『舞踏会の前』を例に見ると光を当てても人物には反射がありません。
体だけにタルクを塗り油絵具の光沢を消すことで人物を浮かび上がらせたのです。
今日の一枚でも同様。
乳白色の美には藤田の知恵と巧みな技が潜んでいました。
お調子者と呼ばれたご主人ですが何事にも徹底し労をいとわない方でした。
努力する天才という感じだったんですね。
ところで乳白色の裸婦の絵は人体が平面的に見えるし…。
どことなく日本の絵を思わせるんですけど。
ほう気づきましたか。
実はあなたが勉強しているあれと関係が。
えっ浮世絵?うんうん。
藤田が描いた乳白色の平坦な画面は浮世絵と関係があるというのですがそれはいったい…。
パリから南へ40キロヴィリエ・ル・バクル村。
藤田は晩年この村で暮らしました。
家は記念館として残され無料で開放されています。
3階のアトリエも当時のまま。
壁には晩年手がけた教会の壁画の習作が。
机の上には愛用の面相筆が置かれていました。
こちらには浮世絵の本も。
日本の芸術を忘れることはなかったようです。
藤田の言葉です。
遠く異国の地にいても忘れえぬ日本の美。
浮世絵を徹底的に研究しトレースを何度も重ねました。
そして浮世絵美人の肌を西洋画に取り入れたのです。
藤田は西洋の油彩画に東洋・日本の伝統の技を駆使し独自の世界観を築き上げたのです。
西洋人では発想しえなかった画法。
それは和の心を持ちながらヨーロッパの息吹に触れた日本人画家藤田だからこその美の融合といえます。
そして生まれた美しく輝いた乳白色。
まったく新しい誰も到達したことのない芸術の誕生でした。
なるほど。
私も好きで勉強している浮世絵の影響でしたか…。
異国のフランスで母国の日本の文化を巧みに活かしたんですね。
そうご主人様だからこそここまでの絵が描けたのです。
私も藤田にならって日本で浮世絵を徹底的に研究します。
ほうそれは楽しみですな。
秘密裏に作り上げた乳白色の下地と一枚に宿した西洋と東洋の趣。
自らの画風を追求し続けたどり着いた結晶でした。
藤田嗣治作『寝室の裸婦キキ』。
芸術の都で独自の美を極めた唯一無二の白い輝き…。
京都にある文化博物館。
2015/12/05(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 藤田嗣治『寝室の裸婦キキ』美しき乳白色の秘密▼オダギリジョー[字]
毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、唯一無二の油彩画、藤田嗣治作『寝室の裸婦キキ』。
詳細情報
番組内容
今日の作品は、パリの画壇を騒然とさせた、藤田嗣治作『寝室の裸婦キキ』。エコール・ド・パリの画家のひとりだった藤田が、この作品で描いた繊細な線と乳白色の肌は、人々を驚かせ魅了しました。それは“美しき乳白色”と呼ばれるほど。藤田が生涯秘密にしていた色彩の秘密とは?藤田が異国の地でたどり着いた油彩画の革新に迫ります。また映画で藤田を演じたオダギリジョーが登場。藤田作品をどう捉えどう感じたのかを語ります。
ナレーター
小林薫
蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/
ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32118(0x7D76)
TransportStreamID:32118(0x7D76)
ServiceID:41008(0xA030)
EventID:47739(0xBA7B)